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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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甲斐田真白の観察

「ごめんなさいっ」

 キッシー(仮)との戦闘があった翌日。

私と来宮さんが植え込みのかげから見守る中、あかりちゃんはそう言って高山君に頭を下げた。

「僕じゃ、だめですか?」

 そう言って少し泣きそうな顔でうつむいている高山君は、高橋君の言っていたとおり超イケメンではないが、あれで気が利いて勉強ができてスポーツもそれなりにこなせれば結構女子にモテるだろうなという容姿の少年だった。

「私、まだ彼氏とかそういう人をつくるのは早いと思うんです。あなたからラブレターをもらったときはすごく嬉しくて浮かれちゃって…でもそれで友達に迷惑をかけちゃって。だから私にはまだまだ恋愛をする資格なんてないかなって」

 変に調子づいたり、嫉妬に燃えたりしていないときの通常営業のあかりちゃんはかなりマジメだ。たぶん今高山君に言っている言葉も今の彼女の本心からの言葉だろう。多分駆け引きではなく、本当にあかりちゃんは今すぐ恋愛をしたいという気がなくなったんだと思う。

「じゃ、じゃあ、友達…いえ、その、知り合い…顔見知りくらいでもいいんで、あかり先輩が恋愛してもいいっていう気になるまでそばで待っていてもいいですか?」

 しかし敵も然る者。高山君は少し寂しそうな、まるで捨て猫のような目であかりちゃんを見ながらそう言って彼女の手を握る。そして、それを見た来宮さんは制服のポケットからカッターを取り出してチキチキと音をさせながら立ち上がる。って、ちょっと待て!

「ちょっと来宮さん、どこ行く気よ」

 あかりちゃんにはここで見守っていることは伝えてあるが、高山君としてはこんなシーンを覗かれていたと知ったら気を悪くするだろう。なので、私は慌てて来宮さんを引っ張り込んで羽交い締めにする。

「あいつ汚い手であかりにさわったわ」

「触ったって言ったって、手でしょ、手」

「手でも神聖にして侵すべからず存在のあかりに男子風情がふれたことは万死にあたいするのでも私はやさしいからその両手首から先を差し出すことで許してやろうと言っているのよ大丈夫よ差し出させた手はホルマリン漬けにしてあかりの細胞のついた手として飾ってあげるから」

 来宮さんは一息でそう言ってケタケタと気でも触れたかのような笑い声を上げるが、彼女が何をやろうとしていたかは今初めて聞いたし、高山君にとってはあかりちゃんに触れた、しかも手を握っただけで代償として支払っていいと言えるほど軽微な損害ではないと思う。というかこの子本気で怖い。

「大体甲斐田さんあなたわかっているの?あいつは毎晩毎晩自分の汚らしいものをしごき上げている手であかりにふれたのよ!?あいつあかりが妊娠したらどう責任を取る気なのかしら」

「…男兄弟いないからわからないんだけど、そういうものなの?」

 実体験としてそんなこと知ってしまっていたとしたら来宮さんの男嫌いもわからないではないんだけど。

「私だっていないわよそんなもの」

 じゃあなんでそんな自信満々に言い切るんだろうか、この子は。

「あのね、何度も言うけどあかりちゃんはノーマルなの。だから、来宮さんの本性が知れたらどん引きされるか、下手すれば友達の縁を切られるわよ」

「……オーケー、シスター真白。大丈夫、私はもう正気に戻ったわ」

 来宮さんはそう言うと、さっきから握ったままだったカッターから手を離して地面に落とし、両手のひらを上にして見せて降参の意を示して見せた。

「まったく。何度も同じ話してるんだからもう少し冷静になりなさいよ。私がいるところだったら止めてあげられるけどそうじゃなきゃ止めてあげられないんだからね」

「大丈夫。真白がいてくれるところでしかこんな風にならないから」

「はあ・・・だったら私がいるところでもそんな風にならないように気をつけてよ」

「真白ってお姉ちゃんっぽいからさ、ついつい甘えちゃって。ごめーんね」

 そういって来宮さんはくるっとこちら向きに体勢を変えると、ふざけて抱きついてきた。

 来宮さんはごくごく普通の身長だが、私がやや高めなせいもあってちょっと妹っぽく見えなくもない。それに私は深雪の事でもわかるとおり姉属性を自認しているのでこうして甘えられるのは嫌いではない。

「まあ、甘えられるのは嫌いじゃないから別にって…どこ触ってんのよ!」

「ギャン」

 私はちょっと油断した隙にすかさず制服の中に手を入れてきた来宮さんの頭をゴチンと叩いてから距離を取る。

「和希かあんたは!」

「…ふぅん、和希とはこんなことしてるんだ」

 そう言って来宮さんは手をワキワキさせながら笑う。

「してないわよ」

 さすがに制服に手を入れさせるとかそういうことを許したことはない。

・・・・・・まあ、ちょっと前に事故のことを思い出してしまった和希が夜泣きしてどうしようもなくなったときに添い寝をしてあげたことはあったけど。

「うーん・・・・・・80・・・いや83くらいか」

「なっ・・・」

「Cだね」

 ぴったり当てられた!?

「この間は千鶴に見つかった手前あんなこと言ったけど、私は胸のある子もいけるクチだから」

 そう言って四つん這いでにじり寄ってくる来宮さんから逃れるために私は自分でも驚くようなスピードで後ずさった。

「ヒッ」

「・・・・・・からの・・・あっかりブフォっ!?」

「あ、ごめん」

 私はくるっと反転してあかりちゃんのほうに行こうとする来宮さんの足を魔法で追いついて思い切りつかんだ。その結果、簡単に言えば来宮さんは転んだ。顔面から。

「くっ・・・さすが国内の魔法少女最速の女。あのくらいの距離を一瞬で詰めるのは朝飯前ということね」

 来宮さんはそう言いながら鼻血をハンカチでぬぐった。

「別に私じゃなくてもこのくらいできるからね」

 上位の人達や近接戦闘が得意な人達はもちろん、魔力が少なめのスタッフの中でも時計坂さんなんかはコンマ何秒かだけど時間を止めることができるので、今私がやったくらいのことはできるだろう。

「おー、やってるやってる」

 そう言いながら今日のごめんなさいを済ませたみつきちゃんが和希と一緒に現れた。その表情は和希と一緒だからか、相当ご満悦な様子だ。

「で、振った?」

「振ったけど、お友達からお願いしますって、お願いされているところ。しかもあかりちゃんもまんざらでもないみたいでちょっと迷っているみたい」

「ふーん・・・んじゃ、ちょっと横やりいれてこよっと」

 そういってみつきちゃんはピョンと植え込みを飛び越えると、二人の所に歩いて行った。

「ちょっと真白、なんであの子は止めないのよ」

「来宮さんの場合は問題起こすでしょ。みつきちゃんは・・・」

 まあ・・・・・・みつきちゃんも問題起こすな。

「みつきはなによ」

「・・・問題は起こすけど、来宮さんのみたいに気持ち悪くないもの」

「なに、お前真白にまで気持ち悪いとか言われてんの?」

「ふん、真白に変態呼ばわりされているあんたに言われたくないわね」

「男はみんな心に変態を飼っているんだから、俺が変態なのもしょうがないんだよ」

 和希は男性諸氏に謝った方がいい。

「って、朱莉先輩が言ってた」

『朱莉さんはそんなの飼ってないわよ!』・・・と言い切れないのが悲しい。

「あ、そういえば変態と言えば里穂は?」

 万が一この場にあの子が絡んでくるとまた面倒な事になってしまう。本人とあかりちゃんは気づいていないみたいだけど、あの子絶対あかりちゃんのこと大好きだし。

「面倒ごとになる前にタマが連れて帰ったってさ。さっき寮についたってメール来てたぞ」

 みつきちゃんの次にキャリアが長いだけあって本当に優秀だなあ、あの子。

「ベスのほうは?」

「あの子ならマリカが連れてったわよ。なんか例の・・・なんだっけ・・・えーっと深雪ちゃんと愉快な仲間達だっけ?の会合をでっち上げたとかなんとか」

「なるほど、それでうるさいのは排除できてるわけか」

「真白の方こそいつも背中にくっついてる子はどうしたのよ」

「補習」

 最近えりちゃんは放課後毎日のように補習なので、暑くなってきたこの時期はありがたい。

「・・・・・・これとあれが平気なのに?」

 そういって来宮さんは和希とみつきちゃんを交互に指差す。

「これとあれが平気なのに」

「これとあれって言うな!」

 大きく頷いた私を見て、これのほうが何か言っているけど面倒なので無視しよう。

「ヤバいわねそれ」

「ヤバいのよほんと」

 寮で宿題を見てあげているときはちゃんとできるのに、なんで小テストはあんなにダメなんだろう。

「それじゃうちで今度勉強会でもしようか」

「ああ、いいかもね。これとあれのレベルが上がると私とかあかりちゃんの負担も減るし」

 自慢ではないが私とあかりちゃん、それに来宮さんはどの教科でも軒並み学年5位までに入る。しかし逆にみつきちゃん、えりちゃん、和希はワースト5に入ってしまうという位に差がある。そのため勉強を見てあげることも多いのだが、和希はリスニング以外の英語がどうやってもだめ、みつきちゃんは数学が致命的、えりちゃんについては仕方ない部分もあるが地理歴史が全く駄目で他も軒並み低めだ。

「来宮の家って、川沿いの洋館だよな?」

「なんであんたが知ってるの」

「いや、だって俺昔このへんに住んでたし。このへん来宮って家、他にないだろ。お前のことはあんまり好きじゃないけど、昔からあの洋館には入ってみたいと思ってたんだよな」

「・・・・・・じゃああんたは呼ばないことにしよう」

「なんでだよ!」

「川沿いの洋館なら私もみたことあるけど、あんな大きな家に住んでいるってことは来宮さんちってお金持ちなの?」

「真白、俺を無視して話進めんなよ」

「まあ昔は商売していてそこそこお金もあったみたいだけど、今は財産らしい財産は土地と家があるくらいで、現金はあんまりないわね。私のお小遣いも親からはそんなにでてないし」

「来宮も俺を無視すんなって」

「とは言っても、友人を招いておもてなしするくらいの余力はあるし、無駄に家が広いから窮屈な思いはしないですむと思うわよ」

「おーい」

「じゃあ、期末の前は来宮さんちで勉強会ってことで」

「OK」

「真白・・・・・・さすがにそろそろ泣くぞ」

「はいはい。冗談よ冗談」

「冗談の質が悪質過ぎる!」

「またそうやってすぐ泣く・・・」

「な、泣いてねーし」

「泣いてるでしょうが。ほら、涙拭いて鼻かんで」

 まったく、どうしてこう私の周りには泣き虫だったり、甘えたがりだったりが集まるんだか。

「真白と和希ってなんか、恋人同士みたいね」

「姉と弟じゃない?っていうか不吉なこと言わないでよ」

「兄と妹だろ、誕生日的には」

「…誕生日的には、ね」

 私は冬生まれで和希は春生まれなので、それはまあそうなのだが、正直生まれた順番なんて関係ないくらい和希は子供だと思う。

 同じ年の男子は子供に見えるというのはよく聞く話だけど、もしかしたらそれは男子から性別が変わっても同じなのかもしれない。

「まあ、それを言ったら私が長女なわけだけど」

「来宮さんの誕生日はいつなの?」

「4月1日」

 なるほど、四月バカか。

「ま、私くらいしっかりしているとそれに見合った誕生日が割り振られるわけよ」

 来宮さんはドヤ顔で胸をこれでもかと張りながら言うが、今この空間のどこにしっかりしている人がいるのか甚だ疑問だ。

「…と、あかりたちのほうは終わったみたいね」

 そう言って立ち上がった来宮さんに促されてあかりちゃんの方をみると、確かにもう高山君はいなくなっていた。

「さて、じゃあとりあえずマガ部の部室に行って今回の反省会かな」

 私も来宮さんに倣って立ち上がりグッと伸びをした。

「そうだね。あ、そうだ。生徒会室にある差し入れでもらったお菓子も持っていこうか」

「うん、お願い」

「了解。じゃあ、また後でね」

 そう言って来宮さんは校舎の方へ走って行った。

 

 正直、この時は私も和希もまさかあんなことになるとは思ってもみなかった。

 この時よくよく考えれば適切に対応できたかも知れないし、あんな事になるのは防げたのかも知れない。でもそんなこと、私も和希も一切考えなかったのだ。

 誰かが思うことは他の誰かも思う可能性があるということを。

 そしてその思った事を誰かが悪意を持って推し進める可能性があるということを。さらに言ってしまえばその悪意を持って推し進める人間は私の周りに来宮さんくらいしかいないだろうとタカをくくってしまっていたことも失敗の原因だった。

 

 このあと程なくして、私と和希は付き合う事になった。

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