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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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Pure white summer 4

 普段着に着替えてから朱莉さんの車で私と和希が連れて来られたのは、港が近いせいか交通量の割にやたらと広い道路に面した、おみやげ屋さんと食堂が一緒になっているようなお店だった。

「今日は俺のおごりだからふたりとも好きなもの頼んでいいよ」

「あ、いえ。自分の分は自分でちゃんと…」

「いいから奢られとけって。真白ってそういう所、ほんと可愛げないよなあ」

 朱莉さんの申し出をお断りしようとした私にそう言ってから和希は早速メニューを開いた。

確かに自分でもちょっと可愛げがないかなと思うけど、いつもいつも一緒に出かける度に朱莉さんに奢ってもらうのもちょっと気が引ける。

「別に可愛げがないとは思わないけど、これから二人にはちょっと手伝ってもらいたいことがあるから、しっかり英気を養ってもらいたいっていうのもあるんだ。だからこのくらい出させてもらえると俺の気が楽になるんだけど嫌かな?」

 そう言ってにっこり笑う朱莉さんの顔がかっこよくて素敵で私の頭はもはやちょっとしたパニックだ。

「じゃ、じゃあ私、今度の大会で優勝してお給料アップしたら、朱莉さんにおごりますっ!」

「お、おう…どうした真白ちゃん、なんか様子が変だけど熱でもあるのか?」

「ありませんっ!元気ですっ!」

 やめて!おでこに手なんか当てられたらますますおかしくなる!

「んー…まあ、熱はないか。具合が悪かったら無理はしないでね」

「はいっ」

「俺、海鮮丼とこの浜焼きセットってやつ」

「お、良さげだな。じゃあ俺は海鮮丼と生牡蠣…よし、どうせなら特大ってのにするか」

「あ、じゃあ私はこの浜焼きセットの定食で」

「あれ?真白って牡蠣好きじゃなかったっけ?頼まねえの?」

「いや、好きだけど…」

 さすがに奢ってもらう身の上で1000円オーバーのサブメニューは頼みづらい。

 朱莉さんはいいって言うかもしれないけど、多少稼いでいるとは言っても庶民感覚の抜け切らない私としてはそれを彼氏でも旦那さんでもない人に奢ってもらうというのはすごく申し訳ない。……って、朱莉さんが彼氏とか私ったら何考えてるんだろう。

「迷っているなら頼んじゃいなよ。俺も同じものを食べて感想言い合う相手がほしいし」

「え、い、いえ迷ってなんか」

「そう?なんか色々考えてるみたいな顔をしてるから」

「あ、じゃあ俺頼む」

「お前は本当に遠慮がないな。じゃあ牡蠣3つだな。もしお腹いっぱいになっちゃったら残った分は俺が食べるから、食べられる分だけたべて」

 そう言って朱莉さんは店員さんを呼ぶと、三人分の注文と、プラスしてもう一人分の注文をした。

「あ…ありがとうございます!」

「あはは、真白ちゃんは本当にいい子だよなあ。和希なんか最近はお礼も言わないし、あかりなんか当然のように高いものばっかり食べるし、みつきちゃんも遠慮なんてしないのに。真白ちゃんはJCチームの良心やで」

 や、やめて!そんな素敵な笑顔で頭を撫でないで!そんなことされたら、思わず口元がゆるんでしまう。

「まーた見境なく女の子に触ってるし」

 そう言って朱莉さんの後ろに立った彩夏さんがため息をつく。

「よう。早かったな彩夏ちゃん」

「高速使えば東京行くより早いっすからね。一応、ターゲットはもう見つけて、今はセナがつけてます」

「さすが。一人でこないあたり、ちゃんとわかってるよね」

「まあ、こっちが顔を知っているということは、向こうもこっちの顔を知っているっていうことですからね。そのくらいは用心しますよ。お陰でセナに色々せびられたんで、あとで補填よろしくです」

 そう言って、彩夏さんは朱莉さんの隣の席に座った。

「えっと、朱莉さん。あかりちゃん達が待っているのにここに彩夏さんがいるのって…」

「うん、実は真白ちゃんと和希に手伝ってもらいたいっていう事に関係があるんだ。ちょっと前に話したことがあると思うんだけど、都さんを人質にして狂華さんをおびき出して惚れちゃったっていう異星人の武蔵大和な。あいつが今日この街に来ているんだ。それで…」

「……いやいやいや。無理ですよ。和希はともかく、私なんかじゃ捕まえるのも倒すのも絶対無理ですからね」

 なんといっても相手は狂華さん朱莉さん彩夏さんの三人が揃っても撃退するのがやっとだったほどの相手だ。そんな化け物みたいなのを相手に、一女子中学生の私に何ができるというのだろうか。

「もちろん、そんな無茶をしろっていうわけじゃないんだ。二人に頼みたいのは偵察。どうやら、あいつらこの辺りでバカンスしてるらしくてな。しかもこの国の担当の奴らをほとんど集めてのバカンスだそうだから、向こうの戦力を把握するために接触してみようということになったんだ」

「いったいどこでそんな情報を仕入れたんですか?」

「番組宛に、武蔵大和からお便りが届いた」

「……えっと、それって、番組の最後にちらっと流れる、ご意見ご感想がどうのこうのっていうあれですか?」

 もう一つ、ラジオという線も考えられるけど、それだったら多分ラジオにって言うと思うので多分こっちだと思う。

「そう」

 私の予想はあたっていたらしく、朱莉さんはため息混じりにかばんの中から可愛らしい封筒を取り出して机の上に置いた。

「いいですか?」

「もちろん。ただ、ちょっと覚悟してから開いたほうがいいかもしれない」

「は…はぁ…」

 表現になにか問題があるのであれば、年齢制限とか18禁とか、意外とそういうことに厳しい朱莉さんがそのまま私に手紙を見せるとは思えないし、覚悟してからという意味がわからなかったが、開いてみてすぐに合点がいった。

 武蔵大和という人かららしい手紙に使われている便箋は、明らかに公式のものではない、狂華さんをデフォルメしたイラストが入った便箋で、しかもその便箋にはびっしりと狂華さんは元気か、なにをしているか、何を考えているのか、といった質問のようなことから、どれだけ自分が狂華さんを愛しているのか、狂華さんと結ばれたらどんな家庭を築きたいかなどがそれはもう細かい字でびっしりと書かれていたのだ。そして最後にもうひと押しとばかりに、今日この街で仲間たちと浜辺でバーベキューするから狂華さんもぜひ参加してほしいという旨が書かれていた。

「これは…」

「な?覚悟がいるだろ?しかもそれを読んだ狂華さんがちょっとノイローゼになっちゃってさ。今日なんかずっと布団にくるまって震えてるんだってよ」

「ああ…それで今日こっちに来ていないんですね」

 さきほど朱莉さんは、自分と狂華さんと彩夏さんが彼の顔を知っているので一緒に動いているというようなことを言っていた。それなのにこの合宿に狂華さんが不参加なのはなにか変だなと思っていたのだけれど、どうやらそういう事情らしい。

「俺が直接交渉…というか、狂華さんは来ないっていう話をしに行って気を引くから、二人は遠くからカメラで敵の写真を取ってくれ。ただ、彩夏ちゃんとセナには一般客の避難誘導を担当してもらうことになっていて、撮影は二人だけでやってもらうことになるから、くれぐれも気をつけて」

「質問なんだけど、なんで正規の人じゃなくて俺達なんです?俺達って一応見習い扱いですよね?」

「現場を離れられない人間以外で、二人が一番魔力の痕跡を消すのが上手いから」

「……」

「……」

 私と和希は思わず顔を見合わせた。

 別に朱莉さんに言われていることに心当たりがないわけではない。いや、むしろ心当たりはありまくりなのだけど、それを朱莉さんから指摘されたことが意外なのだ。

 私が転校してきてすぐ、夜泣きをしていた和希の魔力が異常に増大したことがあった。もちろん私もそれにはすぐ気がついたし、和希も必死でそれを抑えこみ、力が暴走して寮を破壊してしまうということは防いだのだが、そこで私は和希にひとつの技術を教えた。

 その技術というのは、以前お父さんに借りて読んだマンガで言うところの気のコントロール。要するに魔力を自分の意志で出したり隠したりコントロールすることが出来る技術だ。これは3月に一緒に特訓した時にこまちさんがこっそり教えてくれた技術で、セナさんにも教えていないと言っていた。

 さっきのあかりちゃんのように『最低賃金と出来高だけじゃ物足りない!』というわけではない私と和希にとって、報酬は二の次。一番の希望は現在いる学校、JCというチームにとどまるということだ。

 和希としてはあかりちゃんの側にいたい、私としては下手にご当地に復帰して田舎の学校で好奇の目にさらされるよりは同じ立場の子が沢山いて少しでも紛れることができる今の学校にいたい。そのためにはそれに適した実力でいることが大事ということで、手抜きをしている部分がないとはいえない。

 ちなみにこれは完全に余談だが、あかりちゃんが最低賃金で足りないのは柚那さんとか朝陽さんとか愛純さんと同じ所で服を買うからだと思う。大体あんまり似合……いや、これは個人の趣味の世界なのでやっぱり言うのはやめよう。

 ただ、私としては、服は近所のショッピングセンターに入っているブランドで十分だし、あかりちゃんも含め、年齢的にも容姿的にもその辺があっているんじゃないかなと思う。

「意外っていう顔しているけど、真白ちゃんも和希も決戦の時よりも明らかに手抜きしているんだもん。そりゃあ俺でも気付くよ。スキルの出元はこまちちゃんか、楓さんあたりかなと思うけど」

「…こまちさんです」

「じゃあ3月の時に習ったのか。隠しているなんて、人が悪いなあ真白ちゃんも」

「すみません…」

「あ、別に怒っているわけじゃないんだよ。ただ、ちゃんと実力を把握していないとこっちが指示ミスしちゃうかもしれないから気になっただけで。それに手を抜いているっていう意味だと、和希や真白ちゃんより彩夏ちゃんのほうが悪質だからね」

「思わぬところからキラーパスが!…私のはほら、サボっているというか裏技を封印してちゃんと攻略しているという感じじゃないですか」

「裏技も実力のうちだろ。というか、そろそろ真面目にやっておかないと、本気で手取り減るぞ」

「確かに例のトーナメントを本当にやるなら減っちゃいますよね…まあ、そうなったら誰かに養ってもらう方向で」

 彩夏さんはそう言って体を寄せて朱莉さんの肩に頭を載せるが、朱莉さんはその頭を押して彩夏さんを元の体勢に戻した

「彩夏ちゃんを養いたいっていう奴がいるならそれもいいかもな」

「酷っ!」

 酷いなんて言っているが、彩夏さんは笑っているし、朱莉さんもまんざらでもなさそうというか、楽しそうだ。これはチアキさんでなくても朱莉さんの浮気を疑ってしまう。

「怖い顔してどうしたの真白ちゃん」

「いえ…なんでもありません」

 朱莉さんは首をかしげているが、彩夏さんは『ははーん』という顔をしているので多分気づかれてしまったと思う。

「朱莉さん、ちょっと真白ちゃん借りますね」

「え?」

「おいで、真白ちゃん」

 彩夏ちゃんはそう言って立ち上がると、朱莉さんの返事を待たずに私の手を引いて飲食店部分を出ると、隣のおみやげものコーナーへと引っ張っていった。

「私もそんなに恋愛経験豊富っていうわけじゃないから、あんまり偉そうなことは言えないけど、やめておいたほうがいいと思うよ」

 彩夏さんは開口一番そう言うと、おみやげを見るふりをしながら、チラリと朱莉さん達のほうを見る。

「あ……はい」

「あ、これは別に女同士がダメだとか、真白ちゃんに魅力がないとか言っているわけじゃないんだよ。朱莉さんは適度にふざける相手としてはいいけど、本気になっちゃう子には向かないんだっていう話。っていうか、あの人の後ろの魔王はそういう領域に踏み込んでくる子には容赦しないんだよね」

 魔王。おそらく柚那さんのことだと思うけど、言い得て妙だなと思う。

「私なんかは朱莉さんが元男性とは言っても、基本的に女性には性的に興味がないから多少ふざけていてもなにも言われないけど、真白ちゃんとか、うちのセナとかはうかつに朱莉さんに近寄ると叩き潰されると思う」

 そう言って私を見る彩夏さんの目は、少し憐れみが含まれているように感じた。

「彩夏さんは、柚那さん派ですか」

「朱莉さんとは友達だけど、友達の恋人は他人だよ。それに真白ちゃんに味方するほどの情もないかな。まあ、巻き込まれたくないってことで無関係派」

「わかりやすくて助かります」

 これは本当にそう思う。

 ここで女子独特の世渡りスキルで『私は真白ちゃんの味方だからね』なんていわれてしまうと、味方の少ない私は彩夏さんを思い切り巻き込もうとしただろう。だけど、この件に関して無関係と言い切ってもらえていれば、変な期待をしたりその期待を裏切られたからといって落ち込んだりしないで済む。

「そうくるか。可愛くないね、君は」

「よく言われます。ちなみに、無関係な彩夏さんから客観的に見てどうですか?」

「真白ちゃん不利。というか、これはあくまで第三者として、関係者全員に面白おかしくダンスしてほしいっていう意味で、真白ちゃんの味方としてではなく助言をするんだけど、君はしばらく朱莉さんのそばを離れるか、最大限警戒した方がいい。昨日の味方は今日の敵だからね…さて、じゃあそろそろご飯が来るだろうし、戻ろうか」

 


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