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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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朱莉チームVS狂華チーム 3 

 ネギの葉が巻き付いた部分でチクリと痛みを感じた俺は、急いでネギの葉を切断して九条ちゃんと距離を取る。

 十分な距離を取って彼女のネギが届きそうにないのを確認してから痛みのあったあたりを確認すると、足に小さな穴状の傷がついていて、そこから少し血が流れていた。

「不意打ちは卑怯だとおもうぜ」

 ついさっきも言ったことだが、俺は挑発を兼ねてもう一度そう非難する。

「大きいお友達が多いっては言っても、一応子供向けっていう体なんだから、魔法少女がそういうことやっちゃダメだろ」

 楓さんあたりがいたら搦手ばかりでまともに戦わない俺のほうが魔法少女らしくないとか言われそうだけど、とりあえず今ここにそんな無粋なツッコミをする人はいないのでOKだ。

「………」

 一応挑発のつもりだったのだが、九条ちゃんは意に介した様子もなく、無言でニヤニヤ笑いながらこっちを見ている。

 …これは、教育的指導が必要かな。

それに、この試合は組み合わせよくレギュラークラスではなくご当地の九条ちゃん相手とはいえ、一応初戦。ここは景気づけも兼ねていっちょ派手に決めよう。

「悪いけど、あっという間に決めさせてもらうよ。俺と当たったのが九条ちゃんの不幸だ」

 残り5試合。最終的には上位3チームで野球のポストシーズンのような順位決定戦をするので、勝ち抜けば7試合。全部勝つという意気込みを込めて、俺はステッキの先に魔力を集中する。

「とっておきの技を見せてやるよ。俺の新必殺技!超絶螺旋ギガドリルブレイク!」

 俺はそう言って更に集中して力を込め、先端に集まった魔力をドリル状に成形していく。もちろん彼女の身体が吹っ飛んでしまったり、万が一のことがない位の威力には軽減しているが、それでも自分でも少し怖くなるくらいのプレシャーがドリル部分からビリビリと伝わってくる。

「降参するなら今のうちだぜ、九条ちゃん」

 一応俺は降参を勧めるが、彼女は『そんなもの効かない』とばかりにニヤニヤと笑ながらかかってこいとばかりに手平を上に向け、指だけで手招きをする。

「そうかよ、死にゃあしないと思うけど。素っ裸になるくらいは覚悟しろよな!」

 ステッキが折れたくらいなら別に裸にはなったりはしないけど、粉々になるほどだと服を形成しているナノマシンがもたないことがある。そしてそれほどのダメージを受けた場合、もともと着ていた布の服なんてもつわけがない。

「はあぁっ!」

 俺は気合を入れて、箒を構えて九条ちゃんに突っ込んでいき、九条ちゃんは九条ちゃんでそれを自分のステッキで受け止めようと構えるが、彼女のステッキはドリル自体が触れるまでもなく、その周りのエネルギー波を受けただけで砕け散り吹き飛んだ。

 それを確認したところで俺はドリルの軌道を力任せに逸らして床に突き刺す。

「っ……!」

 軌道を逸らしたことで直撃こそしなかったものの、九条ちゃんは彼女のステッキ同様、エネルギー波だけでその場から吹き飛ばされ、変身解除された上に予想通り素っ裸になってそのまま派手に体育館の壁にたたきつけられた。

「悪いね、九条ちゃん。大事な初戦を落とすわけにはいかなかったんだ」

 追い打ちの必要はないとわかっていたが、魔法少女随一の紳士である俺としては、素っ裸の九条ちゃんをそのままにしておくというのも気が引けたので、魔法で毛布を出して彼女の身体にかけ、お姫様抱っこで抱え上げる。

 そして―――

『勝者、邑田朱莉!』

 スピーカーから決着を告げる声が流れた。
















……という、夢を見たんだ。




試合終了後、九条ちゃんの魔法による睡眠状態から目を覚ました俺は、服を着る間も与えられず、全裸で控室となっている教室の床に正座させられていた。

 なんと俺の試合時間はたったの15秒。最初の九条ちゃんの攻撃によって眠らされた直後、ステッキを破壊され、しかもそのステッキに対する九条ちゃんの攻撃が勢い余って、もともと着ていた服も破損。素っ裸で大口開けて寝ている間に俺の負けが確定したらしい。

「なんというか…すまん」

 チーム全体の勝敗は3対2。俺が勝っていればチームも勝てていただけに悔やんでも悔やみきれない。

というか、ユウ相手に勝利するという大金星を上げた柚那と恋からすればふざけんなという気持ちなのだろう。二人は先程から一言も発しないで椅子に座ってこちらを黙って見下ろしていた。

 ちなみに朝陽と深谷さんも負けはしたものの、二人共善戦したので俺ほどの酷い扱いは受けていない。あと、もう一つの白星を上げた愛純はデートの約束があるとかで、俺が目を覚ました後2、3嫌味を言ってさっさと帰った。なんて姉妹がいのない奴なんだろう。

「…それで、なんでしたっけ?柚那と恋は試合の後の回復に専念してほしいから勝ちを狙っていかなくていいでしたっけ?」

「あと『ふたりで1つの黒星ならそんなに痛くないからダブルスな』とかっても言っていましたね」

 そうして二人揃って大きなため息をついた後、これまた二人揃って肩をすくめて俺を小馬鹿にしたような笑顔で笑って見せる。

「ごめんなさい、狙っていかなくても勝てちゃいました」

「すみませんね、朱莉リーダーの思惑と違って、うっかり白星取っちゃって」

 二人はそう言って、顔を見合わせてから「ねーっ」っと笑った後、真顔に戻って俺を見る。

「あの…ほんとすみませんでした」

 そう言って俺は本日5度めの土下座をする。

「いえいえ、謝らないでください。朱莉さんのいうことを聞かずに変に頑張って接戦にしちゃった私達も悪いんですから」

「そうそう。全勝はできないまでも、初戦勝利の手助けになればと思って少しがんばった結果、かえって朱莉リーダーの顔に泥を塗ることになってしまって申し訳ありません」

なにこの丁寧に編みこまれた針の筵。

 …いや、思い起こしてみればこういう状況は別に初めてではない。研修中の柚那はなんだかんだでずっとこんな感じの見た目ソフトでツンケンした状態がデフォルトだったし、恋も怒らせるとなんだかんだで柚那と同じようにツンケンした態度で俺を攻撃してきていた。

 そして、その度にギスギスする俺たちを「まあまあ」と宥めて間を取り持ってくれた人もいた。というかこの場にいるではないか!

(深谷さんっ…!)

 俺はSOSの想いを込めて懇願するような視線を深谷さんに向ける。

 しかし深谷さんはこっちを見ていない!

「あれ?朱莉さん、人が話をしているのに何をよそ見しているんですか?」

「よそ見しているとまた眠らされて身ぐるみ剥がされちゃうんじゃないですか?」

 怒りに油を注いでしまったぁぁっ!

 できれば気づいてくれるまで深谷さんを見ていたいところだが、そんなことをしたら言葉攻めだけじゃなくなにか物理的な責めまで食らいそうなので、とりあえず中断して視線を床に戻す。

 大丈夫。タイミングだ。深谷さんの気配を伺え。空気の振動で彼女がどっちを向いているかを感じ取るんだ、邑田朱莉。

 頼りになる深谷ネキとタイミングを合わせてこの場を乗り切るんだ。

「だいたい朱莉さんは、くどくどくどくど……」

「本当に、あのころから朱莉はくどくどくどくど……」

 ああ、もう。今すぐ耳を塞ぎたい。

「あの…柚那さん」

 朝陽!そうだ、やればできる子の朝陽がいたじゃないか。頼む、二人の怒りをなだめてくれ。

「私そろそろ行きたいのですけど」

 なんですとぉ!?

「ああ、そうだったね。一人で大丈夫?」

「はい」

「いや、大丈夫じゃないだろ。朝陽は俺の車に乗ってきたんだから」

 実際には俺の車というか、俺の運転する恋のRVなのだが細かいことはまあいい。なんといってもここはかなりの山奥なのだ。どこに行くのか知らないが、女の子が一人でふらりと徒歩で出て行くようなところじゃない。

「なんで顔を上げているんですか?」

「ごめんなさいっ」

 ……柚那さん、せっかくかわいいんだからそういう顔しちゃダメだと思うの。

「では、お先に失礼します。本日は試合に勝てずに申し訳ありませんでした」

「いえ、狂華さん相手によく頑張ったと思いますよ」

「そうだよ。私だって全然歯がたたないと思うし、相手が悪すぎたんだよ」

 差!何この差!

「じゃあお疲れ様ー。また次のミーティングでー」

 そう言って朝陽と一緒に深谷さんが出ていこうとする。

「ちょっと待てぇ!なんであんたまで帰ろうとしてるんだよ!」

「え?いや、霧香と約束してるし。皆と違って私たちは明日からまた学校に行かなきゃいけないからさ」

「そうじゃなくて!二人をなだめてよ!助けてよ!昔は助けてくれたじゃん!」

「えー…でも私今日は霧香に負けちゃったからあんまり強く言えないしなあ…」

「夏樹ちゃんは頑張ったと思うよ。あれは場所が悪かった」

「そうそう。液体の操作が得意な彼女を相手によく戦ったと思いますよ」

「そ、そうかな?あはは…負けちゃったのにそんなこと言われると照れるなあ」

 確かに、液体を霧化してその霧の中に紛れることができる彼女相手にプールというフィールドは不利だったろう。そして、そんな不利な中でも深谷さんは10分もの間戦っていたらしいので、確かに大健闘だといえると思う。

「というか、誰かになだめてほしいとか一体どれだけ他力本願なんですか」

「ああ、もしかしてその他力本願で全試合勝てたら良いなとか思っているのですか?」

「怖い怖い怖い、二人共顔超怖い!そんな鬼みたいな顔で――」

 …言ってからまずいと気がついたが、時すでに遅し。

 二人の般若の後ろで深谷さんは「アチャー…」という顔をしているし、朝陽の顔は引きつるというか引きつけを起こしているような感じになっている。

「朱莉さん」

「朱莉」

「はい…」

「帰りの運転は」

「しなくて結構です」

 この後、滅茶苦茶折檻された。


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