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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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とにかく勝てない朱莉ちゃん 3

 チアキさんチームとの試合前日。この二週間、もはや日課と言ってもいいくらいにやってきた深谷さんとの特訓もクライマックスを迎えていた。

 いや、実は最初からクライマックスだった。というか、そもそも2週間前から全く変わっていないのだけれど。

「おかしいなあ…なんでパワーアップしないんだろ」

「パワーアップっていうか、朱莉ちゃんの場合は元に戻るかどうかって感じだけどね」

 元に戻るか。

 深谷さんの言葉からも判るように俺の魔力はほとんど戻っていない。幸い悪い方向には行っていないし、ペアになるチームメイト次第では和希と真白ちゃんには勝てるんじゃないかくらいには出力があるのだが、『もしかしたら勝てるんじゃないか』であって、『絶対に勝てる』ではないのが辛いところだ。

「愛純も朝陽も絶好調で、チアキさん以外なら大体誰とあたっても勝ち星を取れるだろうからシングルス確定だろ。そうすると、俺は同期の誰かって感じだけど、恋だとまず負け確定なんだよな」

 恋の場合、身のこなしはかなり良いし魔法を使わないのなら真白ちゃんにも和希にも引けを取るようなことはないが一度魔法ありの勝負となれば攻撃系の魔法を持たない彼女ではまったく歯がたたない。かと言って柚那はキレ柚那を出したところで、何かで取り乱したりしている和希ならともかく、普通の冷静な状態の和希には勝てない。消去法でというのは申し訳ないが、そういう意味では深谷さんが一番いいのだ。

「ダブルスに俺が出ないと、和希との約束が守れないから…でもそれならやっぱ恋と一緒に行って素直にぶちのめされるのがいいんだよなあ」

 それなら1敗で済むし。残り4人で勝ちきるなら3人で勝ちきるよりはマシだ。夜じゃなければ愛純も朝陽もみつきちゃんに勝てると思うし。

「まあ、恋には悪いけど、今回朱莉ちゃんが負けるのはしょうがないと割り切れば、それが良いかもしれないね」

 そう、俺は最悪負けてもいい。これは数日前にチアキさんから持ちかけられた『ダブルスで俺が和希と真白ちゃんと戦う』という条件。これを果たせば、チアキさんが負けてくれる約束になっているからだ。

無条件でのチアキさんからの一勝。この勝ち星が恋なり柚那につけばいいが、愛純か朝陽についてしまって俺と深谷さんが負けるとチームの勝利が怪しくなるというのが問題なのだ。

「…恋には明日頭を下げて俺と一緒にダブルスで出てもらうか」

「そうだね、それがいいとおもう。じゃあ、そろそろ体育館借りている時間も終わるしおうちに帰ろうか」

 深谷さんはなんだかんだでこの二週間ずっとうちに泊まっている。俺のために年休消化させちゃっているので、そのくらいはいいっちゃいいし、深谷さんの食費やら必要経費も少し色を付けて俺から家に入れているし両親も姉貴も深谷さんと仲が良いので実家に迷惑はかかっていないと思う。だが、今日は一緒に帰ってご飯食べて晩酌しよう!というわけにはいかないのだ。

「ごめん、今日はちょっと寮の方に戻るわ。っていうか、研究所の方に頼んでいた事があってさ。その結果を聞きに行かないと」

「頼んでたこと?」

「ほら、坂口さんから真白ちゃんにって貰ったドリンク。俺たちなら多少変な成分が入ってても大丈夫だとは思うけど、一応害のある成分なんかが入っていたりしないか調査してもらってたんだ」

「ふーん、相変わらずJCに対しては過保護だねえ」

「まあ、俺にとってはみんなかわいい妹みたいなもんだからね。そりゃあ過保護にもなるさ」

 あかりもみつきちゃんも真白ちゃんも、もちろん和希もタマも、それから異星人組も。なんだかんだいろいろあっても、皆かわいい妹、弟だ。

 …ただ、ここのところチアキさんと真白ちゃん以外のJCチームの皆からなんか冷たい視線を感じるんだよなあ。っていうか、あかりだけじゃなくて千鶴からも同じような視線を向けられているので、ここ数日実家の居心地がかなり悪い。

「じゃあ、今日は私も自分の家に帰ろうかな。明日の準備もしないといけないし」

「ごめんな。今日付き合ってもらった分は今度なにかおごって埋め合わせするから」

「あはは、二週間も泊めてもらっちゃったし、むしろゴメンはこっちのセリフだよ、埋め合わせも十分してもらっているから、むしろ二週間も放置した分、お金も時間も柚那に使ってあげてよ」

前々からわかっていたことだけど、深谷さんって根はいい人なんだよな…ネギさえ絡まなければ。


渋滞などもあり、かなり遅くなってから研究所にやってくると、定時を大分過ぎているということもあり研究所には人気がなかった。しかし、人気のない中でも研究所の一番奥の部屋からは灯りが漏れている。。

戦いで怪我をしたりした時に何度かお世話になっている医療研究所とは違い、こちらはもっぱら基礎研究や開発をやっている部署なので、本部と近接している建物ではあるものの、魔法少女とここの研究員とはあまりつながりはない。これは仕事でやり取りがあまりないのもそうだが、以前深谷さんと話していた彼らのコンプレックスから来る独特の陰鬱さも手伝ってのことだと思う。

しかし、そんな没交渉気味な間柄の部署はであるものの、俺はひょんな事で知り合ってウマが合った一組の研究員夫婦とだけは仲良くさせてもらっていて、今回の分析のようなちょっとしたお願いごとをしたり、逆に新兵器の試作品のテストや研究用のナノマシンの提供をしたりとちょいちょい協力するなんていうことをしている。

「あかりん、いらっしゃーい」

 研究室のドアノックしてから開けると、研究室のさらに奥にある仮眠室という名の夫婦の住居から、この部屋の主の一人である川上翠が現れて俺を出迎えた。

「よっすみどりん。旦那いる?」

「こーちゃんはね、ちょっと外出中」

「そっか。この時間にいないってことは、今日は帰ってこない感じ?」

「こないかんじー」

 詳しく聞いたことはないが、翠の伸長は目算で130センチ台後半。ロリっぽい平坦なしゃべり方と見た目の通り実はリアルロリっ子……とまでは言わないものの実は法的に結婚できる16歳ギリギリで、半年前誕生日を迎えると同時にここの研究所の所長である川上浩一郎(47)と入籍をした。もちろん浩一郎氏の括弧の中は年齢で、翠の実の父親よりも年上だったりする。

「ちなみに、俺の頼んだ件って旦那から何か聞いてない?」

「あ、きいてるー。あのねー、ゆーちゃんがぶつぶつ言いながらしらべてたのー」

 こうして話しているととても信じられないが、翠はこれでもIQが220あるらしい。

「結果はどうだったって?」

「飲んで大丈夫なのー」

 そう言って翠は頭の上で丸印を作ってみせる。

「そっか、サンキューな。で、問題のドリンクは?」

「れいぞうこー」

「じゃあ回収していくな。これ、お礼っていうわけじゃないけどおみやげ。旦那がいないからって、一人で全部食べるなよ。腹壊すからな」

「もー、翠はそんなに子供じゃないのよー」

 しゃべり方は完全に子供だけどな。

「あ。そっか」

翠は何かを思いついたかのようにポンと手を叩いて、花が咲いたような笑顔を浮かべる。

「あかりんをおもてなしするのよー。そうすれば翠が子供じゃないってわかるのー」

 翠はそう言って俺の腕を取ると、夫婦の住まいへと引っ張りこむ。

「おいおい、旦那のいない時に男連れ込むのはまずいぞ」

「あかりんは男じゃないから問題ないのー。こーちゃんも『あいつに女をどうこうできる度胸はない』って言ってたのー」

 いや、流石に舐めすぎじゃないっすかねコウさん。

「あと、あいつ新品しか興味ないだろうって。そっちは意味分からないの」

 いや、そんなことねえし、俺に対する牽制でそういうこと言ったのかもしれないけど、翠にも失礼だろう、っていうか…

「なんなのー?」

「いや――」

 まあ、夫婦だしね。

 多少はね。

「――なんでもない」

「へんなの。まあいいや、あかりんはそこに座ってて」

「ほいよ」

 薦められたソファーに座って、ちょっと常人には理解できない部屋の調度品などを見ながら待つこと5分、翠がお茶と俺の持ってきたお菓子をお盆に乗せて戻ってきた。

「おもたせですけどー」

「これはどうもご丁寧に」

 お茶は渋すぎず薄すぎず、もちろんぬるくもなく、それでいてごくっと飲んでも熱くない温度。素晴らしい。

「翠は良いお嫁さんになれるな」

「やだー、翠はもうコウちゃんのおよめさんだよー」

 そうだった。

「あとねー、いちじのははなのー」

「………はい?」

「赤ちゃんできたのー」

 あの中年オヤジ、なんて羨まし……ゲフンゲフン。いや、まあ夫婦だし良いんじゃないかしら。

「そろそろ六ヶ月なのー」

 計算あわなくないか?半年前入籍と同時にできたってことか?でも確か最終月経日から起算がどうのこうのって柚那が想像妊娠した時に言ってたから………っていうか

「なあ、翠。お前、六ヶ月にしてはお腹膨らんでなさすぎじゃない?っていうか、おへそ丸出しだけどいいのかそれ」

「ほえ?」

「いや……」

 待て待て、これはもしかしてすごくデリケートな話題なんじゃないか?柚那が前に言い出した想像妊娠ならいい、それならいいんだが、もしその……

「ああ!あかちゃんならあそこだよー」

 そう言って翠は水槽に入った、ピンク色の球体に赤い線の走ったオブジェを指差した。

「………ええと…?」

「あれ、翠の子宮をコピーしたものなのー、私身体が小さくて普通にやったらコウちゃんの子供産めないのー」

 口調はいつもと変わらないものの、翠は少し寂しそうな笑顔でそう言った。

「そっか…」

 大変だな。というのも、頑張れというのも何か違う気がする。なんと言ったら良いのかわからず、俺はそこで口ごもった。

「あかりん……」

 俺の様子を見て、翠は何かを察したような表情で俺の方に手を置く。

 そして―

「同情するなら金をくれー」

 なんかもういろいろ台無しだった。

「あはは、まあそれは冗談だけど、正真正銘あの人と私の子だし、別に良いんだ。こんな体だから普通分娩が無理なのもわかってたし、胎内で子供を適正体重まで育てるのも厳しいかなって思ってたから。それに、ちょっと変かなとは思うけど、不器用なあの人が一生懸命考えてくれた方法だからね」

 そう言って、翠は16歳の少女にしては少し大人っぽい、達観したような、どこか諦めの混じったような笑いを浮かべた。

「翠お前…」

「うん?」

「キャラ作ってたのか…」

「はっ!……な、なんのことかわからないのー」

 もう遅えよ。


 キャラづくりが露呈した翠としばらくキャラ談義や、どうやってコウさんにバレないように振る舞うかなどの講義をして、流石にそろそろ帰らないと殺意の波動に目覚めた柚那が俺に襲いかかってくるなという時間になったところで、俺はソファーから立ち上がった。

「外までおくってくのー」

 別に送るも何も、研究所を出て1分も歩かないうちに寮なのだが、翠はパーカーを羽織って強引についてきてしまった。

「結局分析に回してたドリンクって、なんなのー?」

「旦那から聞いてない?」

「聞いてないのー」

「すんごい偶然で生まれた魔法少女パワーアップドリンク!…のはずだったんだけど、どうやら違ったみたいでさ。普通の清涼飲料水だよ」

「パワーアップドリンクってなに?」

 興味をそそられたらしく、翠は通せんぼをして俺の足を止めると、そう聞いてきた

「最初の試合で真白ちゃんがセナに勝ったろ?あと、深谷さんがちょっとパワーアップしてたりとか、佐須ちゃんが強くなってたりとかさ。で、三人が共通して飲んだのが例のドリンクだったから、もしかしたらそれでパワーアップできるかなって思ってさ」

「パワーアップっていうか、朱莉…あかりんの場合はパワーが取り戻せるかでしょー?」

 まあ、翠とコウさんには気づかれてるだろうなとは思ってたけど、改めて言われるとちょっとビビるな。

「ふーん…じゃあちょっとあかりん用に、翠がちょっとにカスタマイズしてみようか」

「え?」

「ナノマシンって、血液とか…いや、むしろ指紋に近いかな。例えば朱莉の細胞と結合した時に独特の型に変化するんだよね。だからそのドリンクが、真白ちゃんとか深谷さんに効果があったとしても、朱莉にはないっていう現象が起こり得るわけ」

 あ、もうキャラづくりは良いんだ。

「つまり、ちょちょいっと成分調整やらなんやらしてやれば、朱莉の型にあったパワーアップ薬が作れるかもしれないってわけ」

「マジで!?」

「マジ出島」

 ……多分コウさんだな、こういうこと教えるの。

「頼んでいいか?」

「うん。結城さんが分析してたデータから逆算して作ってみるから……その代わり、キャラづくりのことは絶対にコウちゃんに言わないように」

 そう言って翠はビシっと俺を指差した。

「はーい」

 あー…たまには裏表のない女の子と知り合いたいなあ。



えーっと、軽く調べた感じだと、多分セーフなはず。

性行為してないし。

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