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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔法少女狩り 4

 当たり前と言えば当たり前だが、ユーラシアやアメリカの出撃事情を考えるまでもなく、魔法少女が海を超えて移動するときは一般人同様旅客機を利用する。

 そして、これもまた当たり前だが見知らぬ土地ではガイドが必要になる。一応魔法少女はナノマシンのおかげですべての言語を理解し、話すことができるが、ある程度地理の知識がないと地名などを聞いても意味不明なことが多いし、ある程度の位置がわかってなければ迷ってしまう。


 つまり俺がこうして貴重な休みをつぶされて、空港に人を迎えに来ているのは仕方がない事ということだ。


「二人とも休みの日につきあわせちゃってごめんな」


 空港の到着ロビーで俺と一緒にいるのはあかりとみつきちゃん。それに柚那だ。


「ちょっと朱莉さん、なんで私には労いの言葉がないんですか?それに二人だけアイス買ってもらってずるいです!」

「なぜ労いの言葉がないかと言えば俺とお前は仕事だからだ。それにお前は俺と組んでるんだから俺と同じだけ給料もらってるだろ。自分で買え、自分で」

「朱莉さんは恋人に冷たいと思います!」


 今日俺たちはアメリカからくる応援要員の出迎えにやってきている。つまり公務。仕事だ。


 ひなたさんと桜ちゃんはイズモちゃんが何をしているのかを結局つかめておらず、直接調査するために先ほど羽田から関西に飛んだ。

さらに精華さんもチアキさんとのミーティングのために新幹線で東北に飛んでいて不在。

 そんな状況なので、本来オフであかりとみつきちゃんと遊びに行く予定だった俺と柚那のスケジュールは見事に狂わされ、こうして羽田空港で益体もない時間を過ごしている。


「こうして人を待っている時間って本当に無駄だよな…」

「どんな時間であれ、過ごす人間によって時間の価値は無駄にも有意義にもなるものだ」


 後ろから声をかけられて振り返るとそこにはアメリカの連絡将校で、撮影パートでのクラスメイト、ジャンヌ・F・ケネディが大きなカートを引いて立っていた。


「お、どうしたんだジャンヌ。そんな大荷物を持って」

「例の捜査協力の応援に姉がくるのでね。連絡役も姉に任せて、私は長期休暇を取って、入れ替わりで一度ステイツに戻るのだ。まあ長期休暇とは言っても二週間ほどしたらまた戻ってくるのだけれど」

「そっか。じゃあ別に金輪際会えなくなるとかじゃないんだな」

「もともと私たちはそんなに頻繁に会っていたわけでもないだろう」


 そう言ってジャンヌが肩をすくめる。

 こういった別れのシーンでの感傷は日本人よりもアメリカ人のほうが激しいイメージだったが、ジャンヌを見る限りそうでもないようだ。


「何時のフライトなんだ?」

「姉が乗ってくる専用機で帰るから特に決まってはいないけど、整備が終わって滑走路の使用許可が下り次第かな」

「でも、パイロットの人も休憩が必要だろうしそんなにすぐに飛べるものなのか?」

「乗ってきているパイロットはひとりじゃないから大丈夫。給油と整備が終わればすぐに飛べる」

「専用機っていうとエアフォースワンみたいなすごいやつ?」

「あれは大統領専用機。今回私が乗るのはもっと小型のジェット機だよ」

「ガルフストリーム?」

「朱莉は相変わらず変な知識だけはあるな」


 呆れたような目で見ないで。ドラマで見て、大金持ちになったら買いたいなあと思って値段調べて撃沈したから覚えてただけなんだから。


「前にドラマで見たのを覚えていただけだよ」

「そうか……ああ、そうだ朱莉。何かアメリカで買ってきてほしいものがあればついでに買ってくるけど何かあるか?小花から色々頼まれているから一つ二つ増えたところで構わないぞ」

「あ、本当に?じゃあ後でリストをメールを送るから頼むよ」

「口頭で言ってくれればメモするけど?」

「いや、タイトルが多いから」

「タイトル?本か何か?」

「いや、好きなアニメの北米版BDをお願いしようと思って」

「……」


 ジャンヌはもちろん、柚那、それにあかりもみつきちゃんも黙り込み、ややあきれたような目で見てくる。


「そもそも、朱莉さんって、好きなアニメなら大体持っていますよね?なんで北米版なんですか?」

「英語版って気にならない?」

「なりませんよ!」

「柚那はどう?なにかあれば買ってくるけど」


 律儀にツッコんでくれる柚那と違い、ジャンヌはどうやら俺を無視する方向に舵を切ったようだ。


「あ、じゃあジャンヌさんの使ってる香水をお願いしたいです。確かそのブランドって本店がニューヨークでしたよね」

「了解。みつきと…そう言えばそっちの子は誰?」


 ジャンヌの視線の先をたどるまでもなく、彼女が訪ねているのはあかりの事だろう。


「俺の妹だよ。アメリカ側にも報告は行ってるだろ?」


 魔法少女の適合基準に満たない人間へのナノマシンの投与。それは世界で初めてのことで、さらに不完全ながらも魔法少女への変身もできるようになったあかりはちょっとした話題になった。


「ああ、あのイレギュラーの子。ふうん…」


 ジャンヌはそう言って興味深そうにあかりを見る。


「よろしく。ジャンヌ・F・ケネディだ」

「邑田あかりです。名前が同じで兄と紛らわしいと思いますが、よろしくお願いします」


 そう言ってあかりはジャンヌに差し出された手を笑顔で握った。


「えーっと…この子は本当に朱莉の妹か?」

「…社交性の話ならもう聞き飽きた」


 自分で言うのもなんだが、初日はガチガチで挨拶どころの話ではなかった俺に比べて、あかりのなんとしっかりしていることか。

 だが、だれが俺を責められるだろうか。

だって、考えてみてほしい。自分の好きなバラエティ番組があったとする。そこにある日いきなりポンと放り込まれて右も左もわからない状況できちんと挨拶をして、番組でもしっかりコメントして絡んでいく。そんなことができる人間がいるだろうか。いるかもしれないが、大多数はガチガチになってしまって身動きが取れなくなるだろう。

 ところがあかりは持ち前の社交性でそれをそつなくこなし、会う人会う人から高評価をいただいている。今のところノーコメントだったのは俺同様社交性が低めの精華さんくらいだ。


「あかりとみつきは何かほしいものある?」

「あ、いえ。私は…」

「遠慮しないでいい。柚那と同じでいい?みつきもそれでいい?」

「あーうん。三人でお揃いってちょっといいかも。それでお願い」

「了解」

「あ、でもその…私、お金が…」


 正規の魔法少女ではないあかりには給料がない。一応検診ついでにテストをした時にはアルバイト代が出るがそんなに多い金額ではない。


「いいよ、金は俺が出す。もちろんみつきちゃんと柚那の分も」

「ええっ?いいんですか?うーれーしーいー!」


 いくらなんでもわざとらしすぎだぞ、柚那。


「お兄ちゃんはわかってるなあ」


 別にいいけどお礼くらいは言おうね、みつきちゃん。


「…いいの?」

「いいよ。俺が死んじゃったことになっていたから誕生日プレゼントあげてないだろ」

「ありがと…」


 そう言ってあかりは少しムスッとした表情で俯いた。

 これは別にあかりが怒っているとか機嫌が悪いわけではなく照れ隠しなのだということを俺は長年の付き合いで知っている。

 長女は我慢するのが当たり前。自分でするのが当たり前。

そう育ってきたあかりは誰かに何かをしてもらうことがちょっと苦手だ。

 決して人に何かをしてもらうのがうれしくないわけではないのだが、その嬉しさよりも申し訳なさや照れが先に出てしまうという…まあ、なんだ。かわいいな。我が妹ながら。


「朱莉さん、朱莉さん」

「ん?」


 柚那に名前を呼ばれ、また鼻の下がどうこう言われるのかと思い慌てて口元を隠すが、どうやら今回は違ったらしくいきなり鼻をつままれることはなかった。、


「えっと、ついでっていうわけじゃないんですけど、せっかくだから香水だけじゃなくて小物もお揃いで持ったら私たちもっと仲良くできると思うんですよぉ」


 確かに女子ってお揃い好きだもんな。


「いいよ。ジャンヌに好きなものを頼みな」

「やった!みつき、あかりちゃん。ちょっとこっち来て」


 柚那はそう言って二人を少し離れたところまで連れていってスマホを取り出してああでもないこうでもないとやっている。


「女の子に甘いね」

「まあね」

「まあ、今すぐ払えとは言わないから、私がまた来る時までには用意しておいてくれよ」

「今日は遊びに行くつもりだったし、多少持ち合わせがあるから即金で大丈夫だぞ」

「だといいけど」


 結局合計金額が三人分で3000ドルをオーバーしたため、ジャンヌにはツケで買い物を頼むことになってしまった。

 

 

 

 

 

 ジャンヌと入れ替わりでやってきた姉のジェーンは、ジャンヌとはまた違ったタイプのアメリカ人だった。

 落ち着いて大人っぽい雰囲気のジャンヌとは全く違う、簡単に言ってしまえば、日本人が考える欧米人とでも言えばいいのだろうか。


「デスから、ワタシが超長距離射撃でマジックガールハンターを取っ捕まえてやったのデース!」


 今はこんな感じで、以前アメリカで見つかった最初の魔法少女狩りを捕まえた時の様子を、大げさな身振り手振りを加えながら話つつ、勝手にエキサイトして時々車の天井を叩いたりしている。


「あのジェーンさん、車壊れちゃいますからもう少しおとなしくしてもらえませんか?」


 隣に座ってしまったせいで先ほどからヘッドロックのような形でジェーンの小脇に抱えられてしまっている柚那がげんなりとした表情と声色で言うが、ジェーンは聞く耳を持たない。


「ですカラー、今回もワタシがズドーンと一発で仕留めてミセマース!」


 そう言って突き上げたジェーンの拳は車の屋根を突き破った。


「oh…日本の車ボディがペラペラデース…」

「ドイツ車だよ!」

「でもドイツで作ってないんデショウ?ワタシの国にこんなハナシがアリマース。チンキーが…」

「そういうジョークは面白くないからやめろって」


 彼女なりのアメリカンジョークのつもりなのかもしれないが、差別的な話は正直あまり面白くないし、小花ちゃんあたりに聞かれたらジャンヌのおかげで良好だった校内…というかうちの中での両国の関係がこじれかねない。


「oh…朱莉は共産主義者デシタカ」

「日本人は主義主張があんまりないのが美徳なんだよ。そもそも主義とかひいきの国とか関係なくアッセンブリされてる工場の品質が製造国でそこまで違うわけないだろ。もし品質が下がったならそれはメーカーの工場設計か生産管理が悪いんだ」

「うわー…マジメデスねー朱莉は」

「あんたが不真面目なだけだ」

「……差別はキライですカ?」

「ああ、大嫌いだよ。されたことがない人間にはわからないだろうけどな」

「…ワタシもされたことがないってワケではナイですけどネ」


 そう言ってジェーンは苦笑いを浮かべて視線を外に移した。


「あ、あの…ジェーンさんの魔法ってどういうものなんですか?」


 俺とジェーンの間の空気が悪くなったのをなんとかしようと思ったのだろう。あかりが話題の転換を図る。


「イロイロできますヨ。さっき言ったようにナノマシンを弾丸にして超長距離射撃することもできますし、変身なんかも得意デス。確かあかりはナノマシンの変形が得意なんデスよネ?」

「はい。ただ、私はナノマシンの割合の少ない半人前なんで役に立たないんですけど」

「そんなことないデース。さっき言ったナノマシンを弾丸にするのはそんなにナノマシン使いまセン。きっとあかりにもできマスよ。こう、弾丸をイメージしてポンと」

「えーっと…こうですか?」


 ポンという軽い破裂音がしたのでバックミラーで後部座席を見ると、あかりの手のひらには小さな弾丸が一つ乗っていた。


「hahaha…あんまり簡単にヤラレると自信なくしマスネー…」

「あかりって本当に器用っていうか、天才型だよねー。私そういうの苦手だから細かいところをあかりに教えてもらえたらいいのになー」

「うまく教える自信はないけど、今度一緒に練習してみよっか」


 そう言ってきゃっきゃと盛り上がる女子中学生二人。


「確かみつきは広範囲へのビームと接近戦で、柚那は拘束系、回復系が得意。朱莉は接近戦と中距離でよかったデスよね?」


 ジャンヌから話を聞いていたのか、アメリカのデータベースでも見たのか。ジェーンは俺たちの戦闘スタイルをスラスラと諳んじた。


「ああ。それであってる」

「そうデスカ。ワタシ、さっきも言ったように超長距離射撃が得意なので、戦闘中は後ろのほうで見ていたい派デス。頼りにして良いデス?」

「まあ、そのための迎えだからな。まあ、でも予報は出てないし、今日すぐにどうこうってことにはならないと思うけど」


 今のところ宇宙人の予報は出ていない。最近予報が外れることがあるので完全に安心はできないが、それでもやつらと、今日ドンパチする可能性は低いとみていいだろう。


「…そうデスカ?」


 ちらりと腕時計を見たジェーンが噛み殺したような笑いを浮かべながらそう言った。


「え?」

「本国から連絡が入りマシタ。敵性宇宙人襲来、時間は40分後、シナガワベイ。だそうデース」


 ジェーンがそう言った後、俺と柚那のケータイのアラームがけたたましくなり始めた。

 アラームメッセージの内容は今ジェーンが言ったのとまったく同じ内容。追加情報としてヘリでM-フィールドの発生装置を品川ふ頭へ移送中とのことだった。


「…この時間、ここからだと距離と時間がギリギリだな。みつきちゃん、悪いけど今回も手伝ってもらっていいかい?」

「もちろん!」

「私も行く!」


 みつきちゃんに続き、あかりも手を上げる。


「わかった。ただ、あかりはジェーンと一緒に後ろで隠れていて、俺たちが気付かないことで何か気付いたら教えてくれ。柚那!みつきちゃんが手伝ってくれるといっても、メインは俺とお前だ。頼りにしてるぜ」

「はい!」

「よし、じゃあさっさと片付けてジェーンの歓迎会やるぞ」


 俺の声に柚那とみつきちゃんとあかり。それにジェーンも拳を突き上げて天井の穴を増やしながら「おーっ!」と声を上げた。




 得意技は超長距離射撃などというからどれだけ離れるのだろうかと思っていたが、考えてみれば国内のM-フィールドの最大半径は最大のものでもせいぜいが半径数百メートル。俺たちが端っこで戦っていたとしても2、3百メートル程度離れたところはもう片方の端っこになるのだ。現在、ジェーンとあかりは俺たちの後方200Mの位置で変身だけして見ているがその必要もなかったかもしれない。


「なんかいつもと勝手が違うんだよな。妙に……弱い」


 柚那との絶妙なコンビネーションで敵を撃退しながら柚那に話しかける。


「そうですね。いつもより戦い易い気はしますけど」


 いつもの宇宙人は人間の常識を軽く飛び越えて、腕が伸びたり首が真後ろを向いたりするのだが、今日の戦闘員はそういったこともなく、あくまで人型の生物ができる範囲の動きをしてくる。それゆえに非常に戦いやすく当初三人でギリギリかと思われていた50人の戦闘員をほとんど二人で倒しきってしまった。

 思い返してみると、一番最初に俺達が戦った宇宙人がこんな感じだった気がする。


「さて、じゃあ後はあの怪人か」

「せっかく変身したのに全然戦えないのはつまらないから私にやらせて」

「んー…じゃあ、みつきちゃんにお願いしようかな」

「まかせて!」


 そう言って胸を叩いたみつきちゃんが力をため始めた次の瞬間、タンっと軽い音がして怪人の頭が吹き飛んだ。


「命中デース」


 この声、この口調。振り返るまでもなくやったのはジェーンだろう。超長距離射撃ができる腕があれば数百メートルの距離なんて問題にもならないはずだ。


「よくできまシタあかり。初めてでこれだけできれば上出来デース」


 えーと…なんか不吉な言葉がきこえたぞ。あかりがやったのかあれ。


「あの…朱莉さん」


 先に振り返った柚那が俺の衣装の袖を引っ張る。


「ちょっと待って。まだ心の準備が」

「ちょっとあかり!私が倒そうと思ってたのになんで先に倒しちゃうの!?大体なんであかりがそんなに強い攻撃できるのさ!」


 いち早く現状を受け入れ、頭の上からプンスコという擬音がでそうなくらい怒りながらみつきちゃんが振り返ってあかりに食って掛かる。

 みつきちゃんの言ったことは俺も思った。あかりのナノマシンは欠損している右腕分+α。全身をナノマシンで覆って変身をしてしまえばそれだけでナノマシンを使い切ってしまう。

それこそ先ほどのように弾丸を作り出すくらいはできるかもしれないが、銃身を作り出す余裕などないだろう。いや、あったとしても右腕なしの状態でスナイプするのは非常に困難なはずだ。


「それはデスねー、ワタシの体の一部をあかりに使ってもらったからデスヨー」


 俺があわてて心の準備を済ませて振り返った先には、膝をついて地面に座り、左腕が銃身の長いスナイパーライフルになっているジェーンと、ジェーンの左腕に顎を乗せ、スコープを覗いているあかりの姿だった。


「このコ、本当に天才かもしれないデスね。ちょっと教えただけでワタシのナノマシンに干渉してあっという間に銃を作り出しちゃいましたヨ」


 …いや、もうそれ天才とかっていうレベルじゃなくないか?


「半人前なんてとんでもないデス。立派に一人前の魔法少女デスよ」


 一人で戦うことが難しくても補助的な能力をつかって仲間をサポートすることができる存在。うちで言えば柚那や桜ちゃんのポジションだ。

 柚那は拘束や簡単な回復魔法を得意としていて、衛生兵のような存在。桜ちゃんは索敵、偵察、分析計の魔法を得意とする偵察兵。それに倣ってあかりの能力をあえて分類するとすれば、ナノマシンを調整するメカニックにでもなるのだろうか。


「ムダな力の使い方が多くてガス欠しがちなみつきは、あかりと組むことで力をセーブしながら長い時間戦えるようになるはず…デスね」


 ナノマシンの特性から考えて、最初からわかってたことだけど、ジェーンはわざと日本人の思う外国人ぽい口調で話しているだけだ。

しかしジェーンはあえてふざけているような口調で通そうとしている。これは彼女なりのサービス精神なのか、日本人をナメているのか。


「ジェーン。普段はともかく、まじめな話をしている時は普通にしゃべってくれないか?」

「Oh…そうね、ごめんなさい。キャラづくりをして良い時、悪い時があるものね」


 そう言って今までのふざけた外国人のキャラを脱ぎ捨てたジェーンは容姿も相まってジャンヌと話をしているような印象を受ける。


「ただ、マジメに話せというのであれば、こちらの質問にもマジメに答えてもらいましょうか。なぜあかりを戦力外のような扱いにしているのですか?仲間のナノマシンを状況に合わせてチューンナップできる能力。この能力を隠す理由は?」

「……」

「日本は秘密裏に力を蓄えて世界に喧嘩を売るつもりですか?WW2の時のように」

「ち、違う!…俺たちにはあかりの力は必要ないからだ。あかりが前線に出なくてもこの国は十分に戦力を持っている。あかりの熟練度を上げるってことはつまり日本の軍事力を強化することになる。だから俺たちはあかりの訓練も実戦への投入も考えてないんだ」


 嘘だ。あかりを実戦投入しないのは、俺がそうしたくないからだ。万年人手不足の俺たちからしてみれば戦える仲間は一人でも多いほうがいい。

 そう考えれば普通の魔法少女に比べて耐久力に不安の残るあかりであっても実戦投入するべきだという意見がないわけではない。

 それなのにあかりを実戦には参加させずにすんでいるのは。俺があかりの分まで倍働くという契約をしたからだ。


「こどもに頼らなくても俺たちは十分戦える」

「そのわりにみつきには頼っているようだけど」

「……」

「本当の理由は?」

「……」

「ここまできて隠し事ができると思わないで下さいね。日本には腹を切って話すという言葉があるのでしょう?私にも切って見せてください。隠し事をするのであれば本国に話を持って帰ります」


 腹を割るくらいならいいけど切るのは勘弁してほしい。とはいえ、そのくらいの覚悟をもって本当のことを話さなければジェーンは本気で本国にこの話を持って帰るだろう。


「…俺のワガママだよ。あかりが心配で心配でたまらないんだ、だから俺が倍働くっていうことで、上には目をつむってもらっている。本当だったらみつきちゃんにだって前に出てほしくなんかない。俺がこの子たちくらいのころは毎日遊び呆けてた、なのにこの子たちには遊ばずに世界の平和を守れなんてこと強要したくないんだ。…だから頼むジェーン。このことは秘密にしてくれ」


 そう言って下げた頭を上げると、今のいままでまじめに引き締まっていたジェーンの顔が先ほどまでと同じヘラヘラとした笑顔に変わり、いきなりキスをされた。


「ワカリました!本国はもちろんジャンヌにも黙っておきマス」

「本当か!?…ちなみに、元の口調に戻ってるのは、じつは約束をまじめに守る気がないとかそういうことの暗示じゃないよな?」

「シツレイしちゃいマース。これはもうまじめな話は終了っていうだけの話デスよ。…ワタシだってオネエチャンデス。朱莉の気持ち、解りマス」


 ジェーンはそう言って銃身に変えられていた左腕をもとの形にもどして変身を解いた。


「ただ、黙っている代償に朱莉には日本をあっちこっち案内してもらうデスから、覚悟しておいてくださいネ!」


 そう言ってウインクをするジェーンを見て、俺はなんとなく嫌な予感がした。


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