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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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Pure white summer 3

翌日。

私達がチアキさんと尾形さんの監督の下、昨日と同じように海で遊んでいると、聞き覚えのあるエンジン音とともに朱莉さんがやってきた。

 私達はびっくりしたが、チアキさんと尾形さんとあかりちゃん。それに来宮さんは特に驚いたような顔をしていないので、四人はどうやら事前に知っていたようだ。

「遅いわよ」

「はいはい。すみませんね」

 チアキさんの言葉に朱莉さんはそう言って謝るが、その顔にはあまり悪いことをしたという反省の色は見えない。

「むしろチアキさんこそゲストがいるのになんで黙っていたんですか?」

 別にこれは朱莉さんに助け舟を出すつもりとかそういうことではない。単純に気になっただけだ。本当に点数稼ぎをしようとかそんなことを考えているわけじゃない。

「黙っていたのは私じゃないわよ。黙っていたのはあかりちゃん」

 チアキさんに言われてあかりちゃんを見ると、彼女はいつの間にか朱莉さんのとなりですごく誇らしげな顔をして胸を張っていた。

「みんな聞いて。秋に全魔法少女対象のトーナメント戦が行われるのは知っているよね」

「ああ、なんかそんなメール回ってきていたな」

「うん、あったあった、給料見直すとかなんか」

 和希とみつきちゃんがそう言いながらあかりちゃんの言葉に頷く。

「みんなも知っての通り、実力で給料から配置まで見直すっていうバトルトーナメントなんだけど、私達は立場上というか年齢上というか、色々な関係で配属が変わることはほぼないのね」

「それはそうだろうな。特に我や里穂、それに静佳は留学をしに来ているのだから、その我々や護衛たるJCのメンバーが変わるということはあるまい」

「そう。ただし、待遇は変わるわ。最低賃金+出来高となってしまうと。出撃の少なくなっている今現在、私達のお財布はとてもさみしくなってしまう」

 あかりちゃんは大げさな身振り手振りをつけながらそう言ってグッと拳を握った。

でもまあ、それでも衣食住ありで、税金も免除なんだから学生の私達にとっては十分と言えば十分なんだけど。

「そこで私は隊長としてコネで諸君らに特訓相手を用意しました!邑田朱莉さんです!」

 そう言ってあかりちゃんが改めて朱莉さんを紹介すると、朱莉さんはちょっと照れくさそうに会釈をしながら一歩前に出て口を開いた。

「あ、どうも。みなさんご存知邑田朱莉でございます」

 朱莉さんは緊張しているのか、なんだかセリフもぎこちない。

「なんというか、まあ…『チアキさんいるんだからJCチームの合宿に俺が参加しなくても良くね?』って思っていたんですけど、JCチームの統括なんだから行って来いと都さんと柚那に蹴りだされまして。チアキさんと二人でトレーニングを受け持つことになりました。よろしくお願いします」

 ちょっとやる気ないところも素敵だなあ。朱莉さん。

「あんたなんでそんないつにも増してやる気ないの?夏バテ?」

 チアキさんの質問に、朱莉さんは「うーん」と唸りながら口を開く。

「いや、それもあるんですけど、正直この子たちってあんまり特訓する必要がないんですよね。シングルのみつきちゃんと20位までに入る和希は言わずもがな、あかりもトップ30には入りますし、半年くらいちゃんと計測してないから、今の真白ちゃんがどのくらいの実力かわかりませんけど、決戦前にやったセナ達との特訓でかなり強くなったらしいじゃないですか。というか実際相当早く飛べるし、決戦の後も無傷で帰ってきてる」

「まあ、そうじゃなきゃ私も直掩隊には選ばなかったわね」

「あと、そういう意味では和希を瞬殺したえりちゃんも、まともじゃない精神状態とは言っても柚那と愛純と朝陽を向こうに回して一人で戦えてた里穂ちゃんも鍛える必要がない」

 一瞬なんでこの二人までと思ったが、そういえば、ルール規定では待遇の改変はないが『異星人組も参加したければOK』みたいなことが書いてあった気がする。

「…というか、ぶっちゃけこんなところでやらなくてもいいと思うし、海にきたら遊びたい」

「なるほど、朱莉は女子中学生の水着姿を舐めまわすように見たいと」

「そうは言いませんけど、せっかくの夏休みだし、いざとなったら和希の生活は俺が面倒見るし、みつきちゃんはチアキさんが見るでしょ?だから別に生活がかかっているわけじゃないんだし、学生組は夏休みを満喫したほうがいいんじゃないかなって。いくら優勝者は前と同じように都さんがお願いを聞いてくれるとは言っても……」

「本当ですかそれ!」

 私はそんな話聞いていないけど、それが本当だとしたら千載一遇のチャンスじゃないか。

「…え?どうしたの真白ちゃん」

「都さんがお願いを聞いてくれるって本当ですか?」

「っていっても、そんなに無茶苦茶なのは無理だと思うぞ。せいぜい前の大会で俺がしたような、みんなで温泉旅行に行きたいとか、楓さんがした誰かとデートしたいとかそのくらいで…」

「十分です!頑張ります!」

 それはつまり、朱莉さんと二人で温泉旅行に行けるっていうことなわけで、私は俄然やる気が出てきた。

「組み分けはどうするんですか?」

「二人組に別れてもらおうかな。さすがに俺とチアキさんだけで六人相手にするのはしんどいってことで、後からもう一人来ることになってるから、それぞれ三人組になるようにしよう」

 誰が来るんだろう。やっぱり柚那さんかな…ちょっとやだなあ…

「え?そんな話聞いてないけど誰が来るの?」

「あれ?言いませんでしたっけ?来るのは彩夏ちゃんです。ついでの用事もあるんで」

「……ねえ、朱莉」

「はい、なんです?」

「なんで最近そんなに彩夏と仲良いの?ここの所、あまり寮にも帰ってないでしょう?」

「ああ…まあ、最近は柚那よりも彩夏ちゃんと一緒にいる時間が長いかもしれないですね」

「大丈夫なの、それ」

「大丈夫っすよ。例の武蔵大和の顔を見たことがあるのが俺と彩夏ちゃん、それに狂華さんだけなんで、その関係で色々密に連絡とったり行動しているだけで、別にやましいことはないですから」

「ならいいんだけど」

 なるほど、朱莉さんは最近柚那さんとそれほど会っていないのか。となると、もしかしたら私にもチャンスがあるかもしれない。

「はーい、お兄ちゃん質問!」

「はい、みつきちゃん」

「彩夏より私とか和希のほうが強いんだけどそのへんどうなの?もちろん里穂やえりも彩夏より強いと思う」

「それはどうかな、彼女の場合、単純な力押しじゃないから、2対1でも負けるかもよ。特に今回みたいな生き死にのかからないような模擬戦ではね」

 確かに、セナさん達と一緒に特訓した時に、三人が口をそろえてそんなことを言っていた気がする。圧倒的な物量で押しつぶすとかでなければ油断ができないとか、戦術レベルの戦いだと、相当手強いとか。

三人の中でも彩夏さんのことは特にこまちさんが褒めていて、あまりに褒めるものだからそれを聞いていたセナさんがヤキモチを焼いてむくれたりしていたくらいだ。

「さて、じゃあチーム分けだけど…どうしようか」

「それなら今の部屋分けのままでいいんじゃないですか。和希と真白、えりとみつき、あかりと里穂っていう感じなんですけど」

「ああ、じゃあそれで行こうか」

 来宮さんの説明を聞いて朱莉さんが頷く。

「じゃあ受け持ちは……」

 そう言って全員の顔を見回して、朱莉さんがまず目をそらしたのはみつきちゃんとえりちゃんの組。それはそうだろう。私が朱莉さんの立場だったとして、そんなチートみたいなチームの特訓を『喜んでやりたい!』という気持ちにはならない。

「チアキさん、みつきちゃんのチームをお願いしていいですか?ふたりとも近接とか格闘が弱いし、できれは変身なしでユキリンと一緒にその辺メインで」

「わかったわ」

「あとは…真白ちゃんと和希は俺と組もうか」

「はい!よろこんで!」

(よっしゃあああ!)

 朱莉さんの言葉を聞いて、私は心のなかで叫びながらガッツポーズを取った。


「あかりとじゃなくていいんですか?先輩はあかりと組むのかなって勝手に思っていたんですけど」

 あかりちゃんと里穂に彩夏さんが到着するまで自由行動と指示をしてから私達のところにやってきた朱莉さんに和希が尋ねる。

「いや、あかりはともかく、里穂ちゃんが5月のことを根に持っているフシがあって、里穂ちゃん相手は非常にやりづらい」

 そういえばちょっと前に里穂がそんなことを言っていた気がする。たしか、不意打ちで負けたから納得していないとかなんとか。まあ、棚ぼたでも、消去法でも私としては朱莉さんと一緒に居られるなら厳しい訓練も辛くはないのでそういう細かいところはどうでもいい。

「まあ、そういうわけで今日と明日よろしくな。とりあえず…」

「はい!走りますか?筋トレしますか?」

 朱莉さんと一緒に居られるのがうれしくて、私はついつい食い気味になってしまうが、このくらいなら『やる気がある子』くらいに思ってもらえるはずなので大丈夫だと思う。

「…いや、とりあえずメシ食いに行こうか」

 朱莉さんはそう言って素敵な笑顔で笑った。


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