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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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真夜中の訪問者

「うーん…これは意外かも」

 当日の試合結果を持ってきて得意気にしているこまちちゃんの前で、俺は思わず唸った。

 ひなたさんチームと楓さんチームの対戦結果は、五勝零敗。ひなたさんチームの全勝なのだ。楓さんがまさかの黒星だったのと、ひなたさんとあたってしまった涼花ちゃんが誤算だったというところだろうか。これで各チーム1試合目が終わっふた時点での戦績は勝点2勝ち星5つでひなたさんチームがトップ。二位が狂華さんチームで勝ち点2勝ち星3。次がチアキさん、精華さんが勝点1勝ち星2で同率三位。五位がうちのチームで勝点0、勝ち星2、最下位が楓さんチームで勝点0、勝ち星0となった。

「まあ、それは別に良いんだけどさ」

「さすが一位のチームに所属している上に、楓さんを撃破した人は余裕ですな」

「いやいや、私の勝ちはともかく、チーム事情はあんまり良くないんだよね」

「……なんでそういう話をみんな俺のところに持ってくるわけ?」

 正直ホットラインも辞めたいなーって思っているくらいなのに直接持ち込みとか本当にやめてほしいんだけど。

「どうせまたひなたさん絡みなんだろうけど、俺ひなたさんとかファースト世代に対してはなんの影響力もないから愚痴聞くくらいしかできないぞ」

「ところがびっくりすることに、その問題っていうのがひなたさんじゃないんだな」

「じゃあ里穂?」

 あの子、学校ではおとなしくしているらしいんだけど、俺の顔をみると襲ってくるんだよなあ。

「里穂ちゃんでもない」

「桃花ちゃんはどっちかって言うとあの中じゃ調整役だと思うんだけど……」

「桃花ちゃんでもない。正解は彩夏ちゃんと蒔菜」

「へ?二人が喧嘩してんの?彩夏ちゃんってそういう面倒事は全力で回避するタイプだと思っていたんだけど」

「逆。仲が良すぎるんだよね、あの姉妹」

「は?姉妹ってなに?」

 こまちちゃんはもう少し順を追って物事を説明するべきだと思う。

「そっか、朱莉ちゃんも知らないか…いつのまにやら彩夏ちゃんと寿ちゃんが姉妹関係解消してて、彩夏ちゃんは蒔菜と姉妹になっていましたとさ」

「とさって…それで東北チーム回るの?」

「ふたりとも仕事に私情を挟まないタイプだからそういうのは影響出てないけど…っていうか、そもそも私も今日その話を聞いたばっかりで驚いているんだけどね」

「時計坂さんって、あの総務の暗い人だよね?」

 柚那はそう言いながら、キッチンで入れてきてくれたコーヒーを俺とこまちちゃんの前に置いた。

「そうそう。色が白くて髪が真っ黒の子。で、まあ今日の試合前にそんな話を彩夏ちゃんからされて、寿ちゃんと復縁したいから手伝ってほしいっていうことで相談する予定だったんだけど……」

 こまちちゃんはそういってスマートフォンを取り出すと、机の上に置いて俺と柚那の方に滑らせる。

俺と柚那が画面を覗き込むとメッセージアプリのメッセージ欄には彩夏ちゃんから『すみません、ちょっと思うところがあるのでさっきの話は延期してください』とだけ送られてきていた。

「どういう心境の変化でしょう。寿ちゃんが嫌になったんですかね」

「もしくは時計坂さんに籠絡されたか、かなあ」

 彩夏ちゃんって、実は彼女自身が思っているほど強くないし、彼女自信が思っているよりよっぽどチョロいので、時計坂さんになにか言われてコロっといった可能性はある。

「と、いうわけで……なんとかして」

「いや、なんとかって言われてもなあ。彩夏ちゃんも立派な大人だし。気になるならこまちちゃんがなんとかすればいいんじゃない?」

「そりゃあ私が動ければ一番いいんだけどさ、そうもいかないんだよね」

「どうして?」

「私、セナと付き合ってるの。んで、今はセナの相手で精一杯。正直彩夏ちゃんに割けるリソースがない。これが寿ちゃんが変とか、東北チームが瓦解しようとしているとかだったらまだセナを説得しやすいけど、彩夏ちゃんのためになんて言って動いたら、セナは多分いい顔しないからね」

 まあ、5月くらいからありえるなとは思っていたので驚きはしないけど。

「セナなあ…確かに拘束凄そうだもんな」

 俺はなんとなく、柚那に視線を向けるが、幸い柚那はこまちちゃんのほうを見ていて俺の視線には気づかない。。

「というより、こまちちゃんがセナちゃんに信用されてないんだと思いますけどね」

「あはは…まあ、そうなんだよね。だから今、下手なことしてセナに私が彩夏ちゃんにコナかけてると思われて喧嘩するのは避けたいわけなんだ」

「それはわかったんだけどさ、この件って寿ちゃん的にはどうなんだろうな」

「寿ちゃん的ってどういうことです?」

「いや、寿ちゃんと彩夏ちゃんって、関係解消済みなんだろ?んで、俺としてはその状況について、彼女から全く相談されていないわけだ。つまり、この関係解消に関して寿ちゃんは特に文句ないんじゃないのか?で、もう一人の当事者である彩夏ちゃんもとりあえず保留と言い出した。この状態で俺達ができることなんてなにもないだろ」

 それこそホットラインででも俺がどちらかから直接相談受けていたならともかく、この件に関しては完全な部外者なのに俺が積極的に関わるのは違う気がする。

「それはそうだけど…」

 そう言ってこまちちゃんは唇を噛んで泣きそうな顔でうつむいた。

「その…笑わないで欲しいんだけどさ」

「うん」

「私、あの場所好きなんだよね。セナがいて、寿ちゃんがいて、精華さんがいて、彩夏ちゃんがいて、橙子がいて、ご当地のみんながいて。もちろん異動とかそういうのはしょうがないかなと思うんだけど、喧嘩別れとか寂しいじゃない。確かに二人の話なのかもしれないけど、それでも私は二人に仲直りして欲しいかなって。姉妹に戻るかどうかはともかく、絶対寿ちゃんもモヤモヤしてるし、さっきの彩夏ちゃんの言葉が嘘だとも思えないからなんとかしたいんだけど、でも彩夏ちゃんが保留って言い出しちゃったから手が出しづらい」

 正直、こまちちゃんがこういうことを言い出すというのは、ちょっと意外だった。自分と誰かの関係には興味があっても誰かと誰かの関係には興味がない子だと思っていたのだけど。もちろん上辺や付き合いでそういう心配をするのは何度か見たけど、そんなに自分のこととして見ているとは思っていなかった。

「ひとつ聞かせて」

「うん」

「彩夏ちゃんじゃなきゃダメ?他の子を寿ちゃんにあてがうんじゃ駄目なの?」

「彩夏ちゃんじゃなきゃダメ」

 まあ、こまちちゃんがここまで言い切るなら寿ちゃんにとってもそうなんだろう。そもそも、今聞いたことから考えると彩夏ちゃんは絶対後悔しているだろうし。

「わかった。協力する」

「ありがとう!」

「ただし、条件がある」

「え…またそういうこと?…今はセナと付き合っているからそういうのはちょっとなあ…でも、それしかないなら…」

 そう言ってこまちちゃんは少し悲しげな表情で服をずらして肩を見せる。

 っていうか―

「”また”とかそういう悪質なウソやめてくれないかな!?柚那に誤解されるだろ!」

「あはは、ごめんごめん。で、条件って?」

「俺たちは協力というか、相談にはのるけど、二人の近くにいるのはこまちちゃんだから、実際にはこまちちゃんに動いてもらうことになると思う。だからセナに現状をありのまま話すこと。君の寿ちゃんへの気持ちとか、彩夏ちゃんをどう思っているかとかそのへんも全部」

「えっと…別にそれはいいけど…なんでそんな寿ちゃんとか彩夏ちゃんのことまで?」

「このまま黙ってやったら、今度は君らがこじれる。」

 俺の場合は恋人が柚那、妹が愛純と別れているが、何かしようとした時に柚那と愛純、どちらかに内緒にしていたりすると後々面倒になることが多い。

最近は柿崎君にべったりの愛純でさえそうなのだから、こまちちゃんと恋人で姉妹という関係にあるセナなら、それはもうこじれまくって面倒なことになるのが目に見えている。

「そうですね…私もそう思うよ、こまちちゃん。私もさんざん朱莉さんにそういうストレスかけてきたからわかるんだ」

「うーん…柚那ちゃんが言うならそうするか」

 ふたりとも…まあ、いいけどさ。

「じゃあ、とりあえず俺の方からも彩夏ちゃんに探りをいれてみるから、こまちちゃんのほうはセナと話しておいて」

「うん。頼りにしてるよ、ふたりともよろしくね」

 こまちちゃんはそう言って深々と頭を下げた。



 こまちちゃんが帰った後、俺と柚那は予め予約をしてあったミーティングルームでチームメイト達と次の対戦相手であるひなたさんチームについての対策会議をし、その流れでせっかく集まったことだしということでチームみんなで食事をしにでかけ、戻ってきたのが、日も変わろうかという23時過ぎ。

 そのまま大浴場で柚那と愛純と朝陽と一緒に汗を流し、柚那と別れて自分の部屋に戻ってきた時にはすでに0時を回っていた。

 じゃあ寝ようかと俺がベッドを見ると、夏掛けの下に人一人分の膨らみが見て取れる。はてさて一体これはどうしたことか。

 いつもなら週末である今日は和希がいるのだが、ちょっとした用事があって来ていないので、考えられるのはこまちちゃんが戻ってきて、さっき言っていた報酬をマジで支払うつもりというパターン。

あとは、明日早いからとラウンジから先に出て行った柚那が待ち構えているパターン。もしくは予定変更で和希が戻ってきているパターンだろうか。

 柚那や和希はともかく、こまちちゃんだったらお引き取り願わなければいけないが、ここで慌てて布団を剥いでは行けない。ここで慌てて布団を剥いで中に生まれたままの姿のこまちちゃんが寝ていた場合、いつものパターンだと柚那がどこからともなく現れるということを俺はこの一年で学んだ。

 まずは布団の膨らみを観察する。布団の膨らみは規則的に動いているので、中の人はおそらくすでに寝ている。ということはついさっき出て行った柚那の線はない。

 逆に和希という可能性も同時にない。なぜなら和希は夜更かし大好きでこの時間なら間違いなく起きているからだ。

 となるとこまちちゃん…!いや、それにしては…でもまさか…

 俺はあの人がこんなところにいるはずないと思いながら、こまちちゃんにしては縦に短いというか、横に厚みのある膨らみの頭側をペロリとめくってみる。

「……」

 ……面倒だから布団ごと簀巻にしてベランダに出しちゃおうかな。まだ9月だから風引かないだろうし。

 布団の中にいた人物の顔を確認してそんな考えが頭をよぎるが、ベランダで泣き叫ばれても面倒なので、俺はいったいどうしてこんなところにいるのか聞くために精華さんの身体を揺すって声をかける。

「お客さん、終点ですよ」

「はっ!?すみません、おりますっ……って、なんだ朱莉かあ…何?夜這い?大声でこまちと寿呼ぶわよ?」

「いや、随分愉快に寝ぼけていますけど、どっちかっていうと夜這いしてるの精華さんのほうだから」

 やるきまんまんのはずの侵入者側が先に寝ちゃってるという謎の夜這いだけれども。

「え……あれ?なんで私朱莉の部屋にいるの?誘拐?」

 意識は覚醒したらしいが、どうやらまだまだ寝ぼけているらしく、精華さんはそんなことをのたまう。

「俺がでかけている間に精華さんが不法侵入したんですよ」

「…あ、そうだ。私朱莉に相談があって来たんだった」

 そんなところだろうと思ったけど、大丈夫かこの人。いや、何がって頭がさ。

「で、相談ってなんです?」

「ここのところ、寿と彩夏の様子がおかしいのよね」

「おお……」

 正直、意外だった。いくらセナとのことでいっぱいいっぱいだったとはいえ、今日の今日、彩夏ちゃんから聞くまで、こまちちゃんが気づいていなかったことに、まさか精華さんが気づいているとは。

「あと、こまちとセナも南アフリカから帰ってきてからおかしいけど、あれは絶対付き合ってるわね」

「おおお…」

 マジか。この人本当に精華さんか?人の心の機微などまったくわからなさそうなのに、四人の異常に的確に気がついているなんて、この人実は精華さんの皮を被ったユウとかなんじゃないか。

「なによ、変な顔して」

「いや、精華さんが全部正解を言うんでちょっと驚いてます」

「じゃあ、やっぱり寿と彩夏は揉めているのね?」

「というか、姉妹関係解消したらしいですよ。で、彩夏ちゃんはいまや時計坂さんの妹」

「蒔菜?まあ、事務仕事つながりっていうのはあるんだろうけど、なんで?」

「詳しい話はこれからって感じですけどとにかくそんな感じらしいです。あとこまちちゃんはセナと付き合ってます」

「まあ、遅かれ早かれって感じだと思ってたけど」

「俺はてっきりまた『セナを排除するー!』とか言ってジタバタ暴れるかと思ったんですけどね」

「私だっていつまでもことこま離れができないわけじゃないのよ」

 精華さんはそう言って『みんなのお姉さんだからね』と付け加えて得意気に笑うが、この人キャリアが長い割には威厳が皆無でお姉さんらしさなんてものは微塵もなく、誰よりも妹っぽいんだよな。…まあ、そこがちょっとかわいいところではあるんだが。

「ちなみに、お姉さんである精華さんは手伝ってくれますか?」

「何を?」

「寿ちゃんと彩夏ちゃんの関係修復」

「…え?なんで?」

 何を言っているのかわからないとばかりに精華さんが首を傾げる。

「いや、なんでって…そういうことを相談しに来たんじゃないんですか?」

 俺がそう尋ねると、精華さんは首を傾げたまままゆをしかめて口を開く。

「ううん、むしろ、東北チームの解体の相談をしに来たのよ」







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