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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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つきは東に陽は西に 9

 予想をしていたこととはいえ、教祖と思われる一美によく似た魔法少女とともに現れたみつきの目がいつものようにキラキラと輝いていないのを見たひなたは小さく嘆息した。

「みつきになにをした?」

「あまりにこちらの言うことを聞かなかったので、少しおとなしくなる薬を飲ませました。ああ、大丈夫ですよ、身体に害のあるものではないですし、数日もすれば自然に身体から抜けていきますから」

「なるほど、お得意のマインドコントロールってわけだ」

 そう軽口をたたきながらも、ひなたは考えを巡らせる。

マインドコントロール系の魔法でないとすると、教祖の魔法はなんなのか。一美の得意な魔法は狂華と同系統ということはほぼ間違いないので、ひなたの持っている情報の中で当てはめると残っているのは爆弾魔だが、下の階に二人いたので、おそらくは実行部隊であるその二人のどちらかの能力だと考えるのが妥当だろう。

「皆目見当がつかねえな…」

「は?」

「教祖の魔法だよ。俺はてっきりマインドコントロールだと思っていたんだが、お前らお得意の薬物コントロールを使っているんだとしたら、あいつの役割は一体何だ?下のどっちかがマインドコントロールされた人間を操作する能力、どっちかが爆弾を作る能力。お前が大量の兵隊を創りだす能力だとすれば、教祖の役割は一体何だ?」

「神に役割を求めるなど、傲岸不遜もいいところです」

「そうか?日本人は神様ってやつには常に役割を求めてきてるだろ。太陽の神様が引きこもったら世界は闇に閉ざされたなんてのはその代表みたいな話だ。その逆に神様は対価を求めるっていうのもある。ヤマタノオロチ退治なんていうのは嫁取りの話だしな」

「はあ…唯一の神であるお父様をそのような自然現象の擬人化に当てはめられても困るのですが。…まあ、良いでしょう。お父様の魔法はすべての魔法少女の頂点に立つ、すべてを無に返す魔法です」

「魔法の無効化か。昔似たような魔法の研究をしていた奴がいたな。そいつはそもそも、魔法少女になれなかったけど…」

「何をぶつぶつと言っているのです?」

「……いんや、そもそも、ナノマシンの効果を無効化する存在が魔法少女といえるのかどうかと思ってな。何%の魔法少女かわからんけど、自分のナノマシンの活動も止まっちまうだろ。そうなりゃ脚をメインにナノマシン化していれば歩けなくなるだろうし、身体だったら多臓器不全になりかねん」

 一美はひなたの言葉を聞いて一瞬ハッとしたような表情を浮かべたが、すぐに気を取り直すように首を振って口を開いた。

「……そうやって理屈をこねたところでお父様の能力がなくなるわけではありませんし、あなたに勝機が訪れるわけでもありませんよ」

「そうか?」

「そうです。能力的にもデータ的にも、私は己己己己との戦闘を念頭において調整されていますし、現状この場にいる魔法少女の中で最強であるあなたが私に勝てない以上、あなた方に勝機はありません。あなたに薬を飲ませた後で、下に降りて順次制圧していけばいいだけの話です。まあ、そもそも私が制圧するまでもなく花鳥と風月、それに私の兵隊たちが撃破しているでしょうけど」

「おいおい、あんまりウチのやつらを舐めんなよ。こまちとセナはちょっとメンタル弱いところはあるけど、スイッチが入ればあいつらほど相手にするのが面倒な奴はいねえし、夏樹と真帆だって、でくのぼうにやられるほどボンクラじゃねえ…よっ」

 ひなたはそう言いながら後頭部に押し付けられていた一美のステッキを退けて横に転がると、腕で跳ね上がるようにして一美の身体にドロップキックをお見舞いする。

「ぐ……」

 突然の反撃に怯んだ一美がよろよろと二歩、三歩と後ろに下がる間に、ひなたは残りのカードをすべて取り出す。

「さっき、こっそり柚那の魔法をチャージしておいてよかったぜ」

 ひなたはそう言って柚那の衣装にチェンジすると、自分に回復魔法をかけ、次のカードを叩きつける。

「狂華に合わせて調整したから自分がこの場で最強の手札だってのは違うぞ、グレーテル。この場で最強の手札は―」

 再度変身を行い、朝陽の衣装に身を包んだひなたはポケットから取り出したコインを電撃で上に向かって打ち出す。

「―みつきだ」

 次の瞬間、ひなたが打ち出したコインが天井を打ち抜き、真っ黒な夜空と、黄金色に輝く月が顔をだし、その月の光にみつきが照らされると、みつきを中心にして突風が吹き、ひなたと一美、それに教祖は部屋の端まで飛ばされた。

そして今までクリアだった視界が渦巻く風とともにどこからともなくあらわれたスモークで遮られ、そのスモークの中にシルエットで浮かび上がったみつきの手足が伸び、衣装もそれに合わせて長さが変化していく。

「呼ばれて飛び出てじゃんじゃじゃーん!」

 みつきがそう言いながらステッキを横薙ぎに振るうと、スモークが一瞬で晴れ、決めポーズをしているみつきが現れる

「無限の魔法少女、みつきちゃん登場!」

(こうして改めて見ると、みつきって陽奈にそっくりだな…性格はともかく…いや、性格もちょっと似てるか)

 そんなことを思いながらひなたがみつきを見ていると、その視線に気づいたみつきが嫌そうに顔をしかめる。

「マジか……そういうことかぁ…おかしいとは思ってたんだよなあ…」

「どうしたみつき。調子悪いのか?」

 ブツブツと言いながら頭を押さえるみつきを見て、ひなたが心配そうに声をかける。

「ん?んーん、こっちの話。んで、どれが敵?むしろひなたも敵?つーか、一発ぶん殴らせろ!」

 みつきはそう言ってニコニコ笑いながらひなたに向かって拳を突き出す。

「なんでやねん!…一応言っておくと俺以外が敵だからな。みつきはそっちの姉ちゃんを頼む。いろいろ聞きたいことがあるから殺すなよ」

「了解、私は命のやり取りなんかしないのが信条だからそれは大丈夫だよん。ああ、それと、戦闘とは別に、終わったらひなたを一発ぶん殴るから覚悟しておいてね」

「……なんで?俺、お前に何かした?」

「んー…五年後からの出張料?あと迷惑料とか諸々」

「五年後から来たなら大体の概況はわかってるだろ。お前がさらわれたのが悪いんだから、俺のほうが出張料も迷惑料も払ってもらいたいくらいだぜ」

「だから、それをパンチで払うってば」

「なんでだよ!」

「ま、それは終わってからおいおい話すとして……なるほど、これは厄介だね。狂華さんと同じくらいやりづらいや」

 ひなたとみつきが会話している間に、態勢を整えた一美は、地面からコンクリートでできた人形を大量に創りだしてみつきを取り囲む。

「魔力つきの人形…まあ、でも橙子みたいに獣型がないだけマシかな」

 みつきはそう言って手首と足首をかるく回したあとで、手近な人形に殴りかかるが、人形は少し欠けたくらいのダメージしか無く、みつきを抱きしめるようにして拘束する。

「お、スレンダーマンより硬い」

 ちょっと驚いたようにそういったものの、みつきが「んっ」っと力を入れると、人形は粉々に砕け散る。

「物理的には強いけど、魔法には弱いか…さて、お姉さん。こんなの何体いても私には勝てないけど、まだやる?」

 フッと馬鹿にしたような笑いを浮かべてみつきが挑発すると、一美は顔を真赤にして激昂した。

「ふ……ふざけるなぁっ!勝てない!?私が!?私は、私はお父様の娘だ!長女だ!私にできないことなんてない!妹のくせに、妹のくせに妹のくせに妹のくせに!姉より優れた妹なんているわけ無いだろぉ!」

 一美は半狂乱になりながら人形をけしかけるが、みつきは襲いかかる人形の攻撃をいなし、時に反撃して破壊していく。

「さて…じゃあこっちも15年ごしの因縁を片付けるか」

 みつきのほうに問題がなさそうなことを見届けてから、ひなたは最後の一枚、ひなたにとっての切り札である邑田朱莉のカードを切った。


あと2話で終わります。終わる予定です

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