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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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彼方の日向 此方の暗闇 4

「相馬さん……私は…私は…」

「おい!しっかりしろ彼方!」

 陽太はこまちに駆け寄って一度抱きしめた後で、茫然自失になっているこまちの肩をつかんで揺さぶった。

「え…!?」

「誰かを助けたいんだろう?だったらこれを破って彼女の両腕と太ももを強く縛って止血しろ。俺は救急の手配をする」

 陽太はそう言って上着をこまちに渡して電話を取り出す。

「はい!」

 こまちがさよりのそばに駆け寄って止血を始めると、痛みのせいか、突入部隊がやってきて騒がしくなってきたせいか、さよりが薄く目を開いた。

「五十鈴…さん?あなた、怪我はない?」

「……ごめんなさい。躊躇なんてするべきじゃなかった。最初から全員殺しておけばよかった。作戦なんて無視してればよかった。そうすれば先生をこんな目に合わせなくて済んだのに」

「怖い事いっちゃだめよ…たとえFBIでもあなたは年頃の女の子なんだから」

 痛みに顔をゆがめながらも、さよりはそう言って精一杯こまちに微笑んで見せる。

「だから…私はFBIでもCIAでも…ないったら…それに、五十鈴って名前だって…」

 止血はしたはずだが、それでも彼女の傷からはじわじわと彼女の命が流れ落ち続け、必死で傷口を抑えているこまちの両目には涙が浮かんでいる。

「そう…だったわね……ねえ、私、あなたの本当の名前が知りたいわ。教えてくれる?」

「……彼方。阿知良彼方」

「きれいな、いい…名前ね」

「そんなことない、変な名前だって…よく、からかわれたし…」

「そんなことないわ。すごくきれいな名前よ…助けてくれてありがとう…かな…」

「いやぁぁぁぁっ!」

「落ち着け彼方」

「なんでもするから!私なんでもするから、これから先もあなたの言う通りなんでもするから!何もいらないから!この人を助けてよ!助けてよぉ…相馬さん…」

「……ごめん、ごめんな、彼方」

 陽太はそう言って子供のように泣きじゃくる彼方を強く抱きしめた。




 ――半年後。

「501、面会だ」

 食事を差し入れるときと同様、ドアの小窓から顔をのぞかせた刑務官がそういった後でドアを開ける。

「あれ?てっきり相馬さんかと思ったのに、相馬さんの相棒だけか。どうしたの?あんた私のこと怖がっていつもはドアの外で待っているのに」

 こまちでも彼方でもない、501に戻った彼女は、数か月ぶりの来客に少し喜びつつも、いつもと違う事態に首をかしげる。そんな彼女を佐倉梅子は憔悴しきった目でにらみつけながら距離を詰める。

「相馬さんが…陽太さんが死んだ」

「……はぁ?あの人が死ぬわけないだろ」

 半年前の事件の報酬として得たベッドの上で、半信半疑という言葉では信が多いくらいの気持ちで彼女が笑うと、梅子は彼女の襟首をつかんでベッドの上から引きずり下ろす。

「へらへら笑うな!」

「……」

 相馬陽太は彼女の件で負傷した後も数々の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の捜査官だ。その彼が死んだとは、彼女には到底信じられなかった。

「私だっていまだに信じられない!でも、死んだんだよ、三か月前に交通事故で!トラックとトラックの間に挟まれて、どこまでが体でどこまでが車かわからないような姿で!」

「だとしても……私には関係ないだろ」

 そう言って面白くなさそうにベッドに戻ろうとした彼女の背中を梅子は容赦なく足の裏で蹴った。

「関係ないかどうかは私が決める」

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。あたしが相馬さんを殺したとでもいうのか?ここから?そんなの魔法でも使わなきゃ無理だろ」

「あんたが直接殺してなくてもあんたの存在が彼を殺した可能性はある」

「はぁ?どういうことだよ」

「…これ、知ってる?」

 そう言って梅子が差し出したチラシの番組に彼女は見覚えがあった。

「魔法少女クロー…?ああ、見たことはないけどなんか最近よくCMが流れているやつだよな」

 半年前の事件で彼女が得たのは、自由に歩き回れる快適な部屋と最低限の家電。その家電の中にテレビも含まれているので、ここ半年くらいはもっぱらテレビばかり見ている生活だ。

「相馬さんが死んだあと、相馬さんの名前で私の家に送られてきたの」

「……まあ、相馬さんにそういう趣味があったとしてもそれはそれじゃないか。別にどんなテレビを見たって犯罪じゃないだろ?」

「そう。そこは問題じゃない。問題は、この番組は相馬さんが死んだ後に始まったということと、チラシの裏に相馬さんの字であんたの名前が書かれていたっていうことよ」

「いや、あたしそんなの知らないぞ。同姓同名じゃないの?」

 梅子にそう答えながら、同姓同名といえばその番組に相馬ひなたという女の子が出ていたなと、彼女はぼんやりと思い出した。

「残念ながら、この国で阿知良彼方なんていうご機嫌な名前はあんただけなのよ」

「ご機嫌とか言うな!でもな、えーっと…」

「佐倉よ、佐倉梅子」

「梅ちゃんさ」

「下の名前で呼ばないで」

「……佐倉ちゃんさ。たとえばこういう線はないか?相馬さんがあたしをつかってその魔法少女なんとかって番組を調べようとしていた。でもその前に相馬さんは殺さ…事故にあってしまった」

「そうね、それをしようとして殺された可能性は否めないわ」

「いやいやいや、だから事故だろ?」

「それをあなたと私で調べるの」

「だから、私は相馬さんが誰かに打ち殺されたとか斬り殺されたとかそういう話なら信じられないと思うけど、事故なんだろ?大体、私の連れ出し許可は相馬さんにしか下りないはずだし」

「後任の私にもその権限は引き継がれているわ。それに、相馬さんの行方不明の後、しばらくして赤路さよりも消えている」

「消えた?消えたってどういうことだよ!さよりは自力で動けるような体じゃないだろ?それにそんなことになったら家族だって黙ってないだろ!?」

 赤路さよりは一命はとりとめたものの、テロリストによってズタズタにされた彼女の手足は、肘と膝から先を切断せざるを得ないほどひどい状況だった。そして手足を切断して以来、彼女はずっと入院したままのはずだ。そんな彼女が一人でどこかに消えることなどできるわけがない。

「…彼女、身寄りがいなくて陽太さんが入院費を出していたのよ」

「は…はぁ?なんでそんなことを…」

「あの人なりの罪滅ぼしだったんだと思う。あんたや赤路さよりに対しての」

「………」

「阿知良彼方。私に協力しなさい。陽太さんは死んじゃったけど、私は彼の意志を守りたい。彼の意志が赤路さよりの面倒を見るということだったのなら、赤路さよりを見つけ出して、私がその意思を継ぐ」

「どこかで生きているかもしれないさよりを助け出すっていうことか?」

「そういうこと」

 そう言って梅子は彼女に手を差し出す。

「……みつけ出した後、さよりの面倒をみてくれるんだな?」

「あんたがちゃんと手伝うならね」

「交渉成立」

 彼女はそう言って梅子の手を握り返した。

 その後、相馬陽太と赤路さよりを追っていた二人は、相馬ひなたにたどり着き、紆余曲折をへて共に魔法少女となった。


 そして―


「…寿に話さなくていいの?」

 研修の合間の短い昼休み。日陰にあるベンチの後ろ側から背もたれに寄りかかるように腰かけた桜がこまちにそう尋ねる。

「んー?何が?」

 ベンチに座っているこまちはそう聞き返しながらパックの牛乳にささっているストローから口を離して、右手に持っていたあんパンにかじりつく

「あんたの正体」

「ああ…話さないほうがいいかなって思ってるんだよね」

「話せばいいじゃない。あの子と仲良くしたかったんでしょ?というか、自分の人生捨ててまで追っかけてきたんだし、名乗る権利くらいあると思うよ」

「うーん…でも、それをしちゃうと寿ちゃんは私に頼っちゃうと思うんだ」

「何言ってんのよ。今でも十分すぎるほどおせっかいを焼いているくせに。…あんたが寿のためにクラスメイトを蹴落とすから、全部一月遅れのうちのクラスに落ちてきて教室パンパンなんだからね」

「あはは。ごめんごめん」

 そう言って柔和な笑顔を浮かべるこまちを見て、桜は大きなため息をつく。

「ほんと、あんた丸くなったわよね。それに対して寿のほうはトゲトゲしているというか」

「寿ちゃんのあれね、私…っていうか、阿知良彼方のマネらしいよ」

「は?」

「ちなみに私のはさよりのマネね」

 そう言って、『にひっ』と声を上げて笑うこまちの笑顔には、たしかに特別囚だった頃の彼女の面影はない。

「はあ…私の負けか」

「え?私達何か勝負してたっけ?」

「いや、私たち同士の勝負というか、実は陽太さんと賭けをしていたんだ」

「賭け?」

「私はね、連続殺人犯である阿知良彼方は変われないと思っていた。あえて彼女っていうけど、彼女の境遇には同情する。でも彼女の心はもう取返しなんてつかないと思っていたし、阿知良彼方が社会性をもって人と接することができるようになるとは微塵も思ってなかった。でも陽太さんは最初からそれを信じてたんだよね」

「相馬さんが?まさかぁ」

「だから最初に素手であんたと向かい合ったし、魔法少女になって表向き死んだ後にわざわざ私にあんなヒントを送ってきたんでしょ」

「彼がそう言っていたの?」

「あの人はそういうこと口に出さないよ。ただ、あの人って好き放題やってるように見えて、実は人のこと考えてばっかりだからね。落ち込んでた私を奮い立たせて、結果的にあんたを更生させた。しかも私自身の手で更生させるっていう、こっちがぐうの音も出せない手段でね」

「…考えすぎじゃない?」

 ひなたが行き当たりばったり、アドリブ上等で生きているようにしか思えないこまちはそう言ってちらりと中庭に視線を向ける。

「…まあ、確かに考えすぎかもしれないけど」

 そう言って桜が眉をしかめる先には、一体何をやらかしたのか、涙目の精華に追いかけられているひなたがいた。

「さて、じゃあ精華さんをなだめすかして助けてあげようかな」

 そう言って一つ伸びをすると、桜は持っていた牛乳パックを投げて見事にゴミ箱に入れて見せる。

「おお、さすが元バスケ部」

「昔取った杵柄ってやつよ。それじゃあまたね、こまち」

「うん。また…あ、桜ちゃん」

「ん?」

「…直接言うのは恥ずかしいから相馬さんに伝言頼むわ」

 そう言ってこまちは最近見せる笑顔とは違う、ややワイルドでシニカルな笑顔を浮かべた。

「お、久しぶりの彼方モードじゃん」

「ありがとう、感謝してる。ってさ」

「ん、伝えとく」

「よろしく」

 そう言ってハイタッチをすると、桜とこまちは日陰から出てそれぞれの目的に向かって歩き出した。






ひなたとこまちの話に見せかけたことこまのお話。

最後ちょっと駆け足になってしまった。反省。


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