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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔法少女狩り 5

関西からひなたさんと桜ちゃん、東北から精華さんが戻ってきたところで、ジェーンを加えて二回目の会議が開かれた。


「さて、じゃあひなたさん、精華さん報告をお願いします」

 

そう言いながら、今回も進行役兼書記に立候補した柚那がキュポっといい音を立ててマーカーの蓋を外す。


「じゃあ、こっちから報告するぜ」


 そう言ってまずひなたさんが手を挙げた。

「こっちはまず最も疑いが強かったイズモに対してヒアリングをしてきたんだが、結果はまあ…シロだな」


 ひなたさんがそう言って桜ちゃんに目くばせをすると、桜ちゃんが立ち上がって後を引き継いだ」


「イズモが夜一人で出かけていたのは内緒で元の家族に会いに行っていただけでした。もちろん会いに行くといっても直接会うのではなく、見守っているという程度なので、特に問題はありません。ついでにチアキさんを含む残りの魔法少女に対するヒアリングも行いましたが全員怪しいところはありませんでした。四国、九州については現在調査中ですが、そちらの線も薄そうです」


 沖縄は一応一人ご当地魔法少女が常駐しているが、その子はどちらかと言うと沖縄米軍基地付きの連絡将校といった感じで、こちらの情報を見る権限もそれほど高くないし、実力のランクも高くないので問題はないだろう。


 柚那はその報告を聞いて関西・中国・四国・九州OKとホワイトボードに書き込み、今度は精華さんに話を振った。


「東北・北海道はどうでした?」

「こっちは問題あり。容疑者だったこまちと寿が行方不明よ。どちらも呼び出した場所に現れず、その後連絡も取れなくなっているわ」

「え…と」


 聞いたことをそのまま板書できずに柚那は突っ立ったままだ。

 会議が始まる前に『どうせみんな潔白でひなたさんの勘違いでしたーってオチですよね』なんて言っていたから、柚那にとっては予想外の展開だったのだろう。


 それに加えて、最近友達の少ない柚那がまともに友達付き合いをしていた数少ない相手が、桜ちゃんとこまちちゃん、それに寿ちゃんの三人だ。

三人と仲良くなってから撮影の合間に柚那が会いに来なくなったのは少し寂しかったが、柚那が三人と笑顔で話をしているのを見かけたときは自分の事ではないとはいえ少し嬉しかった。

 そんな仲の良かった友人のうち二人が容疑者だと言われた柚那のショックは相当なものだろう。


「柚那、板書は俺が代わるからちょっと座って休め」


 幸い、俺の隣の席は桜ちゃんだ。立ち上がってちらりと桜ちゃんのほうを見ると、目が合った桜ちゃんは俺の考えを察してくれたのか軽くうなずいてくれた。


「現状、二人は容疑者とするべきだと思うわ」

「実際、その二人に話は聞けてないワケですよネ?それなのに最重要参考人っていうのは早計でショウ?もしかしたら、魔法少女狩りに狩られてしまったのかもしれませんヨ。それとも何か決定的なショウコでもあるんデスカ?」

「っ…それは…」

「調査不足デスね。二人を容疑者と言うならもう少し調査をしてこないとネ」

「な、なんで部外者のあなたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」

「oh…それを科学捜査先進国から来たワタシに言うんですカ?CSI見てないんですか?」


 あれを引き合いにだしちゃっていいのか?あの番組のせいで陪審員の判断基準がおかしくなって、状況証拠=悪って風潮が出来上がっちゃってほぼクロだった犯人が無罪になった事例もあるって聞いたけど。


「まあ、ジェーンの言う通りまだ調査不足っていうのは否めないな。二人が容疑者なのかそれとも被害者なのかはともかく、まずは見つけるのが先決だろう…悪かったな精華。こういうことに慣れていないのに捜査に借り出しちゃって」


 一触即発の精華さんとジェーンの間に割って入ったのはひなたさんだった。


「まったくだわ。こっちは素人だっていうのになんであんな責められるような言い方されなきゃいけないのよ」

「そうツンケンするなって。今度なんかおごるからさ」

「そんなの信じられない。ひなたはそうやってまた今度また今度って言っていつもはぐらかすんだから」

「じゃあ、今夜だ。今夜久しぶりに二人で飲みに行こう。な?」

「…ならいいけど」


 ひなたさんって、良くも悪くもいろんなことに場馴れしてるよなあ。



「あの女、マジで許せねえっすわ」

「桜ちゃん、キャラおかしいから」


 もう何度目になるだろう。ひなたさんと精華さんの二人が出かけてからずっと目がすわっている桜ちゃんをたしなめるのは。


「だって……なんすか、あのメンヘラ腐れビッ―」

「そういう悪口はやめなさいって」


 放送コードに引っかかりそうな悪口は癖になっちゃうから。


「でも、きっと今夜はあの二人帰ってこないっすよ。ひなたさんの貞操の危機っすよ」


 いや、どちらかというと精華さんの貞操の危機だろう。

ひなたさんって絶対場馴れしてるし。


「あれは精華さんがせがんだというよりひなたさんが誘った感じだから。それに、ジェーンと精華さんのあの雰囲気を何とかするにはあれが一番角が立たなかったんだからさ。なあ、柚那」

「そーですねー…」


 一方の柚那はソファーに体育座りをしたままの格好で、そのままこてんと横になり、そのままの姿勢でテレビを見ている。

 一応会議の後なだめすかしたり、イチャイチャしてみたりもしたが、何の効果もなかったのでしばらくそっとしておくことにしたのだ。

決して恋人を放置しているというわけではない。こういうとき、チアキさんならうまい具合に二人をなだめてくれるんだろうけど、俺にはムリだ。

 とりあえず俺は話題の転換を図るために桜ちゃんに話しかけた。


「そう言えば桜ちゃんって、ひなたさんとは長い付き合いなの?」

「私が警官になった時からなんで、かれこれ…10年近い付き合いですね。途中1年くらい会ってない期間がありますけど」


 やっぱりあの写真の婦人警官は桜ちゃんだったか。


「もともと私の上司だったんですけど、その…まあ会った翌日には深い仲に」

「早えよ!」


 いくらなんでも早すぎないか?職場だよな?合コンじゃないよな?


「いやあ、私の好みドストライクでカッコよかったんでつい酔いつぶして」


 しかも手を出したの桜ちゃんからかよ


「酔いつぶしたの!?」


 チアキさんや都さんの二大巨頭ほどじゃないにしてもひなたさんって結構お酒強いイメージなんだけど。ちなみに知ってる範囲で最弱は狂華さんでビールで吐く。

精華さんはマイペースで飲んでるし飲んでも顔色も変わらないわ、潰れたところもみたことがないわなのでよくわからない。

柚那は飲ませたことがないので計測不能。


「え?ひなたさんって言うほどお酒強くないでっすよ。まさかこっちの挑発に自信満々で乗ってきたのにショットグラス5杯で倒れるとは」

「ショットグラスってまた古典的な…お酒はウイスキーかなにか?」

「アブサンっす」

「君の肝臓もそれを出すお店もおかしいよ!?」


 確か度数が高いものだと80度とかある酒だろそれ。


「いいなあ、そういう二人だけの思い出、私も欲しいなあ。今度二人でやりましょうよ朱莉さん」

「いや、無理だから!っていうか、柚那は未成年だろうが」


 むしろこんな話題で復活していいのかお前は。


「でもそんな深い仲なんだったら、今も付き合ってるの?」

「あはは…それがその、魔法少女になってからは、ひなたさんが「せっかく人生やり直すんだから関係もリセットしよう」って言い出したんで関係は一回解消したんですよ。リセットしてもまたやり直せばいいだけなんで、それは別にいいかなと思ってるんですけど…今度はあの時みたいになかなか隙を見せてくれなくて。まあでも、時間の問題っすけどね」


 そう言ってフっと笑う桜ちゃんの目は獲物を前に舌なめずりする肉食獣のそれだった。

 逃げてー!ひなたさん超逃げてー!


「さすが師匠!そこに痺れる!憧れるぅ!」


 そう言って柚那が楽しげに腕を突き上げる。

 なるほど、柚那の闇は桜ちゃん仕込みだったのか。だとすればひなたさんは俺以上の恐怖にさらされているのだろうし、そう考えればひなたさんが、桜ちゃんとの関係をはっきりさせないのにも、なんとなく合点がいく。

 俺は柚那の事をよくわかっているつもりだし別に柚那との関係を後悔してはいないが、それでもたまに本気で怖くなって逃げたくなることもあるからな。


「押してばかりじゃ駄目デス。恋は駆け引きデスよー」


 風呂上がりのジェーンがそんなことを言いながらガウン一枚でリビングに現れた。

 まあ、なんというか…すごく、大きいです。


「そんなに押してばかりじゃひなたも朱莉もドン引きしちゃいマスよ。本妻はどーんと構えて旦那の帰りを待っていればいいんデス」


 冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぎつつ、胸をどーんと揺らしながらジェーンが言う。


「…まあ、みつき相手に負ける気はしないし。どーんとしていれば…でも朱莉さんって意外に押しとか流れに弱いから、押し続けてないとちょっと不安だし」


 柚那って何気に失礼だよな。


「だからみつきちゃんと俺は何でもないんだってば」

「じゃあ誰と何があったんですか?」

「誰とも何もないってば。二人きりでお風呂に入ったことがあるのだって柚那とみつきちゃんと」


 あ、ヤベ。


「と?」

「柚那とみつきちゃんだけだってば」

「と?」

「だから誰とも…近いって、柚那」

「…と?」


 顔と顔の距離がほんの数センチほどしか離れていないいちまで近寄って柚那が目を見開いて短く尋ねる。

 これはもう逃げおおせるのは不可能だろう。


「…狂華さんとチアキさんとひなたさん」


 個人的には全くやましいことはないし、二人で風呂に入ったからなんだというのかという感じなのだが、柚那は二人っきりでお風呂に入るということに何か異常なまでのこだわりを持っている。

なので、できれば誰と入ったとかそういう話はあまりしたくない。


「……セーフ」


 たっぷり間を開けた後で、柚那はそう言って胸の前で水平に腕を広げた。


「あ、セーフなんだ。よかった」

「柚那の心が広くてよかったデスね」

「あ、ああ」


 柚那の心が広いかどうかはともかくセーフだったのは本当によかった。これでアウトだったら、のぼせるまで柚那と一緒にお風呂という、罰ゲームなんだかご褒美なんだかわからないお仕置きが待っているところだ。


「ところで、柚那は朱莉、桜はひなたがステディなんデスよね?じゃあ精華はダレがステディなんですか?」

「今はひなたさんと朱莉さんっすよ」

「OH!FUTAMATA!」

「FUJIYAMAみたいなイントネーションで言うなって…いや、それより桜ちゃん。俺とひなたさんって何かの間違いじゃないの?ひなたさんはともかく俺はそんなモーションかけられた覚えはないんだけど…だから柚那はその包丁しまって」

「あの腐れマン―」

「だから柚那もやめなさい!ていうか桜ちゃん。精華さんの本命が俺とひなたさんってどういうことなんだ?」

「あの人の本命はひなたさんっす。で、朱莉さんはひなたさんというステーキの横に添えられたポテトのようなポジションでして」


 言いづらい話なのか、桜ちゃんははっきりと明言せずに遠まわしな言い回しをする。

 つまり大好物じゃないけど、ないと寂しいとか口直しがてら食べたいとかそう言うことなのだろうか。


「ごめん、よくわからないんだけど」

「ヒント、あの人の大好物はBLっす」

「なるほど理解した」


 ていうか、それヒントじゃなくて答えだから。


「ナルホド。精華とは仲良くできそうデスねー」


 ジェーンはそっち方面だったか!


「BLってなんです?」

「柚那は知らなくていいから」

「男同士の友情を超えた熱い愛情の物語デスよ!そうだ柚那!私の部屋に来てください!これから教育してあげます」


 真面目になにを言ってるんだこのアメリカ人。


「結構いいものっす、せっかくだからみんなでジェーンの部屋に行くっす」


 ……桜ちゃん、お前もか。


「え、ちょ…待ってジェーン…朱莉さーん助けてええええええ」


 柚那の声がドップラー効果を残すほどの勢いでジェーンは柚那を連れ去った。


「さて、じゃあ俺は部屋に戻ってもう寝ようかな」

「何言ってるっすか?みんなでって言ったじゃないっすか」


 部屋を出ていこうとした俺の襟首を桜ちゃんがむんずと掴む。


「……いや、ほら俺中身は男だし」

「だからこそ貴重な男性の意見が聞けるんでしょう?今度の本の参考にするっすから、朱莉さんも来てください」

「俺、そういう経験ないしそんなたいしたこと言えないと思うしさ」

「だったら、経験してみたらいいと思うっすよ」


 桜ちゃんは悪魔の笑顔でにっこりと笑い、普段の彼女からは考えられないような力で俺をジェーンの部屋まで引きずっていった。


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