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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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登校事変

 もはや毎日の日課になりつつあるが、私こと邑田あかりは今日も朝から学校の下駄箱で下唇を噛んだ。

 私が毎日毎日文字通り血のにじむような思いをして下唇を噛んでいる原因は、SNSやらメッセージアプリでの告白やお別れが全盛のこの時代にもかかわらず毎日毎日みつきの下駄箱に入っている大量のラブレターだ。

 なぜこの時代にラブレターか。そんなのは簡単だ。みつきの公式SNSを管理しているのは男性スタッフで返信もテンプレ通りのものだし、そもそも人見知りでそんなに深く人付き合いをしないみつきのメッセージアプリIDを知っているのが校内では私達マガ部だけということで、他に伝える手段がないからである。

「はあ……」

「はあ……」

 私とみつきは同時に溜息をつくが、その溜息の性質は真逆の物だ。

 選べるものと選ばれない者。こと、この分野においては、親友同士といえど私とみつきの立場は相容れないものになっている。そして立場が違えばその現象に対する思いも対処も違ってくるのである。

「やだなあもう…」

「あんたの場合、なんだかんだできちんと裏庭に行くから望みがあるとか思われちゃうんじゃないの」

「そうは言うけど、わざわざ手書きで書いてくれているんだし、行かないと悪いじゃん」

 それはみつきに告白しようと待ち構えている男子を順番に横に並べて全員一気にごめんなさいする人間の台詞ではないと思う。

 ちなみに和希は告白してきた男子と友人になるという方法で告白しづらい雰囲気をつくり出し、毎日のラブレターを激減させた。

 まあ、これは元々それなりに社交性が高くて元々男子という和希ならではの方法なのでみつきにマネしろというわけにもいかないのだが。

「おはよう、ふたりとも」

「ああ、真白ちゃん。おはよ」

「今日もすごいわね、みつきちゃんの下駄箱」

「あはは…正直あんまり嬉しくないんだけどね。ファンは大切にしろ、将来大事な金づるになるんだからって愛純と柚那に言われているからさ」

 なにそれ元アイドルの考えてることってすごく怖い。

「うまくするとテレビとか全然でなくてもファンクラブだけで食べていけるらしいよ」

「へえ、すごい話ね」

 まあ、そこまでいけるのは、ほんの一部だと思うけど。

「真白も一緒に目指そう」

「うーん…私は普通に結婚して普通に家庭に入りたいかなあ」

「だったら図書委員の彼の告白受ければ良いじゃん」

 おっとつい本音が。

「私は、好きな人とおつきあいしたり結婚したいの。誰でも良いって訳じゃないんだから」

 そう言いつつも真白ちゃんは自分の下駄箱に入っていた何通かの封筒を鞄に入れる。

「クソっ!リア充爆発しろ!…って、あれ?そういえば、今日はえりが背中にくっついてないけどどうしたの?」

「今日は、えりちゃんたちは定期報告会。おかげで肩が軽くて助かるわ」

「ああ、そういえばそんなことを言ってたっけ。じゃあ今日は久々に静かな一日になりそうだね」

「そうだね」

「静かって言ったって二人は告白断ったりとか返事書いたりとか色々……」

 靴を履き替えるために下駄箱を開けた私は、上履きも取り出さずにそのまま下駄箱のドアを閉めた。

 どうやら私は下駄箱を間違えたようだ。

「どうしたのあかり」

「いや、なんか下駄箱間違えちゃったみたいで」

「いや、そこ間違いなくあかりちゃんの下駄箱よ」

 真白ちゃんに言われなくてもわかっている。わかってはいるのだが。

「いやいやいや、だったら、だとしたらあんなもの入れられているはずないじゃない。私の下駄箱にあんなのが入ってたら、絶対イジメとかドッキリだよ」

「え?なに?画鋲?犬のうんこ?」

「ガチのイジメじゃないわよ!そうじゃなくてその…ラブレターが入っていたような気がするんだけど…さ」

「気のせいじゃない?」

「気のせいでしょ」

「二人とも酷くない!?」

「ああ、じゃあ和希あたりのいたずらとか」

「あのやろう!」

 なんて酷いことをしやがるのか。

「でも、だとしたらいつ入れたのかしら。昨日は和希くんは私達と一緒に帰ったし…」

 そう言って真白ちゃんが指さした先には眠そうな目をこすりながら昇降口に入ってくる和希の姿があった。

「…ね?」

「まあ、開けてみればいたずらだってわかるんだし、開けてみればいいんじゃない?」

 みつきはそんなことを言いながら上履きに履き替えてさっさと先に行ってしまう。というか、イタズラだと頭から決めつけるのはやめてほしい。

「ど、どうしよう真白ちゃん。毒とか仕込まれないかな、もしくは爆弾とか」

「いや、一体誰が何を狙ってそんなことするのよ」

 真白ちゃんはそう言ってためいきをつきながら眉間を抑えるが、ラブレターをもらい慣れている彼女たちと違って私にとっては一大事なのだ。

「も、もしかしたらそういうこともあるかも知れないでしょ」

「じゃあ私が開けようか?」

「いや、そもそも見間違え、幻だったという可能性も…」

 ない、とは言えないわけで。

「………」

「………」

 本当に幻だったらどうしよう。みつきに溜息つかれるくらいなら良いけど、里穂にバレたら絶対馬鹿にされる。

「えっと……私が代わりに見ようか?」

「いい、自分で見る……あ、ゴメン、怖いからやっぱり一緒に見て」

 自分でもヘタレだなと思うけど、怖い物は怖い。

「よう。どうしたんだ、二人とも」

 おそるおそる下駄箱を開けようとしたところで和希が現れた。いや、わかっていたことだけれど。

「ど、どうもしないどうもしない」

「いや、明らかにどうかしてるだろ。真白、あかりは一体なに隠してるんだ?」

「あかりちゃんの下駄箱にラブレターが入ってるんだって」

「……え、マジで?」

 真白ちゃんの説明を聞いた和希の顔がまるで世界の終わりを宣告されたかのような表情に変わる。これまでも里穂はもちろん、和希にもさんざんからかわれてきたが、その中でも今日の和希の表情が一番酷い。

正直、いくらなんでもここまで驚くことはないと思う。私も舞い上がっていたし初めての出来事ではあるけれど、そんな『異星人が宇宙船から下りてきたところをうっかり見つけちゃった』みたいな顔をするほどの事ではなだろう。

「まあまあ、あかりちゃん。殴りたいのはわかるけど、ちょっと落ち着いて」

 思わず出そうになった手を真白ちゃんが掴んでくれていなければおそらく私は和希に往復ビンタをしていたと思う。

「あ、ありがとう真白ちゃん」

「みつきちゃんが居なくてよかったぁ…」

「そうだね、みつきがいたら私の代わりに和希を殴っちゃっていただろうしね」

「……まあ、いいから下駄箱の中を見ようよ」

「う、うん」

 微妙な表情をしている真白ちゃんに促されて、私は改めて自分の下駄箱に手を伸ばす。

 伸ばす――

 伸ばす………

「……あかりちゃん?」

「うわぁ、やっぱり駄目だ。私、今日は裸足で過ごすよ。っていうか職員室でスリッパ借りてくる」

「こらこらこら、何言ってるのよ。バカなこと言ってないで早く開けよう、ね?」

 真白ちゃんはそう言って私の腕を無理矢理下駄箱へと導く。

「やだってば!中を確認しなきゃまだもしかしたらラブレターがそこにあるかもしれないでしょ!?なのに開けたとたんにその可能性がなくなっちゃうんだよ!?」

「シュレディンガーの猫か!ほら、いいから開けなさい…開けなさいって…ばぁっ!」

「やだやだ見たくない!」

 嫌だ嫌だと言ってみたところで私は真白ちゃんよりも背も低いし腕力もないし身体のナノマシンの比率だって低い。やがて私の必死の抵抗もむなしく真白ちゃんに掴まれた手はジリジリと下駄箱の扉へ向かい、そして―

「………あった……あったぅゎぁぁぁぁっ!あ、あ…あったよ真白ちゃん!」

 果たしてラブレターは私の下駄箱の中に存在していた。

 下駄箱の中に入っていたのは見るからに普通のレターセットの封筒といった装いのラベンダーブルーの封筒で、少なくとも爆発物が入っているようには見えない。

「ほらね。そんなに怖がらなくてもたいしたことじゃないんだから」

「おおう…こ、これがラブレターというものか……なんだか良い香りがして、触るとほのかに暖かい気がする」

 封筒の色に合わせているのだろうか。おそらくラベンダーのものあろう良い匂いが私の鼻をくすぐった。

「はいはい。じゃあ無事にラブレターも回収できたところで、そこで真っ白になっている和希くん連れて教室いくわよ」

 見ると、確かに和希は膝と両手をついたポーズで白くなっていた。

 さっきも思ったけど、私がラブレターをもらったくらいでそこまでショックを受けなくてもいいだろうに。本当に失礼な奴だな、こいつ。




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