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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔法少女狩り 7

「いよいよお仕事の時間がきちゃったわけね。楽しい時間はあっという間に過ぎるって本当よね」


 本国に電話をかけると言って、寮の駐車場に停めた車から下りて、少し離れたところで電話をしていたジェーンが車の中に戻ってきてそう言った。


「今日までいろいろ面倒かけてごめんね、二人とも」

「正直まったく役に立つ気がしないけど、一応頼りにしているから、もしもの時にはよろしく頼むぜ。まあ、あの2人が相手ならジェーンの力を借りるまでもないかもしれないけど」


 実際、寿ちゃんとこまちちゃん相手ならそれこそ1対1だったとしても負ける要素はほとんどないが、もしかしたら援軍があるかもしれない。そうなった時こそジェーンの出番だろう。


「え?2人?私は1人だと思ってたんだけど。ひなたは2人だって言っていた?」

「いや、はっきりそうだとは言われてないけど、前の会議で否定されたようにイズモちゃんが違うならそういうことになるんじゃないか?」

「うーん…」

「どうしたんだ、ジェーン」

「いや、間違った報告しちゃったかもしれないなと思って」


 ジェーンも独自に調べていて俺たちが容疑者確保に動き出したため、想定していた容疑者を本国に伝えたものの、ジェーンの考えていた容疑者は別の人間だった。そんなとこだろうか。


「ちなみにジェーンの考えでは誰が裏切り者なんだ?」

「精華」

「…え?」

「精華よ」


 何を言っているんだ、こいつ。


「そんなことあるはずないだろ。今回の捜査だって、ジェーン同様役に立ったとは言えないけど、一緒にしてきたし、なによりあの人はファースト世代で、俺たちの中でも一番の古株の一人なんだぞ。そんな人がなんで裏切ったりするんだよ!最初からそのつもりでずっと潜伏してたってのかよ?そんなの、あり得ねえだろ。大体、魔法少女狩りが現れたのはここ一年くらいのことだって聞いたぞ」

「うーん……その情報も微妙に間違っているけど。まあ、本当の理由や動機なんて本人にしかわからないんじゃない?ただ、最初はそんな目的がなくても、例えば魔法少女狩りに対する狂信的な感情だとか、そういうものが芽生えたりすると人って、簡単に自分の居場所を売り渡したり捨て去ったりできるのよ」


 狂信的な感情か…魔法少女狩りに対する狂信的な感情とは違うけかもしれないけど、確かに現在進行形で中二病なあの人なら『ここで裏切る私かっこいい!』とか考えそうではある。


「いやいや、さすがにそれは…」


 『あの人に限ってない』と精華さんに限っては言い切れないのが悲しい。


「そもそも、朱莉は誰を疑っているの?」

「東北のこまちちゃんと寿ちゃん」

「根拠は?」

「こそこそとなにかを調べまわっている素振りがあったし、そもそも俺たちが調べ始めてから行方不明だし」

「それって、精華のことを探っていたとは考えられない?」

「あ…」


 そう考えると二人の行方不明も独自の捜査を行っている最中に、様子を見にやってきた精華さんに何かをされた可能性がある。

 例えば、精華さんに消された。なんていうことも。


「ほかには?」

「いや…ほかに容疑者がいなかったからてっきり俺はその二人だと思っていたんだけで、確かに根拠らしい根拠はないな」

「ひなたはなんて言ってたの?」

「柚那とジェーンと3人で待ってろって」


 あれ?3人?今日精華さんが寮にいることはひなたさんだって知っているはずで、これから俺たちを拾ってどこかへ移動するのなら精華さんを頭数に入れないのはおかしい。

俺が気がついたことを察したジェーンはニィっといやな笑みを浮かべる。


「と、いうことよ」


 じゃあ、もしかしてこんな寮から丸見えの駐車場に車を停めるのはまずいんじゃ…


「朱莉さん…」


 恐怖に直面したような、震える声で柚那が俺の名を呼ぶ。

 この状況で、柚那が震えた声を出すということは、そういうことなのだろう。

 俺がゆっくりと振り返ると、ちょうど精華さんがコンコンと小さな音をたてて運転席のガラスを叩いたところだった。

 普段通りの精華さんの表情のはずだが、ジェーンの話を聞いたせいか、やや無表情気味の精華さんの顔が無慈悲で冷徹な人間のそれに見える。


「…なんでしょう」


 俺は何事もないかのような顔をして、エンジンをかけ、パワーウインドウを開けて応じる。


「駐車場に停めたままいつまでも車から降りてこないからどうしたのかと思って。荷物が多くて大変なら手伝うけど」

「いや、そんな。精華さんの手を煩わせるほどのこともありませんよ」


 焦るな。

まだ精華さんには俺たちが気付いているということはバレていないはずだ。


「水臭いこと言わないでよ。仲間でしょ、私たち」


 普段絶対口にしないようなことを口にしながら精華さんが笑う。

 心なしか、俺にはその笑顔が黒いものに見えた。

 いや、実際彼女の唇の色は黒くつややかなものに変わり、先ほどまで普段着だった服も黒を基調としたゴスロリ風の衣装に変わっていた。


「精華さん…いったいどうしたんです?変身なんかして」


 どうしたもこうしたもない。精華さんはやる気満々という事なのだろう。


「明日の撮影に備えてブラックの衣装を考えてみたのよ。どうかしら」


 口ではそんなことを言っているが、精華さんからはビンビンに殺気が伝わってくる。

 できればひなたさんの到着を待ちたかったが仕方がないだろう。俺はスゥっと大きく息を吸い込んだ。


「二人とも飛び出せっ!」


 大声でそう叫ぶと同時にドアを力いっぱい開いて精華さんを突き飛ばし駐車場へと転がり出た俺は、回転の反動を利用して起き上がり、精華さんから距離を取って対峙した。


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