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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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ハナコトバ 2

「城かよ…」

 市街地から脇道・広域農道・あぜ道・山道を経由してたどり着いた山の中腹近くの集落には思わずそうつぶやいてしまうほどの見事な石垣と白塗りの塀が見えなくなるほど遙か彼方まで続いていた。

 もはやちょっとした武家屋敷というか、思わず口にしたように、もはや城だ。

「イズモちゃんって結構なお嬢様だったんだなあ…」

 そんな独り言を言いながら入り口を探して塀に沿ってゆっくりと車を走らせていると、大きな門の前で掃除をしている人影が見えた。

「おーい、イズモちゃん」

 車を止めて声をかけると入り口の掃除をしていたイズモちゃんは驚いた顔をして駆け寄ってくる

「え!?朱莉!?なんであんたがここにいるの?」

「ひなたさんに頼まれて君の様子を見に来たんだ。とりあえずちょっと話をしたいんだけど、時間ある?」

 本当は俺にここに来るように言ったのはチアキさんだけど、こう言っておいたほうが自然だろう。

「まあ…あるにはあるけど、用事を済ませちゃうからちょっとそのへんで時間つぶしてもらってきてもいい?」

「ちょっとってどのくらい?」

「夕方まで」

 ちなみに現時刻は午前10時ちょっと過ぎ。イズモちゃんの言う夕方が例え16時だったとしても6時間もある。

「……この辺ってどこか暇の潰せるところある?」

 ここに来るまでに見てきた感じだと、この集落には農家が数件といつからやっているのか、それともやっていないのかわからないような雑貨店らしい店舗が一店だけだった。

「そうね…山を下ると一応コンビニがあるけど」

 うん。多分イズモちゃんの言ってるのは30分くらい山を下りたところにあったコンビニ……というか個人商店の酒屋さんのことなんだろうけど、あそこで六時間つぶすのは無理だ。とはいえ、市街地まで戻るとなると片道二時間近くかかってしまう。往復四時間かけて二時間の暇をつぶしに行くというのも本末転倒な気する。

「………なんか他にない?名物とか史跡とか」

「ないと思う」

「うーん…まあ、自分でどこか探して暇つぶししてくるか」

「悪いわね」

「凪美、お客さん?」

 俺たちのやりとりを聞きつけたのだろうか。門の奥から品の良さそうな、着物を着た姉貴と同じくらいに見える女性が門のところまででてきてこちらに会釈をする。

 イズモちゃんの本名を呼んでいるのでおそらくはイズモちゃんのご家族…だいぶ若いが多分お母さんだろう。

「イズモ…じゃなかった。凪美さんのお母さんですか?私、凪美さんの同僚で邑田朱莉といいます」

 俺が車を降りて会釈を返しながら尋ねると、女性は少し照れたような笑顔で口を開く。

「いやですよぉ、私は凪美の祖母で、出雲那弥といいます。よろしくね、朱莉さん」

 祖母ということはおそらく若くても60少し過ぎくらいだと思うが、とてもそんな風には見えない。はっきり言ってしまえばうちのおふくろよりも全然若く見える。

「って…あれ?二人とも同じ名前なんですか?」

「ええ、出雲家は代々当主がナミを次ぐことになっているので、読みだけは最初から合わせておくことになっているのよ。それよりも邑田さん。今日この後お時間あるかしら?」

「はい。イズモちゃん…凪美さんの用事が終わるのをどこかで時間つぶして待つつもりでしたので。ちなみにこのあたりに何か暇がつぶせそうな施設ってありませんか?」

「でしたらうちにお上がりなさいな。最近の凪美…イズモのことも聞きたいですし」

「あ、じゃあお言葉に甘えて…」

「甘えるなっ!」

「これ、凪美!お客様に失礼な口をきくんじゃないの」

「だって、こいつは別に私のお客さんじゃないし」

「あら、誰があなたのお客さんだと言ったのかしら?邑田さんは私のお客さんよ」

 そう言って那弥さんはにっこりとほほえみ、イズモちゃんこと凪美ちゃんは『ぐぬぬ…』といった感じの表情で俺をにらみつけた。


「なるほど…あの馬鹿娘は、そんなことで宇都野さんにご足労をかけたり、邑田さんに心配をかけていたと言うわけなのね」

 俺が草津温泉での一件について事情を話し終えると那弥さんはそう言って大きなため息をついた。

「そんなことって…さすがに今回のことはイズモちゃんが怒るのもしょうがないかなと思いますよ」

 良い雰囲気の時にわざわざ大笑いするなんて、あれはさすがにひどいと思う。

「さて、それはどうかしらね。あの子が悪いか、雅史が悪いか。それは当人同士が一番わかっていると思うけれど」

「あれ、楓さんのことも…?」

「宇都野さんからは何も。でも、凪美のことを聞けばおおよその事情はわかりますよ。事故に遭ったときは二人は一緒にいたんですから」

 ああ、そうか。そういえばもともと恋人同士の二人は一緒に戦闘に巻き込まれたって言っていたっけ。

「それに、今まではあの番組を見ていなかったからわからなかったけれど、あの番組を見ればイズモが凪美で楓が雅史であることくらいわかりますよ」

 まあ、うちも姉貴がバリバリ気づいていたし、見る人がみるとわかっちゃう物なのかもしれない。

「かえ…雅史くんと凪美ちゃんは剣道と薙刀の教室で知り合ったって言っていましたけど、昔の二人ってどんな感じだったんですか?」

「楓とイズモで大丈夫ですよ、凪美だと私とまぎらわしいですし、私もそちらに揃えましょう」

 那弥さんはそう言って先ほどと同じようににっこりとほほえんでくれた。正直一度頭の中で名前を変換するのが大変だったので非常にありがたい申し出だ。

「昔の二人は、今とそうかわらなかった気がしますね。楓が余計なことをして、イズモが怒る。そんなことを一年生のころからずっと続けていて。それでもイズモは楓のことが好きだったんですよ。一番最初に『お祖母ちゃんにだけ内緒で教えてあげる』って教えてくれたのが小学校六年生の頃でしたからね」

 楓さんはイズモちゃんから告白を受けるまで気づかなかったとか言っていたけど、イズモちゃんのほうは結構早い段階から楓さんのことが好きだった訳だ。

「その顔だと、雅史は自分が悪いというようなことを言っていたのかしら?」

「え?…まあ、それなりに反省して、そんなことも言っていたような…?」

 自分が悪いとは言わないものの、反省はしているようだったしイズモちゃんと仲直りもしたいと思っているという言葉も聞いている。と、いうよりは、そもそも楓さんがそう言ってなかったら俺はこの件は引き受けていない。

 一応、楓さんに誰にも言わないでくれと言われていたので柚那にも説明できず今こんな状況になっているというのはあるが、あの楓さんが俺に素直な気持ちを打ち明けてくれたというのに、俺のほうから約束を破るなんて事はできない。

「雅史が自分が反省してるなんて誰にも言うなとかなんとか、そんな口止めしたんですね」

「そんな感じです」

 多分那弥さんに嘘は通じないだろうけど、それでも超反省しています。めっちゃ泣いてましたよ。…とは言えない。

「あの子には悪いことしちゃったかもしれないわね…と、いうよりイズモをそんな子に育てたつもりはなかったのだけど…」

 そう言って那弥さんは頬に手を当てて困ったような笑顔を浮かべる。

「いや、イズモちゃんが悪い事なんてないでしょう。そもそも、楓さんが笑うのがいけないんだし」

 泣くほど反省しているとはいっても、やっぱり楓さんのしたことはちょっとなとも思ってしまう。仮にも女の子、しかも自分の恋人といい雰囲気になったときに笑い出すなんて。

「そうとも言い切れないかもしれないでしょう。あの子は根が素直なくせに不器用だから」

「いやに楓さんの肩を持ちますね」

 俺がそう指摘をすると那弥さんは着物の袖で口元を隠しつつ「ホホホ」と笑う。

「あの子、彼のお爺さんの若い頃にそっくりなのよ~」

 そういうことか……若いなあ、那弥さん。

 というか、急に雰囲気が砕けたな。この人。

「つまり、那弥さんは、楓さんのお爺さんと昔恋人だったとかそういうことですか?」

「そういう訳ではないのよ。彼は姉の同級生で、ただ遠くから眺めるしかできなかったの」

「……もしかしなくても、楓さんのお婆さんって那弥さんのお姉さんだったりしますか?」

「大当たり。45年前に姉が駆け落ちして失踪してしまって、たまたま見つけたのが十数年前。イズモが楓と出会った時でね、あのときはびっくりしたわ」

 じゃあイズモちゃんと楓さんははとこ同士っていうわけだ。近すぎるわけじゃないから付き合おうが結婚しようが問題ないが…

「それ、二人は知ってるんですか?」

「教えていないから知らないと思うわ」

 那弥さんはうふふ、と蠱惑的な笑いを浮かべて続ける

「そのほうがドラマティックでしょう?」

「いや……ドラマティックって…」

 確かにドラマティックだけどもさ。お茶目な婆さんだなこの人。

 いや、見た目も気持ちも婆さんなんて言ったら失礼なくらい若くいんだけど。

「まさか、自分がかなえられなかった恋を孫たちで―とか考えていませんよね?」

「半分くらいは」

 考えていたらしい。

 しかし、テヘペロが似合う還暦ってのもすごいな。

「もちろん本人たちが嫌だって言うなら無理強いはしないけれど。二人とも好き同士なんだから良いじゃない」

「まあ、別に俺は何かいう立場にはないんでいいですけど、ばれた時にイズモちゃんに怒られません?」

「怒られるかもしれないけれど、それはそれで面白そうだと思わない?」

 ぶっちゃけてしまうとそれがわかったときのイズモちゃんの反応は見てみたい気がする。

「思いますけど」

「うふふ、はっきり言っちゃうのね」

「那弥さんに嘘は通じなさそうですから」

 話ていてわかったが、那弥さんは都さんとかチアキさん系の人っぽい。つまり俺の嘘なんか簡単に見破られてしまうだろう。だとしたら隠すだけ無駄だ。

「そういえば、イズモちゃんの用事ってなんなんですか?」

「あの子は今、うちの師範代と修行中よ」

「那弥さんは稽古つけてあげないんですか?」

「私ももう歳だから、今はほとんど師範代に任せてしまっているのよ。それに彼女は楓ほど無茶苦茶強いわけではないけれど、イズモよりは十分強いし、ずっと基礎をやってきた子だから、基礎をやり直したいっていうイズモにはうってつけの相手なの」

「……ちなみに那弥さんっていったいいくつなんですか?」

「乙女に年齢を聞くのはマナー違反よ」

 那弥さんはそう言ってウインクをしながら口元に人差し指を当てる。

 普通のアラ還だったら苛っとさせられるだろうこれが、この人の場合は許せちゃうのがすごいよなあ…

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