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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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168/809

つきは東に陽は西に 6

※10/10 ”」”が抜けて以降全部ひなたのセリフみたいになっていた部分を修正しました

 フカミインダストリの正門前、敷地内からは出てこないものの敷地内には殺気立ち、鉄パイプやら、箒やらを持った大量の人間がひしめき合っていた。

「これをまともに突破するのはちょっと骨が折れるなあ」

 ひなたはそう言って変身すると、胸に付いているブローチに手をかける。

「いや、ここでそんな大技使ったら大惨事だし、あとあとガス欠しますよ」

「そうそう、ルート確保は私達の役目なんですからひなたさんはこまちとセナと一緒に屋根の上でも伝ってさっさとみつきちゃんの救出に向かってください。間違っても空飛んで余計な魔力使わないように」

 そう、ひなたを制して夏樹と真帆が前に出る。

「ひなたさんのこと、頼んだよこまち」

「っていうか、こまちもひなたさんも無茶するから子守よろしくね、セナ」

 そう言って変身すると、夏樹は柄にネギの装飾が施された大剣を、真帆は両手にトマホークをそれぞれ構える。

「おいおい…やる気なのはいいけど、人間は殺すなよ?」

「わかってますって、ポーズですよ、ポーズ」

 そう言って夏樹は大剣を地面の突き立て、真帆も大剣の側にトマホークを置く。

「…んじゃ、行きますか」

 夏樹と真帆は正門を飛び越え中へ入り、それを見届けた三人は変身して壁の上に飛び乗って走り始める。

「何人いますかね」

「幹部はそう多くないと思うぞ。前も幹部はそんなに多くなくて、厄介なのは逆洗脳された捜査官とか、一般信者の肉の壁だったし。あそこですでに肉の壁が出てきちゃったってことは、奥には数人の幹部しかいないんじゃないか」

 こまちの問いかけに、ひなたがそう答える。

「というか、魔法少女が洗脳されている可能性があるんですね」

 セナがそう言って憂鬱そうにため息をつく。

 今更戦いが怖いとかそういうことを言うつもりはないが、やはり、戦闘は…とりわけ同じような境遇の魔法少女同士での戦いはなるべくしたくないというのが、彼女の本音だ。

「別にそういうのがいたら殺せとは言ってないぞ。洗脳されているんだったら洗脳を解いて助けてやっても良い。うちの国はしばらく自発的に新しい魔法少女をふやすことができないから不可抗力で拾い物の戦力が増えれば都は万々歳だろうしな」

「ちょっとひなたさん。そんな朱莉ちゃんみたいなこと言ってセナを混乱させないでくださいよ」

「だって、セナの最初の師匠は朱莉だろ?」

「え?一番最初に講習してくださったのはチアキさんですし、あとはひなたさんとか、狂華さんとか…朱莉さんは武闘会で一緒になった時が初めてですよ」

「そうじゃなくて、一番最初に影響受けたのがってことだよ。セナはあのバカの甘さに影響受けてるだろう?聞いたぞ、5月の決戦の時に橙子を撃てって言う寿に対して歯向かったって」

「……」

 少し気まずそうに顔をそらすセナを見て、ひなたは呵呵と笑う。

「別に悪いことじゃねえよ、配属の時に精華を選んだって、こまちはうちの子だし、特訓相手として狂華のことが大好きな楓だってしっかりうちの子やってたしな。趣味趣向、やり方なんざ別にバラバラでもいいんだよ。俺達にとって必要なのはコアになる理念だ。仲間をどう守るか、仲間とどう笑うか。青臭く感じるかもしれねえけど、そういうのを常に考えていくことだ。それができてりゃ、朱莉の影響があっても立派に東北チームのメンバーだし、こまちの妹だ」

「はい!」

「…っていうか、ひなたさんもしかしてここで死ぬんじゃないですか?」

「え?」

「なんか良いこと言ってるし、死亡フラグ臭い」

「マジで!?」

 そんな会話をしているうちに、三人はひときわ大きな建物へとたどり着いた。

 この規模の企業の建物としては不思議な事に入り口に警備員もいなければ受付に人もいない。

「正門の方といい、用意周到なことだな。まるで俺が死んでいないのを知っていて、入って来いと言っているみたいじゃないか」

 ひなたはそう言って無警戒に入り口を入り、奥のエレベーターへと向かい、ボタンを押す。

「ちょ…ちょっと待ってくださいひなたさん。そんな無警戒に」

「大丈夫だって、わざわざこうして招き入れてるんだ。よっぽど自信があるんだろうし、なにより自分らがいるビルをふっとばすようなことはしねえだろ」

 ひなたに言われて、セナが感覚を研ぎ澄ますと、確かに中層くらいのところと、かなり高い階層に魔法少女の気配を感じた。

「ま…これだけ自信満々に招き入れるってことはみつきは間違いなく向こう側だな」

 チンと軽い音の後、開いたエレベーターに乗りながらひなたが溜息をつく。

「全快じゃないし、手札は結構使っちゃってるしきっついなあ…」

「…対みつきちゃんは私とセナ二人がかりならなんとかっていう感じだけど、どうしましょ?」

 こまちの提案に、ひなたは一瞬考えた後、首を振った。

「いや、俺がやるよ。これでも一応、みつきの父親だしな」

「そうですか…じゃあ、ここは私とセナが」

「え?」

 チン、と音がしてエレベーターのドアが開くと同時に、こまちは手に持っていた拳銃剣を構えて飛び出す。

「行ってください!」

「悪いな、頼んだ!」

 飛び出したセナは二人の魔法少女を見つけると、すぐに威嚇射撃を初めて、ひなたを先に行かせた。

「セナ、出ておいで」

「は、はい!」

 弾を撃ち終わり、マガジン交換をしながら視線を敵魔法少女に向けているこまちの指示に返事をして、セナはこまちの横に立つ。

「酷っどいなあ。もともと相馬ひなたは先に行かせろっていう指示だったんだから、

こんなにいっぱい弾を撃たなくたって行かせたのに」

 風月はそう言ってヘラヘラと笑いながら魔法で作り出していた障壁を解除する。

「私は深海風月。一応、深海インダストリの営業部長だったり、そうでもなかったり。こっちは姉の―」

「深海花鳥。製造統括部長」

 風月に続いて花鳥がそう名乗って軽く会釈をする。

「能代こまちだよ。短い付き合いになると思うけど、よろしくね」

「あ、小此木セナです。よろしくお願いします」

「よろしくねー」

 そう言って、フリフリと手を振る風月の陰から、花鳥がこまちとセナに向かって爆弾を投げつけるが、こまちは動じること無く「不意打ちは卑怯だなあ」などとつぶやきながら冷静に爆弾を撃ち落として、花鳥に狙いをつけて発砲する。

 しかしこまちの弾は風月のだした障壁で弾かれ、花鳥に届くこと無くあさっての方向に飛んでいった。

「花鳥もこまちちゃんも血気盛んだねぇ…こまったお姉様たちだね、セナちゃん」

「え?」

 なぜそんな情報を知っているのかという表情を浮かべるセナを見て、風月が笑う。

「そりゃあ知ってるさ。私達の最終目的は日本の征服、そこを皮切りにして世界征服ってことになってるからね、そうなると最初の障害になるのは君たち日本の魔法少女っていうわけだ。っていうわけで、研究するのは当然じゃない?」

「……」

「そう嫌そうな顔しないでよ。ああそうそう、研究といえば、君の武闘会での試合。いやあ、あれは無様だったよねえ。格下相手に辛勝、格上には完敗。準決勝も決勝も酷いもんだ」

 風月の言葉を聞いたセナは悔しさに唇を噛むが、言い返す言葉が浮かばない。

「セナ、聞いちゃダメ。集中しなさい」

「でも!」

「セナ!」

「っ…」

「あーあ、一年近くたっても、変わってないみたいだね。小此木セナ、君は弱い。強い強い仲間の陰に隠れて自分が強くなったつもりになっているだけの人間だ」

「そんなことない!」

「なくないだろう、だって君はあの時こてんぱんにやられた相手の後ろをくっついて、その指示に従っているだけだなんだから。…実は怖いんだろう?また能代こまちに圧倒的な力の差を見せつけられるのが!いいよなあ、そのポジションは!彼女の後ろにくっついてパートナーでございって顔でいれば、力の差を見せつけられてもそれを自分の力だって思い込めるもんなあっ!」

「私は……」

「セナ!聞くな!」

 こまちはそう言いながら発砲するが、風月の障壁に阻まれ、威嚇にもならない。

「やめちゃいなよ。才能ないよ、お前」

「私には…才能が…」

「みんな君のことを邪魔だと思っていると思うよ。なんでもそこそこできるからってあっちこっち食い散らかしてさ。『勝負!』とか言って近接戦闘を挑んできて、負けるとくやしがる割に、努力しない君は喜乃ちゃんにとってさぞ目障りだったろうね。表向きの成績が優秀であることを鼻にかけて、面倒を見てやろうなんて驕り高ぶった態度をしていた君は彩夏ちゃんからみたらさぞ滑稽だっただろうさ。後から入ってきてあっさりとトップに立った愛純ちゃんは君なんて眼中にないだろうし、武闘会で足を引っ張られた朱莉ちゃんや楓ちゃんはさぞかし君が邪魔だったろう。極めつけは大した活躍もしていないのに正規の魔法少女にしてください?会場にいた全員が失笑しただろうね!」

「いや…嫌…聞きたくない…やだ…」

「あれ?もう変身もできてないじゃん。ほんと才能ないなあ」

 そう言って、変身を解除してしまったセナを指差して風月が笑う。

「正直、能代こまち一人だったら勝ち目ねえなあって話をしてたんだけどね。良かったよ、君みたいな足かせが一緒に来てくれて」

「―テメエ、いいかげんにしろよ?」

 銃撃ではらちがあかないと判断したこまちが風月に肉薄するが、風月は余裕の表情でこまちのナイフをかわす。

「あれあれぇ?良いのかな?かわいい妹が無防備だよ?」

 風月の言葉に、こまちがセナのほうを振り返ると、まさに花鳥が爆弾を投げようとしているところだった。

「クソっ」

 こまちは、魔力を足に集めて跳躍し、花鳥に体当たりをすることでなんとか爆弾による攻撃を防ぐが、体当たりのドサクサで、手首に爆弾を取り付けられてしまった。

「すぐには死なないから大丈夫」

 見かけによらない素早い跳躍でトントンと後ろに下がって距離を取った花鳥はそう言って薄く笑う。

「腕時計型の時限爆弾だから」

「…ああ、そう」

 こまちはそう言って舌打ちすると、銃剣からナイフを取り外して、躊躇なく自分の腕を抉って腕時計型時限爆弾を取り外すと、風月のほうへ投げつける。

「うっわぁやめろよなあ!私グロ耐性無いから血とか肉とか苦手なんだよ!」

「姉のやったことなんだから妹が責任もって面倒みろっつー話だ」

 こまちはそう言いながら魔法でナイフを熱し、それを傷口に押し当てて血止めをした。

「…一理ある。風月はもっと私の面倒を見るべき」

「一理ないし面倒も十分見てるっての!」

 こまちは、花鳥と風月が姉妹漫才をしている間にセナに駆け寄ると、彼女の肩を揺すって軽く頬を叩いた。

「大丈夫?変身できる?」

 こまちの声を聞いたセナはハッとした表情を浮かべて変身を試みるが、変身することができずにすがるような表情でこまちを見る。

「わかった…セナ、一旦1階のロビーに降りていて。終わったら迎えに行くから」

「おっと、それはダメだよ」

 風月がそう言って花鳥の方をみると、エレベーターから小さな破裂音が鳴り、その直後に大きな墜落音がして建物が揺れた。

「弱点をみすみす逃したりはしない」

「ま、そういうことだから、悪いけどあきらめて」

 そう言って花鳥と風月は不敵に笑った。 

 





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