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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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ベルゼビュート・ラプソディ3

 静佳を探しに出ることになり、三人がまずやってきたのは関東寮だった。

 寮の上階には、今でもDのメンバーが暮らしているし、その中には静佳から見て先輩にあたる、同じ星出身のアーニャもいるからだ。

「……なるほど、それは確かにマズいわね」

 タマの説明を受けたアーニャはそういった大きなため息をつきながら眠そうに眉間を抑えて唸る。

「ただ、そうは言っても、根拠は静佳の日記だけなわけよね?その日記自体が静佳の妄想っていうことはない?」

「どうだろう。ただ、静佳先輩は寮にいませんでした」

「それこそ、コンビニにでも行っているとか、井上くん?のところに泊まりに行っているとか」

「コンビニはともかく、お泊りっていうことになれば、護衛のタマに何も知らされないっていうことはないと思うのよね」

「まあ、それはたしかにね」

 アーニャは寿の言葉にうなずきはしたものの、いまいち乗り気ではないような態度で「うーん…」と唸っている。

「そこまでバカな子じゃないとは思うんだけどね。一応それなりに地頭が良くないと先遣隊には選抜されないはずだし」

「確かに静佳先輩は頭いいけれど…時々向こう見ずというか、食欲に忠実というか」

「まあ、彼女の性質を考えれば、食べ物には弱いんだろうけど。でもなあ…」

「アーニャちゃんはあんまり乗り気じゃないね」

「そりゃあ…だって私は元々アメリカ担当。しかも脱走兵。さらにそれだけじゃなくてこの国の担当主任は聖で、静佳は聖のチームのメンバー。つまり完全に私の管轄外。もっとぶっちゃけてしまえば、何かあって聖達が都の逆鱗に触れて送還なり、もう一度封印なりっていうことになっても関係ないといえば関係ないのよね。というか、むしろうちの子達を守ろうと思えば積極的に隠蔽工作に協力はできないっていうのが本音。まあ、聖はここに呼んであげるから話をきいてみたらどうかしら」

 そう言ってアーニャが空中に指先で円を描くと、円の範囲だけ違う風景が映し出される。そしてアーニャはおもむろにそこに腕を突っ込むと円の中から既に寝ていた聖を引きずり出し、背中を強く叩いて文字通り叩き起こした。

「じゃあ私は寝るから後はよろしくね、聖」

「ちょ…よろしくってなんですか先輩…私、もう眠い…」

 目をこすりながら聖があくび混じりに不満気な声を上げる。

「あなたはいつでも眠いし、ヘタすればいつでも寝ているでしょうが。とにかく事情は三人が話してくれるから協力してあげて」

「えー…」

「してあげなさい」

 そう言ってアーニャがひと睨みすると、聖はしぶしぶと言った様子で頷き、それを見たアーニャは満足そうに笑って部屋を出て行った。

「えーっと、確か東北のこまちと寿、それにJCのタマだっけ?それで、私は一体なにに協力すればいいの?」

「実は静佳先輩が行方不明なので、居場所を知りたいんです」

「は?行方不明ってなに?私達の力を抑えているブレスレットには追跡装置が付いているでしょ」

「それがその…」

「なるほど。朱莉たちには言えないことか」

 言いづらそうにしているタマを見て、聖は納得したように頷くと、ブレスレットの付いている右腕を差し出す。

「外して。今のままじゃ変身くらいはできるけど、ろくな魔法を使えないからね。外してくれたら魔法を使って静佳の居場所を探ってあげよう」

 聖はあっけらかんとそんなことを言うが、ブレスレットを外して、万が一ここで聖が変な気を起こしたらおそらくタマ達はひとたまりもない。

「そう。じゃあこの話はここまで。私寝るわー」

 あくび混じりにそう言うと、聖は出口に向かって歩き出す。

「待ってください…その…は、外します!」

「そうこなくちゃね」

 タマの言葉を聞いた聖はそう言って不敵な笑みを浮かべるとタマのところまで歩いてきて右腕を差し出した。

 差し出された手に巻かれているブレスレットにタマの手が触れると、ブレスレットは金具のところで綺麗に外れ、床に落ちる。

「おお、久しぶりのこのみなぎる感じ!」

 聖はそんなことを言いながら変身すると、腕全体を使って空中に大きな円を描く。

「はい、これでOKっと。流石に目の前に繋げちゃうと逃げちゃうだろうからね。このトンネルを通ってまっすぐ進めば静佳がいるから」

「このトンネルはどこにつながっているんですか?」

「さあね。静佳の魔力をトレースしただけだから場所はよくわからないや。でも静佳は魔力の封印をされたままなんでしょ?だったら移動系の魔法を使えないわけだからあなた達の住んでいるところの近所だと思うよ。だからここまできた分はちょっと無駄足だったかもしれないけど」

「いえ、ありがとうございます。こまちも寿もありがとう。ここからは一人で大丈夫だから」

「何言ってんの。ここまで付き合ったんだから最後まで付き合うよ。ねえ寿ちゃん」

「そうよ。私達が連れ回していたていうことだったら万が一門限破りがバレても、そうきつい罰にはならないと思うから、使えるものは使っときなさい」

「こまち…寿…ありがとう!」

「ん?ちょっとまって。そうなると、トンネルを閉じた後にこっちで私の魔力を封印する人がいなくなっちゃうんだけど」

「え?その封印って、腕に巻くとまた有効になるでしょ」

「いやそうだけどもさ」

「じゃあ、勝手に巻いておいてちょうだい」

 こまちと寿の言葉を聞いて聖は微妙な表情を浮かべる。

「……いやいや。それって、刑務所の前まで連れだしておいて、囚人に勝手に牢に帰れって言っているようなものだよ。それこそ私が脱走するかもしれないじゃん」

「だって、あなたそんな面倒なことしないでしょう」

「まあ確かにそんな面倒なことするよりここでダラダラ暮らしたほうが良いけど」

「じゃあ問題なし」

「問題なしって…朱莉といい都といい、変な子達だねえ…」

 聖は一瞬きょとんとした後で、クククっと声を噛み殺して笑う。

「タマちゃんさ、今度三人にこっちに顔出すように言っておいて」

「え?」

「定期面談しなきゃいけないんだけどこっちから出向くのが面倒でね。よろしく」

「わかりました。絶対三人揃ってこさせるようにします」

「ああ、それと…静佳の側に何かいるみたいだから気をつけて、一人は問題の井上くんだと思うんだけど、もう一人はちょっとわからないから油断しないで」

「わからないってどういうこと?」

「多分地球人じゃないけど、私達の仲間じゃないと思う」




 タマ達が聖と話をしているころ、静佳と和幸は公園内にある東屋で並んで座って星を見ていた。

「瓶居さんの星ってどのあたり?」

「地球から見てどのあたりというはちょっとわからない。そもそも今も星が残っているのかすらわからないし」

 そう言って少しさみしそうな顔をする静佳を見て、和幸は昨日の静佳の告白が嘘や冗談のたぐいではないことを改めて実感する。

「元いた星に帰りたいと思うことはある?」

「どうだろう…この星ってご飯が美味しいからあんまり思わないかも」

「瓶居さんらしいね」

 そう言って笑う和幸の顔を静佳がマジマジと見る。

「どうしたの?僕の顔になにかついてる?」

「ううん、改めて和幸って変な人だなと思って。怖くないの?宇宙人だよ?キャトルミューティレーションとかしちゃうよ」

「あれって確か宇宙人の仕業じゃないんでしょ?ああ…でも、食べちゃうっていう意味だと、確かに瓶居さんのイメージにぴったりかも」

「真面目に聞いて」

「聞いているよ。僕は瓶居さんのことを怖いとは思わない……というか、怖い人っていうなら、同じ地球人のほうがいっぱいいるような気がするしね」

「まあ…確かにそうかもしれない」

 静佳和幸の言葉にうなずきながら頭のなかで寿の顔を思い浮かべる。

 5月の時のことは仕方ないとわかっているし、寿とも和解しているが、それでもやはり徐々に自分の存在が消えていくという恐怖体験は、静佳にとってはトラウマになっている。

「さて、これからどこに行こうか」

「……」

 静佳の正体を知り、和幸自信の記憶が消される可能性や、勢いで正体を話してしまった静佳に今後訪れるだろう罰について聞いた和幸は自分から二人で家出することを提案し、実行した。

 平和主義を通り越して、もはや無抵抗主義なんじゃないかと思うくらい自分からもめごとを起こしたり誰かと喧嘩するイメージのなかった和幸の積極的な様子にのまれてしまった静佳は、ここまで和幸の言うがままについてきてしまったが、遅かれ早かれ誰かに見つかるだろうということは静佳自身が誰よりもわかっている。

「ねえ、和幸。帰ったほうがいいんじゃないかな」

「でも、そんなことしたら僕は君の正体を忘れてしまうんだろ?」

「そうだけど、それだけのことだから」

「それだけじゃなくて、君は転校させられてしまうかもしれない。転校なら良いけど……」

「でも、それは私の自業自得だから」

「だとしても、君は僕が守るよ」

 和幸はそう言って静佳を抱きしめた。

 と、その時。静佳の背中にゾクリとするような悪寒が走る。

「和幸。私のそばを離れないで」

 自分たちとも、地球の魔法少女とも違う気配に、静佳の全神経が脳に対して警戒を呼びかける。

「あなた、誰?」

 振り返った静佳の目に飛び込んできたのは龍の上顎をかたどった兜を被った少年だった。

「……お前を逮捕する」

 あたりを見回した後で、少年はそう言って手に持っていた槍を静佳に向ける。

「私は誰って聞いたはずなんだけど」

 静佳はそう答えて和幸をかばいながら一歩後ろに下がる。

「答える必要はない」

(変身しないよりはしたほうが少しはマシ……でも…)

 少年のプレッシャーに押されるように後ずさりながら静佳はチラリと和幸を見る。

(…見られたくない!)

 体中に口のあるあの姿を和幸がどう思うか。それを考えて静佳は変身を躊躇した。

 和幸が静佳を受け入れてくれているのは今の姿だからではないか。静佳の中に和幸を疑う気持ちがあるわけではないが、どうしてもそう考えてしまう。

(駄目だ。ここでこいつに捕まったら元も子もない)

 そう思い直した静佳は一度首を強く振ると、少年を睨みつける。

「和幸…ごめん。ちょっと目を瞑っていてほしい」

「え?」

「見られたくないんだ。変身した姿」

「大丈夫。変身なんかしなくていいよ……僕が守るから!」

 そう言って和幸は少年に向かって殴りかかるが、少年は槍を回転させると石突きで和幸をついて突進を止め、うずくまった和幸のシャツの襟に槍の柄を引っ掛けて静佳の足元に投げ返した

「和幸!大丈夫!?」

「はは……カッコ悪いなあ…」

「和幸はカッコ悪くなんかない」

(むしろカッコ悪いのは私だ。和幸を信用しないなんて、どうかしてた)

「和幸。恥ずかしいけど、見てほしい」

 そう言って変身をすると、静佳は和幸のほうを振り返る。

 その姿は5月の戦闘で東北チームのエースであるこまちを一人で追い込んだ時と同じ、マントの下は一糸まとわぬ、しかしエロチシズムとは無縁の姿だ。

「これが私。いつもの私と今の私で瓶居静佳だから」

「っ……!」

 静佳が振り返ると、和幸は口元を抑えて静佳から目をそらした。

(……そっか…そりゃあそうだよね…こんなの、気持ち悪いよね)

 和幸の態度にショックを受けながらも静佳は前を向く。

(忘れよう。和幸のことは。忘れてもらおう。私の事なんか)

「……それでどうするつもりだ?」

 変身をしたところで力の差は歴然。少年はそう言わなんばかりの態度でバカにしたように笑う。

「あなたに捕まるつもりはない。仲間が来るまで時間を稼がせてもらう」

 仲間など来ない。それは静佳自身が一番良くわかっていたが自信満々にいうことで自分を奮い立たせ、相手にプレッシャーを与えようとする。

(魔力を全部肉体強化に充てれば少しくらいなら)

 静佳はそう考えてすべての魔力を腕と足の強化に割り振って少年に飛びかかるが、速さだけで真っ直ぐな軌道の静佳の動きくらい、少年はお見通しだった。

 少年は先ほど和幸にしたのと同じように静佳のみぞおちめがけて石突きの側をつき出すが、静佳もそんな少年の動きを読んでいた。

 静佳は石突きがヒットする瞬間、身体を反らしてみぞおちの位置を動かし、腹部の一番大きな口で槍の柄にかぶりついた。

結果は相打ち。

静佳は槍の動きを止めることに成功するが腹の口に生えている歯が何本か欠け、少年は静佳の歯を何本か破壊したものの、槍を固定され、槍の柄にはヒビが入ってしまっている。

「なるほど、そういう狙いか。でも、それを破壊しても変身は解除されないよ」

 少年はそう言って薄く笑うと、あっさりと槍を手放して一旦距離を取り、何もないところから別の槍を取り出し、今度は穂先を静佳に向けて構える

「その口で、後何回受け止められるかな?」

「……」

 よしんば次を受け切れたとしても、その次は受けられない。静佳はそう見立てて深い溜息をつく。

 絶体絶命。

 その言葉が静佳の頭に浮かんだ時だった。

 一発の銃弾が、少年の足元に炸裂し、驚いた少年は後ろに飛び退く。

「人の恋路を邪魔する奴はぁっ!」

 そう言って静佳の横を走りぬけながら、こまちが二発、三発と発砲し、少年は襲い来る銃弾にたまらず後ろに二回三回と飛び退くが、その逃げる先にはタマが待ち構えていた。

「…クマに殴られて死ねばいいと思う」

 腰を落とし、脚の力と身体のひねりを加えた、タマ渾身の一撃が少年を襲う。

 着地寸前のところを狙われた少年は避けることもままならず、ガードもろくにできないまま、その一撃をくらい、何本かの木を巻き込みながら公園の奥へと吹っ飛んでいった。




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