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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔法少女はじめました~if~ ②

「イフ…っすか」

 丁度待ち時間が同じだった彩夏ちゃんに話を振ると、彩夏ちゃんは腕を組んで少し考えた後「ないっすね」と言った。

「私って都さんの方針で最初から親バレしてますし、見た目もそんな…それこそプチ整形したくらいしか変ってないんです。まあ、進学も就職もせずにブラブラしてたんで、もし魔法少女になってなければ普通に実家で働きながら同人活動してたと思います」

 全く華のないもしものストーリーだった。

「そうなったら多分予算も時間もカツカツで今みたいに自由に活動できてなかったと思いますけどね」

 ああ、そうだ。自由といえば…

「彩夏ちゃんは最近かなり自由らしいね。自由すぎて最近訓練してないらしいじゃん」

「……一体どこからその話を?」

 そんな気まずそうな顔するくらいならちゃんとやれば良いのに…

「セナから」

「あの子朱莉さん相手だとほんとザルだなあ。まあ平和ですし訓練も雑務も別に私がサボってたって大丈夫ですよ。というか、ここだけの話なんですけど、私、東京に異動とかできないっすかね。仙台だとイベント行くのも厳しくて」

「いや、君がいなかったりサボってるといろいろダメだろ東北は」

 まず寿ちゃんが倒れるだろうし、彩夏ちゃんのかわりに寿ちゃんのフォローにつくセナも時間をおかずに倒れるだろう。そうなると変なところで張り切る精華さんがグチャグチャにして、こまちちゃんと燈子ちゃんが面白がってそれを煽ってと、なんかもうどうなるかが火を見るよりも明らかだ。

「毎週ポルシェで来れば良いじゃん。宿はこっちの寮があるんだから土曜日の昼間に出てゆっくりしてもいいし、なんだったら金曜の仕事を早めに斬り上げて午後来てても良いんだし」

 基本的に俺達魔法少女に強制的な拘束時間はないので、期限までに必要な仕事を片付けられれば基本的に時間は自由にできる。なので彩夏ちゃんさえ本気になれば木曜の夜にこっちに来ることもできないことはないはずだ。

「あー…ポルシェ。ポルシェねえ……あの車って速いんですけど、荷物があんまり載らないんで、ほとんど在庫を持って帰れないんですよね」

 そらそうだ。

「そうすると結局宅配便頼んだりしなきゃいけないしとかで面倒なんでもう一台買おうかなって思ってるんですよ。寮まで運んじゃえば、東北寮までは戦技研の物流が使えるし…」

 彩夏ちゃんはそこで言葉を切ると上目遣いに俺を見る。っていうか、戦技研の物流を勝手に同人誌の運搬に使うなよ。

「…駐車場の空きはあるから別にいいけどね。二台分でいい?」

「わーい。朱莉さんはそういうところ話が早くて好きです」

 いや、ここまで露骨にやって話が通らないのは多分楓さん位だと思うが。

「はいはい。それはそうとセナって魔法少女になる前って、何やってたか聞いてる?」

 去年の時点で18歳だって聞いたような気がするから、順当なら高校生か大学生だと思うけど。

「……そういえば聞いたことなかったですね」

「彩夏ちゃんも聞いたことないの?」

「はい。別にセナの過去には興味ないですしね」

「親友じゃないの?」

「親友ですけど、なんでもかんでも根掘り葉掘り聞くのが親友ってわけでもないですから」

 彩夏ちゃんって、変なところドライだよなあ…

「ま、丁度良いから後で聞いてみるか」

「あの自分語り大好きなセナが自分からしゃべらないところを見るとかなりの黒歴史だと思いますよ」

 まあ、俺もそんな感じはしている。

 実はバリバリのヤンキーだったとか、はたまた引きこもりのオタクだったとか色々考えられる。まあ、後者だと精華さんとかぶるのでなさそうな気はするけど。

「それより柚那さんと手分けしているなら、柚那さんがセナのお姉様のほうにうっかり聞いちゃったりすると……」

「ああ、そこは大丈夫。柚那には釘を刺してあるから」

「ならいいんですけど」

 あの子の場合、壮絶すぎてイフとかそんなこと考える隙間がない。

 正直現役メンバーの中では柚那の過去が一番重いだろうと思っていた俺としては、こまちちゃんが柚那の過去の重さを軽々と越えてきたときには正直驚いた。

 一応、あの事は東北組と公安組、それに俺と楓さんしか知らないので柚那にはぼかして言ってあるが、かなりきつく釘を刺したので柚那がうっかりこまちちゃんに話を振るようなことはしないと思う。

「あと今日聞けそうなのは……」

「面白そうな話をしているな朱莉」

「……寿ちゃんってどうなの?」

「え?寿さんっすか?あんまり昔の話はしたがらないですけど、普通の大学生だったって聞いてますよ」

「専攻とか聞いてない?」

「おい」

「確か地質学がどうとか言ってましたけど、詳しくなにをしていたとかそういう話は聞いてないです」

「そっか…」

 寿ちゃんには悪いけどそんなに面白い話が引っ張れそうな経歴ではない。

「朱莉」

「狂華さんも聞けそうだけど、考えてるまでもなくあの人は魔法少女になってなくても普通に都さんと一緒だったろうし、結婚してると思うんだよな」

「そうですね」

「無視するつもりか」

「チアキさんも重いからなあ……」

「あと、七罪組はもし魔法少女になってなかったら悲惨な人ばっかりですし」

 もし魔法少女になってなかったら、朝陽→轢死、和希→事故死、燈子ちゃん→餓死、ユウ→事故死、とまあ半分以上は死んでることになる。鈴奈ちゃんに関してはユウも本人も教えてくれないが、その話を聞こうとしたときに恋人の喜乃くんがすごい目で睨んできたことからお察しだろう。愛純と都さんは聞くまでもなく大体想像つく感じなのでとりあえず置いておく。

「朱莉…」

「消去法でイズモちゃんにいってもこれまた面白くない」

「ツンデレラブラブカップルですからね」

 そういうのが好きな人には面白いのかもしれないけど、正直ただただのろけを聞かされるなんて俺は耐えられない。

「その辺にしておいてやんなよ、ジャンヌ泣いてるだろ」

 頭を軽く小突かれて後ろを振り向くと、あきれ顔でいるロシアの連絡将校のユーリアと、半泣きになっているアメリカの連絡将校ジャンヌが立っていた。

「お、ユーリアさんちっす」

「おう、ちっす…じゃなくて、あんた達が無視するからジャンヌ泣いてるじゃん」

「いや、無視されてだんだん涙声になるジャンヌがかわいくてさ」

「朱莉さんにおなじく」

「くっ、この変態どもがっ!」

 ジャンヌはそう言って涙目で俺と彩夏ちゃんを睨み付けるが、そんなの俺達にとってはご褒美以外の何物でもない。

「ジャンヌの涙目おいしいです」

「睨み泣きとか超萌えます」

「この…変態!変態!変態!」

「ぐへへ、たまりませんな朱莉氏」

「デュフフ、そうですな、彩夏氏」

「いい加減にしなって」

 ユーリアはそう言って俺と彩夏ちゃんの胸を裏手で軽く叩いた。

 ダブルボケと弄られキャラしかいないこの場で自分の役割を素早く認識して、さらに律儀にツッコんでくれるユーリアは仕事ができる上に超いい人だと思う。

「あんまりしつこくするとウォッカぶっかけて燃やすよ」

 訂正。赤ら顔でため息交じりにこんなこと言う人は超怖い人だと思う。

「で、なんの話してたの?面白いとか面白くないとかなんかそんなことが聞こえてきたけど」

「俺達がもしも魔法少女になっていなかったらどうなってただろうかっていうテーマで色々話を聞きたかったんだけど、なかなか面白い話が聞けそうな人がいなくてさ」

「だったらそれこそジャンヌに聞けばいいじゃないか」

「え?ジャンヌってそんなに面白い過去を持ってるの?」

 俺が言うのもなんだけど、ジャンヌってあんまりパッとしないイメージなんだよな。雑魚相手には無双できるけど、強い敵が出てきたときに真っ先に噛まれるというか、ホラー映画で言うと最初にカップルが行方不明になった後『俺が様子を見に行ってきてやるよ!』とか行って外に出て、殺人鬼にさっくり殺されちゃうお調子者のようなイメージだ。

 いや、決してジャンヌが弱いわけではないんだけど。

「ジャンヌは元FBIだよ」

「マジでか!?やっぱり宇宙人とか探しちゃったりするのか?」

「いや、そもそも私たちが探すまでもなく宇宙人はいたからさ」

 そうでした。

「じゃあ、猟奇殺人犯の博士と対決したりとか」

「いや…その…て、テロリストの行動分析とか!なら…」

「あ!じゃああれだ『FBI!』ってかっこよく叫びながらテロリストのアジトにドアを蹴破って乗り込んだりとかだ」

「いや、私は後方支援担当だったからそういうのはしていないんだけど…」

「……」

 なるほど、地味だ。

 いや、大切な仕事なのはわかるし、多分そこにフォーカスして一流の脚本家が話を作れば10年以上も続くようなドラマシリーズとかも作れるかもしれないが、ジャンヌの語りではそこまでの物は望めないだろうし、俺も面白い話がでてくると信じてヨイショし続ける自信はない。

「ユーリアはどんなことしてたんだ?」

「…聞かない方がいいよ」

「うん、やめとく」

 今の今まで赤ら顔でへらへらしてたのにいきなり真顔に戻られちゃ、さすがの俺でもしつこくは聞けない。

「あとは…小花とかは、もともと何してたんだろ」

「あいつは普通だよ。普通に口減らし。あんまり裕福じゃない農村の出身だったらしいから」

 ユーリアはこともなげに言うが、俺の感覚からするとあまり普通の出来事ではない。

「…それって中国やロシアでは普通なの?」

「日本人の中流家庭の多さほど普通とは言わないけど、中国とかロシアとか、どこどこの国って限らず、貧乏な地方じゃなくはない話ってくらいには普通。むしろ小花は幸運な方だね。あと、別に日本でもこういう話がないってわけじゃないから」

 手の届く範囲の命は拾う。魔法少女になったときにそう決めていたけど、こういう話を聞くともう少し広い範囲を何とかしたいと思ってしまうのは俺が偽善者だからだろうか。

「深刻な顔しないの。別にあんたが悪いわけじゃないんだから」

「まあ、そうなんだけどモヤモヤするんだよ。そういう話を聞くと」

「ま、人には領分ってのがあるんだ。気にしたって仕方ないさ」

「ちなみにユーリアもそういう感じ?」

「ダー」

 ユーリアはそう言って白い歯を見せながらはにかんだような笑顔を浮かべる。

 そこはニェットがよかったな……

「ま、私も小花も今が幸せだから良いんだよ。そもそも他の人をどうこうできるような人間ってのは実はほんの一握りで、ほとんどは誰かにどうこうされているつもりになっているけど、自分でなんとかできるんだ。というか、なんとかするしかない。だからイージーモードでももうダメだってあきらめてゲームオーバーする奴もいれば、ベリーハードをものともせずにクリアする人間もいる。どっちがいいかといったら、私も小花もベリーハードをクリアする人間でありたいってだけ」

「強いね」

「どうだろうね…さて、もどろっかジャンヌ」

「え?もうそんな時間か?」

「そんな時間だよ」

 メインでの話はほとんどないものの、彼女たちは俺達国内の魔法少女に情報を提供する役回りの台詞が多いので、TOKYO、OSAKA、SENDAIとすべてに出演していて地味に出番が多かったりする。

「話聞かせてくれてありがとなユーリア」

「そのうち一杯奢ってくれればいいって」

「二杯でも三杯でもいいぜ」

「楽しみにしておく」

「まってくれ朱莉、私も話をしたぞ。私にはお礼はないのか?」

 さみしんぼだなあ、ジャンヌは。

「言っただろ?」

「言われたか?」

「言ったよ」

 言ってないけど。

「そう…か…?」

「ジャンヌ、あなた疲れているのよ」

 嘘をついた理由は至極単純。さっきジャンヌが元FBIだって話を聞いたときにこの台詞が言いたくなっただけだ。

 ちなみに彩夏ちゃんは笑いをかみ殺しているが、ジャンヌとユーリアはネタがわからないのか「そうか?」と言って顔を見合わせている。

「少しジェーンと代わって本国で休みを取るか…」

「それも良いんじゃないか?もう世界は平和なんだしさ」

「そうだな。申請してみるよ」

 そう言ってジャンヌはしきりに首をかしげながら部屋を出て行った。

「朱莉」

 部屋の出口で立ち止まったユーリアが振り返る。

「ん?」

「…本当に平和になったと思ってる?」

「思ってるわけないじゃん」

「そう。それを聞いて安心した」

 ユーリアはそう言ってもう一度笑うと部屋を出て行った。

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