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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔法少女☆レディオ 改 1

※みつき編書いていて今後の鬱展開に耐えられなくなってきたので気分転換に一服。


 いままでもこの仕事をしたことはあったが、私達がやっていたのは番組の中の1コーナーで、それもほぼ台本通りに読むだけ、たまにアドリブがあってもなんだかんだでみつきちゃんがうまく誘導してくれたりしていたのだが、今日はそのみつきちゃんもいないし、なにより――

「魔法少女☆レディオ!かーーーーーーい!」

 ――朱莉さんと一緒にやる番組なのだ。しかも四時間。


「と、いうわけで今週も始まりました魔法少女☆レディオ。パーソナリティの邑田朱莉でーす。今週は柚那と愛純が夏休みでお休みということで、急遽この二人が遊びに来てくれました」

「こんにち…じゃないや。こんばんは~!みんなのアイドルぅ、平泉和希でぇっす!」

「え…えーっと、甲斐田真白でーす…よろしくお願いします」

 あまりにハイテンションな和希に呑まれて、私はまったくもって平凡な自己紹介をしてしまう。だめだ、これでは朱莉さんに足手まといだと思われてしまう。

「二人は未成年ということで、今週は急遽録音での放送っていうことなんだけど、公式SNSアカウントからゲストの二人に質問を募集したところ、急な呼びかけにもかかわらず、かなりのメッセージが届いています!正直助かったよ!柚那も愛純も無しで俺一人で四時間とか間が持つわけねーとか思ってたからマジ助かった!」

「いやいや、朱莉先輩なら全然一人で行けますって。なんだったら俺と真白はスタジオの隅で見学してますよ」

「無理無理、一人で四時間なんて喋るネタもないし、そもそもそんな寂しい番組嫌だって」

「おっと、朝陽ちゃんの悪口はそこまでです!」

「あ…まあ、朝陽は、な。うん。ごめん朝陽」

「『わかればいいんですのよ、詫び金代わりにチョコ一年分で手を打ちますわ』」

 そう言ってフフンと鼻で笑う和希の声としぐさはまるっきり朝陽さん―

「っていうか、なにその無駄なモノマネスキル!確かに台本に時々ネタを混ぜるとか書いてあるけど、モノマネの完成度が高すぎて、むしろ朝陽さんが追加のゲストでいるみたいじゃないの!」

「お、やっと真白のエンジンが掛かった。今日は真白が貴重なツッコミ枠なんだから俺と朱莉先輩にバシバシ突っ込んでいってもらわないとならないんだからもっとギア上げてってくれ」

「そうそう、俺達今日は全く突っ込むつもりはないからな。ツッコミは全部真白ちゃんに任せるからビシバシよろしく」

 そう言って朱莉さんは、机の下からハリセンを取り出して私の方へ差し出す。

「…えーっと、これで突っ込めと?このハリセンで?えーっと、リスナーの皆さんにわかるように説明すると、今朱莉さんが机の下から金ピカのハリセンを取り出して私のほうへ差し出しています。ちっちゃくてかわいいやつじゃなくて、新聞紙で作ったような大きさの、叩かれたらかなり痛そうな大きさのやつです」

「真白に痛い目に合わせられるなら俺は本望だから」

「っていうか、委員長キャラにハリセンとか美学だよな」

 私がハリセンの大きさを説明すると、和希がすかさず横から入ってきて、朱莉さんもそれに続いた。

「いや、劇中でも実生活でも、私は別に学級委員とかじゃないですからね」

 見た目がそれっぽいとはよく言われるけれども。




 途中、普段私達が予め録っているコーナーや他のメンバーのコーナーの時間分の休憩をはさみながらフリートークがつづき、その間、私のハリセンは九回ほど和希に炸裂したが、やはり朱莉さんに対してハリセンを振り下ろすのははばかられてしまい、今のところ朱莉さんへのツッコミはゼロで来ていた。

「続いてのコーナーは教えて!JCチームぅ!このコーナーは普段は魔法少女一の男前である俺への質問コーナーをJC向けにアレンジしたものです。JCの二人がリスナーからの赤裸々な質問にもバッチリ答えちゃうからしっかり耳かっぽじって聞けよこのやろうぅ!」

 いつになくテンションの高い朱莉さんが大きな声でそう言って最初のメッセージを取り出した。

 ちなみに、このコーナーをやるという話は私も和希も聞いていたが質問の内容は聞いていないので、行き当たりばったり、アドリブでの回答になる。

 一応あまりに酷いシモネタとかアダルトな内容は弾いてくれているはずなので、朱莉さんの言うような赤裸々な話になることはまずないはずだ。

「まず一通目。ラジオネーム、マスカットよりマスケットさん。いつもありがとう。JCのお二人に質問です。視聴者から見て、真白ちゃんが厳しいお母さん、和希ちゃんが呑気なお父さん、みつきちゃんがおねえちゃんで、タマちゃんが妹といった感じですが、実際のチームでの役割は家族に例えると、どんな感じなのでしょう。PS.あかりちゃんは、影も薄めでイマイチキャラ立ちしてないので、飼い犬とかかなと思っています……だそうだけど。実際どんな感じなのかな?」

 そんな『先生、うちの子は大丈夫なのでしょうか?』みたいな顔で聞かれてしまうと非常に答えづらいです朱莉さん。

「なあなあ、俺達夫婦だってよ真白!」

「うるさい!」

 妙なポイントでテンションの上がった和希に本日10回目のハリセンをお見舞いしてから、私はどう答えたら良いか考え始める。

「えっと……そうですね…」

 さて、どう言ったらいいものか。正直に言ってしまえばお母さん役自体は嫌ではないが、もし私がお母さんだとすれば、私が配偶者として頼りにするのは…

「真白がお母さんっていうのはあってるかなと思う。でも俺はお父さんって言う感じじゃなくて、どっちかっていうと、お兄ちゃんとか弟とかそんなポジションかな。父親役っていうと、タマが無口なお父さんって感じじゃないか?」

 …そう、タマだ。和希ったら意外に自分で自分のことがわかっているみたいじゃないの。

「で、みつきが姉か妹かわからないけど、娘で……」

 なんでそこでみつきちゃんだけ娘にしちゃった!?

「あかりはなんだろう…」

 そこが大事なのにそこ思いつかないんだったら黙ってろよぉ!

「となりの綺麗なお姉さん?」

 他人にしちゃったぁぁぁぁっ!朱莉さんから見たら完全にあかりちゃんが、私達の中で浮いていじめを受けてるような印象になってるー!!

「いや、違うんですよ朱莉さん。和希はちょっと頭がアレだから、その…」

「あ、もちろんあかりが家族みたいな存在じゃないっていうことじゃなくて。俺って昔、あかりに憧れてた時期があって。それで、家族っていうよりは隣の綺麗なお姉さんみたいな感じかなって。いや、そんな綺麗じゃないけどさ。スタイルもあんまり良くないし、身長も高くないし。でも、なんかこう…まあ、そんな感じ」

 そう言って和希は、はにかんだような笑顔で笑いながら頬をかいた。

 ……なんだろう。和希にしては…あくまで和希としては非常に理路整然としているし、朱莉さんに対しても申し開きのできる話なのに何だか凄く納得がいかない。さっきまでのなんとかしなきゃっていう焦りとはまた違ったイライラとかムカムカみたいなのがこみ上げてきているぞ。

「身近な存在というより憧れの存在ってわけか。なるほどなあ…真白ちゃん的にはどんな感じ?」

「え?私ですか?そうですね……みんな娘とか息子っていう感じですね。みんな我が強くて無軌道になりがちだからしっかり見てないといけない感じというか。リーダーというか、まとめ役のはずの霧香さんも夏樹さんも好き勝手やるし、なんかもうこう……ほんと手がかかります」

「あはは、JC保育園の保育士さんみたいな。なんだか、バラバラに動こうとするみんなの襟首をつかまえている真白ちゃんが目に浮かぶようだよね」

「うー…なんだか、うれしいような、うれしくないような」

「いやいや、でも俺はそういう感じ凄く好きだぜ。さて、次のお便りです。ラジオネーム、楓さんこそ男の中の男さん……だったらうちに送ってくんな。えーっと……えー…これ読むの?答えるの?マジで?俺死ぬんじゃない?」

 朱莉さんが確認すると、ヘッドフォンからディレクターのゴーサインが聞こえる。

「…魔法少女一のおっぱいマイスター朱莉さんとしてはJCの中だったら誰が一番いいおっぱいだと思いますか……つか、これ二人への質問じゃ無いじゃん!」

「大きさで言ったら真白が一番だよな!そういえば先輩前に大きいの好きって言ってませんでした?」

「いや、好きだけどさ……なあ、やっぱりこの話やめない?まだ他にもメッセージあるしさ」

「いえ、続けましょう。むしろ朱莉さんがみんなをどういう目で見ているか知るのにいい機会だと思います!」

「えー……そうだねえ…うーん…じゃあ和希がいいかな。バランスいい感じするし」

「ちょ、やめてくださいよ先輩。キモいっすよぉ」

「なんだよぉ、時々一緒に寝たりすんだろー、今更嫌がるなよぉ」

「いやー!この人痴女だ!痴女です!助けておまわりさ~ん!」

「良いではないか、良いではないかー」

 そんなことを言いながらふざけ合いをする朱莉さんと和希の様子が……正直たまらない。

 やばい、なんだこれ。百合なのに薔薇とかどういうことだ。彩夏先生!彩夏先生ここです!

(真白ちゃん、鼻、鼻)

 私の隣りに座っていた構成作家さんがそう言って箱ティッシュを差し出してくれてはじめて気がついたが、ちょっと興奮しすぎて鼻血が出てしまっていたようだ。

 わかってる、わかっている。これは朱莉さんなりの大人の配慮だ。ここで和希と言っておけば他の子に白い目で見られることもないからそういう風に言ったんだろうし、その考えはわかるんだけど…でも、やっぱりちょっとだけ私を選んで欲しかった気もする。

「…さて、ベストおっぱいを堪能したところで次のお便り。朱莉姐さん、真白ちゃん、和希ちゃんこんばんは。はい、こんばんは。最近僕の所属しているサークルで、カップルが続々誕生していて、若干人間関係が面倒くさいことになっているのですが、三人がもしも仲間内で誰かと付き合うとしたら誰を選びますか……なんで面倒くさいことになっているのに、その面倒なことを聞いてくるんだこいつは」

「はいはーい!俺は真白!」

 そう言って手を上げながらまず和希が即答した。

即答されて嫌な気はしないし、むしろどちらかと言えば嬉しいけど、この子はなんでこんなに私の事が好きなんだろう。

「真白ちゃんは?」

「え?えーっと…JCの中ですか?」

 個人的にはここは朱莉さんと言ってアピールしたいので、一応確認をする。

「仲間内だから別にJCじゃなくてもいいんじゃない?関東関西東北…まあご当地は抜こうか。人数多くてややこしいから」

 きたー!ここだ!ここでアピールだ!

 よし、言うぞ。今こそ言うぞ!言ってやるぞ!

「そうですね…あ…あかりひゃんとか」

 失礼、噛みました。っていうか、なんでこんなところで噛んでしまうんだ私はぁぁぁっ!

「そっか、あかりちゃんか。まあ、それもいいかもしれないなあ……二人共頭いいからなんか知的なカップルになりそうだ」

「あ、いや、その違うんです!私が選ぶのはあか―」

「朱莉先輩は誰選びます?」

「そうだなぁ…柚那!っていうと、普通すぎるからなあ…ここはまた和希で」

「あはは、すみません。俺には真白という心に決めた人が」

「そんな寂しいこと言うなよぉ、触らせろよぉ」

「ぎゃー!痴女だーまた痴女がでたー!」

「良いではないか、良いではないかぁ」

「やーめーてー」

「……」

(真白ちゃん、鼻血鼻血)

 はっ、いかんいかん。



 そんなこんなで無事収録は終わり、打ち上げがてら三人で食事をして帰ってきた私は、なんとなくタマの部屋へ向かった。

「はいはい、もうそれ恋じゃないっすかー?」

 タマは面倒くさそうに棒読みでそう言うと、ベッドにゴロンと横になった。

「いや、ちょっとまって。なんで今の話から恋とかそんな話になるわけ?私は和希に遮られて朱莉さんにアタックできなかったのが不満だって話を―」

「いや、そこはもう完全に和希先輩が真白先輩に恋してるんだと思う。真白先輩は朱莉さんが好きだってことにうすうす気づいちゃったんじゃない?」

「え?いやいや、あの子はほら…恋っていうか、エッチなこと好きだからこう、私の体目当て的な感じだとおもうし、そもそもほら、万が一私が朱莉さんとうまくいったら、あかりちゃんのところに戻ればいいんだし」

「はあ…もともとあかり先輩が好きだったことからもわかるように、和希先輩の好みは貧乳。その貧乳好きが貧乳の代表とも言えるあかり先輩でもなく、微乳のみつき先輩でもなく、巨乳の真白先輩に告白したっていう時点で恋は始まっていた」

 いや、ドヤ顔してるけど、タマもみつきちゃんとたいして変わらないからな。

「それと、自信がないのか自信がありあまってるのか判断しかねるところではあるけど、真白先輩は全体的に失礼」

 タマはそこで一度言葉を切って大きく息を吸うと、キッと私を睨むように見ながら再び口を開いた。

「大体、和希が本気じゃないとかなんだとかいいつつ、自意識過剰にもしっかり防衛線を張っていたりとか、いやだいやだと言って和希先輩には何もさせずに逃げながらしっかりキープしつつ朱莉さんを狙っているところとか、それでいて和希先輩があかり先輩に未練あるみたいなこというと、勝手に傷ついたりしているのが、ものすごく気持ち悪い。っていうかゲスの極みでクズの極み」

「タ……」

「まだだ!そもそも真白先輩はその無駄に大きな胸を誇らしげに揺らしているが、そんなものが一体人生においてなんの役に立つというのか!確かに朱莉さんには有効だろうさ!そりゃあそうさ、男はみんなおっぱいが大好きさ!クソっ!なんなんだ真白先輩もクズ宮先輩も!つーかなんなんだ男子は!」

 ああ……なんか妙に突っかかってくると思ったら高橋君がらみかぁ…

 っていうか今ナチュラルにクズ宮って言ったな。

「ニヤニヤするなぁ!」

「痛だだだだだだ!人の胸を思いっきり掴まないで!ちょホント痛いっ…タマ!いいかげんにしなさい!」

「はっ…私は何を…」

「何をじゃないわよ…高橋君になに言われたのか知らないけど、人の胸の肉をちぎり取ろうとしないでよ」

「ごめんなさい…」

「正気に返ってくれたらな別にいいんだけど…というか、私もごめん。色々心配させちゃったね」

タマの言うとおり、確かに和希に対して失礼だったかもしれないっていうのはある。

 はっきり言ってしまえば和希と付き合った事情っていうのは、あの時の状況を説明するのが面倒くさかったのと、みつきちゃんへのあてつけだったわけで

「…後半は色々あって取り乱したけど、前半は本音だから」

 ゲスの極み、クズの極み。か…きついなあ。

「はぁ…そういうこと、本人に言うかなぁ」

 なんかちょっと涙出てきたぞ。

「ごめん。でも、真白先輩ならわかってくれるって思ってるから」

 さっきのセリフは勢いで言ってしまった部分が大きいのだろう。タマはシュンとした表情で肩を落として下を向いてしまった。

「ありがとね、今からちょっと和希と話してくる。それでその…」

「うん。骨は拾う」

 後のフォローを頼みたかっただけなんだけど、まあいいか。

「じゃあ、行ってくる…ね?」

 部屋を出ようと、私がドアノブに手をかけようとしたところで、ドアが勝手に外側に開き、そこには和希が立っていた。

「え…えーっと…」

 流石にまだ心の準備が完了していない私は、タマのにフォローしてほしいという視線を送るが、タマはビクッとした後で、手と首をフルに振って『無理無理!』というジェスチャーを返してきた。

「タマ、入っていいか?」

「え…いや、その…」

「いいな?」

「はい…」

 和希の語気に押されて、タマが小さく頷くと、和希はズカズカと部屋に入ってきてドアを閉めた。

「真白」

「は…はい」

「盗み聞きして悪いんだけど、話は聞いた。朱莉先輩のこと、マジなのか?」

「うん…ごめん。本当は最初に断るべきだったと思うんだけど、そういうことなんだ。あの時和希に告白しようとしていたのはみつきちゃんで、私が好きなのは朱莉さん」

「そうか…よし、じゃあ俺はお前と朱莉先輩を応援する!もちろん付き合ったままで」

「そうだよね、うん、別れ…は?今なんて言ったの?」

「だから、俺は真白の彼氏として、真白と朱莉先輩のことを応援するってば」

「……いやいやいや、おかしいから。…いい?もう一度説明するわよ。私は朱莉さんが好き。ここまでは大丈夫?」

「OK!」

「みつきちゃんは和希が好き。ここもOK?」

「OK!」

「それでなんで私と朱莉さんの応援するっていうことになるの?」

「俺が真白のことを好きだからだな」

「だな。じゃなくて、私は―」

「だって、真白は俺のこと嫌いじゃないだろ?だって、さっき俺があかりのことを特別な存在だって言った時にイラっとしてたし」

 和希はそう言って嬉しそうな顔で二ッと笑いながら人差し指で私の鼻をつついた。

「ぐ…」

 タマや和希に指摘されるまでもなく、確かに私はあの時あかりちゃんに対して嫉妬をしていた。

 というか和希のあれはわかってやっていたのか。だとしたら相当性格が悪いと思う。

 …いや、性格については私がどうこう言える話でもないか。私自身相当ひねくれている上に性格が悪いのだし。

「俺はキープでいいよ。んで、朱莉先輩がダメだったら真白は俺と一緒にいればいい」

「そんな馬鹿な話ないでしょ!だって、それじゃ―」

 私が最低な女みたいじゃないか。

「―そんな話、受けられない。もし万が一私が朱莉さんとうまく言った時、和希が…」

「いや、ほぼ間違いなく真白と朱莉先輩はうまくいかないから大丈夫」

「な……なんなの!?からかってるの?」

「…俺はさ、本気で頑張って死ぬ気でやっても、それでもどうにもならないことはあるんだって、知っているから。諦める気はなくても無理っぽいかなっていうのは何となく分かるんだよな」

 和希はそう言って、少しさみしそうな表情を浮かべて唇を噛んだ。

 多分今和希が言っているのはご両親のことだと思う。結局何が原因で和希の家族がああいうことになったのかは未だに…いや、もう本人たちが語ってくれることはないので、永遠に解明されることはないだろう。

「あ、だからってもちろん、遊び半分でとかそういうつもりはないんだぞ。俺は柚那さんにハメられたことについては、相当頭にきているし真白が朱莉さんとくっついて柚那さんの鼻をあかせるんだったら、それはそれでいいかなって思っているところもある。うまく行けば真白は幸せになれるんだしな。逆に、ダメだった時に、柚那さんが遊び半分でくっつけた俺達が、朱莉先輩と柚那さん以上に…いや、逆に柚那さんが羨ましがるくらいに幸せになって見せたら、それはそれで最高の復讐になるんじゃないかなって思ってさ。だから、真白は何も気にしなくていい。これは俺がやりたいことを勝手にやるだけなんだからさ」

「和希…」

 私は和希のことを弟のように思っていた。いや、そんな風に尊重してすらいなかったんだと思う。しかしそれは大きな間違いだった。

 柚那さんを恨んだり貶めたりしてやろう。そんな事ばかりを考えていた私よりも和希はずっと大人だ。幸せになることで見返してやる。幸せになるために努力する。簡単なようでいて、それはものすごく難しいことだ。

 結局私は、3月の時から変わることができていなくて、和希はそんな私よりもずっと大人だったのだ。

「ああ、あとついでに来宮な。もうあかりのことは別にいいけど、あいつも許せん。あいつにも俺達が幸せだっていうのを見せつけてやろうぜ」

「そうね……ねえ、和希。私からの提案なんだけど私達の幸せを見せつけるのとは別に、来宮さんの大事な人と、ある女の子をくっつけたら面白いと思わない?」

 来宮さんに対しては幸せをみせつけたところでどうってことない気がするので、他の手を打ちたい。それに、タマにも協力すると行ってしまった手前、何もしないということはできない。和希の天使のような考え方に比べると矮小で汚い考えだなと思うけど、約束は約束。一方的に反故にするわけにもいかない。

「高橋のことか?でもあんな筋肉ダルマ好きになる子いるうぇぇぇぃっ!」

 和希はセリフをすべて言い終わる前に、タマの見事な右ストレートで壁にたたきつけられた。

「筋肉ダルマは言いすぎだと思う」

「…いるんだな…そっか、そういえばタマも結構筋肉質だし、筋トレ大好きだもんな…よく見れば貼ってあるポスターもそっち系多いし」

 たたきつけられた拍子に壁にめり込んでしまっていた和希が、そんなことを言いながら穴から出てくる。

「まあ、俺としてはタマが高橋とくっついたほうが、あいつのためかなとも思うし、来宮に対しての鬱憤も晴らせるから応援したいけど、タマの気持ちはどうなんだ?高橋を来宮から奪いたいか?」

 和希の質問に、タマは大きく頷く。

「最近の来宮会長の彼に対する横暴は目に余る。ついでに彼女を会長の座から引きずりおろして、権力も奪いたいと思う」

 うーん…タマも意外に…まあ、色々やってやろうとしている私もタマの事は言えないんだけど。

「…あと、何もかもなくなったとわかった時の会長の絶望した顔を写真にとって眺めたい」

 そう言ってタマは私と和希がドン引きしてしまうようなくらいの笑顔を浮かべる。

 ……一体タマと来宮さんの間に何があったのだろう。

「ま、まあこれでタマも真白も同志ってわけだ」

「いや、だから同志って言うのはやめてってば!」


「…本当に良かったの?あんな条件」

 タマの部屋を出たあとで、私は和希に尋ねた。

 私と朱莉さんを応援して、ダメだったら私と付き合うなんて、どう考えても和希にとってプラスになることなんて無いと思ったからだ。

「ん?むしろ大歓迎」

「でもあれじゃ私にばっかり有利な条件で、和希にとっていい条件なんて一つもないでしょう」

「俺の部屋でちょっと話そうか…あ、もちろん変なことはしないから」

 そう言って、和希が自分の部屋のドアを見る。

「別にそんな風に疑ってないから、そんなことは言わなくていいよ」

 部屋に入ると和希はベッドに座り、私には椅子を勧めてきたが、なんとなく私は和希の隣に腰を下ろした。

「真白にとって有利な条件って言ってたけど、そんなに有利な条件か?」

「だって、朱莉さんにフラレても私だけ帰る場所があるなんて、そんなのおかしいじゃない。もしうまくいったら…うまくいかなくても、和希は結局私に利用されるだけなんだよ?」

「……例えば、真白は深雪のこと大好きじゃん。例えば深雪が誰かを好きになって、その相手が絶望的に可能性のない相手だったとしたらどうする?諦めろっていう?」

「……応援する」

「だよな。それでうまくいったとしても、うまくいかなかったとしても利用されたとは思わないだろ?」

「そりゃあ…」

 そうだけど。

「俺が真白を応援するのはそういう気持ちからだよ。で、朱莉先輩がダメだった時、真白が俺とちゃんと付き合ってくれたらいいなっていうのは、真白が『朱莉先輩と柚那さん別れないかなあ』って考えている気持ちと同じ」

「……でも結局私にだけ逃げ道が用意されているじゃない」

「逃げ道があることってそんなに悪いことか?」

「私にばっかり逃げ道があるのはフェアじゃない!」

「真面目なんだよなあ、真白は。じゃあ今回の関係者の中で、他の誰に逃げ道がないっていうんだ?」

「あ…朱莉さんとか」

「柚那さんでも真白でも選べる人がか?あの人は最悪どっちも振って第三者に行くって逃げ道もあるんだぞ。彩夏さんとか」

「……じゃあ、柚那さん」

「あの人結構モテるから、朱莉先輩と全く同じ。というか、あの人は逃げ道なんか必要ないだろ?振られてもその場で朱莉さんの背中におぶさってチョークスリーパーで無理心中とかしそうだし」

 和希はそう言って笑うが、想像したら全く笑えなかった。

「それじゃ私がモテないみたいじゃない。これでも私だって―」

「たとえ全然知らない男からモテるとか、他の誰かと付き合うっていう道があっても、その道を行っていいのかどうかでずーっと悩んでその場から動けなくなるのが真白」

「うっ…」

 和希の言うとおりになる自分が容易に想像できてしまって反論できない。

「だから俺が逃げ道を押し付けてやろうと思って」

「でも…」

「でもでも言うな。本当に俺の勝手な押し付けなんだから気にしなくていいんだって」

「ねえ、和希……一つだけ教えてほしいんだけど」

 和希の言っていることには何一つ納得していないけど、それ以上に意味の分からない、確認して置かなければいけないことがある。

「ん?」

「なんで私なの?あかりちゃんがダメでもみつきちゃんがいたし、実際あなたみつきちゃんの事、好きだったわよね?」

 少しだけ困った顔をした後で和希は少しため息まじりに笑って口を開く。

「まあ…そうなんだけど、真白と知り合う前の話だし、あの頃の俺は自分でもガキだったなって思うんだよな。たしかにみつきのことは大切だし、あかり…あかりは…まあ、ちょっと特別だけど、それでも今は本当に真白のことが好きなんだよ。それじゃだめか?」

「答えになってない!なんで私なのか教えてよ」

「そうだなあ…んじゃ、真白が俺と本気で付き合う気になったら教えてやるよ」

 和希はそう言って笑うと、私の手を引いて廊下に連れだし、自分はさっさと部屋に引っ込んでしまった。


みつき編はあんまり鬱にならない別展開を考え中

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