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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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鳥籠姫

 空港へと向かう車の中、桜はムスッとしたまま外の景色を見ていた。

 車に乗って五分くらいはそんな桜の機嫌を取ろうとしていた運転席のひなたであったが、なにをしても期限が直らなさそうな桜の様子を見て、すぐにさじを投げてしまった。

 そして、ひなたがさじを投げてから約1時間。先に口を開いたのは桜だった。

「相馬さんはあの子に甘すぎっす」

 ふたりきりなのにあえて『相馬さん』と呼ぶときの桜はまだまだご機嫌斜めであることを長年の付き合いで知っているひなたは、心のなかで苦笑しながら桜のごきげんとりを再開することにした。

「確かに桜の言うとおり俺はみつきに甘いかもしれないけど、俺が一番甘やかしたいのはいつだって桜なんだぜ」

「……ただでさえ薄っぺらいセリフなのに、最近それすら下手になりましたね」

 とっておきのキメ顔で言ったセリフを、桜はひなたの方に顔すら向けずに一刀両断にした。

「そこまで言うか!?っていうか桜、お前柚那と付き合うようになってからすごく口が悪くなったよな」

「相馬さんも朱莉さんの軽薄さがうつってペラッペラじゃないっすか」

「そんなことないと否定出来ないのが辛い…まあ、それはさておき、あいつにあんまりきついこと言うなよ」

「わかってますよ。中学生相手にそんなにきついことは言いません」

 二人が空港に迎えに行く相手の名前は根津みつき。

 都からの連絡によれば、彼女は失恋のショックから家出を敢行。

 その際、酔っ払っていた朱莉から口八丁でキャッシュカードと暗証番号。それに多少の現金を巻き上げた。

 翌朝酔の覚めた朱莉からことの次第が明るみに出ると同時に彼女の捜索が行われたが時既に遅し。みつきはすでに出国したあとだった。その後の調査でキャッシュカードの履歴と空港の監視カメラから彼女の行き先がひなた達のいる南アフリカ共和国であることが判明、二人にみつきの保護要請がきたというわけだ。

 もちろんそれだけのことであれば桜だってここまで拗ねたりはしない。問題なのは、それを聞いたひなたのテンションが跳ね上がったことだ。

 そしてみつきがあえてこの南アフリカを選んだということにも桜は引っかかりを感じていた。

「みつきって相馬さんの何なんですか?朱莉さんとあかりちゃんじゃないですけど親戚?隠し子?」

「おいおい、ちょっと仲がいいくらいで隠し子疑惑を出されちゃたまったもんじゃないな。だいたい、その理論で俺が父親だとしたら母親は同じくらいみつきに甘いチアキになっちまうだろ」

「まあ…私は大人ですから、たとえそうだったとしても別に構いませんけど、そうじゃなくて、相馬さんが私に秘密を持っているっていうことが嫌なんですよ」

「みつきとの関係なぁ……」

「やっぱりいいづらいような関係なんですか?」

「別にそういうわけじゃないんだけどさ。お前が小学生か中学生くらいの時…地震のあった年に国内でテロがあったろ?地震もテロも政権が糞すぎて公安とか警察とか自衛隊の対応が遅れたやつ。当時の首相が『初めてなんでうまくできませでしたわ』とか言い放った」

「ああ…ありましたね、宗教がらみの爆弾事件…って言ってもその当時は私も子供だったんで、詳しくはあとから勉強しただけですけど」

「あれ、ガネさんの指示で俺が最初に内偵を担当した事件だったんだけどさ。そこでちょっと色々あってさ」

「……でもあれって結構前で…みつきはまだ14…あれ?15になったんでしたっけ?」

「まだ14だな。事件が大体16年前」

「じゃあ一体どういう関係なんです?その事件がどうみつきにつながるんですか?」

「みつきの乗っている便が着くまでまだ大分あるな。よし、ちょっとコーヒー飲もうぜ。そこで話すから。ただ、一つだけ先に言っておくぞ。絶対不機嫌になるな」

「……そういう風に言うってことは、私が不機嫌になるようなことなんですね」

「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。とりあえず、お代は聞く前に払ってくれよな」

「つまりコーヒーは私のおごりってことですか」

「先輩のありがたいお話の対価だ。安いもんだろ?」

 ひなたはそう言って笑いながら、近くのコーヒーショップの駐車場に車を入れた。



 潜入初日。教団施設を見て回っていた相馬陽太は、見知った…という程ではないが、見たことのある顔に出くわした。

「あれ?相馬くん?」

(マジかよ…)

 『初日にして潜入失敗』『輝かしいキャリアに傷が』などなど、様々な考えが陽太の頭のなかに浮かんでは消えていく。

(いや、まだだ。まだ俺が潜入捜査しているとバレたわけじゃない)

 陽太は一度首を振ってからそう思い直して女性の顔を見て誰だったか思い出そうとするが、いまいち誰だったか思い出せない。

「えーっと…確か中学が一緒だった…ような…」

「あ、覚えていてくれたんだ。そう、但馬だよ。但馬陽奈。10年位ぶりだね」

 名前を聞いて、陽太はやっと目の前の女性のプロフィールを思い出す。

 彼女、但馬陽奈は陽太と同じ歳で、中学二年、三年と同じクラスだった女性だ。そして、友人としての付き合いはなかったものの、ちょっとした因縁のあった相手であることを思い出した。

「……思い出した。紛らわしい字のやつだ」

「そうそう!何回か、プリント間違われたりしたよねえ。但馬と相馬って字が似ていたせいでさ」

 そう言って、陽奈は年の割には少し幼い笑顔で笑う。

「いや、あれはお前の字が汚すぎて間違われたんだろ」

 相馬と但馬、陽太と陽奈。似ているといえば似ているし、崩して書いてしまうと確かに紛らわしい。しかし、陽太は崩すことなくきっちりと相馬陽太と書いていたし、陽太のプリントが陽奈の方へいったことはない。逆に陽奈のプリントは良く陽太の方へ紛れ込んでいた。

「まあ、そんなこともあったかもしれないね」

 陽奈はそう言って照れたように笑う。

「でも、なんか奇遇だね。相馬くんって、あんまりこういう宗教とかそういうものにハマるようには見えなかったんだけど」

「お前…!…ちょっとこっちこい」

 陽太はヘラヘラ笑いながら人通りの多い往来で『宗教とか』などと言い放つ陽奈の腕を引っ張って人通りの少ないところまで引っ張っていく。

「……こういうところで、『宗教とか』なんて言ったらマズイだろ」

「大丈夫、大丈夫。そのへんの信者じゃあ、私をどうこうすることはできないから」

「それって一体どういうことだよ」

「この服、相馬くんのとか、そのへん歩いている人とは違うでしょ」

「ああ、確かにちょっと違うな」

 陽奈の言うとおり、彼女の着ている教団の衣装は、陽太の着ているものとは違い、刺繍やケープのようなものがついていて少し豪華だ。

「私、これでも教祖の第六夫人だから」

 陽奈はそう言って苦笑いのような笑顔で笑った。




「ふーーーーーーーーん」

「やっぱり拗ねて不機嫌になるんじゃんかよ…だから今まで話さなかったんだよ」

 いつもよりも長音の長い桜の『ふーん』を聞いて、ひなたが眉を顰める。

「別に、拗ねていませんし」

「いや、思いっきり拗ねてるじゃん」

「どうせあれでしょ、ひなたさんその女と寝たんでしょ」

「仕事で情報集める上ではよくあることだろ?お前と組んでいた時だってそう言うことあったし」

「あーそーですねー」

「……じゃあもうやめるか。俺は潜伏先で但馬陽奈と寝ました。はい、以上。おしまい」

「え…あ、いや。それはそれでちょっと気になるというかその…」

「じゃあもう話の腰を折るなよ」

「はーい……あとでたっぷり嫌味言ってやる」

「なんか言ったか?」

「なんでもありません。で、続きはどうなるんですか?」

「お前の言うとおりは俺は但馬陽奈と寝た。彼女は専用の離れを持っていたし、教祖には第30夫人までいたから、陽奈が教祖に呼ばれるのは、せいぜい月に一回くらいだしで、結構好きにできたんだよ。まあ……その夫人達の中には年端もいかないような子供もいたりしたんだけどな。それこそ当時の桜と同じくらいの子もいたんじゃないかな」

「胸糞の悪くなる話ですね」

 桜は険しい顔でそう言って、割れんばかりの力でコーヒーの入ったマグカップを強く握る。

「外から見たらな。まあ、こっちで育てば嫌悪感を抱く話だけど、それこそ生まれたときから教団で純粋培養されていたり、子供が教祖様の夫人になるなんて名誉なことだなんて思っている連中に育てられたりしているわけだから、本人たちはそんなに嫌がっているような様子はなかったかな。それが正しい反応かどうかはともかくとして、それだけが救いっちゃ救いだな。で、まあそんな夫人たちが教祖の寝室に入っていくのを見送ってから、俺は夜な夜な陽奈の離れにいくわけだ。一応警備はいたけど、所詮素人でな―」




「毎日思ってたけど、相変わらず身が軽いよね、相馬くん」

 ここ二週間、いつも使っている窓から陽太が入ってくると、陽奈はそう言ってたおやかに微笑んだ。

「相変わらずって言うほど、昔の俺のことを知らないだろう」

「そんなことないよ。弱小荒らしの相馬陽太って有名だったんだから」

 確かに陽太は中学時代特定の部活に所属せずに、あっちこっちの部活の助っ人をして回っていた。それは人数が足りないところだったり、なんとしても勝たなきゃいけない事情があるところだったりしたが、様々な部活を渡り歩いていたのは間違いない事実だ。

「そんな有名人だったか、俺」

「うん。有名だったし、それによく見かけたから」

「よく見かけた?」

「ほら、私吹奏楽部だったからいろんな部活の応援に行ってたのよ。それでバレーとか、野球とか、サッカーとか、あと…バスケなんかも出てなかった?バスケは人数が足りないわけでもなかったけど」

「ああ…確かに出てたな。でもあれはどうしても勝たなきゃいけない時だけだぞ」

「つまり、相馬くんは勝たなきゃいけない時にはいてくれなきゃいけない戦力だったってことだね。すごいすごい」

「褒めすぎだっつーの」

 そう言って陽太は照れ隠しに陽奈の額を軽く指で突いた。

「…さて、じゃあ今日もするか」

「むぅ…さすがにもうちょっとロマンを要求したいよ」

 陽太としては照れ隠しでわざとそっけなく、無神経な男を演じたのだが、陽奈はそれが気に食わないらしい。だが、陽太も一旦吐いたつばを飲むようなことはしたくない。

「ロマンがあってもなくても、することは変わらないだろ」

「………」

「そんな顔で睨んだってダメだ」

「………これでも?」

「これでも……ってお前、それは洒落にならんだろ!」

 陽太は陽奈が非常事態を知らせるブザーのレバーを握っているのを見て慌てて取り上げようとするが、陽奈はそんな陽太の手をかわしてみせる。

「ロマンー!わらわはロマンを要求するぞよ-」

 陽奈はそう言って笑いながら陽太の首に抱きつくと、そのまま彼をベッドへ引き倒した。

「えーっと…陽奈は今日もいい女だな」

「ペラッペラな上に感情がこもってない。やり直し」

 まさかの真顔でのダメ出しに陽太の顔がひきつる。

「厳しいな…まあ、その。なんだ…愛してるぞ!」

 半ばやけくそ気味にそう言って陽太が自分の唇で陽奈の唇を塞ぐ。

「70点。だけど、さっきのペラペラのセリフよりは全然いいよ」

「そりゃあよかった」

 そう言って笑いながら陽太は陽奈の耳から首、首から胸へと愛撫をしていく。

「ん……上手、だよね。相馬くんって」

「まあ、それなりに場数踏んでるからなぁ」

 陽太は自慢ではないが学生時代はモテたほうだ。当然そっちの経験値もそれなりには積んでいたし、仕事柄ヒューミントの一環として行うこともあるため普通の同年代よりは経験豊富だろう。

 ちなみに陽太は、今現在も決してモテない容姿というわけではないが、仕事柄出会いが少なく、ここ二年ほどは恋人のいない生活をしている。

「いい青春を送ってきたんだね…」

「まあ、クラスの男子に羨ましがられるくらいにはな」

「あ…んんっ…羨ましいなあ、相馬くんの彼女達…ねえ…相馬くん、そろそろ」

「ああ、いくぞ陽奈」


 

 陽奈の横で横になって天井を見上げながら、陽太はずっと気になっていたことを聞いてみることにした。

「なあ……陽奈ってここに来る前は何をしていたんだ?」

「学生だよ」

「理系か?薬学とか、電気とか」

「ううん、そういうんじゃないよ」

 陽太がそう尋ねたのは、小金沢から、この教団は火薬や薬品、それに機械などのスペシャリストを集めて幹部にし、テロを狙っているという話を聞かされていたからだ。

 しかしそれらに関係ないということならば、例え事件が起こっても、彼女はテロに加担したとは見られないだろう。陽太はそう考えて心のなかでホッとため息をついた。

「と…いうより、私って中卒なんだよね。私、卒業式の時、相馬くんにボタン貰ったんだけど、覚えてる?あのボタンを持ったままここに連れて来られて、そのまんま……合格してた高校も行かせてもらえなかったんだ」

 そう言ってベッドを抜けだすと、陽奈は「どこだったかな…」と言いながら引き出しを開けて中からひとつのボタンを取り出して陽太に見せた。

「あの頃、実は相馬くんのこと好きだったんだよ。ちっとも気づいてくれなかったけど」

「…じゃあお前、もうずいぶん長いこと…」

「あ…うん…10年近くだね」

 二週間の付き合いで、陽太は陽奈の言動や仕草、表情がやや幼いと感じていたが、おそらくそれは彼女が中学生を最後に外界と遮断されたことから来ている影響なのだろう。

「……陽奈」

「ごめん。気持ち悪いよね、こんなところで10年もあんな男に抱かれていた女にこんなこと言われるなんて。ごめん、忘れて」

 捜査、職業、これからのキャリア。それらを考えれば彼女に同情なんてするべきではない。それは陽太も十分にわかっている。

 だが、それでも。

「…辛かったな」

「……」

 上司である小金沢や同じ部隊の先輩達からは青臭いと笑われるかもしれない。

 それでも、陽太は陽奈の手をとった。

「陽奈。俺と一緒に外に出よう。全部…俺が何とかするから」

「なんとかって言ったって…無理だよ…絶対無理」

「絶対に無理なんてことはない。絶対に俺はお前をここから連れ出す。だから、今から俺の言うことをしっかり聞け」




「……まさか、正体を明かしたんじゃないですよね?」

「明かした」

「バカじゃないっすか?バカじゃないっすか?ていうか、そんなことするなんて間違いなくバカですよ!?」

 身を乗り出して、つばが飛びそうな勢いで桜が罵倒するが、ひなたは涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。

「いいだろ別に。そのお陰で陽奈が教祖から決行日を聞き出してくれたんだし、いよいよ決行っていうことで浮き足立っている隙を突いて脱出もできたんだから。で、一応前日には情報を本部の方に入れられたんだけど、さっきも言ったクソ政府のせいで対応が遅れちまってな。で、あとはお前も知っての通り、政治家にまかせちゃおけんていうんで、公安と陸自と警視庁が手を回して教団を解体したってわけだ。当時ペーペーで俺はそのへんよくわからないけど、ガネさんが詳しいから今度聞いてみるといい勉強になるかもな」

「興味はあるんですけど、小金沢さん苦手なんですよね」

「まあ、気持ちはわかる。あのおっさん、俺が俺だっていうことがわかっててもエロい目で見てくるからな…まあそれで、そんなこんなで教団を脱出できた陽奈は、戸籍を作りなおしたり、新たな戸籍を作ったり何だりして、俺と暮らし始めたわけなんだけどさ」

「…ってそれ、結婚じゃないっすか!?」

「だから最初にあった時に俺はちゃんとバツイチだって言っただろ…で、まあ。しばらくして陽奈の妊娠がわかったんだけど…」




「ごめんなさい…時期的にあなたの子か、教祖の子かわからないの…テロの実行前でその…教祖が異常に興奮していて…」

 もし万が一教祖の子だったとしても、陽太には陽奈を責める資格はない。

 国のため国民のためとはいえ、情報が得られるまで陽奈を教祖の元へと送り出していたのは他でもない陽太だからだ。

 しかも悪いことに、陽奈は何度か堕胎を経験しており、今回堕胎した場合、子宮の状態から、自然妊娠は難しくなる可能性が高いと言われてしまっている。

「ごめんなさい、あなたが別れたいと言うのであれば、私は受け入れます。

「いや……まあ…うーん…あのな、陽奈。そういうのはズルいと思う。例えばまあ…考えたくないが、お腹の子が奴の子供だったとして、でも半分は陽奈の子なわけだし、もちろん俺と陽奈の子っていう可能性も十分すぎるほどあるわけだ。なのに離婚がどうこうというのはちょっと早計じゃないか?」

「でも…」

「ごめん、俺の言い方もずるかった。俺は陽奈の夫だし、その子の父親だ。その覚悟はとっくに決めてある。安心しろ」

「相馬くん!」

 陽太の言葉に感激した陽奈が陽太に飛びつく。

「お前、そんないきなり動いたらお腹の子に障るだろ!っていうか、今はもうお前も相馬さんだからな。相馬くんはやめてくれ。陽太だ。陽太」

「陽太くんっ!」

「だからこっちが冷や汗かくから激しく動くのやめろ!」


 持ち前の性格から、お腹が大きくなってきてもバッと激しく動くことの多かった陽奈を陽太がフォローし続けて十月十日。二人の間には待望の女の子が生まれていた。

「この子の名前、どうすっか」

 陽太はそう言って娘の顔を指先でつんつんとつつく。

 もちろん、親になると決めた陽太は名前を必死で考えて考えて考え続けた。そして陽奈も考えて考えて考え続けた。

しかし、ふたりとも陽の字が入るから娘にも陽は入れようとか、はやりのハイセンスな名前にしようとか、入院前日まで揉めに揉めた結果、結局未だに決まっていないという体たらくだ。

「逆に、こういうのはどうかな。あなたという陽の光を浴びて、美しく輝くような子に育ってほしいから、美月」

「なんかそれだと七光っぽくないか?俺の光だなんて…そもそも俺の光なんて大したこと無いしな。その由来にするんだったら陽奈の光のほうがいい気がする。陽奈のように優しく美しく育って欲しいし」

「やだもう。なんでこんなところで惚気けるのよー」

「先に惚気けてきたのは陽奈の方だろー」

「キャッキャッキャ」

 惚気けあっている二人の楽しい雰囲気が伝わったのだろう。二人の娘も笑っている。

「むしろ、ひらがなでみつきはどうかしら。美しい月のようになってほしいっていうのはさっき言いたとおりなんだけど、それと同時に誰かに照らされて輝く月を、羨ましがったり妬んだりしないでまっすぐ観ることで、その輝き方を自分のものにすることができる子になってほしいっていう意味を込めて」

「いいんじゃないかな。みつき…お前はどうだ?」

 そう言って陽太が頬をつつくと、それがいいとばかりにみつきが嬉しそうに笑った。




「やっぱり隠し子じゃん!」

「別に隠してねえよ。親子だっていうことはみつきには言ってないけど、俺の戸籍謄本見ればばっちり載ってるし、みつきがその気になって自分で謄本みれば俺の名前も載っているもん…まあそれでも…みつきが「相馬陽太」をそうまひなたって読めるかどうか怪しいけどな…」

 少し前にみつきとメールをした時に一学期の成績を聞いていたひなたはそう言ってため息混じりに笑う。

「ああ…それは確かに…あれ?でもなんで二人は苗字が違うんです?」

「その後、文字通り隠し子にする必要が出てきちゃったからだよ」


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