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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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GUN NIGHT CARNIVAL

 

 結界の中から出てきたのは肌の露出の多い痴女のような格好をした魔法少女と、口元まですっぽりとロングコートで覆われた魔法少女の二人だった。おそらく痴女のほうが色欲、ロングコートのほうが貪食だろう。

「ああ、久しぶりに外に出ると気持ちが良いわね。ついつい気持ちもベルトも緩んじゃうわ」

 痴女の方がそう言って伸びをすると、ほぼベルトのような着衣から形の良い胸がぽろりとこぼれる。

「あらあら、恥ずかしい」

 口ではそう言うものの、痴女は慌てるでもなくゆったりとした動作で胸をベルトの内側にしまった。

「一応確認するわよ。あんたが色欲、あんたが貪食で間違いない?」

「そうね、一応そういうことになっているわね」

「……」

 私の質問に貪食はコートの襟に顔を埋めたまま答えず、色欲の方だけがそう答えた。

「日本語が通じるようでなによりだわ……一応、投降を薦めるけれどそのつもりはないわね?」

「メリットがないもの。私たちはこの国を制圧すれば好きなことを好きなだけできる。それ以上の条件をあなたたちが提示できるならば応じないこともないけど」

「そう。なら交渉は決裂ね」

「色欲の人はそれでいいとして、そっちのコートの子は?」

「……」

 貪食はこまちの質問を受けて少しだけ考えた様子だったが、やがて目を閉じてふるふると首を横に振った。

 私としても交渉でまとまるとも思っていない。

 都には捕まえられるなら捕まえてほしいと言われていたけれど、優先順位はかなり低い。一応交渉を試みたことで都への義理は果たした。

 

―ここからは殺し合いだ。

 

「セナ、彩夏は貪食。こまち、燈子は色欲」

「了解」

「わかりました」

「はいはーい」

「まかせて」

 そう返事をすると、仲間達は私の指示通りにそれぞれの相手へと向かう。

 私の仕事は見ることだ。特に貪食。彼女の能力が不明なままではまともな作戦なんて考えられるわけもない。

 色欲のメインの魔法はわかっている。左手で触った相手を惚れさせ思いのままに操るというチャームの魔法だ。逆に言えば、こまちと燈子は彼女の左手だけに気をつけていれば良いし、今見た感じだと、二人は色欲相手に互角以上に戦っているのでそうそう魔法に掛かることもないだろう。

 となると、やはり問題は貪食。

「フル・バースト!」

 彩夏は複数のマスケット銃を出して貪食に向けると、躊躇なく弾を撃ち込む。

 しかし、その弾が貪食に届くことはなく、彼女のコートの中から現れた小さな黒い物体が彩夏が撃ち出したすべての弾をはじき返す。状況を見たセナがすぐにフォローに入り、彩夏に向かって返された弾をすべて切り払ったおかげで、幸いにも彩夏は自分の攻撃でダメージをうける羽目にはならずにはすんだ。

「図らずも私と同じタイプ…ね」

 彩夏はそう言って少し後ろに下がる。

 そう。コートや魔法での反射ではなく、貪欲はすべての弾を文字通り撃ち返し、さらにその打ち返す角度を調整することで少なくはない弾を彩夏に向けてはじき返したのだ。つまり、彩夏と同じ銃弾を撃ち出すタイプの魔法をかなり精度の高いレベルで使えるということだ。

「非常に面倒な相手ってことはわかったけど、どうしよう」

「あいつにできて私にできないなんてことはないはず。全部撃ち落とすからその隙につっこんで」

「わかった」

 セナがそう言って両手を広げると彼女の拳銃の先についている銃剣部分が肥大化し、日本刀ほどの長さになる。

「来るよっ」

 貪食の周りに浮かぶ無数の黒い物体から弾が放たれ彩夏とセナに向かう。

 彩夏は貪食が撃ち出した弾を次々撃ち落として道をつくり、セナは剣をクロスして体を守りながらを彩夏がこじ開けた道を通って貪食に肉薄する。

 そして―

「いただきっ!」

 身体を半回転させその力で威力を増した銃剣が貪食の魔法少女の右腕を捉える。

 次の瞬間、ガキンと嫌な音がしてセナの銃剣が消えた。

「……え?」

 セナの一瞬の隙を見逃さず貪食が手を伸ばすが、私もすかさず矢をつがえて貪食の手に向けて放ち、攻撃を阻止する。

「離れなさいセナ!」

 一瞬遅れて彩夏の掩護射撃が貪食を見舞い、相手がひるんだ隙にセナは距離を取った。

「……しくない」

 私の矢も彩夏の弾丸もどちらも撃ち返すでもなく、セナの銃剣同様にヒットする寸前に消し去って見せた貪食の魔法少女が小さな声で何かをつぶやく。

 最初はなにを言っているのかわからなかったその言葉は、次第に音量を増していき、彼女が何を言っているのかがはっきりと聞こえるようになる。

「おいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないおいしくないっ!」

 貪食の魔法少女は頭をかきむしりながらそう叫びだし、コートを脱ぎ捨てる。

「ねえ、おいしい物食べさせてよぉ、この国にはおいしい物いっぱいあるんでしょう?ナノマシンなんかじゃなくておいしい物いっぱい食べたいんだよぉ!わたしはいっぱい食べられるんだから!」

 コートを脱ぎ放った彼女は文字通り一糸もまとわない姿だった。

 ただ、だからといって色欲の魔法少女以上の痴女なのかというとそんなことはない。

 今の彼女の裸に欲情するような男がいるとすれはそれは朱莉並みの変態だと思う。まあ、楓さんあたりは別の意味で興奮するかもしれないけれど、とにかく普通の男性はそういう気にはならないだろう。

 彼女の乳房の先端には乳首がなく、ギザギザとしたまがまがしい牙をたたえた口がひとつづつついており、さらに彼女の腹部にはその二つよりも大きな口が。他にも肩や肘、膝、手のひらにまで大小様々な口がある。

「近寄るのは危険か……」

 セナの銃剣や彩夏の弾を「消し去った」のではなく「飲み込んだ」だった場合、接近戦をしている最中に誰かが食べられる可能性がある。朱莉と燈子の戦いを例に挙げるまでもなく、回復魔法のない私たちにとって四肢の欠損は即戦力低下につながるし、全滅の原因にもなりかねない。

「燈子、そいつ一人で相手できる?」

「ん……まあ、なんとかなると思う」

「すぐに片をつけるから、悪いけどしばらく一人でお願い」

「人使いの荒い隊長さんだよ、まったく」

 そういって燈子はため息をつきながら肩をすくめて笑って見せる。

「こまち、セナ、彩夏。フォーメーション『三銃士』」

 三人は私の号令に頷くと、貪食をぐるりと取り囲むような位置に移動する。

「ガンナイト・カーニバル!」

 私が右手を挙げて手を振り下ろすと、三人は一斉に貪食に向けて射撃を行う。

 三人の弾を撃ち落としきるのはさすがに無理だったのか銃撃の衝撃でもくもくと土煙があがり、その土煙は貪食の魔法少女の姿を隠す。

「寿ちゃん!」

 そう叫んだこまちにいきなり体当たりをされた私は数メートル吹っ飛ばされる。

 なんとか体勢を立て直してこまちのほうを見ると、土煙の中から現れた貪食の魔法少女がこまちの左腕を腹の口でくわえ込んでいた。

「いただきまぁす」

 貪食の魔法少女がうれしそうに顔をゆがませると彼女の腹部がうごめき、あたりにバリバリと骨を砕く音と、クチャクチャと肉をかみしめる音が響く。

 こまちは一瞬だけ顔をしかめたがすぐに銃剣型のステッキを取り出して自分の左腕を肘のところで切断すると、貪食の魔法少女から距離をとった。

「いやあ、まいった。食べられちゃった」

 そう言ってこまちはへらへらと笑いながらこっちへやってくる。

 切断されたこまちの腕からは心臓の動きに合わせて血が噴き出している。

「おーい、聞いてる?ていうか、ちゃんと見てた?」

「……ごめん」

「え?」

「ごめん。私がボーッとしてたせいで」

「ああ、これね。ちょーっと待っててね」

 こまちはそう言うと、右手にあるステッキを振って包帯で左腕の傷口を覆った。

「我ながら器用だよね。ちなみに巻き方は恋ちゃんにならったんだよ」

「ごめん…本当にごめん、ごめんこまち…」

 なんだこれは。私は見るのが仕事だったのではないのか。それが油断をして目を離した隙に襲われ、しかもこまちの左腕を犠牲にする原因をつくるなんて、一体何をやっているんだ私は。

「ことぶきちゃーん?」

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめん…」

 申し訳なさでこまちの顔が見られない。前が向けない。仕事しないといけないのに。

「よし、寿ちゃん。とりあえずちょっと顔上げよう」

「ごめん……」

「ごめんじゃなくて」

「…ごめんなさい……」

「……実力行使」

 こまちはうつむいている私の顔をのぞき込むようにして自分の顔を近づけると、残っている右手で私のあごをつかみ、そのまま自分の唇を私の唇に押しつける。

「んんっ!?ん…んん…」

 こいつ一体何をしてるの?なんでこんな時に舌入れてくるのよ!

「んー……んん…んんんっ!んんんんんん!」

 こまちの舌で蹂躙されている口でなんとか彩夏とセナに助けを求めるために声を出そうとするが、彩夏は頭の後ろで手を組んで口笛なんか吹いてこっちを見ようともしない。

「すみませんおねーさま。今手が離せないんでー自分でなんとかしてくださーい。っていうか、何言ってるかわからないです。あとぶっちゃけ巻き込まれたくないです」

「んんんんっんんんんっんんんん!」

 おまえぜったいわかってんだろ!

「お、お姉様!なにやってるんですか!」

 私同様こまちの乱心に放心していたセナが正気に戻ってこちらにやってくる。

 ああ、頼りにならないうちの妹と違ってセナは頼りになるな。今度私の秘蔵チョココレクションからとっておきのチョコをあげ…

「私にもしてください!」

 ……なんでやねん。

「ふひひ、ごちそうさまでした。セナおいでー」

 ようやく私の口を解放したこまちはそう言ってセナの肩を抱くと、今度はセナに同じようにキスをした。

「いつまでやってんのよこの変態!」

「おぶっ!」

「へうっ!」

「あ、ごめんセナ」

 キスしてるこまちの後頭部たたけばそりゃあセナにぶつかるわよね。

「もう、ひどいなあ寿ちゃん」

「酷いのはあんたでしょうがこの色情狂!…ああ、もう。真面目に心配した私がバカだった」

 本当にバカだ。

「痛いの大好きなこまちの腕の一本や二本で悩んでたなんてどうかしてた」

 そうだ、どうかしていた。

 この子は、仲間のために傷つくことなんて全く厭わない子なのに。

 そのことを申し訳なく思うことが一番失礼なことなのに。

「そうそう、寿ちゃんその調子。んで、ちゃんと見えたかな?」

「あんたの腕が時間を稼いでくれたおかげで解析は終わってる」

 貪食の魔法少女の腹が一度大きくうごめいてから、ゲフっとゲップのような音を立てた。

 どうやら丁度こまちの左腕を食べ終わったらしい。

「そっか。じゃあさっさと決めちゃおう」

「そうね、燈子を待たせちゃ悪いしね」

 燈子の方はどうやらすでに決着したらしく、色欲の魔法少女の左腕をひねり上げてこちらを見ている。

「セナ、彩夏、こまち!ガンナイトカーニバル・フルオーケストラで決着つけるわよ!」

「ラジャ」

「了解です」

「おまかせー」

 三人は先ほどと同じように貪食の魔法少女を取り囲み、それぞれの必殺技の準備をする。

「わからないかなあ!その技は私にはきかないんだよ!」

 確かに深刻なダメージはなかっただろう。だが、土煙の中から現れた貪食の魔法少女は非常に軽微ではあるものの間違いなくダメージを受けていた。つまりビットによる迎撃も、全身の口による吸収も完全ではないと言うことだ。

 ダメージが通るなら勝ちの目はある。

 三人が全魔力をかけるガンナイトカーニバル・フルオーケストラにつかうマスケット銃と大砲の数は先ほどの比ではなくなる。

 こまちと彩夏の自己申告によればこの技に使う銃と大砲の総数は1111。そこにセナの二丁が加わり1113。

 銃撃を主体とした戦い方『三銃士』において最強の技だ。

 彩夏とこまちの武器の展開が終わったのを確認して、私はタクトのように矢を高く掲げる。

「ガンナイトカーニバル!フルオーケストラ!」

 そういって矢を振り下ろすと、轟音と共に無数の弾丸が土砂降りの雨のように降り注ぐ。

 貪食の魔法少女は手持ちのビットで迎撃を試みるが、そんなものは焼け石に水。彼女のビットよりもこちらの銃火器のほうが数が多いのは明白だ。

 迎撃を突破し、無数の口につかまらなかった銃弾が、じわじわと彼女にダメージを与え始める。

「突撃!」

 銃撃の雨がやんだのを見計らって再び私が矢を振り下ろすと、三人は土煙の中にいる貪食の魔法少女にむかって突っ込んでいく。

「あはははは!勝った!」

 土煙の中、貪食の魔法少女が叫ぶ。

「感じるぞ!これでお前らの魔力はつきた!あはははは!全員喰ってやる!あははははは……は?」

 私もバカだが、こいつもやっぱり相当なバカだ。

 土煙が晴れると、三人は魔法で作り出した帯を使って貪食の魔法少女の動きを封じていた。

 何重にも巻かれた帯はいくら貪食の魔法少女の口をもってしても食べきるには時間がかかるだろう。

「一つ、教えておいてあげるわ」

 私はゆっくりと弓に矢をつがえた。

「三銃士ってね、タイトルは三銃士だけど四人目がいるのよ」

 私は弓を引き絞り、狙いを貪食の魔法少女へと定める。

「つまり、このフォーメーション三銃士は、私というダルタニアンのために三人が陽動や拘束をする作戦なわけ。私のこの矢って朱莉あたりは当たれば勝ちの無敵の技とか思っているみたいだけど、相手に合わせて多少の調整が必要でね。そのための解析をする時間稼ぎがガンナイトカーニバル。三人が拘束まで含めて全力をだすのがフルオーケストラってわけ」

 彩夏が前に『簡単に言うと私たちは超電磁タツマキみたいなものですね!』とか言ってたけど多分それを言っても通じないだろう。そもそも私もよくわかってないし。

「そういうわけでこれでおしまいよ。さようなら」

 私は彼女の身体の中でほぼ唯一と言って良い口が存在しない部分であるみぞおちに狙いをつけて矢を放った。

 

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