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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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つきは東に陽は西に 8

 殺してやる…殺してやる殺してやる殺してやる殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して

……コロシツクシテヤル。

 セナをかばって何度目かの攻撃を受けきった後、溜まっていた怒りに任せてこまちは跳躍した。

「やばっ、速…防御障壁!」

 こまちの突進にを防ごうと風月が障壁を張るが、こまちは一瞬だけ障壁にぶつかって怯んだものの、すぐに蜘蛛の巣でも破るかのような気軽さで障壁を破り捨て、今度はあえてじっくりと、見せつけるかのような表情で風月に向かってにじり寄る。

「能代こまち!そんなところにいていいの?小此木セナに―」

 爆弾を投げるぞと、言い終わらないうちにこまちの投げた銃剣が花鳥の腕に突き刺さる。

「ヒ…ィやぁぁっ!」

 銃剣が刺さった痛みと、思わず爆弾を取り落としたことで自分に訪れる直近の未来を察して、花鳥の口から悲鳴が漏れる。

「最初からこうすればよかったんだ」

 そう言ってこまちが風月に向かって一歩踏み出すのと同時に花鳥の足元に転がった爆弾が爆発を起こす。

「そんなつもりはなかったんだけど、ちょっと実戦の勘が鈍ってたんだろうねぇ」

「花と…ッグ…」

「あはははっ……お前は人の心配している場合かよ」

 風月の首の付け根を掴んで持ち上げながら、こまちが口の両端を裂けんばかりに釣り上げて笑う。

「離…せ…」

「離せと言われて離すバカがいるかぁ?つか、お願いするなら『離してください』だろ?お前自分の立場わかってんのか?何命令してんだよ!」

 こまちはそう言ってゲラゲラと不快な笑い声を上げて風月を嘲笑う。

「離して…離してください…お願いです。離してください…」

「んだよ、つまんねえ。もう命乞いか?もうちょっと何かしてみせろよ。っつーかアレだけ人を好きにボコっておいて楽に死ねるとか思ってるんじゃねえだろうな?」

「離してください…離してください…お願いです……このままじゃ、おねえちゃんが死んじゃう…」

「………」

 こまちは涙を流しながら懇願する風月を見て、面白くなさそうに舌打ちすると風月を放り投げた。

「回復魔法は使えるの?」

 こまちの問に風月はフルフルと首を横にふる。

「はあ…」

風月の反応を見たこまちは、ため息をつきながら持っていた小袋を風月のほうに放って渡す。

「それ、一応回復効果がある飴。試作品だけど、それなりに効果があるのはひなたさんで実証済みだから……一個しか残ってないけど使って」

 風月は、そう言ってプイッとそっぽを向いたこまちと飴の入った袋を数回交互に見ていたが「ありがとう…ございます」と嗚咽混じりに言って立ち上がり、小走りで花鳥に駆け寄り、袋から飴を取り出して花鳥の上体を抱き起こす。

「おねえちゃん、もう大丈夫だからね。これで…」

 そう言いながら風月がつまんだ飴を花鳥の口に押し込もうとした瞬間、飴が砕け散った。

「あ…あ…ああああっ!」

 風月は半狂乱になって叫びながら、必死に散らばった飴の破片をかき集め、こまちはそんな風月の様子をみてゲラゲラと笑う。

「ごっめーん、噛み砕かないと効果ないよって言い忘れちゃったから手伝ってあげようと思ったんだけど手が滑っちゃった」

「う…うあああっ!おねえちゃん!今集めるから待ってて、死なないで!」

「ぎゃはははは!汚ったねえなあ、そんなの瀕死の人間に食わせるってどういう神経してるん…痛ってえなあ!」

 頬に痛みを感じて、こまちが振り返ると、セナが目に涙を溜めて立っていた。

「……セナ、お前いったいどういうつもりだ」

「……」

 セナは質問には答えずにこまちをひと睨みすると、そのまま風月のところへ駆け寄って、ポケットの中から飴を取り出して手に握らせた。

「使ってください」

「……え?」

「あなたのことは嫌いですけど、今のあなたの気持ちは痛いほどわかりますから」

 そう言って、セナは一つ深呼吸をして、風月と花鳥を背中にかばうようにしてこまちと向かい合う。

「あなたはあなたのお姉さんを助けてあげてください。私は、私のお姉様を助けますから」

 セナはもう一度深呼吸をして気持ちを落ち着けると、魔法少女の姿に変身して構えを取る。

「お……おいおい、どういうつもりだ?散々守ってやったのに、なんで銃口がこっち向いてるんだ?」

「……今のあなたは、誰ですか?」

 セナは、やはりこまちの問に答えずに、逆に問い返す。

「はあ?お前のお姉様だろうが」

「違います。あなたは阿知良彼方です。私と、私のお姉様の敵です」

「………ギャハ」

 セナの言葉を聞いたこまちはしばらく俯いていたが、やがてその口から笑い声が漏れその漏れた笑い声が合図であったかのように大笑いを始める。

「ギャハハハハハハハハ!そりゃあそうだ、私は確かに阿知良彼方だよ!そして能代こまちだ!で?どうして阿知良彼方が能代こまちの敵なんだ?」

「…阿知良彼方はすでに死んでいます」

「はぁ?お前が私を阿知良彼方だって言ったんだろうが!」

「今、お姉様はあなたという過去の亡霊に囚われている」

「ああ、はいはい。かっこいいかっこいい。で?その哀れなお姉様を勇敢なセナちゃんはどうするのかなぁ?」

 こまちはそう言ってヘラヘラと笑いながらセナのセリフを茶化す。

いつものセナなら真っ赤になって「やめてください!」などというところだが、今のセナはこまちの態度など意に介さないような表情で口を開く。

「ここで私が阿知良彼方を殺します」

「……ああ…そう…そっか…はは…結局…そうか…ああ…ああ面白くねえ!ホント糞だなこの世界は!もういいよ…もうやだよ…ああ…目をかけてやったつもりなのになあ…」

 こまちはそう言いながらつらそうに右手で頭を抑えて首を振る。

「どうしてうまくいかないんだろ…」

「お姉様!」

「お姉様なんて呼ぶんじゃねえよ!」

 飛びかかってきたセナの攻撃を左手に残っていた銃剣で受けながらこまちが叫ぶ。

「どうせ、お前も私のことを薄汚れた殺人鬼だと思ってるんだろう!」

「ええ、そうですね。実際、阿知良彼方殺人鬼だし、私は殺人鬼は大嫌いです!」

 そう言いながら容赦なく斬りかかるセナの攻撃をこまちはフラフラと後ろに下がりながら銃剣で受け続ける。

「だったらもう放っておいてくれよ!どうせ、みんな私の事なんか嫌いなんだから!寿ちゃん意外、みんな私のことなんか嫌いなんだから!」

「は?寿さんだってきっと嫌いですよ、殺人鬼なんか」

「セナぁぁぁっ!」

 叫びとともに振り下ろされたこまちの銃剣は床に大穴を開けたが、セナは後ろに飛んでふわりと着地し、難を逃れる。そして―

「拾ってください」

 落ちていたもう一丁の銃剣を蹴ってこまちの方へ滑らせる。

「……随分舐めてくれるじゃねえか」

「それはこっちのセリフですよ。随分舐めてくれましたよね。私はあれ、許してませんから」

「ああ、そう」

 こまちはそう言って忌々しそうに銃剣を拾うとセナに飛びかかる。

「才能も無いくせに!」

「はっ、才能があるって言ってくれたのは、お姉様と狂華さんですよ」

 セナはこまちの初撃をいなすと、その勢いを乗せて銃剣を振るう。

「お姉様なんて呼ぶんじゃねえよ!気色悪い!」

「文句があるのならこの制度を考えた愛純と名前をつけた都さんに言ってください」

 激高して銃剣を振り回すこまちに対してセナは淡々と答えながら攻撃を捌き、隙を見てナイフや銃弾で攻撃する。そしてその攻撃をこまちが捌き隙を見て攻撃するという、武闘会決勝戦の再戦のような攻防が繰り広げられる。

「だいたい、セナはメンタル弱すぎなんだよ!」

「ちょっとピンチになったくらいで過去の自分にすがる人に言われたくありません!」

「そのピンチを招いたのは誰!」

「むしろ、ピンチになったら『私がみんなを守ってあげる』とかいつも言ってる人は誰でしたっけ?『私』って能代こまちさんだと思ってたんですけど、殺人鬼の人だったんですか?」

「ああ、どうせ私は殺人鬼だよ!」

「ほら、そうやってすぐに拗ねて逃げ出す。もういい加減そのネタで同情してもらえると思うのやめたほうがいいんじゃないですか?」

「は……はぁっ!?」

「私は暗い過去を背負ってるんだぞーって。そりゃあ私にはそういう過去は何もありませんよ!でも、過去があるのはお姉様だけじゃないんですよ!」

「っ……」

「むしろ、その過去を言い訳にしている分、最近のお姉さまはカッコ悪い!」

「う……うるさいうるさいうるさい!セナに何がわかるんだ!それにどうせ私はどこまで行っても…」

「過去を言い訳にするな!消滅しかけていた静佳ちゃんを救ったのは誰ですか!?橙子さんを撃てと言わずに私を信じて任せてくれた人は誰ですか!私は阿知良彼方なんて人知らないし知りたくもない!どんな過去があったとしても、仲間を信じてくれる、敵の生命も救おうとする。そんなあなたのことが大好きなのに!私も彩夏も、橙子さんも、精華さんも、寿さんも!みんなみんな、今のちょっと詰めが甘くて、でも自分を律することのできるあなたが大好きなのに!なのにあんな生命を弄ぶようなことをして自分を、私達の大好きなこまちさんを貶めないでください!」

 そう言って思い切り振りぬいたセナの攻撃はこまちの銃剣を弾き飛ばした。

「……ごめんなさい、私が足を引っ張ったせいだってことはわかってます。私、強くなりますから。あなたを支えられるくらい、強くなりますから。だから戻ってきてください。阿知良彼方なんて人に負けないで…」

 セナはそう言って持っていた銃剣を捨てて変身を解除すると、こまちに抱きついた。

「好きです。最初は大嫌いで、いつか見返してやろうと思っていたのに…あなたの優しいところが大好きです、しょうがないなあって笑いながらみんなを甘やかしてくれるところが大好きです。寿さんよりもひなたさんよりも、私はあなたのことを愛しています。」

「え……えーっと、マジ告白…?」

 思いもよらないセナの告白で素に戻ったこまちは、セナを抱きしめ返したものの、目を白黒させる。

「はい」

「そ…そっか…う、うーん…」

「やっぱり私じゃダメですか?寿さんとかひなたさんのほうが…」

 そう言って、鳴き声混じりになるセナの声を聞いてこまちがあたふたとしだす。

「い、いや。そういうわけじゃないんだけど。え…っとこういう時どんな返事をしたらいいのかわからないんだよね」

「今まで誰でも受け入れてきたお姉様は、振り方がわからないっていうことですか?」

「いや、正面から告られたのはじめてでしたり」

「は?何言ってるんですか?」

「いや、まあほら。ベッドインは色んな子と何度もしているけど、それは流れっていうか、…セナの時もそうだったでしょ?」

 セナは、悪びれる様子もないこまちの言葉に開いた口がふさがらなくなりかけたが、気を取り直してなんとか次の言葉を絞り出す。

「こ、寿さんは?」

「同期が少なかったから、なんか流れで!」

 あまりに衝撃的な事実を聞いて思わず抱きつくのをやめて離れたセナに向かってこまちがいい笑顔でサムズアップしてみせる。

「……すみません、やっぱりさっきの告白は無かったことにしてください」

「ええっ!?ちゃんと受けるし、お付き合いするならこれからはもうちょっとこう節度を持って他の女の子に接するようにするよ!」

「いや、なんかこう…お姉様が実は朱莉さんとか狂華さんレベルのがっかりさんだったことがショックで。あと、ひなたさんレベルの淫獣だし」

「その三人と並べるのはやめて!」

「だったらもう少ししっかりしてください!」

「あ、あのー……」

「何?今大事な話してるんだから…って、ああ。ごめん、すっかり忘れてた」

 ふりかえったこまちは、申し訳無さそうにしている風月を見て、現在自分たちがどういう状況に置かれてこういうことになったのかということを思い出した。

「セナさん、ありがとうございました。おかげでおね…花鳥は助かりそうです」

「あ、いえいえ。よかったです。むしろ恥ずかしいところを見せてしまって」

「そんなことないです!すんげえカッコ良かったです!あと、才能ないとかいろいろ悪口言ってすみませんでした!それでその…セナの姉御って呼んでもいいですか?私を舎弟にしてもらってもいいですか!?」

「んー…なんかそれマズい気がするなあ。セナ姐さんとかのほうがいいんじゃないかな?」

 こまちがそう言って方向転換を試みるが、風月は忌々しそうにこまちを一瞥して舌打ちをしてからセナに向き直る。

「セナの姉御、どうですか?」

「あ、いや…普通にセナでいいですよ。営業部長さんっていうことは結構歳上なのでしょうし」

「19っす。双子なんで花鳥も19です」

「まさかの年下!?え…えー…そうね、じゃあセナさんで」

「わかりましたセナさん」

「わたしはこまちちゃんで良いよ!」

「…はっ、いい年して何言ってんだか…」

「え?何?」

「なんでもありませーん。というか、私こまちちゃんのこと絶対許しませんから」

 風月は、口元はにこやかに笑いつつ、目だけでこまちを睨みながらそんなことをつぶやく

「ちょっとセナ、この子す敵愾心丸出しなんだけど」

「いや、それはしかたないですよ。自分がやったこと考えてみてくださいよ」

「うう…まあ…確かになあ…ごめんね風月ちゃん」

「いいえ、謝罪は結構です。その代わりいつか何かの折に100倍にして返しますので楽しみにしててくださいね」

「ひいっ!なんか超怖い」

「……というか…何を馴染んでいるの風月は」

 ヨロヨロとした足取りでやってきた花鳥は、息も絶え絶えにそう言って風月にもたれ掛かる。

「もう投降しよう。私達は一美姉への義理は果たしたよ」

「…でも」

「認めます。というか、せっかく助かった生命をわざわざ奪うようなことはしませんから安心してください。爆弾事件の件もお姉様がなんとかとりなしてくれるはずですから」

「ええっ!?私!?…が、頑張るけど流石に多少の罰はあると思うからそれは覚悟しておいてね」

「まあ、その頑張り次第で謝罪を受け取ってやらないこともないから頑張れよな」

 そう言って風月はポンポンとこまちの肩を叩き、叩かれたこまちは顔をひきつらせる。

「く…こいつ殺してえ」

「お姉様!」

「はい、すみません」

「やーいやーい、怒れてやんの」

「風月も調子に乗らないの!」

「……ごめんなさい」

(はあ…なんか先が思いやられるなあ)

 セナは、注意した後も微妙な小競り合いを続けるこまちと風月を見て、心のなかでため息をついた。



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