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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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つきは東に陽は西に 11

「なんでどいつもこいつも仲間増やして帰ってきてんのよ!条約にない戦力をポコポコ増やすなっつってんでしょうが!しかも出自!どうすんのよこんな爆弾みたいな子達を抱え込んで!国家公安委員長に怒られるでしょうが」

 夏樹と真帆を代理として南アフリカに置いて帰ってきたひなたとこまち、それにセナは検査と治療の後、都の執務室に呼び出され、おかんむりの都の怒鳴り声をすこしバツが悪そうに頭をかいたり、テヘペロっと舌を出して頭をコツンと叩いたり、申し訳無さそうにうつむいたりしながら聞いていた。

「ああ、もう…胃が痛い…なんなん?ほんと自分らなんなん?」

「…すまん。迷惑をかけるがなんとか頼む」

「何企んでるの?妙に素直なひなたとか、正直気持ち悪いんだけど」

「いや。その…一美の件は完全に俺のわがままだからな。本当にすまん」

 都は遠慮なくひなたに訝しげな視線を向けるが、ひなたは言い返すことも言い訳もせずにそう謝って頭を下げた。

「……ひなたも人の親だったってことか」

 あの夜、なにがあり、一美を引き入れたのが誰かということを報告書である程度把握していた都がフッと笑ってそう言うが、対するひなたの表情は暗い。

「まあ…親かどうかわからないけどな」

 五年後のみつきはひなたのことを父親と呼んだが、それと同時に一美のことを姉と呼んだ。ひなたはこのことについて、ずっと引っかかっていた。

「いや、間違いなく親でしょ。何言ってんの?」

「なあ、都……親ってなんだろう」

「それ、アラフォーのおっさんが20代女子に聞くわけ?」

「だって…」

「一瞬でも見なおした私が馬鹿だった」

 歯切れの悪いひなたを見て、都が大きくため息をついてこまちとセナに視線を向ける。

「あんたたちも言いたいことがあったら言っていいわよ」

「クズ」

「えっと…ヘタレ」

「子供がいないお前らにはわからないかもしれないけど不安なんっ…!?」

 そんな泣き言を言ったひなたの頬を、都が右手で掴んで、刀のような視線で睨みつける。

「その不安、みつきが今まで感じてこなかったと思ってるの?」

「………」

「あんたはまだいいわよ。ウジウジ悩む対象がはっきりしているから。でもみつきはその対象すらはっきりしてなかったのよ。生きているのか死んでいるのか誰も教えてくれないしどういう経緯で根津家の養女になったのかもわからない、そんな中であの子が全く悩まなかったとでも思ってるの?」

「…みつきのことはちゃんと娘だと思ってるよ。というか、俺と陽奈の娘だ。でもみつきがもしも…」

「だーかーらー!あんたは初な男子小学生か!初恋が破れるのが怖くてしょうがない男子中学生か!みつきがあんたを拒絶するかもしれないって、そんなの普通の家庭だってある話だ!っていうか、あんた自分で『陽奈の娘は俺の娘だ』とかって小金沢に啖呵切っておきながら、今更血のつながりがどうのこうのって悩んでるってどんだけ腐ってんのよ!私は100%血なんかつながってないけどみつきのことは妹だと思ってるわよ!?」

「俺だって娘だと思って……いや、違う。娘だ。みつきは俺の娘だ。すまん都。俺、ちょっとおかしくなってたわ」

「よしよし、よく言い切った。じゃあこれあげるから」

 そう言って都は机の引き出しから一通の封筒を取り出した。

「なんだこれ」

「あんたとみつきのDNA鑑定書」

 あっけらかんと言い放つ都に対して、ひなたはあんぐりと口を開ける

「……はい?」

「みつきは出生の状況が状況だったからね。悪いとは思ったけど調べたのよ。トップクラスの魔法少女になりそうな子がテロリストの娘でした。なんていうオチがついたら私のクビが飛ぶから。まあ、その苦労も誰かさん達が連れ帰った新しい魔法少女のせいで台無しだけど」

「じゃあ…」

「4年前から二人の血が繋がっているって知ってた」

「お……おまえなぁ…言えよ!なんで言ってくれないんだよ!」

「あんたが父親だなんて知ったらみつきが世をはかなんでグレかねないと思ったから言わなかったのよ!女癖悪いし、ケチだし、こんなのが瞼の父だってわかったら私だったらあんたを殺して自分も死ぬわ!」

「ぐ…」

「はい、ひなたさんの敗け」

「ですね」

「お前らは黙ってろ!…えっと…その…あれだ…都!」

「あん?反論があるなら言いなさいよ」

「……ありがとう」

「え……?」

「あのひなたさんが…?」

「お礼を言った…?」

 ひなたの言動に驚きを隠し切れない三人の様子に苦笑いしながら、ひなたが再び口を開く。

「いや、多分こうやって勝手にやってもらわなかったら、結局グダグダして先送りにしていたと思う。本当にありがとうな、都。じゃあ俺はこれからみつきのところに…」

 そう言いながら踵を返して部屋を出ていこうとしたひなたの襟首を都がむんずと掴んだ。

「ちょっと待ちな!」

「ぐえっ…何だよ」

「まさかあんた、みつきに打ち明けるつもり?」

「何言ってんだよ。そのために教えてくれたんだろ?」

「はあ……こまち、セナ。あんたたちがみつきだったらどう?いきなりひなたが『お前のお父さんだよー』なんて言ってやってきて、しかも動かぬ証拠があったりしたら」

「また家出するね」

「えっと、その……多分グレます」

 こまちは即答、セナはやや置いてからだったが、二人共ひなたを拒絶する旨を口にした。

「なんでや!」

「あんたの日頃の行いのせいよ。まあ、とにかくもう少し待ちなさいって。みつきがもうちょっと大人になるか、もしくはひなたの好感度がみつきの中でもう少し上がるくらいまではね」

「………」

「家出して行方不明になられたり、グレたりするよりマシでしょ」

「……まあ、それは確かにな。じゃあ、大人みつきのほうはOKか?これから会う約束なんだけど。というか、あいつは俺のこと一回親だって言ったから、多分このことを知っていると思うんだ。だからいつ聞いたかとかその時どうだったかとか、そういう話を聞きたい」

「まあ、それなら別にいいんじゃない」

「よし!じゃあちょっと行ってくる!」

 ひなたはそう言って都の手を振りほどくと、喜々として部屋を出て行った。

「さてと…こまち」

 ひなた出て行った後で都は少し真剣な表情でこまちのほうに向き直る。

「例の脱走した研究者の件かな?」

「そう。朱莉は男性型異星人の対応で手一杯だから、あんたに調査をお願いしたいんだけど」

「助手にセナ使っていい?というか、できれば東北チーム全体で当たりたい。プランとしてはとりあえず国内で失踪した後の足取りを探って、必要なら海外に調査に行くって感じで」

「まあ、ひなたの話を信じるなら、今の恵は魔法の無効化なんて面倒な魔法だか技術を持っているみいだし、確かに人数も必要よね。でも彩夏は今朱莉につけているし、寿も東北チームの仕事があるでしょ」

「じゃあ、私とセナ、それと真帆ちゃんと桃花ちゃん。あとは花鳥と風月」

「…おいおい」

 花鳥と風月の名前が出たところで、都は一瞬眉をしかめたが。すぐに諦めたように小さいため息をつく。

「まあ、こまちならうまくやるか…花鳥と風月については半月待って。流石になんの調整もなしにあの子たちを使うわけにはいかないから」

「さっすが都ちゃん。話がわかるぅ。それと、用心棒として楓さんと…」

「いや、とりあえず六人でやって。流石に楓まで取られたら色々まずいのよ。朱莉がカバーしきれてない男性型異星人もいるし、JCが遭遇して未だに捕まえられていない謎の鎧男もいるしね」

「ああ、この間のあれか…ちょっと人手が足りない感はあるけどそういう事情じゃしょうがないか。んじゃ、とりあえず四人を呼ぶから少し作戦会議しようか」

 こまちはそう言ってポケットから取りだしたスマートフォンのストラップに指をかけるとクルクル回しながら笑った。



 ひなたが待ち合わせの場所に到着すると、すでに大人バージョンのみつきがベンチに座って空を見上げ、脚をブラブラさせて所在なさ気にしていた。

「……よお」

 本当であれば駆け寄って抱きしめたいくらいの心境だったが、ひなたはその気持を抑えて、あえてそっけない風を装って声をかけた。

「ああ、マジで来たんだ…」

 ひなたに声をかけられたみつきは、やや面倒くさそうにそう言って立ち上がると、ひなたの手を引いて歩き出した。

「ちょっと歩こうか。見つめ合って話すとかってお互いガラじゃないでしょ」

「お、おう」

 司令部こと学園の裏庭に作られた、小川の流れるちょっとしたバラ園の中をしばらく歩いた後、先に口を開いたのはみつきだった。

「正直ショックだったよ」

 みつきはあえて何がとは言わないが、ひなたも馬鹿ではない。みつきが何を言わんとしているかは理解し、その上で黙っている。

「五年間…もっとか。よくもまあみんな揃いも揃って黙ってたいもんだよねって言う感じ。どうせあれでしょ?チアキさんとか、都さんとか、お兄ちゃんとかは知っていたんでしょ。あと花鳥と風月、それに一美姉もかな」

「黙ってたってことは、お前も知らなかったのか?」

「知らなかったよ。この間の事件はひなたたちが助けに来て、ピンチに陥った時に私のお父さんが颯爽と登場して、大人バージョンの…まあつまり私なわけだけど、私と一緒にひなたを救ったとかって聞いていたしね…まあ、考えてみれば普通の人間が魔法少女の戦闘に介入するとかありえないだろってわかるんだけど『お父さん』ってキーワードのせいで当時の私は舞い上がったんだろうね」

「なあ、俺が父親だっていう事実はどうだ?嫌か?」

「嫌だね!」

「即答かよ」

「……って言うと思うよ。この時代の私なら。まあ、今の私はそんなに嫌でもないかも」

 みつきはそう言って、ひなたと向き合うように立つと、繋いでいた手をほどいた。

「あの事件の時、呼びだされた場所に『お父さん』がいなかったことでなんとなく状況を察して、一美姉の『お父様』ってやつの言葉を聞いて確信したって感じなんだけど、あの時はひなたのことが嫌とか嫌じゃないとかそういう感じじゃなくて、ただ一美姉のことをなんとかしなくちゃと思って一杯一杯だったし、心の整理もついてなくて、事件が片付いてすぐに逃げちゃってごめんね」

「いやそれはいいんだけど…一美姉なんて呼んでいるってことは、5年後の深海一美は元気なのか?」

「まあね。というか、フカミインダストリは今や戦技研の費用を大部分を賄ってくれている大スポンサー様だよ」

 そう言ってみつきは楽しそうに笑いながら「私、あの会社のイメージキャラクターとかやってんだよ」と付け加える。

「そっか、じゃああの子は立ち直るわけだ」

 つい先日、事情聴取に立ち会った時の彼女の様子から、立ち直れるかどうかは五分五分かもっと分が悪いかだろうと思っていたひなたは、心のなかで少しだけほっと胸をなでおろした。

 桜の件があったとは言っても、彼女自身もある意味では教団の被害者だ。その彼女が救いのないまま幽閉され続けるかもしれないということに同情していたひなたとしては、彼女が立ち直ると聞いて悪い気はしない。

「少なくとも私のいる未来ではそうだね。でも大変だったんだよ。半年くらいは花鳥や風月が話しかけてもどこ見てるのかわからない顔で笑うだけだし、私が行くと暴れるし……つーかね、あー…どうしようかな…これ言うかどうか、すごく迷うんだけど」

「なんだよ」

「まあ、未来は自分で変えられるもんだし、できればこれは変えてほしい未来だから話すか…」

「なんだよ」

「ひなたは一美姉と結婚する」

「……はい?」

「いろいろあって、桜に愛想を尽かされたひなたは、立ち直った一美姉に優しくされてコロッといっちゃいましたとさ!」

「いっちゃいましたとさ!じゃねえよ!なんでだよ!なんで俺が桜に…まあ、愛想つかされるかもなっていう心当たりはないでもないけど、一美が俺に優しくする理由なんて無いだろ!?」

「知らないよそんなの。とにかくそういう未来なんだもん」

 みつきはわざとらしく耳に指を突っ込んでうるさそうにそう言うと、面白くなさそうに口をとがらせる。

「つーか、今この時代にいるカップルがことごとく全滅ってすごいよねー、わたしの初恋が破れたのは何だったんだー!って感じ」

「いや、俺と桜とか、朱莉と柚那とかはともかく、狂華と都は別れないだろ」

 みつきの話を聞いてひなたがそうツッコミをいれるが、みつきは訂正せずに苦笑いを浮かべる

「都さんところはカップルっていうか、もはや夫婦だからね。その二人は別れてないよ。……まあ未来の話はここまでってことで。それと未来は変えることができるからそれは忘れないでね。この時間軸のひなたたちが何をしても私のいる未来はもう変わらないけど、ここにいるひなたとか、周りの人の未来は変えられるから頑張って。未来は無限の可能性に溢れているんだからさ」

「未来を信じろとか未来の可能性とか、娘に言われると変な感じだな」

「まあ、みつきちゃんってば未来派魔法少女だからね」

 みつきはそう言って少しおどけた表情で肩をすくめてみせる。

「…なあ、みつき。お前のいる未来っていうのは幸せな未来か?」

「不幸なことが全く起こらない世界も、幸せなことが全く無い世界も無いと思うよ。でもまあ、いろいろあったけどそれなりに幸せではあるかな」

「そっか…ああ、そうだみつき。一応これ、俺とおまえのDNAの鑑定書。前に都が調べておいてくれたんだってさ。」

 ひなたがそう言って渡した紙にざっと目を通したみつきは「ていっ」と言って鑑定書をビリビリに破いてばら撒いた。

「なっ…お前、なにすんだよ!」

「いや、ついカッとなってやったけど後悔はしていない」

「どこに後悔しない要素があるんだよ!俺とお前の親子関係を証明する唯一の書類なのに…」

「いや、95%ってかいてあったよ?5%も否定されているよ!?そんなの証明って言えなくない?」

「そうは言うけど、アレがなかったら俺はどうやってみつきに説明するんだよ!」

「だから今の私に説明しちゃダメなんだってば。五年待ちなよ、お父さん。そうすりゃ勝手に悟って帰ってくるんだからさ」

「お……おう」

 みつきに『お父さん』とよばれたひなたはまんざらでもなさそうな様子で短くそう言うが、嬉しいのをさとられないように笑顔をかみ殺したせいで、微妙にニヤニヤとした嫌な表情になってしまう。

「親父その顔キメエ!」

「そういうこと言うなよ!つーか、未来が変わる可能性があるってことは、みつきが過去に呼ばれないルートっていうのもあるんじゃないのか?」

「まあ、そんな未来もあるかもね」

「だったらもし俺達がそのルートに入っちゃった時に証明する手段がないじゃないか」

「そんなことないって。……実は私さ、お父さんのことで一つだけ覚えていたことがあったんだよね」

「覚えていたこと?」

「うん。お母さんのお葬式の時、お父さんずっと私の手を握っててくれたじゃん?あの時の優しくて暖かい手のことはずっと覚えていてさ。それを頼りにいつかお父さんを探しだそうって思ってたんだ。で、ひなたがお父さんだっていうことに納得がいっていなかった私は、さっきひなたの手を握ったってわけ…不思議なもんだよね、お父さんの身長はもっと大きかったはずだし、今のひなたとは手の大きさも違うはずなのにさ、握り方とか、手の暖かさとかそういうのがおんなじなんだよね。少し遠慮がちなような、ふわっと握っている感じなのに、しっかり手が繋がれていて。ちょっとやそっとじゃ離してくれないの。それと、守ってやるんだっていう、すごい押し付けがましい感じがするのに、嫌じゃないっていうかさ」

 そう言ってにっこりと笑いながらみつきがひなたの手を取ると、ひなたの頬を涙が伝う。

「……まあ、だからあんな紙なんて、なくても大丈夫なんだよ。お父さん」

 みつきはそう言って笑うと、ハンカチを取り出してひなたの頬を伝う涙を優しく拭った。






みつき・ひなた編、これにて終了です。

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