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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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甲斐田真白の溜息

 勢いで学校を飛び出してきたものの、目的地に着く寸前に、私なんかが長官に意見を言って良いものかということに思い至り、私は都さんの執務室の前をうろうろとしていた。

「お、真白ちゃん。おーっす」

 偶然通りかかった朱莉さんが私に声を掛けてくれた。これは全く予想していなかったことで、私は別にこれを狙ってここでうろうろとしていたわけではない。

「なんだかんだで久しぶりだね。どう?学校生活はうまくいってる?」

「はいっ、大丈夫です。報告書にも書きましたけど、あかりちゃんやみつきちゃん。それに和希君が親切にしてくれるのでみんなクラスに上手く溶け込めていると思います」

「そっか。ちなみに里穂のほうはどうかな?…って、学年違うからわからないか…」

「あれ?タマから報告書あがっていませんか?」

 彼女にはちゃんと毎週報告書を出すように言ったし、そもそも先週分は私が一緒に封筒に入れて本部宛に発送したので、上がっていないということはないはずだ。

「…まあ、一生懸命書いてくれているのはわかるんだけど、なんていうか独特なんだよな。楽しかったとか、給食おいしかったとかそんなことが書いてあってさ」

「ああ、なるほど…」

 って、日記か!まあ、日報なのである意味日記と言えば日記なのだが。

「…大丈夫だと思いますよ。里穂もタマも廊下でクラスメイトと仲良く一緒に歩いているのを見ますし、浮いているとかそういうことはないと思います」

「それならいいんだけど。逆に真白ちゃんはどう?」

「どう、といいますと?」

「きちんとした報告書はもらってるけど、タマとは逆に真白ちゃんの心情はあんまり透けて見えなくてさ。いや、仕事をする上ではすごく助かるんだけど、いきなり三人のせいで転校することになっちゃったし、困っていることとかないかなって思って」

「えーっと……」

 今現在特に困ったことはない。最初は転入した先でうまくやれるかどうか不安だったが、クラスメイトは良い子ばかりだし、えりちゃんと静佳ちゃんの二人も地球人の常識から著しく外れるようなことはないので、大した苦労もしていない。

 強いて言えば私の朱莉さんに対する恋心だけが困ったことなのだが、まさかそんなことを本人に言えるわけもない。

「…特には」

「何か足りないものとかはない?」

「大丈夫です。衣食住は寮にありますし、両親からお小遣いもしっかりもらっていますから」

 地元で実家にいたときはあまりお小遣いをもらっていなかったが、一応一人暮らしということもあり、今は私の稼ぎの中からと、両親からのお小遣いということで結構な額をもらっている。

「まあ、あのご両親ならそういうところ抜かりがないだろうけどさ」

 そう言って朱莉さんはくくっと声を殺して思い出し笑いをする。

温泉の事件の後、私がやらかしたことのあらましを知った両親から迷惑をかけた朱莉さんを温泉宿である実家に招待するようにと厳命を受けた私は、あの決戦の後、関東の四人を実家に招いて両親と共におもてなしをした。そしてそのときに父と母がすこし暴走してしまい、恥ずかしい思いをしたのだが、おそらく朱莉さんが今笑っているのはそのときのことを思い出したのだろう。

「まあ、困ったことがあったら俺でも柚那でも言ってくれ。もちろん都さんでもいいけどさ」

 朱莉さんはそう言って都さんの執務室のドアを見る。

「……偉い人に直接っていうのはちょっと苦手かもしれないです」

「偉い…都さんの場合、偉いというか、エライというか、エロいというか…」

 都さんは確かにスタイルが良いと思うけど、わりと生活態度などがだらしないと思う。男の人はああいうのをエロいって思うのだろうか。

「まあ、あれだ。そんなに意識しなくてもあの人って結構気さくだから大丈夫だと思うぞ」

「それは知っていますけど……」

「知っていても実際フランクに接するのは難いよな。まあ、とりあえずなんかあったらそんなに偉くない俺に遠慮なく相談してくれ」

 朱莉さんはそう言って笑いながらぽんぽんと私の肩をたたいた。

「……さて、それはそうと真白ちゃん」

 笑顔から一転。肩を叩いていた手をそのまま肩において朱莉さんが真顔で私を見つめる。

「まだ学校の時間じゃない?」

「あ……それはその…」

「なんてね。まあ、真面目な真白ちゃんが学校サボるくらいだからなんかあったんだろうけど、緊急事態…ってわけじゃないよな」

「はい…」

 さすがにそれなら私がここまで飛んでくるより警報を出したほうが早い。

「じゃあどうした?」

「深雪からメールがありまして、その…ちょっと話が」

「ん?だったらここに来ないで直接深雪たんに聞いた方が早いんじゃない?階段降りればいるんだし」

「朱莉さんもグルですか」

 都さんの悪ふざけだと思っていたのに、まさか朱莉さんまでグルだったとは。

「グルって…いやいや、一応深雪たんの希望だぞ」

「だからって…」

 だからって、深雪をうちの学校の一年生に編入するというのはどういうことか。

確かに深雪は今年度中学一年生になった。だけど、だからといってわざわざ親元を離れてまでやってくる必要はないはずだ。

「深雪たんが『真白先輩と一緒の学校に行きたいのじゃ!』ってな。そんなこと言われて真白ちゃん断れる?」

「断れません!」

 深雪にそんなこと言われて断れるわけがないじゃないか!

「ですよねー……まあそういうことだよ。俺も都さんも深雪たんには弱いって事」

「…朱莉さんの場合、弱いのは深雪ちゃんだけじゃない気がしますけど」

 柚那さんがそんなことを言いながら朱莉さんの後ろからひょっこり姿を現した。

「こんにちは、真白ちゃん」

「は、はい。こんにちは柚那さん」

 えりちゃんにはかなりきつく口止めをしたので、私の気持ちはあかりちゃんには漏れていないはずだ。なので私が朱莉さんを好きだと言うことが柚那さんにバレている訳がないのだが、やはりこうして正面から向き合うと少し緊張してしまう。

「で、どうしたんです?二人そろってこんなところで」

「真白ちゃんが深雪たんの件で宇都野閣下に陳情申し上げるそうな」

「ああそういうことですか……だったら今日はやめた方が良いですよ。さっき外歩いていたら空から狂華さんと割れたガラスが降ってきましたから」

 さっき私がドアをノックしようとした時に中でガラスが割れるような音がしたのだけど、今の話が本当だとすると、おそらくその音は狂華さんがガラスを突き破った音だったのだろう。

「親方、空から狂華さんが!ってわけか。なるほど、そりゃあ十中八九機嫌悪いな」

「そうなんですよ。だからできれば今すぐにでもここを立ち去った方がいいと思います」

「というか、都さんって機嫌悪いくらいで恋人を窓から放り出すんですか?」

「あの人なら放り出すな」

「あの人は放り出すよ」

「実際放り出されたよ」

「って、狂華さん!大丈夫ですか?怪我とかしてませんか?」

「ああ、平気平気。いつものことだし、ボクはこういうのも含めてみやちゃんの側にいるのが楽しいから。それに今日のことはボクが悪いし」

 私が尋ねると、狂華さんはそう言ってにへらっと緩い笑顔を返してくれた。

 どうやら狂華さんの都さんに対する愛はマリアナ海溝よりも深いみたいだ。

「で、こんなところで三人そろってどうしたの?」

「真白ちゃんが深雪たんのことで色々と腹に据えかねたらしく閣下に下克上するつもりらしいです」

「……え?死ぬ気?」

 いまの今まで笑っていた狂華さんの表情が一気に真顔に変わった。

「下克上なんてしませんし、死にたくありません!」

 確かに深雪は目に入れても痛くないくらいかわいい。だが、私はまだ死にたくない。

別に私は深雪のためになんて死ねないといっているのではない。今深雪を残して死ぬのは、文字通り私が死んでも死にきれない。だって私はまだうちの学校の制服を着ている深雪を一目として見ていないのだから。

 自分でも朱莉さんのことを言えないくらい色々とこじらせているというのはわかっている。わかっているけどそれでもやっぱり私にとって深雪のことは特別なのだ。

 それはさておき。

「深雪の件、どういうことか教えてもらえますか?」

「ああ、んじゃ寮のラウンジのほうにいこうか。そっちのほうがゆっくり話しできるし」

「そうですね、扉の向こうから不機嫌そうな都さんのオーラが漂ってきていますし、それが良いと思います」

「ボクも行こうかな。今日のみやちゃん本気で不機嫌だからニアちゃん来るまで近寄りたくないし」

 近寄りたくないといいつつ、ここまで戻ってきている狂華さんはある意味すごいと思う。




「今日って他の人はいないんですか?」

 しっかりした建物なので元々そんなに物音がする訳ではないが、それにしても寮の中に人の気配がなさ過ぎるのを疑問に思った私は朱莉さんに尋ねた。

「朝陽は昨日から実家に帰ってるし、チアキさんはユキリンが陸にいるからそっちに行っている。愛純はなんだっけ?どっか行ったよな?」

「記念公演のゲストにって言われて小崎さんところです」

「ああ、そっか。まあ、色々重なってたまたま今日は人が少ないんだよ。それで、深雪ちゃんのことなんだけどね」

「はい」

「真白ちゃんは、みつきさんの事は知ってる?」

「え?みつきちゃんですか?そりゃあ…」

「いやいや、みつきちゃんの必殺技…ともちょっと違うか…うーん…月の出ている夜限定なんだけどね、みつきちゃんは五年後の自分っていうやつになれるんだよ。本人も仕組みがよくわかってないみたいだし、実際に五年後のみつきちゃんがやってきているのか、それともみつきちゃんの潜在意識が五年後の彼女を形作っているのかはよくわからないんだけど、そうなった彼女はとにかく強い」

「強いってどのくらいですか?」

「狂華さんより全然強い」

「え、それって朱莉さんよりって事ですか?」

「もちろん。大体、元々俺なんかたいして強くないだろ?なに言ってるんだよ真白ちゃん」

 むしろ朱莉さんこそいったい何を言っているんだろう。朱莉さんが強くないといってしまったら一体誰が強いというのか。いや、それよりも今は深雪の事だ。

「その、みつきちゃんとみつきさんの話が深雪と一体どう絡んでくるんですか?」

「魔法とか魔力って、練習で増すのはもちろんなんだけど、時間が経って身体になじめばなじむほど増すのは知っているよね?」

「ええ」

「それで、某国が打ちだしたのが、英才教育の制度。つまり若いうちから魔法少女として研鑽を積ませて強い魔法少女を育成しようっていう事なんだ。んで、その某国連中が目をつけたのが真白ちゃんたちの学校。里穂たちもいるし、異星人との交流もできて、将来メインになるだろう日本の次世代魔法少女達を知ることもできるっていうことでね」

「大人の事情ってやつですか」

「そういうやつ」

 朱莉さんはそう言って狂華さんが淹れてくれた紅茶を口に運んだ。

「それでまあ、そういうことを考える国がでてくると、当然うちも、うちも、となるわけだ」

「……なるほど」

 それは面倒くさい大人の事情だ。

「最初はアメリカだけのはずだったのが、ロシアやらイタリアやらイギリスやらが入ってきちゃってさ。実年齢もあるし、真白ちゃん達の負担も増えるからその子達を三年生ばかりに置くこともできない」

「そこで、一年生のチューターに選ばれたのが深雪」

「話が早くて助かるよ」

「でも深雪に人の面倒なんて…」

「大丈夫だと思うよ。しゃべり方はともかく、なんだかんだで彼女はしっかりしてるしね」

 確かにあの子はしっかりしているのだが、深雪のわがままなところを知っているわたしとしてはちょっと心配だ。

「大丈夫だよ。ボク達も深雪がやりたいって言ったからってそれだけでやらせているわけじゃないし、それにもう彼女たちの顔合わせは終わっていて、仲良くやっているみたいだからさ」

「顔合わせが終わってるって…あれ?じゃあもしかして」

「深雪たんと一緒に今日から学校に通ってる」

「なんでそういうこと先に言ってくれないんですか!」

「だって深雪たんに『真白を驚かせるのじゃ!』とか目を輝かせて言われたら断れないだろ?」

「断れませんけど!」

 断れないけど、こっそり教えてくれたって良いと思う。

「まあ、真白ちゃんの気持ちもわかるし、俺がもう少し気を遣えば良かったとも思う。ごめんな。ただ、都さんのほうもその件で色々あってイライラしてるっていうのがあってさ。直接色々言うのはもう少し落ち着いてからにしてあげて」

 そう言って朱莉さんは申し訳なさそうに私を拝むようにしながら謝ってくれた。

「…わかりました。私もちょっと行動が短絡的だったと思います。すみません」

「あ、いや。それはいいんだぞ。さっきも言ったけど真白ちゃんはちょっと我慢しすぎるというか外に出さなすぎるから思ったことはもっと言って良いし、どんどん行動していいぞ」

「いいんですか…?」

「いいよ。そのために佐須ちゃんと深谷さんが学校にいるんだし、俺達もここにいるんだから」

 そう言って笑う朱莉さんの笑顔はものすごく頼もしく見えた。




 夕飯を四人で済ませた後、朱莉さんと柚那さんにJCチームの寮まで送ってもらった私が自分の部屋がある階でエレベーターを降りると、部屋の前でタマが待っていた。

「先輩。ちょっと相談がある」

 魔法少女としてのキャリアは彼女のほうが上なのだが、バスケ部という体育会系の部活に所属しているためか、しゃべり方はぶっきらぼうだが、私たちのことを年上としてたててくれている。

「それはいいけど、別にこんなところで待ち構えてなくてもいいのに」

「そのくらい緊急の用件。本当は電話で連絡したかったけど、学校に置いてどこかに行っちゃうし」

 たしかにタマの言うとおり私は携帯を放り投げてそのまま早退してしまったので連絡は取れなかったが、緊急の用件とはいったいなんだろう。

深雪達の入寮は明日だという話だったし、今日これといって緊急の案件はないはずだ。

「あかり先輩にストーカーがついた」

「勘違いじゃなくて?」

「……ノータイムで即答…」

「あ、違うの、そういう意味じゃなくて」

 あかりちゃんは普通にしていればすごくかわいいと思うけど、例の告白の時の件もあるし、あれが直らないと恋愛関係はちょっと難しいかなと思う。

「でもあかりちゃんならストーカーの男子くらい全然平気なんじゃない?」

 なんと言ってもあかりちゃんは魔法なしならば、今現在うちのチームでは霧香さん夏樹さんに継ぐ実力者なのだ。そのへんの男子生徒や、例え成人男性相手だったとしてもそうそう遅れは取らないはず。

「今日里穂に釣…言われて、あかり先輩の後をつけたんだけど」

 一体タマは何で釣られたんだろう…

「うん、それで?」

「あかり先輩の後をつけるそれらしい奴はいなかった」

「じゃあやっぱりあかりちゃんの勘違いなんじゃないの?」

「でも、あかり先輩に対する執念みたいな、そういうのは一緒にいるとすごく感じる。背中に視線が突き刺さるというか…結構怖かった」

 たしかにそれはちょっと怖い。

「あ、もしかしたら外国の魔法少女の子じゃない?今日から転入してきたっていうし、こっちの様子を探るために来たという話だったから、あかりちゃんを見てたのかも」

「うーん……」

「違うかな?」

「その魔法少女を見ていないからわからないけど、魔力で姿を消しているとかそういう感じは受けなかった」

「じゃあ違うかな。とりあえず彼女達の資料をもらってきたから一通り見てみてもらえる?お菓子もあるし」

「お菓子!」

 お菓子と言った瞬間、彼女の頭の上にあるはずのない猫耳が見え、これまたあるはずのないしっぽがピーンと伸びたように見えたのは何故だろう。

「荷物持つ」

 タマはそう言って私の持っていた荷物を奪うようにして持つと、鞄の横についている鍵で部屋のドアを開けて勝手に中に入って行ってしまった。

 深雪の件もまだ本人と話せていないに、また新たな面倒ごと…そう考えたら、なんとなく深い溜息が出た。


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