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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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朱莉チームVS狂華チーム 4

「で、結局運転させられているんだけどさ、そろそろ代わってくんない?」

 いや、折檻された時の傷は二人の魔法によってもう綺麗に治っているので別にいいのだけど、折檻された上に結局運転までさせられるんじゃちょっと割に合わない。

「は?」

「なんでもないです」

 どっちでもいいからちょっと交代してくれないかなという俺のささやかな願いは助手席でふんぞり返っている柚那の一言で儚く消えた。

「あ、もしかして疲れたんですか?だったらこれ食べます?」

 恋がそう言って後部座席から身を乗り出して巾着袋を差し出してくれた。

「回復飴か…確かに疲れは取れるんだけど、無味無臭なんだよなあ…」

 味をつけてくれって言うようなものではないし、そもそも戦闘中に飴の味なんて味わっている余裕はないので別にそれ自体には不満はないのだが、ドライブ中の気分転換、リフレッシュのために回復飴というのは文字通り味気ない。

「これは新作なんで味付きですよ」

 恋はそう言って上機嫌で笑うが、こういう時の恋は大体なにか裏がある。

「大丈夫大丈夫。別に変なものじゃないですから。大体、今ハンドルを握っている朱莉さんに何かしたら大惨事になっちゃうじゃないですか」

「柚那の機嫌が直って饒舌なのが超絶怪しい。俺は絶対にその飴は食べないからな」

 魔力だけで生成したいつものものが無味無臭。そして、この飴がそうではないというのであれば普段とは違う何かを混ぜ込んであることは確実。

 これが恋の作った料理やらお菓子ならまだいい。柚那の作ったものでもふつうのものならいいさ。だが、万が一以前柚那が俺のためにという名目でつくったにんにくクッキー(柚那曰くジンジャークッキーがあるから美味しいと思ったらしいし、実際チアキさんが前に作ってくれたチーズと合わせたクッキーは美味しかったのだが、柚那が作ったのはしょっぱいどころかものすごく甘く、しかもこれでもかとばかりに、にんにくのすりおろしを混ぜ込んで、さらにはスライスした生にんにくをトッピングした、それはもう酷いものだった)味だったりした場合、俺は一瞬で気が動転するか気を失うかする自信がある。

「それに、飴じゃないんです。効果も疲労回復、魔力増強、精力増強と三種類」

 そう言って恋が巾着の口を開くと、中には真ん中にジャムが乗った美味しそうなクッキーが入っていた。

 っていうか、よりによってクッキー!?もうこれ完全に死亡フラグじゃねえか!

「に…にんにくとか入ってないよね?」

「え?」

「いや……その…」

 流石にはっきり言いづらかったので、なんとなく柚那の方に視線を向けると、柚那が両手で顔を覆って、ワッと泣き出した。

「酷い朱莉さん!あの時のことはもう気にしてないよって言っていたのに!」

 …激しく嘘泣きくさい。

「あ!なーかした、なーかした。都さんに言ってやろー」

「お前は子供か!」

「まあまあ。柚那を泣かせたバツということでお一つ」

 俺のツッコミに悪びれる様子もなく、恋はそう言って俺の身を乗り出してクッキーを近づける。

「……何味?」

 ズイッと顔のそばに差し出されたクッキーからは甘い匂いが漂ってきている。多分匂いからするとレモンっぽい感じの味だと思う。少なくともにんにくの線は消えたが、まだ油断はできない。

「さて、私達も初めて作ったので何味になっているかはちょっとわからないです」

「えっと、どゆこと?」

 味見無しの新作お菓子とか激しく地雷の匂いしかしない。

「新しい製法で作ったんですよ。でもこのクッキーのおかげで私と柚那は勝てたんです」

 つまり、今までの回復飴とは違ってちょっと能力が上る感じのクッキーということか。

「じゃあ…1つだけ」

「はい。じゃあ、あーん」

「あーん」

「……う、うまい!なんだこの、極上の女体に触れた時のような舌触りは!そしてこのほのかな酸味の奥に隠れた芳醇な甘さとかすかな塩気は一体なんなんだ。これは一体何味なんだ?」

 甘すぎずしょっぱすぎず匂いが強すぎず、ましてや焦げ付いていたりなどしない。口に入れた瞬間ホロホロと崩れていき、崩れたそばから唾液と混ざって極上のクリームの様に喉に流れ込んでいく。今まで食べたどんなクッキーよりもうまいのは間違いないのだが、何味というのが全く形容できない味だ。

「うまいじゃないか。確かにこの味は何味って一言で言えないけど、すごいうまいよ!」

「ああ、美味しいですか。よかったよかった。何分初めてだったのでちょっと心配だったのですが」

「……え?二人はこのクッキーのおかげで勝てたんだよな?だったら美味しいってことはわかってたんじゃないのか?」

「いえ。私たちは食べていませんよ。味もわかりませんでしたし、まあ一応ろ過したので流石に毒があるということはないと思いましたけど」

「ちょっとまて。これ何のクッキーだ?何が入ってるんだ?」

「柚那の植物操作の拘束魔法と私の回復魔法をリバースで組み合わせて限界まで絞りとったユウさんの魔力ですよ…あら、本当に美味しい」

「ちょっとした人肉クッキーじゃねえかーーーーーーーーー!」

 やばいよ!このクッキーすげえうまいけど!この味は中毒性があるけど!倫理的にどうなのそれ。

あと植物の蔦で拘束されて丹念に絞り出したユウ味とか、その現場を想像するとちょっとエロい!っていうか、なんなの二人のその発想は。魔法少女をプラントっていうか苗床にしてクッキー作るとかどこのマッドサイエンティストなの君たちは。

 駄目だ駄目だ。こんなのうまいって思っちゃだめだ。ここは俺が年長者としてしっかり二人に倫理観を叩きこまないと――

「あ、こっちに佳純味もありますよ」

「いただきます」

 …おいしいクッキーにはかなわなかったよ。

 ちなみに佳純ちゃん味はユウ味よりもちょっと甘酸っぱかった。これが若さだろうか。




ユウ&佳純ちゃんVS柚那&恋という、下馬評は完全にユウ側有利と思われていた試合の概要はこうだ。

開始直後、ユウはやる気なし。どうせ一人でも勝てるしという体でまずは佳純ちゃんをけしかけてきたそうな。

その佳純ちゃんを恋が迎撃。その間に柚那は警戒して距離を取って様子を見ているふりをしながらユウの周りに種子を埋め込み、その後一気に成長させて手足を拘束。

もちろんユウもそのまま黙ってやられるようなことはなく、手を触手に変化させたが、それが逆によろしくなかった。

柚那は某アクションゲームの人喰い花のような二人の合成使い魔(そんなもの俺は使い魔とは認めないが)を呼び出してユウの上半身をパックン。

マミったユウが脱出しようと魔法を使って暴れれば暴れるほど魔力は使い魔に吸われ、やがて魔力が尽きたユウは変身解除され気絶。

使い魔の実の中からは美味しいクッキーが出てきましたとさ、めでたしめでたし。

ちなみにもっと悲惨なのは佳純ちゃんで、ユウがやられた時点でギブアップしようとしたものの、恋にそれを邪魔され、二人がかりで使い魔の口の中に放り込まれたらしい。

「酷え…」

「真剣勝負に酷いも卑怯もないんですよ。まあ、パックンちゃんがいる限り私達の負けはありませんよ」

 柚那はまずそのギリギリアウトな感じのネーミングをやめろ。

「いいではないですか、これから先も一勝は固いんですから。四人で二つ勝ってくれれば良いのですよ」

 恋も完全に調子に乗っちゃっているな。

「なあ恋。今日はたまたま勝てたけど、あんまり調子に乗っていると足をすくわれるぞ」

「すくわれた人に言われたくないという気もしますけど、別に増長しているわけではないですから大丈夫ですよ。私たちは着実にパックンクッキーを決めていくだけです」

 なんか配管工の次回作に出そうな名前だなそれ。

「ならいいけどさ。火を使うような魔法少女には気をつけろよ」

「そんな魔法少女いましたっけ?」

「いるんだよ。最近はあんまりそういうイメージ無いけどな」

「ああ、ひなたさん。カード使いはじめる前は確かひなたさんが火の魔法を使ってましたね」

 恋の言うとおり、ひなたさんは火の魔法を得意としていて、ひなたさんはカードの魔法なんてまどろっこしい物を使わなくても十分に…というか、ものすごく強い。

 ただ、やりすぎちゃって怒られたり、後々の疲労感が半端ないとかで、前々からあまりやりたがらないだけなのだ。

 ちなみに、突き詰めると魔法の系統というのは水火土風の4つになる。最初の世代の得意魔法を例に取ってみると命を司る水の力でスレンダーマンを作り出す狂華さん。火炎放射器のように炎を撒き散らすひなたさん。チアキさんのカトラリーは金属を生み出す土の力。空間を捻じ曲げるから風っていう精華さんはちょっと強引な気がするがそんな感じだ。他のみんなも柚那なんかは土系統だし、恋は水系統。ネギネギしてて土かなと思いがちな深谷さんの得意魔法は実は火だったりする。狂華さんにきいてみたところ朝陽の雷は風と火のハイブリッド、一応火のほうが強いらしい。ちなみに愛純は風。これは精華さんと似たような感じで空間を捻じ曲げてテレポートするからということらしい。

 もちろんこの得意な系統以外が使えないというわけではないが、やりやすい、使いやすいのはそれぞれの特性にあった魔法らしい。

「あのひなたさんがダブルスに出るとは思えませんから大丈夫じゃないですか」

「だといいけどな…」

「まあ、私達が負けてもその分朱莉達がちゃんと勝ってくれればいいんですから大丈夫ですよ」

「…悪かったよ、二人は勝ちを狙わなくていいとか言って」

「わかればいいんですよ」

「そうそう。チーム戦なんですから勝手に戦力外になんてしないでください」

「ああ。頼りにしているよ」

「よしよし。じゃあこれはご褒美ですよ。はいあーん」

「あ、恋ずるい、私も朱莉さんにあーんする」

 そんな感じで帰りの車中食べ続けたクッキーは寮に帰る頃にはすっかりなくなっていた。



 ――後日。

「……なによ、人の顔ジロジロ見て」

「いや、なんでもない」

 たまたま打ち合わせでユウに会った時、口の中にクッキーの味が蘇ってちょっとお腹が鳴ったのは秘密だ。


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