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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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JCピンク

 放課後、都さんから入った出撃命令のメールを見て私は絶句し、あかりちゃんはこの世の終わりのような顔をして机に突っ伏し、和希くんは踊り出した。

「あのね、あかりちゃん」

「うん、わかってる…」

「ごめんね、私がもっと強ければ気にせずに行ってきてって言えるんだけど」

「はは…真白ちゃんは悪くないから…はは…」

 そう言って死んだ魚のようにうつろな目をしたあかりちゃんは、生気のない声で笑う。

「ほらほら、いくぞ二人とも!久しぶりの仕事なんだからがんばろうぜ!」

 結局昼休みの間に有効な作戦を決めきれなかった和希くんは降って湧いたような異星人の襲来にテンションが上がっているようだが、そんなテンションでいるとあかりちゃんの怒りを買うということがなぜわからないのだろうか。

「あー、うん。いくいく」

 そう言ってゆらりと、ふらりと立ち上がったあかりちゃんは和希くんの後ろに回ると、彼の腕をひねりあげた。当然和希くんは悲鳴を上げるが、まあ彼の自業自得なのでしばらく放っておこう。

 なんだかすごいことになっている二人を見ないようにしながら、出動の連絡をするために携帯を取りだしてみつきちゃんの番号に電話をかけると、彼女の机から振動音が聞こえた。

 彼女は昼休みにあかりちゃんの事で機嫌を損ねて早退した。マリカとあかりちゃんから聞いた話の感じだと、おそらくまっすぐ寮に帰ってはいないと思う。

 とはいえ制服のまま近所で寄り道するのは難しいので、もしかしたら愚痴を言いに本部まで行った可能性もある。もしそうだとするとおそらく今は電車で移動中だろう。その状況で彼女の電話がここにある。

 つまり

「今回はみつきちゃん抜きか…」

 和希くんがいるし、怪人クラスまでならば特に問題はないだろうけど、噂の幹部クラスが本気でかかってきたりするとまずそうだ。

なによりこのチームでの初の実戦なのでできれば全員で掛かりたいところだったのだけれど……まあ、私としてはみつきちゃんの気持ちもわからなくはないから、そこについては強くは言えない。

「ほらほら、遊んでないで三人とも行くよー」

 私がいい加減二人の間に入ろうかと思ったところで、タマを連れた夏樹さんが教室の入り口に現れる。

「はーい…」

 夏樹さんが現れたことで、あかりちゃんは和希くんにかけていた締め技を解いて自分の席においてあった荷物を持って廊下へ出て行く。

「ほら、和希くんもそんなところで寝ていないで、早く準備して駐車場に集合」

 一連の流れを見ていて寝ている様に見えるんだとしたら夏樹さんの目は節穴だと思うけど、まあ幸せそうな顔をしているので、寝ているように見えないこともない気もする。

「…きれいな顔してるだろ、気絶してるんだぜこれ」

 タマは倒れている和希くんの横にしゃがみ込み、和希くんの顔をつついて反応がないのを確かめると、ドヤ顔でそう言いながら彼を肩で背負うようにして立ち上がる。

「真白先輩、荷物よろしく」

「ん。了解」

 私はそう言って自分の荷物と和希くんの荷物を持って立ち上がり、先に行ってしまった4人の後を追って教室を出た。

 JCチームの移動用にと、なぜか夏樹さんが勝手に自腹で購入したミニバンに乗り込んだ私は、いつも当たり前のように助手席に座っている霧香さんの姿がないことに気がついた。

「あれ?霧香さんはどうしたんですか?」

「霧香は自分にはみつきちゃんを早退させちゃった責任があるって言って探しに行ってくれた。みつかったら現地で合流するって」

 …なるほど、サボりか。

「霧香ってああ見えて意外に責任感強いところがあるからね。みつきちゃんと霧香がくるまでみんなでがんばろー!」

 ……いや、騙されてますよ夏樹さん。



 私達の管轄に現れるのは初めてだが、現在えりちゃんたちを狙って侵略してきている異星人のやり方は、以前の彼女たちのやり方とほぼ同じだ。

 大気圏外の母艦から地球に向けて怪人や戦闘員の元になる種子を発射し、その降下にあわせて、すでに地球に潜入している幹部クラスが現れるというもの…らしい。らしいというのは日本ではまだ出現件数が少なく、現時点で幹部クラスと対決しているのは狂華さんと朱莉さん、それに彩夏さんだけで、その三人が対決したシチュエーションは今回のような他国から報告のあったケースとはちょっと違うケースだった。

 なので、今回の出動は私達新生JCチームの初陣というのはもちろん、日本で最初のレギュラーケースということになる。

 私達が落下予測地点に到着した時点ではまだ的の幹部らしき人物は現れていなかった。

「一応、先に変身しておこうか」

 周辺の人払いは済んでいるので変身を見られる心配もないし、変身前に攻撃を仕掛けてくるなんていうこともあるかもしれないので、私は三人にそう提案した。

「んだな」

「了解」

「それじゃあ変身っと」

 番組内ではここで変身シーンなどが入るのだが、実際の変身は派手なエフェクトなんて入るわけもなく非常に地味に一瞬で変身が終わる。

 ちなみにこの新生JCチームはみんな衣装が一新していてデザインはみんな和風ゴスとでもいうような前あわせの上着にコルセット、ひらひらのフレアスカートで選りや袖口、コルセットや頭の装備がそれぞれ違っている。

「よし、完了っと」

 一番最初に変身したあかりちゃんのイメージカラーはイエローで、差し色になる黄色のレースやフリルは黒地の衣装には非常に映えるのだけれど、なんとなく蜂のようというか、警戒色を思わせる。

 まあ、彼女の場合、頭装備のヘッドフォンがそんな感じに見えるというのもあると思うけど。

「時間はたっぷりあるんだし、じっくり時間かけてしっかり倒そうぜ!」

 そう言ってやる気満々の和希くんのイメージカラーは黒。黒地に黒のレースやフリルだと全身真っ黒になってしまうので、差し色に使われているのは白。その白いレースやコルセットのおかげで朱莉さんいわく和風メイドに最も近い男だそうだ。

 とはいえ、私達が半分ふざけて彼の頭装備を猫耳にしてしまったため、メイドなんだか猫耳少女なんだかわからなくなってしまっている。

「先延ばしにしても結局変わらないのに…」

 今日のあかりちゃんへの告白が流れたことで喜んでいる和希くんにそうツッコミを入れたJCブルーことタマは一種のあきらめのような溜息をついて見せた。

 ちなみにタマの頭装備はリボンで大きく余らせたリボンの端が、ウサギの耳のようにぴょんと上にはねている。

 ちなみに私達の中での実力ナンバーワン。バトルパートでのリーダーでもあるみつきちゃんのイメージカラーは赤

 彼女の頭装備はツインテールを縛っている紐リボンだけとシンプルだが、このリボンは初登場の時からずっとついているので、今更外せないアイテムになっている。

 そして、滅多に変身することはないが、夏樹さんのイメージカラーは緑、霧香さんのイメージカラーは紫で、頭装備は立場上私達に指示を出すことが多いということもあって、夏樹さんは左耳から。霧香さんは右耳からと二人で並ぶと左右対象になるインカムをつけている。

「あれ?真白ちゃんは変身しないの?」

「ん…ああ、まあ自分で提案しておいてなんだけど、私って弱いし、三人がきちんと変身していてくれれば、変身するのはギリギリでもかまわないかなって思って」

 本当は自分のカラーが嫌で変身したくないだけだが、それを言ったら多分あかりちゃんは気を遣ってくれてしまうと思うので、それはいわないことにした。

「…それで良いと思う」

 私の気持ちを知っているタマはそう言って同調してくれるが、和希くんはいまいち納得していない様子だ。

「いや、真白が弱いならなおさら変身しておかないとじゃないか。真白が狙われたら大変だぞ」

 多分彼に悪気はない。それはわかっている。彼はただただ欲望に忠実に、考えなしに言葉を口から垂れ流しにしているだけなのだ。だから彼を恨んだりとか憎んだりとかっていうはまったくお門違いなのもわかっているのだが、それでも今日このときに限っては口に出さないまでも思わせてもらおう。

 頼むから黙れ。と

 元々私はイメージカラーとして白を選んでいて、アンケートもそう書いて提出した。

 しかし、白の差し色は和希くんが使ってしまっている。そこでどうしたものかと考えたJCチームの最終的な指揮権限を持っている朱莉さんが私に割り当てた色は…ピンクだった。

 自分で言うのもなんだが私はピンクを着るなんていう柄じゃないと思うし、そもそもそれ以前にピンクという色が絶望的に似合わない。ただでさえそんな状態なのに、なぜか頭装備なしで提出したはずの私のアンケートは改ざんされてかわいらしい大ぶりのティアラがついていた。つまりJCチームの中では割と…というよりも、連絡将校見習いまで含めても夏樹さんと霧香さんの次に見た目が大人よりの私が同じチームの誰よりも少女チックな格好をしているという状態になっているのだ。

 正直、あかりさんから来た最終確認の連絡の時にテンションが上がって『ピンク着てくれるかな?』『いいとも!』と即答したあのときの自分が憎い。憎いのだが、その反面大好きな朱莉さんがこころを込めて選んでくれた色にケチを付けることなどできなかったのは仕方ないと思う自分もいたりして、私の心の中はここ最近嵐が吹き荒れている。

「いいから変身しておけって。何かあったとき俺やあかりやタマが変身前の真白を守れるかどうかわからないんだからさ」

「でも私なんか別にどうでもいいじゃない」

「俺にとってはどうでもよくないし、怪我されても嫌だし、いなくなられてもこまるんだよ!」

「和希くん…わかった。変身っ」

 この人はたまにこうしてまるで朱莉さんのようなことを口走る。こういう事を言われたときは気のせいかも知れないけど、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ心が揺らぎそうになってしまう時がある。

「あはははっ!名前が真白なのになんでピンクなんだよ!あはははっ!しかも似合わねー!」

 ……うん、心が揺らぎかけたのは本当に一瞬だった。っていうかあんなの絶対気のせいだ。というか、こいつ駄目だ。こいつは楓さんレベルの駄目さ加減だ。来宮さんがあかりちゃんに迫って何かするくらいなら、和希くん推しであかりちゃんとの事を応援してやろうかと思っていたのに、今ので全く応援する気がなくなった。

「あ、ごめん。嘘嘘、似合ってるって」

 私が怒っている気配を感じたのか、和希くんはそう言って笑いながら謝ってくるが、そんな謝罪一つで許すつもりなんてない。

「和希くん…いえ、和希」

「え!?いきなり呼び捨て!?」

「……あれ?何か文句あるの?」

「あ、ありません…」

 にっこりとほほえんであげているのに、そんな恐ろしい物を見るような目でこちらを見なくても良いだろうに。

「衣装交換して」

「え?」

「衣装交換してよ。私が名前にあわせるべきだというのなら、あなたの着ているそれを私が着るのが一番良いって言うことでしょう?」

「う…うーん…まあ、そうだけど俺がピンクって言うのもなぁ…」

「いいから替えろ」

「イエスマム!」

 だからなんで彼は怖い物を見るような目で私を見るのか。

「ああ、そうそう。私その猫耳はいらないからこっちのティアラと一緒に和希がつけていなさい」

「わ、わかりました!」


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