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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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つきは東に陽は西に 7

 最上階、大会議室で待ち構えていた深海一美はひなたの姿を認めると、椅子から立ち上がり腕を開いて笑う。

「ああ…お待ちしておりました。偉大なお父様の仇敵、相馬ひなたさん。私は深海一美。フカミインダストリ代表取締役兼、教団の導師代行です」

「へ…偉大なお父様と来たか。で?その偉大なお父様とやらはどこにいるんだ?…いや、もうそれもどうでもいいや。俺は自分の娘を返して貰いに来ただけだからな。教祖がどこにいようが別にどうでもいいっちゃ、どうでもいいんだわ。一応、こっちの要求を伝えるぞ。みつきを返せ。そうすりゃ俺達は黙って帰るし、爆破の件も不問にする」

「自発的にお帰りいただかずとも、帰りはこちらでお送り致しますよ。もちろんそのうるさい口を好き勝手にきけないようにしてからですが。それと、みつきは将来我が教団の中心となるべき大切な人財ですので、お返しすることはできかねます」

「は…財宝の財とか書きそうな言い方だな。いいか?財ってのは、つまりそれ自体を取引きしたり、消費したり、貯めこんだりするもののことだ。でもな、人ってのは何かと引き換えに取引したり、ものの様に消費したり、後生大事に貯めこんだりするもんじゃねえんだよ。能力や人格に合わせて適材適所に活かして成長させてなんぼだ。それをちょっと気の利いた風な言い方でドヤ顔して『財』なんて書くのが大好きな組織は大体ろくなもんじゃねえんだよ、バーカ!」

「…いいたいことは、それだけか?」

 ひなたの言葉を聞いた一美の表情が、今までの柔和な笑顔から一変し、憤怒の表情へと変わる。

「おお、怖い顔だな。それがお前の本当の顔か」

「……お父様の言葉を侮辱した貴様は万死に値する」

「いいねえ、やれるもんならやってみな」

 ひなたはそう言ってポケットから数枚のカードを取り出す。そのなかから一枚のカードを選び、ひなたが地面に叩きつけると、彼女の両手に刀が現れ、服装も剣道着のような衣装へと変わる。

「…さて、じゃあ教団の魔法少女がどの程度のもんか試してみるかね」

 ひなたは一美に向かって跳躍しながら両手を思い切り振りかぶり、そのままクロスするようにして斬りかかるが、それをそのまま待っている一美ではない。

ひなたの攻撃を後ろに跳躍してかわしながら変身した一美は、着地と同時にステッキを振り、ひなた目がけて魔法を放つ。

対するひなたは半身に構え直し、放たれた魔法の球を縦一文字に切り裂いて無効化し、魔法を切り裂いて刃こぼれを起こした刀を一美に向かって投げつける。

「ま、そりゃあ楓ほどの強度も精度もでないわな」

「さて、残りは何枚でしょう?あと、10枚?5枚?あの爆発で、かなりの枚数を使ったんじゃないですか?」

 投げつけられた刀を軽くいなした一美が、嘲笑混じりに尋ねる。

「流石に研究済みか…魔法少女ひみつ図鑑にも載ってねえのに、よくもまあ俺の得意魔法の秘密を知ってるな」

 一般向けに公開されている情報ではひなたは万能型で、あらゆる魔法を具現化できるということになっているが、実は微妙に違う。

 手持ちのカードに仲間の魔法をチャージすることで、その魔法を使うことができるというのがひなたの得意魔法だ。これは魔法少女狩り騒動の後、ひなたが衣装違いバージョンを連発することで小銭を稼ぎたいという発想から生まれた魔法だったが、ことの外うまくハマり、ひなたのメイン魔法となった。

 もちろんひなたが別の魔法を使えないというわけではないが、チャージされている魔力を使うことで0から魔法を発動させるよりも自分の魔力消費を抑えることができるため、ガス欠の心配も少なく、現在のひなたのように怪我をしている時などには重宝する魔法だ。

 だが、一美の指摘した通り、爆弾騒動の時の防御や、その後の血止めの魔力源として大量のカードを使ってしまったため、戦闘開始時点でひなたの手元に残っていたのは6枚。

切り札として使っても、最終的な魔力源として使っても頼りになる6名の魔法だったが、そのうちの1枚、楓の魔法はたった一回使っただけで使い物にならなくなってしまった。

(流石に魔力消費0でカードオンリーだと脆いな。次はちょっと使うか…)

 次に叩きつけたカードによって変わったひなたの衣装はロングのメイド服。得物は無数のカトラリーだ。

「ファースト世代最弱の魔法を使うとは、よほど残りの手札が少ないと見えますねぇ!」

 そう言ってゲラゲラと笑いながらひなたに肉薄する一美の足元から、おびただしい数のナイフやフォークが飛び出し、一美の衣装や肌を切り裂き、何本かは彼女の脚や身体に突き刺さり、動きを止める。

「チアキが最弱っつったって、あくまで俺達四人の中でなんだわ。よく勘違いされるけど、チアキは決して弱くはねえんだよ。あいつは魚の捌き方は知ってても、トラップの使い方や、人の捌き方は知らねえから、そこでどうしても俺や狂華と差が開いちまうっていうだけだ」

「くく…あははぁっ!チアキは弱くねえ?じゃあこれが相馬ひなたや己己己己狂華の全力とそう違わないと、そういうのですか?だとしたらっ―」

 一美が気合を入れて身体を動かすと、突き刺さっていたカトラリーはすべて砕け散り、そして霧散した。

「私の敵は日本にはいないということになりますねぇ」

 にぃっと、嫌な笑みを浮かべて再び襲いかかってきた一美の突進を、ひなたはかろうじて巨大なナイフとフォークで受け止める。

「俺は、そう変わらないって言っただけだぜ。狂華のほうが強いのは確かだし、俺だってもちろんチアキより強い。それに何より」

 ひなたはそこで言葉を切り、両腕と両脚に力を込めて一美を押し返すと先ほどよりも多くのカトラリーで動きを封じて次のカードを叩きつける。

「こいつが一番反則だ」

 ひなたが次に着替えた衣装は、緑ゴスと黒ゴスを合わせたような精華の衣装だった。

「光栄に思え、レア中のレア。チャージするのも命がけの能力だ」

 ひなたは小声で唯我独走エアブレイカーとつぶやき、一美に向かってつきだした平手をグッと握る。すると、一美の身体が中心に向かって収縮していく。

 一美は声を上げることもなく、いや声にもならないような、ガッ、ゴッという圧縮されて骨が砕け、肉が発する音を残して肉の一片どころか、血の一滴まで残さずにひなたの目の前から消えた。

「あ…やべ、みつきの居場所も教祖の居場所も聞き忘れた…」

 そう呟いたところで、ひなたは両手と膝をつく。

(ま…でもとりあえずこれで…一段落…ちょっと休んで…探……)

「おお、勇者一美よ、死んでしまうとは情けない…っていうのはどうかしら」

「な……」

 背後から聞こえた声に、ひなたの意識は覚醒したが、振り向く前に背中を踏みつけられて地面に腹ばいにさせられる。

「変な動きをしたらその時点で頭を吹き飛ばします」

 その言葉と共に頭の後ろにつきつけられた硬い感触にひなたは小さく嘆息すると、諦めたように力を抜いて口を開く

「……オーケー、降参だ。で?確かに手応えがあったはずなんだが、どういうトリック…いや魔法だ?」

「あなたがいままで戦っていたのはただの土人形です。外にもいっぱいいたでしょう?」

「なるほど、外のあれは人間じゃねえのか…はあ…なら、まあ…」

(早い段階でそれに気付ければ、外は大丈夫だな、まあ真帆がいるから大丈夫だろう)

「あれだけの数の人型を操れるのは教団の中でも私だけなんですよ」

 そう言って鼻を鳴らす一美はの声はどことなく得意げだ。

「そうかい…というか外のアレが全部人形なら教団ってのはお前と、下の階にいる二人。あとは教祖くらいしかいねえんじゃねえのか?」

「さすが相馬ひなたさん。なんでもお見通しということですか」

「さすがってほどのことでもねえし、なんでもお見通しってわけじゃねえよ。あの教団絡みってことになれば、それなりにマークもつくはずなのにそんな形跡はなかったし、お前ら絡みでなにかあれば連絡をもらえるよう昔の同僚に頼んでたってのに連絡は全く無かった。つまり、フカミインダストリは普通に調査したんじゃ真っ白な優良企業で清廉潔白。裏の顔である教団としての規模は極々小規模で誰にも知られてねえってところだろ。そう考えりゃメンバーは多くても10人以下。5人位がいいところだろうさ」

「今は確かに小規模ですが、それも今のうちだけですよ。なんといっても今日だけで人数は倍増、戦力も跳ね上がるのですから」

「……ああ、やっと思い出したわ。お前、グレーテルだろ。あの当時七歳だった教祖の娘。その自信満々な物言いといい、人を自分の思い通りにできると思っているところとか、あの頃のまんまだわ」

「ふうん、覚えていたんですか。私の事」

「そりゃあ、あんなブサイクな教祖の娘とは思えないくらい美少女だったからな」

「お父様を侮辱するな!」

「うぐっ…」

 今までよりも一層強く踏みつけられて、ひなたは思わず嗚咽を漏らす

「次に言ったら殺すぞ」

「良いのか?俺は貴重な戦力だろう?」

「あなたなんていなくても私がその分の穴を埋めるから問題ありません」

 もとの口調に戻った一美がそう言ってクスクスと笑う。

「おいおい、これでも国内二位なんだぜ」

「そのあなたを倒せる私がいるのだから問題ありません。フフ…私が一番強いとわかったら、お父様はきっとほめてくださるわ」

「…ちなみに、そのお父様は生きているのか?」

「もちろんです。お父様は不死身なのです。お父様は万が一命を落とそうとも、炎の中から復活なさるのです!その証拠に―」

「看守か?政治家か?誰を買収した?」

 言葉を遮ったひなたに対するいらつきからか、一美は一つ舌打ちをするが、すぐに気を取り直したように優しい口調で再び語り出す。

「信じないのならそれもいいでしょう、そう遠くない未来、あなたはお父様の起こす奇跡を目のあたりにするのですから」

 自信満々といった風に言う一美の言葉を聞いて、ひなたはどうやら教祖が生きているというのがどうやら本当らしいと悟る。

「…信じられねえな。そのお父様をこの目で見るまでは全く信用できねえ」

「あなたが信用するかどうかなど関係ないのですが…いいでしょう、あなたには現実を見せたほうが良さそうですからね」

 一美はそう言って携帯電話を取り出すと、電話をかけて二、三話した後、電話機をしまい 乱暴にひなたを引き起こしてドアの方へ向かって座らせる。

「さあ、教祖様のご威光にひれ伏しなさい、帰依しなさい、相馬ひなた!」


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