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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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彼方の日向 此方の暗闇 3

 こまちは慎重に様子をうかがいながら歩くさよりの後ろを特に警戒することもなく歩く。

「先生、一体どこに行くつもりなんです?」

「え…?どこにって、出口に向かうつもりだけど」

「……出口はあっちです」

 こまちは何の迷いもなく階段を上がるさよりを見て、『こいつまさかテロリストに挑むつもりじゃないだろうな』と心配したが、その心配はなかったようだ。

「え!?」

「え!?じゃなくて。もしかして先生って方向音痴なんですか?」

「ち、違うわよ。ただこの校舎が入り組んでいるからちょっと迷っただけで」

 確かに、この学校は要人の子女が通う学校ということでテロ対策として内部が多少入り組んだつくりになっているが、とはいえさすがに今いる位置から階段を上がる必要はないことくらいはわかりそうなものだ。

「ちなみに五十鈴さん、出口は…」

「あっちです。降りて左に行って突き当りを右」

「ありがとう…って、五十鈴さんは行かないの?」

「あー、私忘れ物があるんで。ちょっと自分の教室に行かないと」

「だめよ、危ないわ!」

「いや、まあ確かに危ないんですけどね。私の命よりも大事なものを忘れちゃったものですから」

「命より大切なもの?」

「おじいさまの形見です」

 設定上のおじいさまは生きているし、実際の祖父のものだったとしても別に形見なんていうものに感傷はないが、こまちの中のお嬢様というのはこういうのを大事にするイメージだ。

「……わかった。じゃあ怖いけど先生も一緒に行くわ」

「いや、来なくていいよ」

 こまちは予想してなかったさよりの言葉に思わず素で即答してしまった。

「え?」

「ああ…もういいや。はっきり言っちゃえば先生邪魔だからさっさと帰って」

「ひどいっ」

「ひどくねえよ。前を歩かせれば迷って変なところに連れていかれそうになるし、逃げてきたくせに一緒に戻るとかいうし、あんた一体何なんだよ。邪魔だから帰れよ」

 素を出したことで開き直ったこまちは、そう言ってさよりの肩を軽く突いた。

「そういう五十鈴さんこそ…はっ!あなたってもしかしてFBIなんじゃ」

「……もしかしてCIAって言いたかった?」

「あ……」

 どうやらこまちの指摘は正解だったようで、さよりは顔を赤くしてうつむいた。

「少なくともCIAじゃないよ。もちろんFBIでもないし。というか、両方とも日本のこんな事件に首を突っ込むようなことはしないって」

 陽太が時折差し入れてくれる彼好みの海外ドラマを見ていたおかげでこまちは同年代の女子よりはFBIやらCIAやらに詳しい。

「先生がどう思おうと勝手だけど、私はこの学校の1生徒で、忘れ物を取りに行きたいだけなの。取ったらすぐにでるから先生は先に出てて」

「でも……」

「いいから早く出てけって!そこを下りて左行って右だから」

「…」

「行かないとぶちますよ」

 そういってこまちがこぶしを振り上げると、さよりはしぶしぶといった様子で階段を下りて行った。



……

「激しく夏樹さんの匂いがする」

 彩夏はそういって自分の前においてあった麦茶を一口飲んだ。

「私の予想では赤路さよりは、夏樹さんかなと思うんですけど、どうですか?」

「…ああ、それは今まで気が付かなかったなあ。確かに公安がらみの事件っていうのはあるし、言われてみれば夏樹ちゃんぽい気もするね。でもはずれ」

「はずれかあ…」

 ドヤ顔で言った自信のあった予想が外れていたことにがっかりして彩夏は少し肩を落とす。

「微妙にしょぼい感じが夏樹さんぽいなあと思ったんだけど」

「あんまりそういうこと言わないほうがいいよ」

 そういって苦笑するこまちの前に、寿が皿いっぱいの豚キムチを置いた。

「はいはい、仲がいいのは結構だけど、せっか作った料理が冷めちゃうから続きはご飯を食べながらにして。彩夏が好きだっていうからいっぱいつくったのよ。たくさん食べてね」

 そういって笑う寿の表情にこまちと仲良くしている自分に対する嫉妬なのか、それとも、自分と仲良くしているこまちに対する嫉妬なのか、どちらなのかはわからないが、なにか凄みのようなもの感じ取って、彩夏は背筋がゾクッと冷たくなるのを感じた。




……

 さよりと別れたこまちは、空き教室で陽太たちと突入開始時刻などの最終確認をしたあとで通信機を壊した。

 これは通信機が発見されることによってこまちが公安ないしは自衛隊の人間だとテロリストに悟られないためである。

「さて、んじゃまあ行きますか」

 そういって伸びをすると、こまちは今いる階の上を目指して歩き出す。

「だれかいませんかー?すみませーん」

 何も知らない、取り残された一般生徒を演じて。

 ほどなくして、上の階からのっぽと小太りの二人の男がこまちを探して降りてきた。

「なんだ、また逃げ遅れか?おい、どうする?」

「この学校の制服着ているってことはそれなりにいいとこのお嬢様だろ。あの女と違って金になるだろうから連れてこうぜ」

 二人の男はそういって手に持っていたマシンガンを肩にかけなおすと、両側から挟み込むようにしてこまちの両腕をとった。

「ええと、どういうことでしょうか?」

「嬢ちゃん、あんたは俺たちにつかまって身代金のための人質になるんだよ」

 のっぽのほうがそういって気持ちの悪い笑いを浮かべる。

「なに、おとなしくしてれば何にもしねえよ。まあ、暴れたらその限りじゃないがな」

 小太りのほうはそういって人差し指でこまちの胸をつつく。

(ま、脱がせた時があんたたちの最後だけどね)

 段取りを壊してしまうのは申し訳ないが、こまちはもう誰かに自分の体を好きにさせる気はない。もしもテロリストがそういう気を起こしたらたとえ全員を殺せなくてもこまちはテロリストを殺しにかかるつもりだ。

 そんなことを考えて、心の中で嘆息しながらも、こまちは小さく震えながら怖がるふりを続ける。

「はっはっは。かわいいねえ。よし、連れてくぞ」

 こまちが二人に連れられてきた人質部屋の中には資料で見た三人の人質と、なぜか外に出たはずの赤路さよりがいた。

「………いやいや」

 思わず罵詈雑言が口を突いて出そうになるのを飲み込んでからこまちは首を振って自分を落ち着かせる。

「どうした嬢ちゃん」

「いえ、なんでもありませんわ、おほほほほ」

 あまりのことにキャラ崩壊を起こしながらも、こまちはつとめて冷静にそう言って自分から人質部屋に足を踏み入れた。


 男たちがいなくなってから、こまちはほかの人質に聞こえない場所にさよりを引っ張っていってから耳打ちをする。

「なんでここにいるんですか」

「え…あはは…迷っていたら、またつかまっちゃって…五十鈴さんこそどうして?」

「……たまたまつかまっちゃったんですよ。っていうか、どうするんですか、この状況」

 三人だけでも面倒なのにこのうえ守る対象が増えるというのは、こまちにとってストレス以外の何物でもなかった。

「大丈夫よ、私がみんなを守るから」

 さよりはそう言って任せろと言わんばかりに胸をたたく。

(また出た)

 今のこの状況を青臭い自己犠牲論や理想論でどうにかすることができないのは明らかだ。にもかかわらず、さよりはまだ能天気なことを言う。

(本当にこの女はイライラする)

「あんたはわかってない。あいつらは本物のテロリストだ。普通の人間にあいつらから誰かを護るなんてことできるわけがない」

「そうかもしれないけど、でも…」

「いいからもう何もするな…!余計なことは何もだ」

「…ごめん」

 険しい顔をしているこまちを見て、思うところがあったのか、さよりは初めて謝罪して肩を落とした。

「正直、わざととしか思えないんですけど、どういうことですか?」

「……出口近くまで行ったんだけど、教師になろうっていう人間が生徒を見捨てて逃げるようなことをしていいのかなって思って。教師なら生徒を守らなきゃいけないんじゃないかなって」

(また理想論。本当に反吐が出そうだ。そんなことを言っていてもどうせ最後は命乞いをするのに、自分以外を差し出すのに)

「理想論だよそんなものは。大体あんたはまだ教師じゃないだろう」

「理想は高く持たないとね。それに今ここで逃げたら私は教師になんてなれないと思う」

「だから…っ!」

 さよりの胸倉をつかんで彼女をにらみつけたとき、こまちは彼女の目に恐怖の色が浮かんでいるのを見た。それと同時に、その恐怖と同じだけの覚悟があるようにも見えた。

(この人は能天気なんじゃない。強がっているだけだ)

 自分を捕まえようと追ってきた時の陽太と同じ。

『女の子にケガさせちゃまずいからな』と軽口を叩いて持っていた銃を投げ捨てたときの陽太と同じ目だ。

そして、彼はその覚悟と強がりの結果、こまちがつけた傷が元で杖なしでは歩けない体になってしまった。

「だから…やめてくださいよそういうの。自分が傷つくこと前提で誰かをどうにかするとか、なんなんですか本当。どうして皆、弱いくせにそうやって…」

「ごめんね、何かつらい事を思い出させちゃった?」

 さよりはそう言ってこまちの手を握るが、こまちはすぐにその手を振り払った。

「……とにかく、もうこれ以上場を荒らすな」

「荒らすなって…」

「おとなしくしてれば終わるから。そうだな…あと30分くらいで」

 壁にかかっている時計を見ると、突入時刻まではあと30分ほど。都合のいいことに人質部屋の前には見張りが一人いるだけで、他の犯人たちがいる部屋とはわかれているので、よほどの手違いがなければこの部屋がどうにかされる前に制圧が終わるはずだ。

「30分…って、もしかしてやっぱり五十鈴さんは…」

「だからFBIじゃねえって」

 真剣な表情でこまちの顔を覗き込むさよりの頭を、こまちはそう言って笑いながらわしわしと撫でた。

「もうっ!人のミスをいつまでもそうやってバカにして!」

 別にこまちはさよりを信用したわけではない。しかし、こまちは少しだけこの教師の卵を好きになりかけていた。

 こんなところで出会わなければ。いや、こまちがあの事件に巻き込まれる前に出会っていれば、こまちの人生はもうすこし違っていたかもしれない。

さよりにはそう思わせる不思議な力があった。

この事件が終わった後、陽太に頼んで少しだけこの人と普通に話をしてみたい。今まで他人との関係を築くことに消極的だったこまちが、初めてそう思った。

しかし、こまちは忘れていた。自分の望みはいつだってたやすく打ち砕かれるということを。

「おい、お前ちょっとこい」

 そう言って突然教室の扉を開けて入ってきたテロリストの一人が、さよりの腕をつかんで教室から連れ出した。

「あ、あの…先生はどこに連れていかれたんですか?」

 こまちはドアを閉めようとしている小太りのテロリストのところへ駆け寄ってそう尋ねた。

「ああ…まあ、うちのリーダーはちょっとアレな人でな。交渉が進まないから俺たちの本気度を見せてやるっていうことで……」

「ことで、なんですか?」

「…殺して解体して窓からバラ撒くんだと思う。たぶんその前にリーダーが痛めつけながら犯すんだと思うけど」

 小太りのテロリストは顔をしかめながらそういって首を振った。

「気の毒だが、一回目に逃げておきゃあよかったんだよあの女は。そうすりゃ無事に逃げられたのになあ」

「一回目って…?」

「ヒーロー気取りでな、戻ってきたんだよ『私の生徒は私が守る』とか言ってさ」

(真性のバカか、あの女)

「え…えーでもぉ、迷っているところをおじさんたちにつかまったんじゃないんですか?先生はそう言ってましたよぉ」

「違う違う。戻ってきて捕まったんだよ。どっからか持ってきた包丁なんか振り回してな。さ、戻んなお嬢ちゃん。おとなしくしてないと次はお嬢ちゃんがあの女みたいな目にあっちまうぞ」

 そう言って肩を掴もうとした男の手を取って、こまちは自分の胸へと誘導した。

「…ねえ、おじさま。私まだ死にたくないの。だから、ね?」

 こまちはそう言って隣の教室をちらりと見る。

「お、おいおい。まずいだろそりゃ」

 そういいながらも小太りのテロリストは胸を触りながらニヤニヤとした笑いを浮かべている。

「それに私、いろんなお金持ちとか偉い人を知っているし。おうちがあまり裕福じゃないからあの子たちみたいに身代金はとれないかもしれないですけど、次のターゲットを決めるときとかにお役に立てると思うんです。…そういうお話を、気持ちいい事しながらゆっくりしませんか?」

「………まあ、こっちは鍵かけとけば大丈夫か」

 彼は少し考えた後、そう言ってこまちを廊下に出すと、人質部屋にカギをかけて、隣の教室へこまちを押し込んだ。

「ほ、本当にいいんだよな?」

「はい…ただ、私あまり肌がきれいじゃなくて…」

 そういいながらこまちが制服を脱ぎだすと、彼もズボンのベルトを緩めて下を脱ぐ。

「いいって、いいって。お嬢ちゃんみたいな若い子が抱けるな…ら…」

 ショーツだけの姿になったこまちを見たテロリストの動きが固まった。

「…やっぱり、こんな傷だらけの女、いやですよね?」

 手で胸を隠しながらこまちは最後の一枚を脱ぐ。

「君は一体何者なんだ?その傷は…」

「私は……あんたらの死神だよ」

 ショーツの中から取り出した折り畳みナイフを素早く開くと、こまちは一息にテロリストの首に突き立て、喉を縦に切り裂いた。

 即死はしなかったものの、テロリストは必死で喉を抑えて呼吸をしようと試みるているようだが、傷口が大きすぎて両手で覆っても空気が漏れ続け苦しそうにのたうち回る。

「あんた、悪い人じゃないんだけどなあ…って、テロリストな時点で悪い人か。あはは。じゃあまあ…お休み」

 彼が最後に見たのは、そう言って笑うこまちの笑顔と、右目に迫ってくるナイフの先端だった。


 一人目のテロリストを片付けたこまちが身支度を整えて廊下に出ると、上の階から女性の絶叫が聞こえてきた。

(先生…!)

「おい、お前…」

 階段の途中で会ったテロリストはこまちに触れようとしたところで腕が落ち、続いて首が落ちた。

「悪い。時間がないんだ」

 時計を腕につけるのではなく手に持ったこまちはそう言って振り返ることもなく階段を上る。

 階段を登り切ったところには二人のテロリスト。

「はあ…見張りのやつら一体何やってん…」

 言い終わらないうちに小さな破裂音がして、一人のテロリストの頭に風穴があいた。

「き、貴様!」

「その銃、ロックかかったままだよ」

「は!?」

 こまちの言葉を聞いて慌てて銃のロックを見直したテロリストはあごの下からナイフを突き刺され、そのままナイフを押し込まれて絶命した。

「う・そ。ごめんね」

 こまちはそういってナイフを抜き取ると、ナイフについた血と脳漿をテロリストの服で拭いた。

 幸か不幸か。断続的に続いていたさよりの悲鳴によって、四人のテロリストの死は彼女が嬲られている部屋の中には伝わっていないようだ。しかし今はその悲鳴もやんでいる。

 こまちは突入前に一度呼吸を整える。

 深呼吸をすると、彼女にとっては懐かしい血の匂いが肺を満たす。

「……あたしは、やれる」

 小町はそう呟いてドアを蹴破ると、迷わずまず目に入ったテロリストに突進してナイフを突き刺す。

「な、何だ!?」

「う、撃て撃て!」

 こまちは別のテロリストが撃った銃弾を、刺したテロリストの体で受けると、そのまま死体を盾のようにかざして銃を撃ったテロリストへと突進。死体が付けていたホルスターからハンドガンを抜いて、至近距離から頭に二発発砲した。

(残り二人)

「ひ…なんだこいつ人間じゃねえ!」

 そう言って逃げ出したテロリストは、背中を撃たれて教室を出ることなく絶命する。

「興ざめだバカ野郎」

 撃ったのはこまちではなくテロリストのリーダーと思われる蛇顔の男だった。

「よう、強いな、姉ちゃん」

 そう言って笑う蛇顔の横には指を切り落とすだけでは飽き足らなかったのか、何度も刃物で手足をズタズタにされてぐったりとしているさよりの姿があった。

「……許さない」

「おいおい、俺の仲間を殺しておいて許さないたあ、ずいぶんな言いぐさじゃねえか」

 そう言って男はゆっくりとこまちに近づく。

「お前は一体なんなんだ?警察じゃねえよな?自衛隊とも違う気がするし」

「あんたと同じ犯罪者だよ!」

 男が用心深く詰めてきていた距離を、こまちは一気に詰める。

「なるほど、そんなら納得だ」

 蛇顔は大振りになったこまちの攻撃をなんなく受けると、そのままこまちの腕をとって教室の壁にたたきつける。

「お前からは人殺しの匂いがするからなあ。それも一人や二人じゃないだろ。姉ちゃんみたいな匂いをさせてるやつ相手じゃ、人っ子一人殺したことないあいつらじゃひとたまりもないだろうさ」

 そう言って笑う蛇顔は追撃をするそぶりすら見せない。

「お前はしっかり調教したらいい駒になりそうだな」

「誰かの駒なんかになるくらいなら死んだほうがマシだ!」

 そう言ってこまちは、距離を詰めると大振りになりすぎないように気を付けながらナイフを振るう。

「そうか?今だって誰かの駒なんだろ?」

「あの人はそういう人じゃない!」

 陽太はやさしくないし思いやりもあるとはいいがたいかもしれないが、少なくとも自分の私利私欲のためにこまちを利用しようとはしないはずだ

「本当にそうか?だったらお前はなんでここに一人で来た?捨て駒なんだよ、所詮は」

「う…うるさい!あたしが一人なのはあたしが作戦を無視したからだ!」

「そういう風に思っているのがもうそいつの調教なんだよ!厄介払いなんだよ。そうやってお前が勝手に信じて勝手に行動して死ぬ。そこまですべてが調教で調教の成果だ!」

「うるさい!うるさい!うるさい!」

「怒鳴ってばかりじゃなくて反論してみろよ!」

「うるさいっ!」

「いいように利用されて、使いつぶされて捨てられる!」

「やめろやめろやめろぉ!」

「今だってどうせ、周りの人間から怖がられて邪魔者扱いされているんだろ?」

 テロリストに言われた言葉を聞いたこまちの中に刑務所での出来事が思い起こされる。

 刑務官が向ける視線と敵意は今この男が言ったことそのままだ。

「捕まえた」

 ほんの一瞬のスキをついて男がこまちを取り押さえて組み敷いた。

「俺の言ったことで動揺したな?やっぱり心当たりがあるんだろう?」

「そんなこと…ない…」

「ずいぶん弱々しくなったなぁ。……いいか?俺とお前は同類だ、だからこそお前が一緒にいるべきは俺なんだ。お前をわかってやれるのは俺だけだ。このクソみたいな世界をぶち壊してやろうぜ」

 男はそう言って裂けんばかりに口を釣り上げて笑う。

「ふざけるな……あたしとあんたは違う人間だ!あたしは…私は、誰かを救いたいだけだ!」

「ふざけているのはお前だ!人を救いたい奴が人を殺――」

 突然、男の頭が破裂して血と肉がこまちの顔の上に降り注ぎ、続いて上半身が破裂して、男の中に詰まっていた臓物や汚物がこまちの腹の上に落ちてきた

「大丈夫か、彼方」

「相馬…さん…」

 こまちが教室の入口に顔を向けると陽太が銃を構えて立っていた。




「あの……こまちさん」

「ん?何かな?」

 顔を青くして口元を抑える彩夏にこまちがにっこりと笑いかける。

「オチの前にツッコんで申し訳ないんですけど…その、食事中なんですけど」

 彩夏の言う通り、四人は寿が作った豚キムチでご飯を食べている最中だった。

 こういった話に慣れているのか寿は食事を続けているが、セナは箸を置いて彩夏以上に青い顔をして今にも吐きそうな口元を両手で抑えている。

「いや、もうオチてるよ」

「は?」

「その汚い血とか肉とか諸々が積み重なった様子が豚キムチみたいでさあ」

 あっはっはと満面の笑みを浮かべながら小町が箸で豚キムチをつまみあげる。

「ああ……人の作ったもの吐いたら殺すから」

 声を出して笑ってこそいないものの、ドS丸出しの笑顔で寿がにっこり笑う。

「っ!!」

「っっ!!」

(しまった、この二人の本性は…!)

(ドSとドMに見せかけたドSとドS……!)

「早く飲み込みなさい」

彩夏とセナは寿の言葉にコクコクとうなずくと、目に涙を浮かべながら無理やりお茶で口の中の豚キムチを流し込んだ。


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