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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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来宮くるみは斯く語りき

 間の悪さが私のチャームポイントだ!…などということを言うつもりはないが、昔から私は見なきゃいいことが起こっている場面に出くわしてしまうし、聞かなきゃいいことが耳に入ってくることが多い。

 最初にあかりと出会ったのもそんな間の悪さを発揮してヤンキーに絡まれているときだった。


 入学式の後、体育館の帰りに校内で迷子になった私は、ふらふらと校舎の裏へと迷い込んだ。その迷い込んだ先には数人のヤンキーと、それに絡まれる、胸に私と同じ花の飾りをつけた新入生の女子がいた。

「お前の家、金持ちなんだろ?悪い奴らに絡まれないように俺らが面倒見てやるから、上納金おさめろよ」

 明らかに今悪い奴らに絡まれているじゃないかというツッコミが口をついて出そうになるのを抑えて、元来た道を引き返そうとした私は、小枝を踏んで音を立ててしまった。

「誰だっ!」

 私がそのままの姿勢で振り返ると、ちょうどヤンキーが一斉にこちらを見たところだった。

「あ……違うんですよ、これはその」

「てめえ、先公にチクるつもりだろう!」

「ち、チクりません!知りません見てません!」

「うるせえ、てめえもこっち来い」

 そう言いながらヤンキーが私の肩をつかむ。

「だったらチクられるようなことしなきゃいいのにね」

「あははー、だよねえ」

「なんだと!?」

 私が言ったと勘違いしたヤンキーが私の胸ぐらをつかむが、もちろん私はそんなことは言っていない。というか、二人分の声が聞こえたんだから察してほしい。

「ち、違います!私じゃないです!私じゃないです!」

「じゃあ一体誰だって言うんだよ」

「知りません!」

「知らねえわけねえだろうが!」

 世の中の理不尽すべてを集めたような理不尽がそのときその場所にはあった。

「その子は関係ない」

「そうそう。関係ないよ」

 今度ははっきりと後ろから聞こえた声に振り返ると、そこにはマスクをつけた二人の新入生が立っていた。

「なんだぁ、お前ら」

「下克上だ、この野郎!」

 背の高いほうの女子生徒がそう言って持っていた棒を地面にたたきつけた。


……って、いやいやいや。

「ちょっと待って、来宮さん」

 私は目をきらきらさせている来宮さんに悪いなと思いながらも話を遮った。

「なに?あかりちゃんってヤンキーだったの?」

「ヤンキーじゃなくて正義の味方、私と出会ったころのあかりは学園の悪を駆逐する正義の味方だったのよ」

 ……この学校は今年から中高一貫校にはなったものの、普通の公立中学だし、学園という言葉が似合うような雰囲気でも規模でもない。いや、そういうことでもないんだけど。

「そう、そうよ!最初からあかりは私のヒーローだったの!」

 せめてヒロインにしてあげてほしい。

「私ね、あの子はきっといつか大きなことをやるって思っていたんだ。そしたらやっぱり!」

「霧香さん……」

「おう、頑張れ」

 霧香さんは顔も上げずにそう言って忙しく指を動かし続けている。

 何て無責任な教師だろうか。

「あれ…?でも、あかりが本当に魔法少女だっていうなら…」

「来宮さんが考えている通り、この星は侵略されていたの」

 正確にはちょっと違うし、彼女にこの話をするかどうかはちょっと迷ったのだが、どうせ記憶は消すのだし、話してしまっても問題ないと思う。と、いうよりこっちから全くなにも話さずに、あかりちゃんを神格化していくだろう彼女の話を一時間なり二時間なり聞き続けていたら私のほうがおかしくなってしまう。

「まあ、それも先週終わった世界大戦シリーズで終わったんだけどね」

「ん?ん?じゃああの転校生達は」

「異星人」

「おお……じゃあマリカもその異星人に対抗するために?」

 ああ、そういえばそうだ。この子はイタリアのマリカ・アモーレの名前を名乗っていたんだった。

「マリカ・アモーレはこの国の魔法少女じゃないわ。というか、来宮さんは彼女とはどういう関係?」

「今の話の地面を棒で叩いたのがマリカ」

「ああ…そうなんだ」

じゃああかりちゃんが前に言っていた、去年みつきちゃんが来るまでよくつるんでた二人って、来宮さんとマリカ・アモーレの二人か。

「…あの憎っくき根津みつきが来までは私たち三人の関係はすごく良かったのに!お兄さんが亡くなって落ち込んでいたあの子を慰めて元気にしたのは私とマリカだったのに、あの子が私とマリカからあかりを横取りしたんだ!」

 まあ、そのお兄さんが朱莉さんとして生きているということを知るきっかけになったのがみつきちゃんなので、横取りではあるものの、最終的にあかりちゃんが立ち直るきっかけになったのはみつきちゃんという考え方もできる。まあ、このあたりは彼女は知らないのでしかたないかもしれないが。

「確かにあなた達があかりちゃんを元気づけたっていうのはあるかも知れないけど、あかりちゃんは魔法少女になって、もっと元気になったんだから、そういう言い方しなくてもいいんじゃない?大切なのはあかりちゃんが元気になったかどうかってことでしょ、その貢献度の優劣なんて話をしたって…」

「はぁ?あかりへの貢献度の優劣なんて、考えるまでもなく私が一番でしょ」

 ……また『はぁ?』って言ったなこいつ。

「ていうか、あんた実はまだたいしてあかりと仲良くないんでしょ?でも仲良くしたいんでしょ?だからあかりのストーカー捜しなんかして点数稼いで…」

「点数稼ぎなんてつもりない!大体あかりちゃんに嫌がらせしてたストーカーに言われたくない!」

 来宮さんの言葉にカッとなった私はついつい勢いで変身してしまった。

「まあまあ落ち着け」

 霧香さんは先ほどまでと同様に顔も上げずにそう言うが、私同様いつのまにか変身していた。だが、霧香さんのほうはカッとなっているとか、我を失っているとかそういう様子はない。

当然私はこの姿で来宮さんに襲いかかるほど我を失っていないが、それでも霧香さんの立場上、これ以上の威嚇は見過ごせないぞと言う警告なのだろう。

「来宮も今のは良くないぞ。真白もみつきも別に点数稼ぎであかりの側にいるわけじゃないんだからな。お前だって同じ事言われたら嫌だろ?」

「はい……ごめん、えっと…」

「甲斐田、甲斐田真白」

「…ごめんね、甲斐田さん」

 私が名乗ると、来宮さんは改めてあやまりながら頭を下げた。

 もしかすると、あかりちゃん関係で熱くなっていないときの彼女は普通にいい人なのかも知れない。

「出会いも、あなたがあかりちゃんの事をどれだけ好きかっていうこともなんとなくわかったけど、でも彼女のストレスになるようなことをしちゃだめじゃない?」

「おお、なんか先生みたいだな真白」

「働かない先生は黙っててください!」

「はいはい」

「とにかく、ダメなものはだめなんだから」

「でも、私にだってあかりの友達の権利はあるし!」

「いや、友達になるかならないかって、権利を主張するようなものでもないでしょ。本気で嫌になったら、あかりちゃんにはあなたと友達にならない権利もあるわけだし」

 友人関係ってお互いにそう思わないと成立しないわけだし、一方が権利を主張したってそれは知り合い以上友達未満だと私は思う。

「う…じゃあ、どこまでなら許されるのよ」

 あれ?この子もしかして頭悪い?生徒会長をやるくらいだし、頭は良いんだと思っていたんだけど。

「どこまでって…それはあかりちゃんの許す範囲じゃない?ストーカーはダメだと思うよ。疎遠になって寂しいならそう言えばいいじゃない。そんなことであなたのこと嫌いになるような子じゃないでしょ」

「……わかった。じゃあこれからはストーキングはしない。あかりに嫌がられるのは不本意だし」

「それ、記憶が消えた後もちゃんと覚えておいてあげてね」

「うん…これからはあかりに直接なにかしたりしない」

 なんか微妙に引っかかるなあ。

「みつきちゃんや和希く…ちゃんに危害を加えるのもダメだからね?

「はあ?なんで私がそんな時間の無断なことをしなきゃいけないのよ」

「もちろんえりちゃん達にもだめだからね」

「だからあかり以外のことに時間を使うなんて無駄なことしないって」

「だったらいいけど」

「ストーキング以外で私がやっていることなんて、せいぜい自分のお小遣いで新品のハーフパンツを買ってきて、体育の後とかにこっそりあかりのと入れ替えるくらいで」

 ……ん?

「それを穿いたり嗅いだりしてあかりを感じるくらいだし」

 ………えっと…あれ?

「まあ、その…たまにハーフパンツをはいてベッドに入って……って、

キャー!何を言わせるのよ恥ずかしい!」

 いや、本当に何を言っているんだお前は。

 とりあえず恥ずかしそうに顔を赤くして照れ笑いをしながら両手を頬に当てて楽しそうに首を振る話ではないと思う。

「あ、でも勘違いしないでよ。ちゃんと使った後は洗濯してからまたあかりのと入れ替えているんだから。我ながら完璧。完璧な永久機関よ」

 使うって一体何に使ったんだ?っていうか……

「この子変態だぁぁぁぁっ!」

「失礼なこと言わないで!人よりちょっとだけあかりの事が好きなだけなんだから!こんなの友情の延長線でしょ!」

 ちょっと好きなくらいの友達相手でそこまでするのが普通だとしたら、この学校のすべての生徒のハーフパンツは入れ替わりが激しくてもはやどれが誰のハーフパンツかわからない状態になってしまっていると思う。

「なんかもう、来宮っていうか、狂宮だな」

 と、ドヤ顔で霧香さん。

「誰が上手いこと言えと言ったんですか!チャチャいれるだけなら引っ込んでてください」

「はいはい」

「それでね、あかりがね」

「ストップ!あのね、来宮さん。あかりちゃんのハーフパンツを盗ったのはまあ、もう過ぎたことだからしょうがないとして、まさかマリカ・アモーレのも盗っているの?」

「ああ…まあ、最初は。でもあいつ私が盗…洗濯してあげていることにすぐに気がついて…」

 盗っているって言いそうになったのは聞かなかったことにしてあげよう。

「揺すられたとか?」

「ある意味ね。ある日の放課後、私はいつものように体育の後二人のハーフパンツを回収しようとしたんだけど、マリカのハーフパンツに請求書がついていたの」

 おかしい、私の知っている友人関係という言葉と、この子達の友人関係は同じ音の言葉でありながら全く違う国の言葉のように意味が違っている気がする。

「一回300円。払えない金額じゃないけど、私そういうあざとい商法嫌いなの。っていうか一回300円って!週三回体育の日に持って帰ったら週900円!一月4週として3600円よ!?わざわざ二人の家の洗剤も柔軟剤も調べて別々に洗っているから、その洗剤代だってバカにならないのに!」

 いや、その家に持って帰る行為をやめれば洗剤代もかからないのだけどね。

「そうやってあざとく稼ごうとするところを見て、なんかマリカに対しては冷めちゃって」

 マリカ・アモーレはなんとなくそういう来宮さんの性格を見越してそういった対処をしたんじゃないかと思うのは考えすぎだろうか。

「とにかく、今はあかり一筋。マリカの事は友人だとは思っているけど、別にあかりほど好きではないかな」

 なぜか得意げで、そして上から目線だった。

「うーん……」

 後ろから聞こえたうなり声に振り返ると、話そっちのけでゲームをしていたはずの霧香さんが、いつの間にかゲーム機を置いて私の後ろに立っていた。

「どうしたんです?」

「いや、このまま来宮の記憶を消しても良いものかと思ってさ」

 たしかに、ここで今こうして説得していることも、記憶を消されてしまえば忘れてしまうわけで、この一時間ほどかけて彼女に説明したことがまったくの無駄になってしまう。

 まあ、消さなかったところで無駄かも知れないとちょっと思っているけれど。

「でも記憶を消さないと色々問題になるかもしれませんよ」

「じゃあやっぱり私は廃人に…廃人になったら、あかりはお見舞い来てくれるかな…」

 そう言ってフッと、寂しそうな表情で窓の外に目をやる来宮さん。

 というか、来宮さんは来宮さんでどうして廃人になりたがるのか。

「なあ来宮」

「はい」

「あかりの秘密っていうのはごくごく少数の人間にしか知らされていないことなんだ。それこそ学校で知っている大人は私と浅川先生。それに学年主任の先生方と、校長先生、教頭先生くらいなんだよ」

「わかります。重大な秘密ですもんね。あかりはみんなで守らないと」

 そう言いながら来宮さんがうんうんと頷く。

「そうなんだよ。マスコミは抑えているから大丈夫としても、人の口に戸板は建てられないからな。そんな重大な秘密なんだけどさ、お前その秘密の共有者になったら、秘密を守れるか?」

「守りますとも!他ならぬあかりの為ですから」

「ん。採用」

「え?採用ってなんですか?」

「いや、都さんからさ、それぞれの学年に普通の生徒の協力者を一人ずつでいいから置いた方がいいんじゃないかって言われていてさ。あかりの妹の千鶴なんかはその第一号なんだよ」

「私たちじゃ、えりちゃんたちを守れないって思われているということですか?」

「そうじゃないって。マガ部の用事っていう名目でまとまって出かけたりはできるけど、逆に言うと、もしもこの学校になにかがあったときマガ部は出動になるわけだ。そうなったときに、えり達や一般生徒の避難誘導なんかを率先してやってもらう人間が必要になる。もちろんこっちの存在を知っている先生方は協力してくれるだろうし、しっかりやってくれると思うけど、生徒の中にそういう人間が居た方がスムーズに事を進めやすいっていうのはある。そういう意味では、若干人間性に問題はあると思うけど、来宮の生徒会長っていう地位は非常に魅力的だ」

 霧香さんの言っている話は、わからない話ではない。だが、それでもやっぱりこの子を信用するのはちょっとどうかなと思ってしまう。

「…本当に秘密を守れるのならありだと思いますけど、大丈夫なんですか?」

「一応、テストっていうことで週末まで監視させてもらう。それで問題なさそうだったら週末に面接ってことでどうだ?」

「なんで私に向かって言うんです?」

「来宮がそれに対してどうこう言うとは思わないから」

「その言い方だとなんか私だけが悪者みたいになるじゃないですか……監視の方法は?」

「ヘアピン型の小型カメラをつけてもらう。もちろん音も拾うし、映像も拾うから筆談で誰かに漏らすこともできない。怪しかったら即その場にいた人間の記憶を消す。まあ寝るときや、風呂なんかは仕方ないから外してよし。あとはケータイの通話記録と、通信記録かな」

「いえ、お風呂もトイレも寝るときもつけますからしっかり見極めてください」

 先ほどまでとは別人のようなりりしい表情の来宮さんがそう言って拳を握る。

「あかりの為なら、私はどんな辱めを受けても大丈夫ですから」

「…OK。じゃあ検証は私と総司令の二人で行う。男性スタッフや元男性魔法少女の目には絶対触れさせないようにするから安心してくれ」

「はい。よろしくおねがいします」

 そう言って来宮さんは霧香さんに向かって深々と頭を下げた。






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