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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔法少女狩り 1

 相馬ひなたは魔法少女である。


 無印と呼ばれるクローニクの第一シリーズから登場し、その後関西ローカルに活躍の場が移った今でも彼女の人気は根強いものがある。

 東京出身である彼女の話す関西弁は、『何か変だ』といわれつつも、彼女なりに関西に根付こうとしている姿勢が見えるからだろうか、最近ではそれもまた良しという風潮がある。


 相馬陽太は相馬ひなたが魔法少女になる前の名だ。


 おそらく、番組内での相馬ひなたしか知らない視聴者や、邑田朱莉などの同僚魔法少女が聞いたら耳を疑うだろうが、ひなたは陽太だった当時の身分証と後輩の女性と二人で撮影した写真、それに家族との写真は小物入れに大切に保管されている。

『過去や過ぎたことをあまり思い出したりしなさそう』おそらくはこれが視聴者と仲間たちのひなたに対する共通見解だろうが、意外にセンチメンタルな面もあるのだ。

 ひなたが魔法少女になった理由は、『膝に傷を受けて歩くことが困難になり、毎日に刺激が足りなくなったから』であり、膝の傷云々よりも刺激がたりないということのほうが大きなウエイトを占めていた。

だから彼が望んだのは刺激的な彼女としての毎日と、残していく家族への充分な補償だけだった。

 だが、それだけにひなたの退屈しのぎに対する情熱は執着の域にまで達しており、時に周りを巻き込む。



「朱莉ぃ」

「なんですかひなたさん」


 ある土曜の朝。腹の上に重いものが乗る感覚で目覚めた朱莉は、ひなたに馬乗りになられていたことには一切ツッコミを入れずに尋ねた。


「暇や」

「暇って…今日は撮影日じゃないですか。撮影が始まったら暇なんて言っていられないんですから、時間ギリギリまで寝ましょうよぉ。ほら、そこのソファ使っていいですから」


 朱莉はそう言って身体を横向きにしてひなたを自分の身体の上からどかそうと試みる。しかし、ひなたは両太ももで朱莉の腰をがっちりとホールドしていたため、朱莉の背中がゴキっと嫌な音を立て、「おうっ」と小さな悲鳴を上げただけで態勢を変えることはかなわなかった。


「……地味に痛い」

「甘いなあ、ウチから逃げられると思ったら大間違いやで」

「前から思ってたんですけど、ひなたさんって、第一シリーズは標準語でしたよね。しかも巨人ファン。なんで関西人のフリをしているんですか?」

「そんな昔のことは忘れたなあ」

「いや、二年前の事っすよ」

「大阪にーとばーされたー女やーさかい」


 音痴とも上手いとも言えない歌唱力で歌い上げるひなたに今度は朱莉がツッコミを入れる。


「語呂悪っ!」

「別にええやん。おかげで妙な団体から金請求されへんで」

「…まあ、どうでもいいっていう意味では別にいいんですけど」

「ノリ悪いなあ」

「まあ、あなたみたいに寝起きの人の上に乗っちゃうくらいにノリがいい人と比べれば悪い方でしょうよ。つか、退屈なら先に学園行ってシミュレーターをするなり桜ちゃんあたりを相手に練習をするなりすればいいじゃないですか」

「アホ。桜相手にそんなことできるか!」


 ペチっと可愛い音がなる程度の軽さで朱莉の額を叩いてからひなたがフンっと、鼻息を吐いた。


「え?なんでです?」

「桜は弱すぎて相手にならん。本気でやったら大ケガさせてまうわ。朱莉かて、柚那と本気の訓練なんてせえへんやろ?」

「いや、それならひなたさんが手加減してあげればいいじゃないですか」

「アホ。それじゃなんもおもろないやろが!」

「わがままだなあ。俺だって別にそんな強くないっすよ。力をコントロールできるようになったっていっても低い水準での話ですし」

「それはわかっとる。だから別にお前とバトろうとかそういうことを考えてるわけやないんや。朱莉は、魔法少女狩りの噂、知っとるか?」

「なんすかそれ」

「魔法少女を狩る謎の敵がおってな。ここ半年くらいアメリカとか中国、それにEU諸国の魔法少女が不意打ちでアンノウンに負かされるっちゅう事件が起きとるんや」

「あー、それは物騒な世の中ですねー」


 話ながらもひなたを腹の上からどけようと頑張っていた朱莉であったが、どうやってもひなたがどいてくれそうにないので諦めて力を抜きながら適当な返事をする。


「まあ、日本ではまだ起こってないんやけどな…」

「ああ、もうなんか嫌な予感しかしない…」

「恐らく犯人は魔法少女の中にいる!」

「絶対言うと思った!…いや、でも日本じゃ事件は起きてないんでしょう?なのに犯人とかって言うのはちょっと」

「”まだ”起きてないだけやろ。ウチはな、すでにもう魔法少女狩りはウチらの中に入りこんどるんやないかと睨んどるんや。だから」

「嫌です無理ですお断りします」

「まだ何も言っとらんやろが!」

「絶対俺に『犯人捜しに付き合え』とか言うでしょう!?」

「犯人探しに付き合え!」

「そのまま言ったあ!」

「いいから付き合え。な?」


 ノーとは言わせない。暗にそう語る微笑みを浮かべ、ひなたがズイッと朱莉に顔を近づける。


「やさしい先輩がこうして頼んどるんやから」

「どっちかっていうと怖い先輩だし、そもそもその態度は頼んでねえよ!脅迫してるよ!」

「ウチと訓練するのと犯人捜しするのどっちがええんや?それか暇つぶしにナニするか?別にそっちで朱莉を堕して、こっちの言うこと聞かせるっていうのでもウチは構わんのやで?」

 ひなたはそう言うと朱莉のパジャマの上着のボタンをはずしにかかる。だが朱莉も大人だ。無抵抗になすがままというわけではない。


「ギャー!ゆなー!ゆなー!助けて!犯されるー!」


 とはいえ、ひなたに身体の重心を抑えられている朱莉は手足をバタつかせて助けを呼ぶことしかできない。


「はっはっは。助けてって言うたって、壁もドアも完全防音の鉄板入りや。たとえ声が聞こえたとしても規則で寮内では変身できない以上、柚那がこの部屋に来るのは物理的に…」


 ひなたが言い終わらないうちに、ドン!という音と共に天井の一部と一つの人影が落下してきた。

 天井の板とともに落ちてきたのは柚那だ。


「無事ですか、朱莉さん!」

「柚那ぁ柚那ぁ…うわああん、怖かったよう」

「待っていてください、朱莉さん。もう少しの辛抱ですからね…ひなたさん、そこをどいてください」


 柚那はそう言って持ってきた金属バットの先をひなたに向けて威嚇する。


「おいおい、この間も言われたやろ。魔法少女同士の刃傷沙汰はご法度だって」


 ひなたはそう言ってヘラヘラと柚那を挑発するように余裕の笑みを浮かべるが、柚那はそんな挑発に乗ることなく、撮影のためにすでに着替えていた制服のスカートから腕章をとりだす。


「最近、ひなたさんはもちろんなんですけど、色々と風紀を乱す輩が多いじゃないですか。それで私、上に直談判したんですよ。風紀を乱す人間がいるなら、それを粛清する人間が必要なんじゃないかって」


 柚那はそう言いながら腕章を放り投げ、空中で器用に腕を通す。その腕章に刻まれた文字は「風紀」の二文字。


「ちなみに、風紀委員による粛清は暴力行為ではありませんし、限定的ですが魔法の使用も許可されていますので、悪しからず。逆に反撃するとひなたさんは罪に問われます」


「この間のあれを根に持ってそこまでやるか…」

「何とでも言ってください!…さあ、どうするんですか?今すぐこの部屋を出ていきますか?それとも粛清を受けますか?」

「はー…しかたない。わかったわかった。わかりました。出ていきますよ。なんや二人して。もう頼まれたって遊んでやらんからな!バーカバーカ!バカップル!」


 そんな中学生のような捨て台詞を残して、ひなたは朱莉の部屋を出ていった。




 能代こまちは困っていた。

 今絡んできているこの先輩と自分は、お互い顔くらいは知っているがそんなに濃密に絡んだことはない...ということになっていたからだ。というか正直絡みたくない相手だ。


 と、いうより、ある意味で過干渉なひなたが苦手なこまちは、配属された東北地域のリーダーがあまり干渉をしてこない森崎精華だったことにホッと胸をなでおろしたものだ。


「なーなー、こまちっち。遊んで遊んで」

「いえ…その…私は撮影が…」


 要するに朱莉にフラれたひなたがたまたま目についたこまちに絡んでいるという状況なのだが、下手なことを言うと、10倍くらい返ってくるひなたの対応にこまちは苦慮していた。


「大丈夫、ウチは監督と友達やから多少すっぽかしても平気やって。むしろ出番減る分楽になるで」

「そういうわけには…」

「ええやんええやん。ウチとちょっと遊んだってーな」


 絡み方が完全に酔っ払ったおっさんのそれだ。

ある事情でこまちは社会人経験がない状態で魔法少女になったため、こういった困った上司のあしらい方を知らない。

 無視をすればいいのではあるが、一応とはいえ、ひなたに借りがあるこまちの立場ではあまり無碍にすることもできない。


「そういうのは自分のところの娘にしなさいな」


 魔法少女然としたステッキをひなたの脳天に振り下ろした姿勢のまま精華がため息をつく。


「お前なあ、この間自分で刃傷沙汰はご法度やって言っとったやろ」


 ひなたの言葉を聞いた精華は片眉をピクリと動かすと「ふっふっふ」とわざとらしい笑い声を漏らす。


「よくぞ言ってくれた」


 そう言って精華は自分のスカートから腕章を取り出す。


「何を隠そうこの風…」

「あ、風紀委員の事だったらもう柚那に聞いたから説明はいらんで」

「…紀…あら…そう」


 やる気満々で腕章の説明しようとしていた精華は、はたから見てていてもわかるくらいに大きなため息をついて肩をがっくりと落とした。


「…まあ、要するに私たちはMP。憲兵さんなので今後は指示に従うように」

「そんなに権力あったんかい!」

「あったのよ」


 そう言って精華はもう一度ひなたの頭の上にステッキを振り下ろす。


「痛ったあっ!何回たたくねん!」

「さっきのはこまちの分、今のは3年前の私の分、そしてこれが最近しょっちゅう絡まれている朱莉の分だあっ」

「三回も食らうかい!」


 ひなたはそう言ってスウェーバックで精華の攻撃をかわそうとしたが、精華の手の中のステッキの柄がグンと伸びて、見事にひなたの脳天をとらえる。


「甘い…」

「痛い!」

「遅い!!!」


 三人目の声にこまちが振り向くと、そこには鬼の形相をした狂華が立っていた。


「二人とも何をしている!今日は私たちは早入りで、先に撮影するシーンがあると言われていただろう」

「あったっけ?」

「あるんだ!…ほら、台本の23ページ。ここを先に撮ると先週説明があったぞ」


 狂華がそう言って台本を開いて見せるが、ひなたはヘラヘラ笑いながら肩をすくめて見せる。


「精華、覚えてるか?」

「……」


 ひなたの問いに精華は黙って首を横に振る


「貴様らなあ」

「おやおやおやぁ?そういう言葉遣いしていると大好きなミヤちゃんに嫌われるんちゃうか?」

「…ひなた。貴様なぜ都が快復したことを知っている」

「本人から電話があった。まあ、それで都が意識なかった時の話とかを色々したったで」

「う…まさかお前、何か余計なことを言ったり、聞いたりしていないだろうな」

「余計なことってなんやろ。みやちゃーん、みやちゃーんって夜泣きする発情した猫みたいな魔法少女がおるとかか?」

「だ、誰も泣いとらんわ!」

「…もしくは、ありもしない威厳を振りかざして後輩魔法少女をこきつかっていた隊長の話かしら」

「私は特に余計なことは言っていませんよ」

「精華とこまちにまで!?どうりで夜に電話が繋がらないわけだよ…というか、なんでボクじゃなくて三人に連絡してるんだよ…」

「他にも古株の魔法少女には片っ端から連絡しているみたいよ。というか、そんなに愛しくてたまらないなら寮で同棲しちゃえばいいのに」


 やれやれと肩をすくめる精華の言葉を聞いて、狂華は「え…!?いやいや」と言いながら首を横に振る。


「……そんなことしたら、寮でただ一人独り身になるチアキが可哀想だろう!」


 照れ隠しなのだろうか、狂華が顔を赤くしながら、首に加えて、手をぶんぶんと振りながらそう答える。


「……あら、そんなことを気にしてくれていたの。ありがとう…でも大きなお世話よ」


 背後から聞こえた声にビクっと背筋を伸ばした後、狂華がゆっくりと振り返るとそこには満面の笑顔ながらも、恐ろしい雰囲気を纏ったチアキが立っていた。


「あの…チアキさん、違うんですよ」

「話は撮影が終わった後でゆっくりと聞くわ…覚悟しておきなさいよ」


 当事者でないこまちですら寒気を感じるほどに冷たい声色でそう呟くと、チアキは狂華の襟首をつかんで引きずるようにして歩き出した。


「なんだかあまり狂華さんらしくないような…調子でも悪いんですかね」

「いや、あいつただのヘタレだし」

「気にしないでいいわ。ただのヘタレだから」

「あの…二人とも、もう少しこう、狂華さんのフォローとかそういうのをしてあげたほうがいいんじゃ…」


 これまで持っていた狂華のイメージとのギャップ。それに対する容赦ない二人の物言いに対して驚きながらも、こまちが遠慮がちにそう言うと、精華はフっと遠い目をして笑う。


「もともと狂華の素の性格はあんな感じだったのよ。ただ、色々あって役としての己己己己狂華に入り込むことで現実逃避をしていただけ。まあ、理解できないかもしれないけど彼女にとってはあれが幸せなの。私たちにヘタレ呼ばわりされることまで含めてね」

「そういうものですか?」

「そういうものよ……ただまあ、逃げている狂華のほうが都合がよかったのは確かだけどね。あれだとちょっと使い物にならないわ」


 そう言って精華は大きなため息をついた。




 独自に調査を進めていたひなたが関西支部の長官室に呼び出しを受けたのは、調査を開始してからちょうど二週間後のことだった。

 軽くノックをして応答があった後にひなたが長官室に入ると、サイドの髪を残して額から後頭部まで綺麗に禿げ上がった小金沢長官が執務卓の上で盆栽をいじっていた。


「ああ、相馬君。済まないね、オフの日に」

「別に構いませんよ、警視正殿」

「はっはっは。いまや私のことをそう呼んでくれるのは君だけになってしまったねえ、相馬警部補」


 長官はそう言って人の良さそうな笑顔を浮かべる。


「そりゃそうでしょ。あんたも俺も死んだことになってる人間なんだし…で、なんの用ですか?」

「君が最近騒いでいる魔法少女狩りのことなんだけどねえ」


 パチンと音を立ててハサミが盆栽の枝を切り落とす。


「また圧力か•••」


 かつてこの小金沢長官の部下だった頃に何度となくぶつかった壁。

 ここでも同じかとひなたは苦虫を噛み潰したような顔でうつむく。


「まあ、圧力は圧力なんだけどね。今回は君にとって嬉しい方向の圧力だと思うよ」


 そう言って長官はハサミをおいて立ち上がる。


「君が騒いでくれたおかげで良くも悪くも魔法少女狩りの話が広まってしまったから、捜査をやめさせてもアレだろうと言うことでね。上から本格的に調査するようにというお達しが来たんだよ。捜査の主導、それに捜査に使う人員の選定は君に一任するから一つよろしく頼むよ」

「……」

「不満かね?」


 答えないひなたの顔を見て長官が首をかしげる


「いや、俺も確証があって動いていたわけではないんで、許可が下りたのがちょっと意外で…ちなみに、本当に裏切り者が居た場合は?」


ひなたは、警察時代のように少し姿勢と態度を崩してそう尋ねた。


「それも君に任せるよ。抵抗するならそれ相応に手荒に扱ってもやむをえないだろうし、もしも首尾よく捕まえることができたら、他の仲間のことを吐かせて欲しい」

「抹殺場はマストじゃない?」

「ああ。任務が果たせるなら別に必ずしも殺す必要はない。むしろ相手が組織だって動いているのならバックのことも聞きだしてもらえると助かる」

「了解。それなら引き受けます。早速捜査班のメンバーの話なんですけどね」

「ああ。もう誰を使うか決めたのかい?」

「俺、春井桜、邑田朱莉、伊東柚那であたらせてください」

「ずいぶんと少ないね。もっと人を割いても構わないんだよ」

「いえ、これで十分です。ガネさんも知っての通り桜はもともと警察官だし、予知の魔法が使える。朱莉は現在在籍している中では一番新しくてしがらみがない。それに柚那は拘束系の魔法が得意です。それと、あまり大人数で動いても目が行き届かなくなるっていうのが理由です」

「なるほど。だけど確か柚那君は風紀委員の発案者だろう。彼女は君の事をかなり嫌っているようだけど大丈夫かね」

「…そうだった…じゃあ、柚那のかわりに精華を使います。マヌケなところもあるけど、あれで割りとベテランですし」

「うむ…そうか」

「どうかしましたか?」

「いや、人手不足が深刻になりつつあるなと思ってね。今は君と精華君で関西から九州までと北陸から北海道までを見てもらっているだろう?その二人が一緒にいるとなると大幅な組み変えが必要になると思うんだ」

「ああ、それなら俺とチアキの入れ替え。狂華と精華の入れ替えがいいでしょうね」

「柚那君と桜君もかね」

「ああ、そこは入れ替えなしで頼みます。朱莉と柚那のバカップルは一緒にしておいたほうが扱いやすいだろうし。というか引き裂いたのが俺だなんて知れたら柚那になにをされるかわからないんで」

「そうなると関東に5人か。ご当地がいるとは言っても、ほかの地方はなかなか厳しいね…ちなみに目星はついているのかな?」

「ええ…まあ一応」


 ひなたはそう言って苦笑いを浮かべる。


「まあ、僕は犯人が捕まえられればそれでいいから。よろしく頼むよ、相馬君」


 小金沢はそう言って盆栽の枝をパチンと音を立てて切る。


「了解しました」


 魔法少女になる前は毎日のようにしていた敬礼をすると、ひなたは長官室を後にした。


「何の話でした?」


 ひなたが廊下に出ると、ドアのすぐ横の壁の前に、予定を急にキャンセルされて行き場がなかったらしい桜が膝を抱えてしゃがんでいた。


「魔法少女狩りの話だよ。今までの俺と桜の苦労が認められて、これからは上層部公認で捜査できるようになったって話」


 予想外の桜の登場に驚くこともなく、そう言って笑うとひなたは桜の手をつかんで立ち上がらせる。


「あれ?へたくそな関西弁やめたんですか?」


 すこしむくれた表情で桜がひなたにそう訊ねる。


「関東に異動になったからな。郷に入っては郷に従えってね」

「じゃあ、また別々の勤務になっちゃうんですね…」


 むくれていた表情から一変して、しゅんと肩を落とす桜の頭をひなたは笑ってポンポンと軽くたたいた。


「お前が魔法少女になった時に言っただろ。もう二度とお前を置いて行ったりしないってさ。お前も俺と一緒に関東に異動だ」

「ふーん…そ、そうですか」

「なんだよ、あんまり嬉しくなさそうだな」

「そんなことありませんって!」

「はあ…お前も柚那くらいストレートに好き好きオーラを出してくれるとこっちもやりがいがあるんだがな」


 そう言ってひなたはタバコを取り出して口にくわえたが、そのくわえたタバコもタバコの箱も桜に取り上げられた


「たしか禁煙中でしたよね」

「そうでした…」

「まったく。相馬さんは私がいないとダメなんですから」


 そう言ってわざとらしくうんざりといった表情を浮かべてため息をついた後、桜は楽しそうに笑った。


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