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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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子供の理屈、大人の建前

 楓チームとの対戦結果は2勝3敗、チアキとえりは松葉とイズモに順当に勝利したが、和希は楓に全く歯が立たず、真白も善戦したものの涼花に負け、あかりとみつきは何かする間もなく鈴奈と喜乃に接近され、あっという間にステッキを破壊されてしまった。

 もちろん、前回の試合であかり達やえりのやらかした、チアキの言うところの『しょうもない』負け方はなかったため、前回と違いチアキは怒ってはいないが、和希と真白の件でチーム事情は現在もあまり良いとはいえない。

(まあ、これも若さか)

 小さくため息をついたチアキは隣の席でずっとうつむいている真白をちらりとみてから、座席に寄りかかって天井を見上げる。

(和希が真白と一度別れて楓に頼み事をしてでもやりたいことっていうのはつまり、鈍感な朱莉をとっちめてやろうっていうことなんだろうけど…そっちも考えが若いのよねえ)

 チアキの考えも楓が和希に語っていたものと同じで、それぞれのレベルの中では多少の順位変動はあっても、上のレベルの人間に勝つためにはそれなりの策略を弄するなり奇跡を起こすなりしなければ無理だと思っている。

(ま、それはそれでいいか。こっちで手を打てばいいだけの話だし)

 チアキがそんなことを考えていると、後ろの席からみつきがやってきた。

「ねえ、チアキさん、後でちょっと話せる?」

「良いけど、どうしたの?ここじゃ駄目な話?」

「ん……まあ、あんまり大きな声で話せない話なんだけど…」

 みつきはそう言って後部座席でえりと話をしているあかりを見る。

「というか、もともとJCの管轄は朱莉でしょ?朱莉じゃ駄目な話?」

「お兄ちゃんが半狂乱になるかもしれない話」

「ま、あかりちゃん絡みならそうか。わかった、後でみつきの部屋に行けばいい?」

「うん、お願い」



 途中であかりを下ろした後、バスが寮についたところで「じゃあ今日は解散」というチアキの宣言の元、JCチームのメンバーはそれぞれの部屋へと戻っていった。

 チアキも一旦来客用の部屋に自分の荷物を置きに行き、その後でみつきの部屋へと向かう。

「みつき、いる?」

 チアキがそう声をかけながらノックをすると、程なくして扉が開いてみつきが顔を出した。中からはほのかに味噌汁のいい匂いがしている。

「お、早かったね」

「まあ、あんまり楽しい話じゃなさそうだし、そういうのは早く終わらせるに限るからね」

「ま、そりゃそうだよね。後回しにしてもストレス溜まるだけだし」

 みつきはそう言ってチアキを部屋の中に通すとキッチンに立って作りかけの料理の続きを始める。

「で?話ってなんなの?」

 そう尋ねながらチアキはシンクで手を洗ってからみつきのとなりに立って手伝いを初める。そんなに広いキッチンではないものの、しばらく一緒に暮らしていただけあって二人はぶつかったりすることなく、まるで一人の人間が料理をしているかのように準備が進んでいく。

「最近、あかりに彼氏ができたじゃん」

「ああ、そうらしいわね。ちょっと前に朱莉が荒れてたわ」

「で、その彼氏とこの間初デートだったらしいんだけど、その後からあかりの様子がなんか変なんだよね」

「変、っていうと?」

「うーん…あかりの性格からするとデートの後とかニヤニヤして自慢してきそうなものなんだけど、そういうのなくて、ちょっと憂鬱そうっていうか、時々ものすごく真剣な顔で考え事してるし、なんか全体的に元気が無いんだよね」

「その彼氏と初デートで別れたんじゃなくて?」

「いや、別れてはいないんだよ。むしろ昼休みとか、部活の前とか、二人で会う回数は増えてると思う。んで、なんか気になるから後をつけていったりするんだけど、途中で巻かれちゃうんだよね」

「ふうん…みつきはそういうのにあんまり興味ないのかと思ってたけど、和希の件といい、やっぱりお年ごろなのね」

「真面目に聞いてってば。だってありえないんだよ?私だけじゃなくて別行動でつけてた真白も巻かれるし。まあ、くるみは普通の人間だからもともと戦力に数えてないけど、それにしたって三人が別々につけてて同時に巻かれるっておかしくない?」

「なんで三人がかりでそんなことをしてるのよ…っていうか、捲かれたのも存在感が薄いのを利用してあかりちゃんが新しく開発した魔法とかじゃないの?あの子、変身しなくても外部装置で魔法使えるでしょ。みつき達に気づいていて、彼氏との時間を邪魔されたくないとかそういうことなんじゃない?」

 チアキはみつきの話を気にする様子もなく、出来上がったサラダをテーブルへと運び、トレーに味噌汁とご飯、それにメインの焼鮭を乗せて運んできたみつきはそんなチアキの言葉を聞いて唸った。

「うーん、そうなのかなあ……だとしても、なんであんな憂鬱そうな顔してるんだろう。普通恋人って一緒にいて楽しいもんじゃないの?私だったら思い出してニヤニヤすることはあってもあんなため息つくようなことはないと思う」

「それも人それぞれよ」

「そういうもんかなあ…いただきます」

「いただきます…それよりあんた、勉強のほうはどうなのよ、成績かなりやばいって聞いてるけど」

「ま、まあそれはその…和希とえりよりはマシだよ」

「レベル低いところでマシとかひどいとかそういうこと言ってないで上を目指しなさいって。とりあえず勉強しておかないと将来やりたいことができた時に仕事にできないわよ」

 チアキはそう言って味噌汁に口をつける。

「将来かあ…やりたいことってなんだろうね」

「なにか興味のあることはないの?夢中になっていることとか」

「うーん、とりあえずはお父さん探しをしたいっていうのがあるけど、将来どうするかっていうと…このまま魔法少女やって自衛隊とか?あ!都さんの後継者とかいいかも」

「それでもいいけど、だったらなおさら勉強しなさい。あの子は昔めちゃめちゃ勉強してあっちこっちで人脈作って今の地位にいるんだからね。最近人見知りはしなくなってきたけど、勉強が致命的じゃ無理よ」

「はーい、がんばりまーす……ねえ、チアキさん」

「何よ」

「今チアキさんが幸せなのはわかってるんだけど、お父さんが見つかった時にチアキさんがお母さんになってくれたらいいなって思うことがあるんだよね」

 えへへ、と笑うみつきと対象的にチアキの表情が曇る。

「……あなたのお母さんになるのはともかく、私は結婚するなら由紀さんがいいわ」

「えー、なんでよ。もしかしたらうちのお父さん超絶イケメンで、超お金持ちで超優しいかもしれないじゃん」

 みつきはワクワクとした気持ちを隠すこともなくそう言って期待に胸をふくらませているが、チアキの頭のなかでは『超絶イケメン』『超お金持ち』『超優しい』という重荷に押しつぶされているひなたの姿が浮かんだ。

「そういう人っていう可能性もなくはないけど、例えば朱莉みたいな男の可能性もあるし、ひなたみたいな可能性もあるし、楓みたいな可能性もあるのよ」

「や、やめてよ!お兄ちゃんとか楓はともかくひなたは無理!絶対無理!この間は助けてもらったけど、それでもひなたみたいなお父さんとか無理だから!あいつ優しくないしケチだし家事しないし、イケメンって感じでもないし!」

「まあ、そりゃあそうよね」

(これは堂々と親子の対面ができるのはまだまだ先になりそうね…)

 そう考えてチアキは心のなかで嘆息した。

「ま、それはそれとして、あかりちゃんの話を私にしたのはなんで?」

「いろいろ調べたいけど、あかり絡みだとお兄ちゃんルートが使えないから、チアキさんの持ってる権力でなんとかならないかなと思ってさ」

「友達の恋なんか探ったって面白く無いわよ。というか、あなたの保護者としてはそんなのが面白いと思う子になってほしくないんだけど」

「おもしろ半分じゃないってば。本当になんか変なんだよ。だから、ねっ?お願い」

 そう言ってみつきは一度箸をおいてチアキを拝むように手を合わせる。

「はあ…何も出てこないとは思うけど、ちょっとだけ調べてみるわ。ただ、ちゃんと調査するってことになると盗聴とかそういうこともするから過程の報告はできないわよ。二人のお付き合いに問題がないかどうか調べて、結果を知らせるだけだからね」

「やった!ありがとうチアキさん!」

「はいはい。じゃあとりあえずご飯食べちゃいなさい」

「はーい」



 みつきとの夕食の後、しばらく雑談をしてから自分の部屋に戻ってきたチアキが調査依頼書を書いていると、空気の入れ替えのために開けていた窓の外から車のエンジン音が聞こえた。

(お、帰ってきたわね)

 チアキはキーボードを打つてを止めてキャミソールの上にパーカーを羽織ると、部屋を出てエレベーターの前で和希を待ち構える。

 しばらく待っていると一度1階に降りたエレベーターが上がってきて、チンと軽い音を立ててドアが開いた。

「チアキさん…」

「ちょっと話すわよ」

 チアキはそう言って和希をエレベーターに押し込むと、1Fのボタンを押してドアを締めた。

「真白、帰りのバスでずっと泣いてたわよ」

 しばらくの沈黙の後、チアキが口火を切る。

「……はい」

「さっきは、時間の都合もあったし、話が進まないと思ったからああ言ったけど、女の子を泣かす男は大っ嫌いなのよ、私」

「はい…」

「まあ、真白にも攻められるべき点がないとは言わないけどね。それでもあれはないと思う」

「わかってます。でも、俺は今真白にかまっていちゃ駄目なんです。今までどおりじゃあの人には勝てない。分かってたことだけど、今日改めて楓さんにも言われました。奇跡でも起こさなきゃ俺のレベルじゃあの人に勝つことはできないって。だったら奇跡に一歩でも近づくために努力しなきゃならない」

「ご立派だこと」

 1階に降りたチアキは指でついてこいというジェスチャーをして外に出て行き、和希もその後を追った。

「今更いうことじゃないけど、みつきもあなたに気持ちを残してる。私にとってみつきは妹のような存在で、娘のような存在でもあるの。…正直に言ってしまうとね、私の中にはみつきをあなたから遠ざけたいという気持ちもあるのよ。それこそこの間あかりちゃんが言っていたチーム替えっていうのも含めて手段はいろいろあるなって事まで考えている」

「それもわかっています。でも俺はあの人を殴らなきゃならない。今のままあの人のことを黙認して真白と付き合い続けることはできなかった」

「男ってやつは…誰かを殴って何が変わるっていうわけでもないのよ。だれがどんな気持ちであっても、あなたの中で真白を大切に思っていればそれでいいじゃない。暴力では何も変わらないわよ、大体――」

「ユキリンが」

 和希は急に由紀のアダ名を口にしてチアキの言葉を遮った。

「ユキリンが高校時代にやたら懐いて俺にくっついてきてさ、チョコまでよこすんだぜ?そりゃあ確かに見た目は女の子みたいで可愛いかったけど、そういう趣味ないっつーの」

「あんたいきなり一体何言ってるの?」

「って、あの人が言ってました」

「そう…ちょっと行ってあの愚図をぶん殴ってくるわ」

 チアキはそう言って変身すると、飛行用のナイフを取り出して上に飛び乗った。

「わ、違いますって!言ってないです!」

 和希はそう言って飛び去ろうとするチアキの腕を慌ててつかむ。

「…は?言ったんでしょう?私のかわいい由紀さんのことを侮辱したんでしょう?」

「違うんです!つまり、そういうことを真白に対して言っているのを聞いちゃったんです。その……真白の気持ちは知ってるけど、正直迷惑だって。子供を相手にする趣味はないって。身の程をわきまえろって。そういうことを柚那さんと話して、二人で真白を笑いものにしてるのを聞いたんです」

「っのクズが…」

 チアキは1つ舌打ちをすると、変身を解除して元の姿に戻ったが、表情は朱莉に対する怒りで険しいままだ。

「情けないですよね、そんな話聞いちゃっても、俺はその場であの人を殴ることができないんですよ!?そんなカスみたいな男に、真白の彼氏の資格なんて無いですよ!だから俺は、誰よりも強くなって真白を守りたいんです、あいつを傷つけようとしているやつを片っ端からだまらせることができるような男になりたいんです」

 若い。チアキはそう思ったが、だからこそこの若さを理屈でねじ伏せていいものかと迷った。

「でもね、和希。今日あの子を傷つけたのはあなたよ」

「……」

「さっきも言ったように、あんな別れ方納得行くわけがないでしょ」

「はい」

「もう今さら取り返しがつかないから、今からもう一度付き合いなさいとは言わないけど、別れて身につけた絶対的な力で真白を守る方法より、ずっと側にいてあなたが盾になって守る方法のほうが良かったんじゃないかしら」

 真白を傷つけた朱莉を殴りたい。傷つけようとする奴は皆殴って俺はお前を守ってやれるんだぞ。そう示すヒロイズムもあるが、誰かが真白を傷つけようとしても傷つかないくらいの愛で真白を守る。そういうヒロイズムもあるとチアキは考える。

「……俺が側にいたって、真白は満足しませんよ」

 そんなことはない。とチアキは思ったが、いくらチアキが違うと言っても和希は納得しないだろう。

 結局誰かの本音というやつは、誰が想像して語ってみたところで、実際に本人の口から聞いてみないと本当のところはわからない、いや本人の口から聞いてみたところでそれが、第三者どころか本人にとっても本音かどうかもわからないようなひどく不安定で不定形なものだ。

「だから俺はあいつを傷つけるやつを片っ端から駆逐したい。あいつを傷つける存在が近づけないようにしたい」

「…そう、ならもう私からは何も言わないけど、真白があなたに対して本心を言ったら、その時はきちんと話を聞きなさいよ」

「でも、あいつの本心かどうかなんて…」

「わからないなら、もう真白に近づかないほうがいいわ。あの子が本心を言っているのか、社交辞令で言っているのか。そんなことすらわからないなら、あなたはこの先何度もあの子を傷つけるから、それなら距離を置くのが二人のためだと思うわ」

 チアキはそう言って1つ大きく息を吸って深呼吸すると、和希の目を見据える。

「もちろんあなたの考えもわからないわけじゃないし、むしろ私個人としては好きよ。だって盾しか持ってない勇者よりは剣も持っている勇者のほうがかっこいいじゃない。ただし、剣に振り回される勇者なんていうのは盾だけの勇者よりもかっこ悪いから、そうならないように自分の中にしっかりした物を持つようにね」

「はい!」

「よし、頑張れ。男の子」

 チアキはそう言って和希の頭をポンポンと優しく叩いて笑った。


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