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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔法少女狩り 9

『はじめまして、Dのリーダーことドゥです』

「お前が魔法少女狩りの黒幕か」


 俺の言葉を聞いたチアキさんと桜ちゃんに緊張が走る。


『ええ、実は今日はあなたに耳寄りなお話がありまして』

「仲間になれとか言うならお断りだぞ」


 クソ痛い思いをさせられて仲間になれとか、どの面下げてって感じだからな。


『それも悪くないのですが、私の仲間の三名を開放していただきたいのですよ』

「するわけないだろ。大体、俺にはそんな権利はねえよ」

『権利がなくても上に意見を言うことはできるでしょう?まあ、でもどうしても解放してもらえないということであれば仕方ありません。三人の代わりにあなたの可愛い恋人を代わりに連れていくことにします』

「……さっきのメールもお前か」

『ご名答』


 であれば今、ドゥは柚那を狙える位置にいるということか。


「ちょっと待ってくれ!俺の独断ではどうしようもない!」

『では30分後にもう一度連絡しますので、相談をしてください。ああ、それと精華たちに手荒なことをして私の情報を聞き出そうとしても無駄ですよ。彼女達はまだ詳しいことは何も知りませんからね。ではまた後ほど』


 言いたいことだけ言って電話はブツっと切れた。


「その顔、敵の親玉からの連絡ってことでいいのかしら」

「ええ……それで、ちょっと相談があります」


 俺は、先ほど届いた画像を見せながら、チアキさんに今ドゥとした通話の詳細を報告をした。それを聞いたチアキさんは自分の電話でどこかに電話をかけ、桜ちゃんは幸せそうな顔をした精華さんを縛りあげたひなたさんと、スレンダーマンで寿ちゃんとこまちちゃんを制圧した狂華さんのところへ走っていった。


 あかりのときもそうだったが、今回もまた俺は何もできない。そう思って落ち込んでいるところに、電話を終えたチアキさんが近寄ってきて俺の両肩に手を置いた


「そんなに心配そうな顔しないの。大丈夫よ、柚那はちゃんと助けるから」

 

よっぽどひどい顔をしていたのだろう。チアキさんのやさしい笑顔から心底俺を心配してくれているのが伝わってくる。


「これから長官が来てドゥと直接電話で話すから、全部任せてもらってもいい?」

「……」


 正直、俺はあの長官を信用していない。どことなく漂う胡散臭さ、自己保身の塊のような言動。どれをとっても上司にしたくない人間といった感じだからだ。

 自分でもわかるほど苦い顔をしている俺を見て、チアキさんは「ああ」と呟いた。


「大丈夫よ、あのタヌキはあくまで三人いるうちの一人でしかも一番下っ端だから。一応権限はあるけど、最終的に決定するのは主席長官。今回はその主席長官に直接連絡を取ったからタヌキの不快なニヤニヤ笑いを見せられることもないわ。それに長官は柚那の救出は全力でやるって言っていたから人質交換も成立させるつもりだと思うわ」

「直接って……」


 チアキさんはいったいどういう人脈を持ってるんだろうか。

 そんなことを考えながらしばらく待っていると、駐車場に見たことのある真っ赤なアルファロメオが走りこんできて、タイヤを鳴かせながらドリフトを決め俺の目の前50cmで停まった。


 一歩間違えたら大事故だ。というか、おそらく都さんが乗せてきただろう長官の安否が気になる。

 気絶してドゥと話ができませんなんていうのは勘弁してほしいところなのだが。


「待たせたわね」


 そう言って降りてきた都さんはタイトスカートのスーツを着ていた。普段ふわふわしたワンピース姿の多い都さんがこういうカッチリした格好をしているのはちょっと新鮮だ。

 さて、普段は服装も運転も勤務態度もふわふわしていることの多い都さんがこうしてフォーマルに決めざるを得ない相手。

主席長官とはいったいどんな人なのか。俺は固唾をのんでスモークがかかって中がよく見えないアルファロメオの後部座席のドアを見つめる。


 こういう場合、古典的なところでは長官は中高年の知的な男性だが、天才少年や天才少女といったロリショタ系もなくはない話だ。女子が多い職場だしイケメン青年という線もあるだろうし、逆に女子高の校長先生のような落ち着きと品性のある中高年女性というのもありだ。

 俺がそんなことを考えて主席長官の登場を今か今かと待っていると、ちょんちょんと都さんに肩をつつかれた。


「電話って朱莉ちゃんの電話に入ってくんの?」

「ああ、あと3分もすればかかってくると思うけど」

「ん。じゃあ、電話はこっちで預かっておくね」

「え?ああよろしく」


 都さんから長官に渡すということなのだろうか。とりあえず俺は差し出された彼女の手の上に携帯を置いた。


「で……その、長官に挨拶しておきたいんだけど……」


 あかりの件では色々と無茶なこともお願いしてしまったし、今回の柚那についても俺の身内の事だ。一応礼を言っておくのが礼儀だろう。


「は?何言ってるの朱莉ちゃん」

「いや、あかりの件では色々無茶な要求を通してもらってるし、今回の柚那も俺の身内だしお礼を言っておかないとと思って」

「ああ、そう言うことか。意外と義理堅いのね。……じゃあはい、どうぞ。聞くわよ」

「え?」

「え?って……ちょっとチアキさん?まさか言ってないの?」

「ああ、ごめんなさい。朱莉の驚く顔が見たかったからわざと話さなかったの」


 笑いをこらえているチアキさんの顔を見てすべて合点がいった。というか、何回も顔を合わせているのに、なんで今まで一回もその話にならなかったんだろう。『都さんって、今どんな仕事してるの?』その一言を言っておけばこんな微妙な空気にさらされずに済んだというのに。


「んー、じゃあいい機会だし、改めて自己紹介しようか。防衛大臣直轄特戦技研主席長官の宇都野都よ。一応主席なんてついているから、大体の要望はかなえてあげられると思うわ」


 そう言って都さんはいい笑顔で手を差し出した。


「ちなみに主席長官っていうのは、ほかの二人の長官の意見を押し切ることができる権力を持ってるのよ」


 チアキさんがそう補足を加えてくれるが、そんなに権力が集中しているなら一人でいいような……


「ほかの二人がいる意味ってあるんですか?」


 別にあのタヌキいなくなればいいのにとかそんなことを考えていないわけではないが、主席長官の独断で物事が決まっていくなら、ほかの二人はいらないだろう。


「この間みたいに私が意識なくして入院しちゃってるときとかは必要になるでしょ。小金沢はともかくもう一人は結構頼りにしているのよ。まあ、難点と言えばあんまり人前に出たがらないことかしら」


 と、いうことはあのタヌキおやじは小金沢という名前だったのか。今まで全然知らなかった。


「あ、そうだチアキさん。ひなた達と一緒にあの三人の取り調べしてもらってもいい?重点項目はほかに内通者がいないかどうか」

「いいけど、精華って心の壁バリバリで読みづらいのよね」

「別に精華に限らなくてもいいし、多少手荒でもいいわよ」

「あんまり気が進まないけど、了解」


 チアキさんは肩をすくめてそう言うと、ひなたさん達のほうへ歩いていった。


「さて、じゃあ朱莉ちゃん。電話が来るまで答え合わせでもしようか」

「答え合わせって……この事件の?」

「知りたくない?」

「いや、知りたいです」

「OK。まず、魔法少女狩りの件。これは実は私が事故にあう前からの懸案事項でね、調査を開始しようかっていう矢先に私が事故にあっちゃって、調査がとん挫していたのよ。小金沢達は私の事故も魔法少女狩りが仕組んだものじゃないかと疑ったみたいだけど、それは空振り。普通の事故だったわ」


 かなり前からの懸案事項だったという話を聞いて、俺は都さんが復帰した日の事を思い出した。


「もしかして、最初にあった日の夜に、ひなたさんや連絡将校組の話を詳しく聞きたがったのは、疑っていたからっていうこと?」

「そうね。魔法少女狩りが狙ってくるならうちの中心メンバーである最初の4人だろうし、もしかしたらウチの人間を狙うなんて回りくどい事をせずに他国がスパイを送り込んで魔法少女狩りを実行しようとしているかもしれない。そんなことを考えてね」

「じゃああの時点ではひなたさんを疑ってたってことですか?」

「正確にはひなたと桜よ。チアキさんは青臭い理想に振り回されるほど若……子供じゃないから最初から疑ってなかったし、精華はコミュニケーション能力が低いから敵も接触がしづらいだろうと思っていたからね。……まあ、結果的には見事に裏をかかれてしまったわけだけれど」


 都さんはそう言って「たはは…」と照れ笑いをしながら頭をかく

 ていうか、今この人チアキさんのこと若くないって言おうとしなかったか?本当に命知らずというかなんというか。

 いや、それよりも。


「狂華さんの名前が出なかったってことは最初から疑ってなかったってことですか?やっぱりなんだかんだ言って都さんも……」

「え?あの駄犬が私を裏切れるわけがないでしょう?それともあいつ何か私の事裏切っているの?」


 真顔。かつ即答だった。


「いや……さいですか……」


 ……強固な信頼があるからこその言葉と思っておこう。


「で、ひなたを泳がせて、あなたたちを餌に行動を起こすのを待っていたんだけど、思わぬところで思わぬ組み合わせの密会がキャッチされてしまったわけ」

「思わぬ組み合わせ?」

「ええ、精華と―」


 都さんの言葉を遮るように俺の電話からけたたましい音量で着信音が鳴り響く。


「―ジェーンよ」


 都さんは携帯をスピーカーモードにして車のボンネットの上に置く。


「ハロー、ジェーン。戦技研主席長官の宇都野都よ」


 いきなり名前を呼ばれて動揺したのか、電話口の向こうで一瞬の沈黙があった。


『…いきなり真打登場ってわけね』


 正体がばれていることがわかったからなのか、それとも俺相手ではないとわかったからか、電話の向こうからはジェーンの声が聞こえてくる。


「あら?正体がバレていることは気にしないの?」

『遅かれ早かれバレるとは思っていたから』

「ちなみに精華とこまちと寿があんたのことを売ったのよ」

『そんなわけないでしょう。あれだけ私に監視を付けていたんだし彼女達が言うまでもなく目星はつけていたんでしょ?そんなこと言ってもワタシは精華たちを切り捨てたりしないわよ』

「三人を諦めてくれれば御の字だったんだけど、まあ成功するとも思ってなかったからいいや。とりあえずどこかで会って話をしましょう。あんまり大人数になってもあれだから双方5人までってことでいいかしら」

『戦力を制限するつもりってわけね。私は戦力に入れたほうがいい?』

「ああ……別に入れなくて構わないわよ。こっちも5人のうち3人は精華達だしね。そっちの戦力が一人二人増えたところでどうってことはないわ」

「ちょっ、都さん?」


 平然とそう言ってのける都さんの言葉を聞いて俺は絶句した。


『あはははは、あんた面白いね。いいよ、じゃあ場所はどこにしようか』

「誰にも邪魔されない私の行きつけの店があるから。そこにしましょう。場所は新橋の―……」


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