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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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朝陽のグルメ

 あった、ありましたわ。

 都電の通りから折れて少しいったところ、そばには黄色いコンビニ、朱莉さんの言っていたお店は間違いなくこのお店ですわ。

 私はうきうきとする心を抑えながら近くのコインパーキングに愛車であるドマーニを止めてからスキップをしながらお店を目指します。なんといっても違法駐車はいけないことですから。

「さあ、朱莉さんが一押しという季節限定の変わり種チョコパン、食べさせていただきましょうか」

 店の前の歩道でそう大見得を切って看板を指さす私を、通りかかった通行人の方がヒソヒソしている気がしないでもないですが気にしません。だってチョコのためなんですから。

「いざ」

 お店のドアノブに手をかけて店内に入ろうとするも、ドアは開きません。よく見てみると店内も暗いような気がします。

 まさか、お休み!?でも中にはパンが綺麗に陳列されているし休みなわけは…そう思って回りを見渡すと、店の前に設置されている黒板に『本日の営業は12:00からです』と書かれていました。

「パン屋さんって、朝早くからやっている物だと思っていましたわ……」

 時計を見ると開店時間までは後5分ほど。コンビニで飲み物を買って帰ってくると大体丁度良いくらいの時間です。

 チョコにはおいしいコーヒー、もしくは紅茶。ペットボトルではちょっと味気ない気もしますが、出先ですし仕方がないですわ。

 大急ぎでお茶を買って帰ってくると、丁度開店したらしく私の目の前で一人の中年女性がお店に入っていくところでした。

 くっ…開店前だとわかったときに今日の一番乗りを狙っていたのですが仕方ありません。

 二番手でお店の中に入ると、良い香りが私の鼻腔をくすぐりました。

 お店の中は細い通路の両側にパンが並んでいる作りになっていて、4組も入ったら身動きを取るのも難しそうな広さ。大きく分けると窓側にはキッシュやピザなどのしょっぱい系のパン、内側には甘い系のパンと、冷蔵ケースに入ったサンドイッチやシフォンケーキ、プリンといった要冷蔵の商品という感じでしょうか。

 とは言え、私の今日の目的は抹茶あんとクーベルチュールを使った変わり種アンチョコパン。雑魚には用は…用は…

「そちらのバナナホワイトチョコチップシフォンケーキのチョコチップはかなりこだわりがあるんですよー」

 私の心の迷いを察してか、レジの奥から店員さんがニコニコと笑いながら商品の説明を始めました。

「こちらのあんパンも、こだわりのあんこを取り寄せておりまして。他にもですね―」

 なんということでしょう、手が、手が勝手に動いてしまいますわ。

 結局すべてのパンを奇跡のバランスで載せた私はレジに到着しましたが、肝心のパンがありません。

「あ、あの!」

「はい、なんでしょうか」

「あの、利休というパンは…」

「利休でしたら、そちらに」

 そう言って店員さんの差した先は先ほどの甘いパンがおいてあった棚の裏側。

 しかもそこには問題の利休だけではなくいくつかのパンが!

 しかし、もう私のトレーにそんなに空きは…ここは利休だけを購入して私が振り返ると、店員さんが笑顔で私に向かってトレーを差し出していました。



「ありがとうございましたー」

 両手に袋いっぱいのパンをぶら下げてお店を出た私が、どこかパンを食べるのに適当な場所がないかと歩いていると、バス停の横に石の椅子が設置されたちょっとした広場のような所を見つけました。

 私はその椅子に迷わず腰を下ろし、パンの袋の中から今日の目的であった利休を取り出しました。

 ちいさな四角い形のパンの上に抹茶と粉砂糖が振りかけられたそのパンはスタンダードとはいえないものの、物珍しいと言うほどの形でもありません。

「いざ実食」

 パンにかじりつくと、ふんわりというよりはもっちり、しっかりとした歯ごたえの生地が私の歯をむかえ撃ちます。次に現れるのはこれもまたぽってりとした重い歯ごたえの薫り高い抹茶あん。このあんのどこにチョコが存在しているのか。私が一瞬疑問に思った直後でした。

あん自体は甘すぎず、むしろ苦さを感じるくらい。その甘みと苦みの裏でほんの少し、ですがしっかりと香るチョコの香りと苦みが私の味覚と嗅覚を刺激します。

ただ、その刺激は刺激的でありながら暴力的ではなく、まるでお茶の香りとチョコの香りがお互いを引き立てあって口の中で輪舞曲を踊っているかのような優雅さすら感じさせます。

「んんまぁい」

 人間本当においしい物を食べると余計な言葉など出ないということを私はこのとき改めて実感しました。

 ただ、一つ失敗したことがあるとすれば、このパンは今手元にあるコンビニコーヒーでも、淹れ立ての紅茶でもなく、淹れ立ての日本茶と一緒にいただきたい味だということ。

 確かにチョコでありながら、和菓子。和菓子パン。

 さすがはチョコに関して私がライバルと認める朱莉さんの薦める一品。さすがですわ。

 利休をあっという間に平らげた私は、朱莉さんや寮のみんなの分に手を伸ばしかけて引っ込めました。

「さすがにそれは……ねえ」

 誰がいるわけでも見ている訳でもありませんが、この秋山朝陽。さすがにお土産に手を付けるほど落ちてはいません。

 それにパンはまだまだあります。私は次にさきほど店員さんが薦めてくれたシフォンケーキをいただくことにしました。

 透明の袋に包まれたシフォンケーキはさきほどの利休のしっかりとした食感とは対極とも言えるほどふんわりとしていて、口に入れた次の瞬間には溶けてなくなってしまうような儚いものでした。そして後に余韻として残るのはバナナの香りと、ホワイトチョコチップの甘み。

「んんふぅ、まぁぃ……」

 本当においしい物を食べたとき、人は知らず知らず笑顔になってしまう物なのですね。

 そして、このシフォンケーキにはコーヒーがあう!ものすごくあいますわ!

 シフォンケーキもあっという間に平らげてしまった私の手はついつい次のパン、それも平らげると次のパンへと伸び続けます。

 そして30分ほどたったところで、気がつくと袋の中には5つの利休のみ。

「………」

 まあ、そう。そうですわね、そういうこともありますわよね。




「おう、お帰り朝陽。どうだった?利休うまかったろ?」

「そ、そうですわね。おいしかったです。本当だったらみなさんにお土産に持って帰ってこようと思っていたんですけど、私の分くらいしか残っていなくて」

「そりゃ残念だな。まあ、でも確かにちょっと品薄だよなあれ」

「そうなんですのよ。また今度行こうと思っていますからそのときは買ってきますわね」

 しめしめ、バレていません。私くらいの女になると朱莉さんを騙すくらいチョロいですわね。

「……で、お前いったいいくつ食べたんだ?」

 ぎゃふん。


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