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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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シマイノカタチ 4

 ひなたさんチームとの試合の後、俺は”彼女”と待ち合わせをした、東北のとある山の中腹にある展望台の駐車場に車を停めた。夜の展望台ならデートしているカップルの一組や二組いるかなと思っていたのだが、ド平日ということもあってそんなことはなく、駐車場にいるのは俺一人だった。

 試合は当然の帰結というかなんというか、俺がひなたさんにボロ負け。こまちちゃんと愛純の試合はそもそもこまちちゃんに協力する見返りに勝ち星をもらえることになっていたので、愛純の勝利。ちなみに、愛純とこまちちゃんがガチでやったとして、多分五分五分くらいの勝負になると踏んでいたので、この勝ち星の価値は大きい。

 あとは深谷さんが里穂に勝ち、朝陽が桃花ちゃんに勝ったが、柚那・恋は時間停止にはなすすべもなく敗退。結果的に3-2で勝ったものの辛勝だった。

というか、こまちちゃんと愛純がガチだったら、五分五分で負けていたのでやっぱり根回しって大事だと思う。

 そんな回想をしながら俺がしばらく展望台と車を行ったり来たりしていると、白の古いフェアレディZがやってきて俺の愛車の横に停めた。

「おまたせ」

 そう言って降りてきたのはこまちちゃん。

 どうでもいいが、東北のメンバーはなんかこう、車があんまり女子っぽくない子が多い。

 彩夏ちゃんのカレラも、乗りこなせないものの一応精華さんが所有しているエリーゼなんかもどっちかというと車好きのおっさんとか金持っているチャラ男の車って感じでしっくりこなくて、個人的には寿ちゃんの軽とかセナのチンクなんかは、すごく女子って感じがして好きだ。そうそう、橙子ちゃんのドゥカティはライダースーツがすごくエロイと思うのでありだ。

「…なんか今悪口を言われた気配を感じたよ」

「いや、悪口なんか考えてないって。こまちちゃんって車のセンスいいなって思ってただけ」

「そう?」

 彼女がなぜこの古いZ、しかもレストアしてオールペンしないと乗れないほどの車を拾ってきて直して乗っているのかは知らないが、絵になるかどうかはともかくそのこだわりはちょっとかっこいいかなと思っている部分もあるので、まあ嘘はついていない。

「ま、いいや。ご飯たべた?」

「まだ。だから早く終わらせて帰りたい」

「まあまあ、そう嫌がらないでよ。精華さんからの差し入れ持ってきたからさ」

 あの日、東北の解散を掲げて俺の部屋にやってきた精華さんの考えていたことと、こまちちゃんの考えていたことは方向性としてはなんとなく一致していた。精華さんのかんがえていたことは、解散というよりは整理。問題があるのであればその問題をきっちり整理して当人間での問題をなくそう。必要であれば異動なんかも考えよう。ということで、あの日いきなり解散と言い出したのは、俺から四人プラス時計坂さんの事情を聞いて『あ、これはもう無理だ』とあきらめて匙を投げたかららしい。

 こまちちゃんはこまちちゃんで、無理なら異動や再編成もやむなしということで考えていて、東北チームだけでの解決にこだわらず、もっとマクロに国内の組織全体、更には海外駐留組も含めての解決を考えていたので、そこは三人で協力していい方向にしていこうということになった。まあ、ぶっちゃけ俺は関係ないといえば関係ないんだけど、東北が原因でうちや関西の編成が引っ掻き回されても嫌だしそれはいい。

とはいえ、解決しないままそれなりに時間が経ってしまっているわけで、彩夏ちゃんと寿ちゃんの関係はかなりこじれている。

 最近音信不通なので彩夏ちゃん本人が何を考えているのかはよくわからないが、廊下にみかん箱を出されてそこで仕事をしている彩夏ちゃんを見たとか言う目撃証言がセナから寄せられていたので、多分関係改善はしていない。

 ただ、セナ曰く彩夏ちゃんは妙にごきげんということなので、廊下で仕事させられることに快感を見出したか、もしくは…たとえば時計坂さんとねんごろになって本気で寿ちゃんのことがどうでも良くなったか。どちらにしても東北チームの状況は予断を許さないといえるだろう。

「差し入れってなに?」

「ああ、おにぎりと豚汁。ここに来る途中で一個食べたけど、結構おすすめだよ」

 俺はそう言って笑うこまちちゃんに促されて彼女の車の助手席に座る。

「差し入れ作ってくれる余力があるならこっちにきて打ち合わせに参加してくれればいいのに」

「精華さんは精華さんなりに私達の代わりに寿ちゃんとコンタクト取ってくれているんだから、そう言わないの」

 コマチちゃんはそう言っておにぎりと温かいペットボトルのお茶を差し出す。

確かに俺は彩夏ちゃんサイドと思われているのか、俺が話しかけても寿ちゃんはあからさまに警戒する素振りを見せる。こまちちゃんも何故か同じく警戒されているらしく、寿ちゃん側の事情を聞き出すことができそうなのは今のところ精華さんしかいない。

その役目をセナにお願いしようという話もあったのだが、最近の触るものみな傷つけかねない寿ちゃんの様子に恐れをなしてしまっているので、彩夏ちゃん周りの偵察ということで頑張ってもらっている。

まあ、どっちも情報の引き出しはうまくいってないんだけど。

「朱莉ちゃんのほうはどう?蒔菜の様子は」

「至って普通。普通に書類仕事しているし、普通に本部食堂でお弁当を食べているし、普通に俺たちのやっていることがバレている」

「……バレてる?」

「うん、バレてるね」

 これは別に俺が目にみえる失態をしたということではない。だが確実にバレていると思う。なぜなら―

「こまちちゃん今日試合の後、みんなよりも先に帰ったでしょ?」

「うん、ちょっとセナと打ち合わせがあったし」

「これ、時計坂さんがこまちちゃんに渡してくれって」

 俺がそう言って時計坂さんから預かっていた小さな布…というか、ぶっちゃけ使用済みのショーツを差し出すと、こまちちゃんの表情が引きつった。

「あと伝言で『いくら今日の私服がパンツスタイルだからってパンツ忘れるなんて、女の子としてちょっとどうかと思うわ』だそうだ」

「あいつ本っ当に性格悪いな!…ああ、でもそっか。彩夏ちゃんじゃなくてわざわざ朱莉ちゃんにこれを渡したっていうのは、あのあと私と朱莉ちゃんが会うことを知っているっていうことだもんね」

「あと彩夏ちゃんに渡してもらえば?って言ったら『可愛い妹にあの雌豚が穿いて淫汁のこびりついた布切れを触らせるなんて絶対嫌』だって」

「……朱莉ちゃんさ、別に蒔菜の言った嫌味を全部伝えなくて良いんだからね」

「お、おう。ごめん」

 今のこまちちゃんの顔が超怖くて直視できない。マジギレした上にヤンデレ発動して無理心中を迫ってきた時の柚那より怖いぞこの顔。

「でも蒔菜にバレたなら少なくとも彩夏ちゃんにも私達が動いているってことは伝わってると思うんだけど、特になんの反応も無いんだよなあ」

 こまちちゃんはそう言ってダッシュボードに置いたスマートフォンに目をやった。

「セナはなんか言ってたか?直接探れないまでも一応寿ちゃんとチームメートなんだし、そういうの感づかれてるかどうかくらいは判るんじゃないか?」

「そういう素振りはなさそうみたい…とは言っても一応蒔菜と彩夏ちゃんとチームメートの私が気づかなかったんだからセナも見落としているって言う可能性は捨てきれないけどね」

 そう言って1つ溜息をつくと、こまちちゃんは自分の分のおにぎりを口に運んだ。

「できればもう一人二人くらい人がほしいなあ。もともと彩夏ちゃんは元鞘狙いだったってことがわかっているから、できれば新たな協力者は寿ちゃんがどうしたいのかをしっかり聞き出せる人間だけど…寿ちゃんと仲がいい人間って誰か心当たりない?」

「ないね。寿ちゃんと仲が良いのって私と、彩夏ちゃんと橙子と、セナ……あ、ユウちゃん」

「無理だ。あいつは絶対協力してくれない」

 ユウは良くも悪くも大人なので、そういう揉め事に首を突っ込んだりはしないと思う。多分、そういうのは本人同士に任せておきなさいって言われて終わっちゃうだろう。あと、橙子ちゃんは良くも悪くも、悪くも悪くも子供なのでどう考えても邪魔にしかならない。

「朱莉ちゃんのほうはそういう心当たりないの?」

「寿ちゃんとはそんなにしっかり友達してきたわけじゃないからなあ…」

 寿ちゃんとはあくまでちょっと仲の良い同僚くらいの付き合いしかないので、彼女の本当の交友関係とか、何が好き、嫌いとかそういうこともよくわからない。

「あ、タマはどうなんだ?二人と同期なんだろ?」

「もう当たったけど『寿にもこまちにも世話になって、感謝しているからどっちかに肩入れすることも告げ口することもしたくない』ってまじめに諭されてしまったよ」

「お、おう。すごいな今時の中学生」

 あの子本当にみつきちゃんと和希よりも年下か?

「逆に蒔菜はどうなの?私達が動いていることがバレているにしても、それに対して何か反応とか、コメントとか」

「『指を加えて見ているが良いわ、雌豚』…いだだだだだだだだっ!違う違う!俺が言ったんじゃないって!」

「だからいちいち口調を真似して言わなくていいんだよ~?」

「柔らかい声でギチギチにアイアンクローするのやめて!」

「はあ…でもそこまで言うなら全部バレていると思ったほうがいいか」

「うん、それはいいからとりあえずアイアンクローをやめてくれないかな、マジで、本当に、アンニュイな顔してため息とかついてないでいいからっ!」



 無事アイアンクローから開放された俺と、お腹いっぱいでちょっと眠くなってきているこまちちゃんは車の中でしばらくああでもないこうでもないと話をしていたが、そもそも頭脳労働が苦手なこまちちゃんと、面と向かって不意打ちで口車に乗せるならともかく、人の気持ちを把握してコントロールするなんていう人生経験のない俺が話してみたところで建設的な話になるとは思っていなかったが、ここまで何も出ないとは思っていなかった。

「じゃあ、今日は解散ってことで」

「うん…私はちょっと寝てから帰る」

「まだ暖かいけど風邪引かないように気をつけてね」

「はーい」

 こまちちゃんはあくび混じりにそう返事をするとシートを倒して目を閉じ、俺はこまちちゃんの車から降りて自分の愛車に戻ってエンジンを掛け、実家に向けて走りだした。

 別に寮まで帰っても良いのだけれど、深谷さんに用事があるので、明日また埼玉に戻ってくるのが面倒くさい。いつもなら一応自分の部屋のあるJC寮に泊まるのだけど、ここのところ和希が俺のことをものすごく敵視して威嚇してくるので、行きづらくなってしまった。…別に俺は真白ちゃんのこと取ったりしないのになあ。っていうか、柚那もあかりもなんか勘違いしているけど、俺は中学生と何かしたいというようなロリコンではなく、普通に二十歳くらいから自分の5歳上くらいの女性が好きな普通の男だ。

 まあ、それを言ったら『じゃあ紫さん入ってるじゃないですかー!』って激怒されたけど。

 そんなとりとめもないことを考えながら対向車後続車もいない山道をクネクネと下っている時だった。ふと、気配を感じてバックミラーを見ると、後部座席に時計坂さんが座っていた。

「こんばんは」

「はい、こんばんは」

 俺はできるだけ動じていないような素振りで挨拶を返す。

「こまち…雌豚との会合はうまくいきました?」

 わざわざ言い直さなくてもいいのになあ。

「それがさっぱり。まあ俺もこまちちゃんも時計坂さんとか彩夏ちゃんみたいに頭脳労働が優秀ってわけじゃないですから」

 どうやって入った?なんて問うのはナンセンスだ。彼女には時間を止める魔法があって、それなりの速さで空を飛べる妹がいる。侵入方法や経路なんて考えるまでもない。普通にドアを開けて普通に座っただけのことだろう。

「それより、最近彩夏ちゃんに連絡が取れないんだけれど。というか、連絡してもまったく反応がない」

「あの子ももう大人ですから、自分の判断でそうしているのでしょう」

「いや、どう考えても時計坂さんのせいですよね?完全にあなたの差金ですよね!?」

「人聞きの悪い。ききましたよ、あなたが今年どれだけあの子を悪巧みに利用してきたか」

「ぐ…」

 そんなことない、断じて無い!とは絶対に言えないくらい、彩夏ちゃんにはいろいろお願いごとをしてきている。

「もう開放してあげてください。あの子は今やっと自由になれたのですから」

「でも、それは……」

「あの子にだって恋をする権利くらいあるでしょう」

 時計坂さんがこういうことを言うということは、やはり彩夏ちゃんはもう時計坂さんの虜、寿ちゃんのところに戻るつもりはないということか。

「ご理解いただけてよかったです。それでは私はこれで」

 時計坂さんはそう言って変身し、ドアノブに手をかける。

「ちょっとまった!」

「はい、なんでしょう」

「…時計坂さんは、彩夏ちゃんのこと幸せにしてあげられるんですか?あの子あれで結構…その、ナイーブというか」

 俺の質問に、時計坂さんは一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、破顔した。

「あはは、何を言っているんです、邑田さん。あの子には私の復讐の手駒になってもらっているだけですよ」

 そう言ってニッコリと、とはとても言えない禍々しい笑顔を浮かべると、時計坂さんは忽然と後部座席から姿を消した。




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