タイガー&ドラゴン 4
一段落
龍騎と合流したあかりは、仕切りなおしをかねて一休みしようという提案をしてコーヒーショップに入ろうと提案した。
それはいい。あかりが甘いラテを飲んでいるのに対して、龍騎がコーヒーの味もわからないのにブラックを我慢して飲んで大人の男アピールしているのも、この年代のカップルだったらよくあることだ。しかし、すぐ隣の席に座った成人男性からその様子をガン見されているというのは、よくあることではない。
「あの、先輩…」
「な、何?」
「いや…その…これは一体…」
あかりは虎徹との経緯を龍騎に話したいと思っているし、龍騎としてもその辺りの説明を求めたいところなのだが、あかりも龍騎も初デートの緊張からうまく話のきっかけを得られないまま、デート再会からかれこれ5分が経過していた。
もちろん虎徹はその間中ずっと二人のことを見ながら、よくわからない文字で必死にメモをとっている。
「えっと…脚本家の人って、ずっとついてくるんですか?」
「あ、うん…ええと、なんか中学生の恋愛について取材したいとかそんな話…だったかな?うん。多分」
あかりは口からでまかせを言いながらもしかしたら自分は役者とか作家の才能が有るかもしれないと思った。
「そういうことなんですね。じゃあ、僕らは普通にデートを楽しめばいいんですね」
「うん。あくまで虎徹さんのことはそのへんのギャラリーだと思ってくれればいいから」
すこし引っかかるところはあるものの、数ヶ月ごしに実った恋、しかも初デートということで、龍騎は極力虎徹のほうを見ないようにしてデートを精一杯楽しみ、先ほど龍騎とあかりが真白と里穂を捲いた駅まで戻ってきた。
「それじゃあ龍くん、また明日学校でね」
あかりは乗り換え駅の改札を出たところで龍騎にそう切り出した。
「え?先輩、駅一緒ですよね?」
後数駅、電車で数分という距離ではあるが、駅から学区までは歩いて帰れない距離ではないので、もう少しあかりと一緒に入られると思っていた、むしろ虎徹がいなくなるだろうこれからが本番だと思っていた龍騎は驚きを隠せずにそう尋ねる。
「えっと……ごめん、ちょっと仕事関係で打ち合わせが」
あかりはそういって虎徹をチラっと見たあとで龍騎に向かって手を合わせて「ほんとにゴメン」ともう一度謝った。
龍騎と別れた後であかりと虎徹は再び電車に乗り、人気のない一級河川のだだっ広い河川敷にやってきていた。
「しかし、彼には悪いことをしてしまったな」
河川敷に降りて、さらに人気のないところまで歩いて行く最中に虎徹がそうこぼした。
「え?」
「初デートだったんだろう?なのにこんな邪魔者がずっと一緒で迷惑だったろうなと思ってさ」
「あ……そうだ。言われてみれば私達初デートだったんだ」
「おいおい、大丈夫か」
「確かに初デートなんですけどね、でも実はこの半年くらいあの子とは結構一緒にいる時間が長くて。それこそ付き合う前からみつき…わかりますよね、根津みつき。あの子には「もうそれ付き合ってんじゃん」とか言われるし、真白ちゃんにもおんなじようなこと言われたりしていて。もちろん昨日の夜とか、さっき虎徹さんに合う前とかは初デートだって気を張ったりしてたんですけど、一緒にいてみて、だんだんいつもと変わらないなって」
「新鮮味がないっていうこと?」
「そうじゃなくて、彼が当たり前にそばに居てくれることが当たり前に嬉しいっていうか、今更そういう変な気合を入れなくても、当たり前にそばにいてくれて、当たり前にそばにいられるっていうことが、すごく幸せだなって」
「なるほど、恋人というよりは家族が1番しっくり来る感じなのかな」
「そうかもしれないです。うちってもともと、おじいちゃんとおばあちゃんも、お兄ちゃんとお母さんも、もちろんお父さんとお母さんもバラバラだったんですよ。おじいちゃんたちは再婚どうしだし、お兄ちゃんとお母さんは連れ子同士だし。当然お父さんとお母さんも他人同士だったわけで。だからもしかしたら親しい人を家族扱いする、家族にしてしまうというのが、邑田家にとっては最大限の愛情表現みたいなところがあるのかもしれません」
「複雑そうだけど、仲が良いんだね」
「そうですね、細かい不満はありますけど全部トータルで見たらすごく仲が良い家族だと思います。ちなみに虎徹さんはどうなんですか?」
少し照れくさそうにそういった後、あかりは少し強引に話を虎徹に振り直す。
「ああ…弟がいるんだけどね。まあなかなか難しいよ。俺の立場もあるし、あいつにも立場があるからさ」
「あ、それわかります。うちも妹がいるんですけどあんまりいうこと聞いてくれなくて」
「あはは、お互い一番上は大変だね」
「まあ、厳密には一番上はお兄ちゃんなんですけどね。それはそれで手がかかるので、下に三人いる感じです」
「ああ、そうか。なんかそのあたりもややこしいと朱莉が言っていたっけ」
「そんなことまで話してるんですか?まったくあのバカ兄貴は……っと、このへんで上に上がりましょうか。彩夏さんもそろそろ来ると思いますし」
辺りに完全に人気がなくなったのを見計らって、あかりがそう提案し、虎徹も頷く。
「すまないね、なにからなにまで」
「いえいえ。こう見えて人の世話を焼くのには馴れていますから」
あかりはそう言って胸を叩くと、そのまま変身をする。
「ささ、虎徹さんも」
そう言ってあかりがすすめると、すぐに虎徹も変身してみせる。
「へー、なんか楓さんと話が合いそうな感じですね」
羽織袴に鉢金という、一言で言ってしまえば新選組のような格好をした変身後の虎徹をみてあかりがそう言った。
「どうかな。俺は別に戦いが好きというわけではないからね。ただ、時代劇は好きだから彩夏ちゃんが時代劇を好きだと良いなとは思っているんだけど」
虎徹がそう言って少しはにかんだように笑った時だった。二人はゾワッとした空気を背後に感じて同時に振り返る。
「キッシー!?このタイミングで!?」
二人から50メートル位のところに姿を表した竜騎士の少年はゆっくりと二人の方へと歩み寄り、残り10メートルのところで立ち止まると、黙って槍の切っ先を虎徹に向ける。
「俺に用事、ということかな」
竜騎士は黙って頷くと槍を両手持ちに構え直して虎徹に体を向ける。
「あかりちゃん、こいつはどういう奴なんだい?」
「えっと…よくわからないんですよね。最初私たちは虎徹さん達の仲間かと思っていたんですけど、最近は違うんじゃないかっていう話も出ていて…というか、違うんですよね」
「流石にこんな怪しい奴はいないなあ」
虎徹はそう言って笑いなが刀を抜き放つ。
「何者かわからないなら、正体を聴くくらいまではまかり間違って殺したりしないようにしないとな」
そう言って脇構えに刀を構え、腰を落とすと、虎徹は一気に距離を詰めて竜騎士に斬りかかる。
対する竜騎士は虎徹の進攻を防ぐように槍を突き立て後ろに飛んで回避し、短い槍を出現させると虎徹に投げつける。
「おっと…危ねえなっと!」
虎徹は投げつけられた槍を正面から刀で受けて真っ二つにするとすぐに刀を離し、自分の横を通過しようとした2つの槍の残骸をつかみとって竜騎士に投げ返した。
(強い…!)
一連の攻防を見たあかりは、自分の体がブルっと震えるのを感じた。
(虎徹さん、こんなに強いの?お兄ちゃんたちはこんな人と戦うつもりだったの?)
あかりの感想を裏付けるかのように、和希が全く傷をつけることができず、タマの全力でもかろうじて欠けさせることがやっとだった竜騎士の鎧は、虎徹が投げ返した槍がかすった部分が二箇所えぐられたかのように削り取られている。
「さて、じゃあ準備運動も終わったところでその鎧剥ぎとって顔を拝ませてもらおうか」
そう言いながら虎徹が刀を拾うと、竜騎士は一歩後ろへ下がる。
「そうだ、あかりちゃん。今日は色々と世話になってしまったし、話を聴き終わったらこいつの首を持って帰ると良い。手柄になるだろう?」
虎徹はにこやかにそんなことを言いながら刀の切っ先を竜騎士に向ける。
「いや、首とかじゃなくて、普通に捕まえて貰えれば結構ですんで」
「だって、大将首だよ?」
「いや、今時首とか貰っても誰も喜びませんから」
あかりも時代劇は好きなほうだが、戦国時代のものよりも江戸時代を舞台にしたもののほうが好きなので、首実検とかそういった描写はあまり好きではない。
(いい人だとは思うけど、やっぱりちょっと感覚がズレてるなあ。っていうか、今日日そんなので喜ぶのは多分鈴奈さんとか関西チームの人たちくらいだよ…)
あかりはそんなことを心のなかでつぶやくが、もちろんそんなものでは鈴奈も、関西チームの面々も喜ばない。
「ほんと、普通に捕まえてもらえるだけで大助かりなので」
「そうなのか…」
虎徹は少し残念そうにそう言って刀を返すと再び竜騎士に斬りかかる。
「っ…!」
竜騎士も槍を出して虎徹の斬撃に必死に応じるが、力の差は歴然で、防御をしそこねたところから虎徹は徐々に竜騎士の鎧を削り取っていき、鎧を削り取られた部分から徐々に血が滲み始める。
「そろそろ降参したほうがいいんじゃないか?」
虎徹はそう言って挑発混じりに勧告するが、竜騎士は無言で歯を食いしばって虎徹に対してなお槍を向ける。
「まったく、往生際が悪いな。いや、往生はしないから引き際か?負け際?まあ、なんでもいいか」
そう言って虎徹が竜騎士の鎧を切っ先でチョンと突くと、竜騎士の鎧は粉々に砕け散った。
「君の負けだ。この先何をやっても大怪我するだけだぞ」
「……くそぉっ!」
竜騎士は槍を手放して膝をつくとそう叫んで悔しそうに地面を叩いた。
「さて、じゃあその兜を取って顔を見せてくれ。それと君の所属と名前を聞こうか」
「あの、虎徹さん!」
「うん?なんだい、あかりちゃん」
「待ち合わせの時間も過ぎちゃっているし、もう彩夏さん上で待っていると思うんですよ」
「え、そんな時間?」
「あとは私だけで大丈夫ですから。ちなみに、虎徹さんは彼に聞いておきたいこととかありますか?あれば尋問するときについでに聞いてあとでメールしますけど」
「うーん…特に無いかな。もしまた襲われても撃退できるだろうし、特に興味はないや」
「わかりました…じゃあほら、きっと彩夏さんが待ってますからはやく行ってあげてください。最初の待ち合わせで遅刻とか嫌われちゃいますよ」
「それはまずい。じゃああかりちゃん、今日はありがとうね」
虎徹はそう言って一礼して刀を納めると、階段を駆け上るようにして大急ぎで上空へと上がっていった。
虎徹が見えなくなったのを確認したあかりは変身を解除して竜騎士の前に膝をついて座った。
「声でわかっちゃったよ……龍くん、だよね?」
龍騎は黙って一度頷く。
「だから君は私たちの前では喋らなかったんだね。唯一声を聞いた静佳ちゃんがどこかで聞いたことがある声だったって言っていたけど、それも納得だよ」
「すみません…騙すようなことをして」
「変身解除して、顔を見せてくれる?」
「はい…」
竜騎士が変身を解除すると、あかりが考えていたとおり竜騎士は龍騎の姿に戻った。
「君は何?異星人なの?私に近づいた目的は?」
「僕は、地球人です。あかり先輩に近づいたのはずっとあかり先輩が好きだったからです。最初はあかり先輩が変身して戦ったりしているなんて思っていませんでした」
「あのね、」
あかりはそう言って睨みつける用に厳しい目で龍騎の目をまっすぐに見つめる。
「普通の地球人は変身なんてできないんだよ」
「…僕は去年、ある異星人に出会いました。その異星人は現地惑星に住む知的生命体と同化することでその星に適応して生きる異星人でした」
「なるほど、その異星人の力で君は変身することができたと、そういうわけね」
「はい、そういうことです」
「静佳ちゃんを逮捕すると言っていた理由は?」
「僕と同化している異星人は、宇宙警察、銀河警察とかそういうものなんです。その宇宙警察の規定では他の星への侵略は厳しく規制されているんです。それで…」
「現地の住民を誑かした静佳ちゃんは逮捕の対象だったと」
「はい」
「なるほど…はあ……そっか……」
あかりはそう言いながら大きくため息をついた。
「もう察しは付いていると思うけど、静佳ちゃんもえりも里穂も異星人なの。味方のね。あと日本には10人くらい異星人がいるんだけど、その人達も味方。で、さっきまで一緒にいた虎徹さんは正真正銘侵略者…のはずなんだけど、星自体を侵略したいというよりは嫁探しに来ているような面が強いらしくて、完全に敵対しているわけじゃないの」
「は、はぁ…じゃあ、侵略者はいない?」
「いないって言うわけでもないんだよね…うん、わかる。龍くんの言いたいことはよく分かるけど、なんかそういう感じなのよ。全部うちのバカ兄貴がいけないんだけど、なんかなあなあでみんなと仲良くしようとするものだから、変にこじれちゃっててさ。まあ、このへんは追々話をするとして…とりあえず今日は帰ろうか」
「え?」
「もう暗くなっちゃったしさ。一応遅くなるかもとは言っておいたけど、お兄ちゃんが騒ぐ前に帰りたいんだよね。あとほら、遅くなって変な誤解されちゃうと『男子と付き合っちゃいけません!』とか言われかねないから」
「いや…そうじゃなくて、僕のことを偉い人のところに連れて行かないとまずいんじゃないですか?何度か邪魔をしてますし、勘違いだったと言ってもちゃんと罰を受ける覚悟はありますから」
「はぁ…血なのかなあ…血はつながってないはずなのになあ…なんでこう、面倒事ばっかり舞い込んでくるんだろ」
あかりは再びため息をつきながら頭をかいた。
「えっと…先輩…?」
「大丈夫。とりあえず今はおとなしくしていて。私がなんとかするから。幸い虎徹さんにしか見られてないし、逃げられたっていうことにしても良いんだし」
(……絶対売らない、売れるわけ無いじゃん。龍くんは私の彼氏で、可愛い後輩で、異星人関係の事件に巻き込まれた仲間なんだから)
龍騎に聞こえないような小さな声でそうつぶやいてから、あかりは龍騎の手を引いて立ち上がらせた。
「とにかく、君は私が守るから。全部任せてもらっていいかな?」
あかりはそう言うと年上らしい笑顔を龍騎に向け、それを見た龍騎は顔を赤くして頷いた。
誰だよアンケートに佐藤って書いたのw
あ、アンケートは14日までです




