表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/809

つきは東に陽は西に 5

真帆にニアと夏樹の迎えを頼み、新しいセーフハウスでひなたの服を脱がせてベッドにうつ伏せに寝かせたこまちとセナは、彼女の背中の惨状を見て思わず息を呑んだ。

「…こりゃ私達じゃ駄目だ。セナ、柚那ちゃん来させるように都さんに連絡取って。あ、盗聴が怖いから携帯でね」

 こまちはセナにそう指示を出すと、ひなたをうつ伏せに寝かせてから、回復魔法を使いはじめるが、あまり回復魔法が得意ではないこまちの魔法では効果が薄い。。

「え?でもわざわざ柚那さんを呼ばなくても隣の国の事務所にある回復装置でも…」

「そうなんだけど、ひなたさんは嫌みたいだから…ですよね?」

「……だな。誰が敵かがよくわからんから隣の国に行ったから安心ってこともないし。みつきも取り替えさんとなんないし…痛っでぇ!何すんだよこまち」

「いや、なんかの破片が刺さってたんで抜いたんですけど。というか、なんで痛覚切らないんです?」

「…空港でお前らを待ってる時に血を止めるのにずーっと魔法使ってたせいで魔力がほぼゼロだからこれ以上やったら気絶する…って!何ふりかぶってんだよこまち!」

「いや、もうそれならいっそ気絶してもらって、魔力回復してもらったほうがいいかなって。ちなみにみつきちゃんを誘拐した犯人のヒントは無いんですか?」

「……例の教団だってよ。教祖が生きてたのか、誰かが継いだのかはわからんが、わざわざ俺の名前をご丁寧に呼んだ上で、みつきは返してもらうって言ってたから、まず間違いないだろう」

「なるほど。ちなみにひなたさん」

「ん?」

「前にするようにって私とか真帆ちゃんがアドバイスしたみつきちゃんとの親子関係の確認ってしました?」

 ニッコリと迫力のある笑顔で笑うこまちの笑顔に気圧されて、ひなたはバツが悪そうに目をそらす。

「してない…」

「はあ……だと思いました。じゃあ、私達が色々調べときますんで、ゆっくり寝ててください…ねっ!」

 こまちがそう言って力いっぱい背中を叩くと、ひなたは「うぐぅ…」と短く唸った後、激痛で気絶した。

「ったく、ヘタレが!」

 こまちはそう言ってひなたの血で濡れた手を振って血を払うと、途中で買たガーゼを取り出して、ひなたの背中にベタベタと適当に貼り始める。

「いや…ひなたさんの気持ちもわからなくは無いですよ。だって、ずっと愛する人との娘だと信じていた子がもしかしたらぜんぜん違う、それこそ憎んでいるくらいの相手と愛する人の子だったらって考えたら…」

「気持ちはわかるけどね。でも、あんな状態だった私を殺さないでこんな風にした男が…全くの他人だった私の事をあれだけ『信じてる』って言ってた男が、こんな小さなことでくよくよして、自分の娘を信じられなくなるかもしれないとか言っているのが許せない。…っていうか、ムカつく」

「なんだかんだ言って、ひなたさんのこと好きですよね、お姉さまって」

 セナの指摘にこまちは一瞬だけ表情を曇らせるが、すぐに諦めたような表情で「はいはい」と言って、肩をすくめておどけたような笑顔で笑う。

「まあ確かに好きだよ。でも寿ちゃんと精華さんとセナと橙子ちゃんと彩夏ちゃんと東北メンバー、そのあとに柚那ちゃんとか桜ちゃんとかがいて、ひなたさんはその次くらいかなあ」

「…はぁ、まだまだ下の方の順位ですね、私」

「え?」

「なんでもないです。来てもらうのは柚那さんだけでいいですか?」

「うん。ああ、あと例の教団に関係していそうな、この国で活動している企業とかNPOとかを調べてって伝えてもらえる?」

「わかりました」

 こまちの指示を聞いたセナはそう返事を返して部屋を出ていきかけたが「あっ」と短い声を上げて、こまちの方を振り返った。

「寝ているからって、ひなたさんに変なことしちゃダメですよ?」

「朱莉ちゃんじゃあるまいし、そんなことしないって」

 こまちからの返答に、セナは意味ありげな笑いを浮かべると「そうですか」と短く返して部屋を出て行った。




 ひなたが目を覚ましたのはこまちによって気絶させられてから30時間後のことだった。

 柚那の回復魔法によって全快とまではいかないまでも、傷はすべてふさがり、魔力も7割程度まで回復したひなたは、ベッドから起き上がるなり体を動かし始める。

「いやあ、すげえな回復魔法。俺もちょっと練習しようかな。なあ柚那」

 全力でラジオ体操をしながらそんなことを言うひなたに構うこともせず、柚那は今の今までひなたが寝ていたベッドへと潜りこむ。

「はいはい、良いんじゃないですかぁ…でも習うんだったら恋に習ってくださいねぇ…ふあぁ…私もう寝ますからあとはみんなと勝手にやってください。うわ、まだ温い、ひなたさんの体温で温いベッドとか気持ち悪…い…屈…辱…加齢臭…」

 ブチブチ文句を言いながらもあっという間に眠りに落ちた柚那に毛布をかけ直すと、ひなたは「ありがとな」と礼を言って部屋を出た。

「おお、理想の布陣。さすが都」

 隣の部屋へ移動したひなたは底にいるメンツを見回して、そう言ってやんややんやと手を叩く。

「あら、意外に早かったですね。さすが柚那さん」

 ニアはそう言って飲んでいたコーヒーをテーブルの上に置くと、リモコンで部屋の電気を消し、PCに接続されたプロジェクターを起動させ、手早く資料を表示させた。

「まあ、いつまでも寝てるわけにもいかないしな。こうして全員ここにいるっていうことは、調査は終わっているっていうことなんだよな?」

「もちろん。一日以上もあって、私とニアさんに集められない情報はないですからね」

 そう得意気に話す真帆の前職は詐欺師で、言葉巧みに人の心に潜り込み、相手から様々な情報を引き出す能力に長けている。

 ニアのようにITスキルが高いわけでも、ひなた達のような元捜査官のような聞き込みノウハウがあるわけでもないのに、ハッタリと口八丁だけで相手の懐に入り、見事に情報を一本釣りして戻ってくる。

ひなたは真帆のそのスキルを見込んで拾い上げ、情報屋として重宝していたのだが、ある時ミスをした真帆は酷い報復を受けた。そしてそれを再び拾い上げたのがひなたということもあり、口では色々言っていても真帆はひなたに対して大きな恩を感じている。

「それと、桜の方は柚那と交代で日本に送り返したので、日本に着き次第本格的な治療を始める予定です」

 情報技術に長けたニア、対人スキルに長けた真帆、戦闘に特化したこまちと比べるとやや見劣りをしてしまうが、真面目に仕事に取り組んでいる時の夏樹は、桜と同等かそれ以上の副官スキルがあるとひなたは見ている。

 トップには立てずとも、どこにいてもナンバー2になる。夏樹はそういう存在であり、様々な才能をもっているがゆえに無軌道になりがちなこういった急造チームでは、まとめ役として最も重宝される存在だ

 そんな三人に加えて、こういった作戦の時に戦闘担当としてもっともひなたが頼りにしているこまち、そしてそのこまちがこの半年間育ててきたセナという布陣は、まさにひなたのためのチームと言っても過言ではないだろう。

「この国のあらゆる監視カメラをハッキングした結果、桜さんとみつきちゃんは一緒にフカミインダストリに行ったことがわかっています。その後、桜さんが一人で車で出てきて…爆発と。そんな感じですね。その後、確認できる範囲ではみつきちゃんは工場の敷地から出てきていません。それと、どうやら工場内は独立したネットワークが敷かれているらしく外部からの侵入は物理的に不可です」

「それについてはこっちでも一応確認取れてます。搬入搬出のトラック運転手に確認したところ、最近見慣れない女の子を見かけると。それと、ちょっと気になるのが、どうもフカミインダストリは女性の幹部社員しかいないらしいんです。一応、作業員は男性も見かけるらしいんですが、彼らにはどうも生気がないというか、それだけなら仕事が嫌なんだろうとか色々考えられるんですが、あまりにも常軌を逸しているというか…」

 ニアの言葉を引き継いだ真帆はそこで少し言いづらそうに言葉を濁した。

「なんだ?」

「いや…その様子を見て日本人労働者はクレイジーだっていう話がちらほらと…なんか、こんなところでも日本人ってそんな印象なのかーと思って…」

「そっか…まあ、ブラック企業とか普通にそんなだもんな…」

「そういった状況を踏まえて考えた結果、おそらくフカミインダストリは魔―」

 そう言って状況を総括しようとした夏樹の言葉を途中で遮ってこまちが口を開く。

「まあ、考えるまでもなく魔法少女の巣窟なんだろうね」

「ええ、おそらく。何人の魔法少女がいるかわかりませんけど、ひなたさんにアレだけの傷をつけるような魔法少女がいるとしたら相当厄介ですよね。というか、そんな強力な魔法少女をどうやって集めたのか…もしかしたらアーニャさん達Dと同じような成り立ちの組織なのでしょうか。だとしたら少し戦いづらいです」

「――少女のそうくつ…ってなんで先に言っちゃうの!?」

 途中でセリフを遮られた夏樹が大きな声を上げながらこまちに詰め寄る。

「あ、ごめん。気づかなかった」

「酷いよぉ…」

「まあまあ、泣くな夏樹。それとな、セナ。若いお前は知らないだろうが、あの教団はそんな慈善事業をするような団体じゃねえよ……少なくとも俺の知っている教団はそういう組織ではなかった、だからどっからかさらってきたかなんかだろう」

「そうですか…」

「ただ、作業員に男も結構いるってことは、そっちは多分人間だろうな。純粋な人間はなるべく殺したり傷つけないように気をつけないと、色々まずい」

「でも、人間ならそもそも襲ってこないのではないでしょうか」

「いや、襲ってくると思う。桜が自爆した時に意識を乗っ取られていたから、おそらくマインドコントロール系の魔法を得意とする奴がいるんだろう。…というか、多分能力から言ってそのコントロールをしている魔法少女が教祖だ。それと、最悪のパターンとして、みつきが操られている可能性がある」

 ひなたの言葉に、全員が暗い表情で押し黙る。

 全快のひなたであれば問題なくみつきを抑えられるが、現在のひなたではそれは難しい。ひなたの代わりにこまちがそれをするとすれば、みつきを殺すつもりでいかなければならず、手違いがあれば本当にみつきを殺してしまう可能性すらあるし、夏樹やセナ、真帆にはそもそもそこまでの実力はない。

「…ただ、私が面会した時の桜は正気でしたから、時間か距離か、何らかの方法でコントロールを無効にすることはできると思います!大丈夫ですよ、みつきちゃんを連れてみんなで一緒に帰れますって!」

「いや、どうせ事件を解決しても俺だけ居残りなんだけどな。…でもま、サンキューな夏樹。お前の楽観主義のお陰でちょっと元気でたよ」

 そう言ってひなたは夏樹の頭をぐしゃぐしゃと少し乱暴に撫でまわす。

「ちょ、そうやってセット乱すのやめてくださいって昔から言っているじゃないですか!」

「いや、なんかこう、夏樹の髪って乱したくなるんだよな。なあ、こま―」

「……死ねばいいのに」

「…えっと、ごめん、なんだって?」

「え?別に何も言っていませんよ」

「そ、そうか?ならいいんだけど…」

「それで、どうしましょう。都からは『今回の作戦指揮はひなた!』と言われているので、決めていただかないと先に進まないのですけど」

 グダグダになりそうな雰囲気を察したニアが軌道修正してひなたに話を振り直す。

「……よし。変に時間を取って相手に俺達の戦力が知られるのも面白く無いから、今夜突入しよう。柚那とニアはここで待機。状況によって増援の要請を頼む。夏樹と真帆は脱出ルートの確保、こまちとセナは俺と一緒に突入だ。…すまんな、俺の問題に巻き込んで」

「何言ってるんですか。みつきちゃんはみんなの妹みたいなもんです。だからひなたさんだけの問題ってわけじゃないんですよ」

「そうですよ。この際、私達日本の魔法少女にケンカ売るってことがどういうことか教えて上げましょう」

 そう言って気炎を上げる夏樹とセナに、こまちが「おいおい」とツッコミを入れる

「そんな大々的に日本の魔法少女ここにありみたいなことはできないんだからほどほどにね。一応南アフリカ政府には黙認してもらってるけど、あくまで黙認してもらっているだけってこと忘れちゃダメだからね」

「はーい」

「わかってまーす」

 こまちの指摘に、二人はしょんぼりとしながらそう返事を返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ