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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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JC反省会

 試合の翌日。放課後に邑田邸に集められた私たちは、あかりちゃんの部屋でミニテーブルを囲んで車座になっていた。

「さて、じゃあ昨日の反省会をするわよ」

 チアキさんは反省会なんて言っているけど、実際のところは試合中に喧嘩を初めてしまったあかりちゃんとみつきちゃん。あとは対精華さん戦でやらかしたえりちゃんに対するお説教大会だ。

「最近本当にあっちこっちで揉め事ばっかりよね。まったくみんなもう少し大人になってほしいものだわ」

 チアキさんはそう言ってため息をつく。

「まずはみつきとあかりちゃんから行きましょうか。喧嘩の原因は?」

「みつきが!」

「あかりが!」

「はいはい…じゃああかりちゃんから」

 チアキさんは少しうんざりしたような表情であかりちゃんを指名した。

「私は普通に和希と真白ちゃんが最近仲いいよねっていう話をしていただけです。そしたらみつきがいきなり機嫌悪くなって」

「あかりはその後、真白が羨ましいとかそういうこと言い出したでしょ!」

「だからそれでなんでみつきが機嫌悪くなるの!?」

「それは……その…」

 みつきちゃんは言い澱んで私の方をチラリと見る。

 まあ、一連の流れはあかりちゃんには秘密だったし、あかりちゃんに悪気は無いんだろう。というか、これは秘密にしていた私と和希の責任だと思う。

ちらりと和希を見ると、和希も同じ事を考えていたらしく目があってうなずいてくれたので、私は全部話すことにした。

「それは我から説明しよう!」

 ――のに、なぜかえりちゃんが口を開いた。

「って、なんでえりちゃんが話すのよ」

「最近あかり並に影が薄いからたまには我も出番がほしい!」

 いや、それはさすがにあかりちゃんに失礼だろう!…と言い切れないのが悲しい。

「ふふん…いいか?おこちゃまなあかりは全然気づいていなかっただろうが、そもそも和希はあかりの事が大好きだったのだ」

「え?いやいや。和希って私のことを貧乳だとか胸がないとか色気がないとか馬鹿にしてばっかりだし、私の事を好きだなんてことあるわけないじゃん」

「このバカあかり!略してばかり!貴様それでも日本人かーーっ!」

「ええっ!?私なんで怒られたの!?」

「古き好き時代より日本にはツンデレという文化があるだろうが!葵の上とか!上杉謙信とか!和希があかりに対して素直になれなかったのはつまりはツンデレ!ツンデレなのだ!」

 いや、葵の上はともかく謙信公は違うんじゃないだろうか。

「まあ、ツンデレっていうかはともかく、思春期の男の子にはありがちなことよね。好きな子にいじわるしちゃうって」

 えりちゃんだけでは話が進まないと見たチアキさんが折れた話の腰を強制的にまっすぐにする。

「でもでも、それでみつきが機嫌悪くなる意味がわかんない」

 あかりちゃんが首を傾げながらそう言うと、みつきちゃんがテーブルを叩いた。

「あかりって普段空気みたいに存在感無いくせに、なんでそう空気が読めないの!?私が和希を好きだったからに決まってんでしょうが!」

 みつきちゃんもその罵倒はちょっとひどすぎないだろうか

「ええっ!?ちょ…ありえないでしょ。みつき大丈夫?相手は和希だよ?」

 ああ、あかりちゃんはみつきちゃんのほうも本当に気づいてなかったんだ…私と和希の話をした時にそんな気はしていたけど。

「むしろ私はまったくそういうことに気が付かなかったあんたの頭が心配だよ!いい?まとめると、和希が好きだったのはあんたで、私が好きだったのは和希。つまり、私たちは三角関係だったの!半年も!」

「ぜんぜん気付かなかった…」

「んで!私がこの間南アフリカ行ったのは、和希と真白が付き合いだして失恋したから!」

「え!?あれってひなっ…そうなんだ、そういう理由だったんだ」

 あかりちゃんは何かを言いかけて慌てて言葉を飲み込むようにしてぎこちない笑顔でそういった。

…いまあかりちゃんが言いかけた『ひなっ』てなんだろう

「ねえ、あかりちゃん。今何を言いかけたの?」

「え?なんでもないなんでもない。真白ちゃんには関係ない話。それよりみつき、それが本当なら―」

 あかりちゃんはそう言って私と和希を交互に見る。

「―お兄ちゃんにチーム替えとかも打診するけど」

「なんでそうなるのよ。失恋したくらいでチームが嫌だー、転校したいーって、私は子供か!…和希のことはもう整理がついたから大丈夫だよ。真白なら安心して任せられるかなって思っているし」

 やめて!あんまり私に変なプレッシャーをかけないでみつきちゃん!

「じゃあ、みつきはあかりちゃんが和希について何か言ったことが気に食わなくて怒ったと」

 チアキさんがそう確認すると、みつきちゃんは大きくうなずいた。

「うん。だってさ、あかりったら和希はきっと真白のことをキープにしているに違いないとか言うんだよ!酷くない?和希はそんな子じゃないよ!私、ちゃんと和希の告白聞いちゃったんだから…だから…そんなことないもん…」

 そこまで言うと、みつきちゃんは嗚咽混じりになってうつむいてしまった。

 みつきちゃんはよくわかっている。和希はそんな子じゃない。むしろそんな子は私のほうだ。

 そんな関係、私が望んだわけじゃないというのは言い訳にもならないのはわかっている。望むと望まないとにかかわらず、現に私は和希と恋人関係で、しかも和希をキープしている状況なのだ。

「……二人に、というか皆に俺達のことでちゃんと知っておいてもらいたいことがある」

 和希はそう言って言葉を切ると、皆の顔を見回した。

「チアキさんすみません。こんな中学生の恋愛ごっこの話聞きたくないかもしれないですけど、ちゃんと話しておかないと次もその次も揉めると思うんで、ちゃんと話したいと思います」

「…どうぞ」

 チアキさんはそう言って手のひらを差し出して和希に話を促すようなしぐさをした後で、車座から外れてベッドに腰を下ろした。

「和希…」

「大丈夫。真白は悪く無い。ちゃんと話すから大丈夫だ」

「…うん」

 違う。私が一番悪い。私が最初に、いや、和希にバレた時にはっきり断るべきだったのに、断らずにダラダラ関係を続けたのが悪い。

「まず、はじまりは俺とあかりが幼稚園の頃の話だ。俺とあかりは同じ幼稚園で幼なじみで、まあ、おままごとだけど彼氏彼女だった」

「よく覚えてるよね、そんな昔のこと」

「男だったら初カノの事は覚えてるもんだと思うぞ。で、小学校でバラバラになって、去年のクリスマスに再会して、みつきともその時に出会って、こっちの陣営に加わって。実は去年のクリスマスの時点では、俺はみつきのことも好きだったんだよな。正直に言っちゃえばあかりもみつきもって思ってた。なんせ、『強欲の』なんて二つ名がついてたくらいだからさ」

「あはは…タイミングって大事だね…あの時点で私が告ってたら私が彼女だったわけだ」

 みつきちゃんがそう言って顔を上げて涙を拭いながら笑う。

「そうだったかもしれない。で、柚那さんに…まあ、これは…まあ…アレだ

ちょっと色々されて、トラウマというかなんというか。あの人をちょっと嫌いになって」

 一体何をされたんだろう。というか、和希とは結構色んな話をしてきているのに、そんな話初耳だ。

「その後、5月に真白達が転校してきて……えーっと…実は一目惚れなんだよな。ブリーフィングとかで顔は知っていたけど、魔法少女としてじゃなくて、一人の甲斐田真白という女の子として話している真白を初めて見て、それで一発で惚れたんだよ」

「なるほど、おっぱいだな」

 えりちゃんが『閃いた!』とばかりにそう言うが、和希は首を横に振る

「真面目な話をしてる時に変な茶々いれるなよ。前に誰かに言ったと思うけど、別に俺は胸の大小にはこだわりないってば。んで、三人が好きっていう…なんていうか自分でもクズだなあって思うけど、そういう状態になったんだ。で、きっかけがあって夏祭りの夜に真白に告白して今に至るんだけど…実は付き合っているっていうのは嘘なんだ」

「は?」

「どういう…こと?」

「何を言い出すかと思えば…そんなわけ無いだろう。現に和希と真白は付き合っているし、いつも一緒にいるではないか」

「いや…そう思わせているだけなんだ」

「そう思わせている。とは?誰にそう思わせているというのだ?」

 恋愛事に興味津々だからだろうか、えりちゃんが積極的に話にツッコミを入れる。

「柚那さん」

「そこでなんで柚那が出てくるの?」

「真白の好きな人は朱莉さんだから」

 和希の返答を聞いてみつきちゃんとあかりちゃんがポカーンとした顔で私を見た。

「…真白ちゃん頭大丈夫?」

「ごめん…私の頭だと話についていかない」

「……」

 和希の言葉にあかりちゃんはとみつきちゃんは少し取り乱していたが、えりちゃんだけは、納得したように黙ったまま小さくうなずいた。

 そういえば、えりちゃんは私の気持ちを知っていたんだっけ。

「なるほど。真白が朱莉を好きということを柚那に隠すためのカモフラージュが和希と真白が付き合っているという嘘というわけか」

「そういうことだ」

 えりちゃんの言葉に和希は大きく頷いた。

「つまり、今まで俺とみつきとあかりの三角関係だったのが、俺と真白と朱莉さんと柚那さんの四角関係になったと。そういうことだ」

「ちょ、ちょっと待って。だとすると、真白は和希のこと利用しているの?」

 みつきちゃんは、信じられないというような目で私を見る。

 それはそうだろう。私だって、友達がそんなことしていたらそういう目で見ると思う。

「違う。俺が真白を利用しているんだよ。さっき柚那さんが嫌いだって話をしたよな。ただでさえ嫌いだったのに、あの人俺をけしかけて真白に気持ちが向くように仕向けたんだよ。俺達がチームになった時点で俺は誰か一人を好きになるとか誰か一人と付き合おうとかそういう気持ちは封印しようと思ってたのに、柚那さんがとある人物を使って、俺にあることないこと吹き込んで真白に告白するように仕向けて、それで真白は断りきれずに俺と付き合った。それがわかった時に、まあそれでも良いかなとも思ってたんだけど、考えてみれば柚那さんの一人勝ちじゃん?朱莉さんを狙う真白が俺と付き合うことで一番得をするのはあの人だ。だからそれが気に食わない俺は真白と朱莉さんの仲を応援することで柚那さんに嫌がらせをしてやろうって思ったんだ。だから付き合っているっていうカモフラージュもするし、二人でいろいろ話して計画を練ったりもしている。真白の事は好きだけど、今の目的は柚那さんに嫌がらせすること。で、もしも真白が失恋したらその時に改めてもう一回告白しようかなと思ってる」

 和希はそう言って話を締めたが、ところどころ突っ込みどころが残っている。

 例えば和希にあることないこと吹き込んだ人物の話とか、結局和希は本音のところでは誰が一番好きなのかとか。私はどう考えているのかとか。私の印象が悪くならないように事実を元に気を使ってつくり話をしてくれたのだと思うが、作り話でごまかそうとしている今の状態がバレた時、絶対にいい印象は持たれないだろう。

うん、ここはやっぱりちゃんと本当のことを話そう。

「あ、あのね、三人とも―」

「なるほど…」

「柚那ならあり得る…」

「性格悪いものな…」

 ……あれ?

「…あかりちゃん、柚那さんと仲良くなかったっけ?」

「仲は良いと思うけど、でも柚那さんならやりかねないなって。あの人、お兄ちゃんのことになると見境ないから」

「み、みつきちゃんも柚那さんならあり得るって一体…」

「………あの女はそのくらいやるよ」

 そう語るみつきちゃんの目はマジだった。みつきちゃんは柚那さんに一体何をされたんだろう。

「えりちゃんも性格悪いって、そんなに柚那さんと繋がりあった?」

「我は直接被害に合っていないが、聖からは色々聞いている。聖は恋愛事に興味など無いというのに、色々されたらしい。面倒くさいから全部蹴散らしたらしいがな」

 そりゃあ、朱莉さんより強い人なら柚那さんが何かしようとしたところで焼け石に水だろうけど。

「真白ちゃん、和希。柚那さんとの関係があるから私は二人のやろうとしていることを表立っては応援できないけど、心の奥で応援するよ!」

「あ、あかりちゃん?」

「というか、思い出したら腹立ってきたから私にできることがあったら何でも言って」

「えっと…いいの?みつきちゃん」

「真白と和希がちゃんと付き合ってないんなら私にもまだチャンスあるもん。むしろ真白がお兄ちゃんとうまくいったほうが私のチャンスは広がるし……あの女の鼻もあかせるしね」

 そう言ってみつきちゃんは普段あまり見せないやさぐれた表情でフッと笑った。…本当にみつきちゃんと柚那さんの間にいったい何があったのだろうか。

「我は話が面白い方向に転がればよいから二人の関係に文句はないし、手伝うことも吝かではないぞ」

 そう言って、いつものように「くーっくっく」と笑うえりちゃんだけは、きっと正しい状況を掴んでいるのだと思うが、多分彼女の言うとおり、彼女にとって面白い方向に話が転がっている限りは、協力してくれる気がする。

「さすがに私がでしゃばる話じゃないと思うから私は協力しないけど、まあ好きにやりなさい。色々やってみるのもいい人生勉強よ」

 どうやらチアキさんも黙認の構えのようで、嘘みたいな話だが和希はみんなをうまく丸め込んでしまったようだ。

「ふむ。これでまた1つチームの結束が固まったな。うんうん、良い傾向だ」

 えりちゃんはそういって満足そうに笑いながら両隣に座っていたあかりちゃんとみつきちゃんの肩を抱き寄せる。

「さあ、仲直りだ。二人がギスギスしていると、学校で我も真白も静佳も和希も落ち着かん」

「…その、ごめんみつき。和希のこと好きだって知ってたらあんなこと冗談でも言わなかったんだけど…違うか。和希もごめん、ちょっとタチが悪い冗談だった。真白ちゃんもえりも気を使わせちゃってごめん。チアキさんも心配かけてすみませんでした」

 えりちゃんに促されたあかりちゃんは、そう言って皆の顔を見回してからペコリと頭を下げた。

「私もイライラしちゃってごめん。みんなも、気を使わせてごめんね」

 みつきちゃんも、あかりちゃんに倣ってそう言って頭を下げた。

「うむ。これにて一件落着。この後はお疲れ様会にしようではないか」

 大きな口をあけてはっはっはと笑いながらえりちゃんが立ち上がって場を締めようとした時だった。

「その前にもう一つ反省することが残っているわよね」

 チアキさんが低く鋭い声でそう言いながらえりちゃんの肩に手をおいた。

「ひゃい……しろのしんそたすけてぇ…」

えりちゃんは涙目で私に助けを求めてくるが、この件は完全にえりちゃんの自業自得だと思うので、助け舟は出せない。というか、出しようがない。

 彼女の試合は、精華さんと二人で実態のない厨二っぽい必殺技の名前と説明を言い合っているうちに日が暮れて、本来無いはずの判定での引き分けになり、結果チーム自体も引き分け。

 結局本番までに即死魔法意外を全然用意できなかった精華さん相手なら、十中八九勝点2がもらえたはずのところを、ハッタリに引っかかって仲良く1点ずつなんていう結果を招いてしまったのだから、そりゃあチアキさんも怒るだろう。




 結局、えりちゃんだけではなく、私達も巻き込んだチアキさんのお説教はその後1時間ほど続いた。


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