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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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甲斐田真白の疾走

 私は幼い頃から走るのが速かった。

 同じ年の男子はもちろん、上級生よりも早く走ることができた。

 お父さんは『うちの手伝いで長い廊下を毎日ぞうきんがけしているおかげだな』とか言って笑っていたけど、因果関係はわからない。

 そんな私の得意魔法が移動に特化した飛行能力というのは、道理と言えば道理だった。

 もちろん魔法少女になった私は空を飛ぶだけではなく、変身をしなくても魔力を使ってこれまで以上に速く走ることもできるようにもなった。

最悪、その魔法を駆使してでも必ずここで捕まえる!

そう決心して臨んだあかりちゃんのストーカーとのチェイスは魔法をつかうどころか、本気で走ることもなく、ただ軽く20メートルほど走っただけであっさりと決着がついた。

なぜなら。

「廊下を走っちゃダメでしょ。人にぶつかったら危ないんだから」

「はい…すみません」

「気をつけなきゃダメよ。特にあなたは…」

 私を振り切ろうと廊下を走っていた彼女を見つけた深谷さんがしっかりと捕まえてくれたからだ。さすが先生、頼りになる。

「ふか…浅川先生」

「ああ、甲斐田さん。どうしたの?」

 深谷さんがこの学校での教師として名乗っている名前は浅川あきはという。

「ちょっとその子にお話しがありまして」

「ん?っていうか甲斐田さん。あなたも今廊下走ってこなかった?」

「え?いや…それは…」

「……うん。お昼休みが終わるまでもう少しあるわね。じゃあちょっと生徒指導室に行きましょうか。廊下を走るとどういうことになるか、しっかりと教えてあげます」

 腕時計を確認した夏樹さんがそう言って私と彼女の手をつかんだ。

「ちょっとまってください浅川先生。確かに私もその子も少し廊下を走りましたけど、それはちょっと行きすぎた…その、あれです、青春の悪ふざけというか、そういうの。先生にも経験あるでしょう?」

「青春!……ん、まあ、そうね。私も学生時代は大好きな先輩を追いかけたり、あまり好きではない先輩に追いかけられたり…色々あったわ」

 そんなことを言いながら、しみじみと当時のことを思い出したような表情を浮かべて夏樹さんがうんうんと頷く。

 最近わかったことだけど、夏樹さんは青春の思い出とか一ページとかそういうフレーズに弱い。今のように青春というキーワードを絡めてどうでしょうと問いかけると、勝手に回想に入ってくれて、大体のことはうやむやにすることができる。

「そう、そうよ。あのときの恋は追いつ追われつ、追われつ、追われつ……ああ、なんで私あの時追ってきたほうの先輩と付き合ったんだろう…思えばアレが私の男運の悪さの…」

 夏樹さんはそう言って頭を抱えてしゃがみ込むと、ぶつぶつと何事か独り言を言い始めた。廊下を走る+青春は夏樹さんにとって鬼門だったのか、うやむやにするだけのつもりが、うまいこと夏樹さんを行動不能にすることに成功してしまったようだ。

「はいそこ、逃げようとしない」

「う……」

 私は夏樹さんに隙ができたのを見て逃げようとしていた女子生徒の腕を捕まえてこっちを向かせた。

 セミロングの黒髪を後ろで一つに結わえた彼女は、不良とかオタクとか、そういうわかりやすい特徴はなく。特別勉強ができそうでも、勉強ができなさそうでもない、ごくごく普通の、悪い意味ではなくあかりちゃんと同じタイプの生徒に見えた。いや、あかりちゃんは普通に成績良いんだけどね。

「あなた一体誰?なんであかりちゃんをつけ回すの?」

 私は彼女の腕を引っ張って階段の踊り場まで行ってからそう質問した。

さすがにクラスメイトの顔は覚えているので、少なくともこの子がクラスメイトでないことはわかっている、だがなんとなく声に聞き覚えがあるような気がしないでもない。

「誰って…ていうか、別にあかりのことをつけ回してなんていないし。それよりあんた、そんな態度とっていいの?秘密バラすよ」

「バラしたらあかりちゃんに嫌われるけどいいのね?」

「くっ…卑怯者!」

「いやいや、どっちが卑怯者かと言われれば、多分それはそっちの方だと思うけど」

 少なくとも現時点で私はあかりちゃんの秘密をダシに脅しをかけられ、その上一方的に卑怯者呼ばわりまでされているわけで、こっちには全く非がないと思う。

「ま、いいけどね。でもやっぱりあなた、あかりちゃんの事は知っているんだ」

「はぁ?…し、知らないし」

「じゃあ屋上行く?」

「それは…その…」

「はあ……あなたのクラスと名前は?」

「B組の、ま、マリカ・アモーレ」

 そう名乗る彼女の目は見ていて面白いほど泳いでいて、嘘だと言うことを如実に語っていた。というか、その子は確か屋上にいた外国の魔法少女の中に居るはずだ。

「……」

 とりあえず私は携帯を取りだしてペナルティとして無言で彼女の顔写真を撮る。

「ちょ、何撮ってるのよ」

「次に嘘をついたらこれをあかりちゃんに送る」

「ぐ……嘘じゃないし」

 まあ、送らなくても変身を見られてしまった以上は処置をしないといけないし、最終的には誰がストーカーだったか彼女に知れてしまうのだけれど。

「なら、生徒手帳出して」

 たまたま知っている名前を出されたおかげで彼女の嘘を嘘と断定できたが、考えてみれば私が全校生徒の名前を把握しているわけでない以上、自己申告の名前をそのまま信じるなんてこと危なすぎる。

「……出しなさい」

「はぁ?命令しないでよ」

「出しなさい!」

「はい!」

 私は、彼女が差し出した生徒手帳の名前とクラスを自分の手帳に書き写す。これでとりあえず彼女がどこの誰かわからなくなってしまうようなことはない。

「さて、じゃあ保健室に行こうか」

 とりあえず柿崎さんが来るまでこの子は霧香さんに頼んで保健室で拘束してもらうのがいいだろう。

「はぁ?」

 どうやら彼女の口癖のようだが、この『はぁ?』は個人的にすごくイラっとする。

「次その『はぁ?』っていうのやったら写真をあかりちゃんに送るから」

「はぁ…い」

 ……まあ、セーフにしておいてあげよう。


 保健室に到着した私たちを出迎えてくれたのは、もはやいつもの光景と化した、携帯ゲーム機で遊んでいる霧香さんだった。

「お、真白。良いところに来たな。トカゲリョスが倒せないんだけどさぁ」

「はいはい。寮に帰ってから和希くんと一緒に手伝ってあげますからちゃんと仕事してください」

 他の先生に見つかったら何を言われるかわからないというのになんでこの人はこんなにのんきなんだろう。

「いや、仕事って言っても別に今やることないしなぁ…って、なんだお客さんつれてきたのか。どうした、怪我か?具合悪いのか?」

「どうも頭の具合が悪いみたいなんです」

「頭ってことは頭痛?」

「いえ、そうじゃなくて頭がおかしい」

「はぁ?」

 はい、アウト。

「送信…っと」

「はぁぁぁぁっ!?なにしてんのよあんたぁ!」

「まあ落ち着け来宮」

「あれ?霧香さんこの子知ってるんですか?」

「いや。知ってるのかってお前…この学校の生徒会長だろ」

 ああ、それでどこかで声を聞いたことがあるような気がしていたのか。

 自慢ではないが私は結構な近眼で矯正後の視力もそんなに高くないので、集会の時などに檀上に登っている人の顔なんかはあまりはっきりとは見えない。なんとなく声を聞いたことがあるなあと思っていたのはそのせいだろう。

「お前ってしっかりしているように見えて変なところが抜けているよな」

「しっかりしているようにすら見えない霧香さんにはあんまり言われたくないですけどね」

「そりゃそうだ」

 なんだかんだで霧香さんとはそれなりに長いつきあいなのでお互い遠慮がない。

「ハメられた!まさか先生までグルだったなんて!」

「あー…来宮の様子でなんとなく想像つくけど、何がどうしてどうなった?」

「前に話していたあかりちゃんのストーカーがこの子で、変身を見られました。で、私が捕まえました」

「ストーカーって言わないでよ!」 

「…ま、そんなところだろうと思ったよ。お前も災難だな、来宮」

 この『災難だな』は多分私に追いかけられたことを言っているのだろう。

前に霧香さんは私が後ろから追いかけてくるのはちょっとしたホラー映画よりも恐ろしいとかなんとか失礼なことを言っていたし。

「さ、災難って一体…まさか、秘密を知った私は殺されて…」

「そういう物騒なことじゃないって。ちょっと今日の記憶を消すだけだ」

「じゃあ脳を弄られて廃人に…」

「そういうんじゃなくて、光がピカッとするのを見るだけだから」

「その光を見た私は廃人に…」

 この子はどうしても廃人になりたいらしい。

「廃人にはならないから安心しろ。まあ、それは良いとしてなんで来宮はあかりなんてストーキングしていたんだ?こんなのバレたら内申に響くのくらい、お前だってわかってるだろ?」

「あかりなんかって言わないでください!先生はあかりの素晴らしさがわかっていないんです!」

 生徒会長はそう言ってエキサイトしているが、正直言ってあかりちゃんの素晴らしいところとやらには別に興味がない。

 とは言ってもこれは別に私があかりちゃんのことを嫌いだとか、彼女との間になんらかの諍いがあるとかではない。わたしとあかりちゃんは普通に仲が良いし、お互いある意味で尊敬し合っているのでいまさら誰かにご高説いただく必要がないのだ。

「じゃあ霧香さん、柿崎さんが来るまでこの子のことお願いします。あと、担任の先生への連絡も」

「えー…まあ、いいけどさぁ、それだとゲームできないじゃんよー」

 霧香さんはそう言って不満そうに口をへの字に曲げて頭を掻く。

「寮に帰ったら手伝ってあげますってば」

「こっちの話を聞きなさいよっ!」

「そうだぞ、真白。話聞いてやれよ。私は聞きながらゲームやるから」

「……なんでそんなにゲームやりたいんですか?」

 東北の彩夏さんとかは前からゲーム大好きだったけど、この人がゲームやっているイメージなんてこの学校に来るまで全くなかったのに、最近ずっとゲームをやっている気がする。

「このゲーム、夏樹とどっちが先に全クリできるか賭けてる。まあ、暇な時間が多い分私が有利だけどな」

 そう言いながらすでに霧香さんはゲーム機と内線の電話機を持っていた。

「…あ、保健室の加須ですけど、3-Bの来宮と3-Dの甲斐田が体調不良ということで、はい。五限目欠席です。はい、はい。よろしくお願いします……ってことで、次の授業は気にしなくていいから」

 すごく自然な流れで欠席にされただとっ!?

「来宮も好きなだけ話してけよー」

 とか言いながら霧香さんはすでにゲームに没頭している。

「……あの、霧香さん。なんで自然に私がこの子の話を聞く流れを作ってるんですか?」

「ん?なんだ?ご両親にこの間の強引なサボりのこと報告した方がいいか?」

「………」

 うちのお父さん、普段いい加減なのにそういう事だけは厳しいからなあ…下手すればお小遣いの大幅カットとかされてしまいそうだ。

「……これでチャラにしてくださいよ」

「はいはい、忘れた忘れた…って、うわ、やられた!」

「はぁ、それで?聞く準備はできたの?」

 丸いすに腰掛けてクルクル回りながら待ちくたびれたとばかりに来宮さんが言う。

「あなたはあなたでなんで偉そうなのよ…ま、いいや。霧香さん、ジュースもらいますよ」

「おー」

 霧香さんの聞いているのか聞いていないのわからない返事を聞いてから、私は保健室の冷蔵庫の中からペットボトルのジュースを取りだして来宮さんに渡した。

「……あんた意外に良い奴ね」

「意外も何も別に嫌な奴なつもりはないわよ。で?あかりちゃんの何が素晴らしいって?」

「それはね…」

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