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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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ハナコトバ 1

「と、いうわけなんだ」

「なにがやねん」

 休暇だというのに大阪支部に呼び出された俺と柚那に対して端折りに端折った対応をしてくるひなたさんに、俺は思わず関西弁で突っ込んだ。

「まあ、簡単に言ってしまえば楓とイズモをそろそろなんとかしないと、七罪どころじゃないっていう話なんです」

 桜ちゃんがひなたさんが端折ったところを補足してため息をつく。

「別に楓一人でもなんとかなるような気がしないでもないんだけどな。それはそれで今後のことを考えたときによろしくない。ってわけだ」

 ひなたさんはそう言ってせんべいを一枚口にくわえる。

「言いたいことはわかりますけど、でも別に倒せちゃえば後からなんとでもなるし、いいんじゃないですか?」

「それがですね、朱莉さん。これはまだ決定ではないんですけど、今度の作戦が終わったら楓は教導隊入りが内定してるんすよ」

 俺の質問に答えたのはまたしても桜ちゃんだった。

「そうなると関西のリーダーはイズモになるんですけど、楓とのつながりなしでイズモがリーダーになるのはちょっと難しい」

「カリスマの問題ってこと?」

「はっきり言ってしまえばその通りです。強さはカリスマにつながりますからね」

 その言い分はわからなくはないけど、ちょっと力任せな気がする。寿ちゃんは強さというイメージではないけどしっかりリーダーできているし、現在JCのリーダーである深谷さんもあまり強さを前面に押し出している感じではない。

 それにそのために元サヤに戻れというのはこまちちゃんではないが、さすがにちょっと仲間、友人としてどうかと思う。

「まあ、喜乃くんはともかく、鈴奈ちゃんは確かに実力がない相手についていくタイプじゃなさそうだけど…でもだったらひなたさんが戻ればいいだけじゃないですか。教導隊の人数は5人もいれば十分なんですし」

 現状の人数でしっかりと底上げも遊撃もできているんだから無駄に規模を大きくせずにジョブローテーションで回していけばいいだけの話だと思う。

「俺と桜は6月からアフリカに左遷だから」

「………は?なんすかそれ」

「どうにも魔法少女が根付かないアフリカに国連経由で人を派遣しようっていうことになってな。苦労して人間様の土地を取り返してもその分アフリカを暗黒大陸にされちゃたまらんっていうことらしい。ちなみに桜の後釜には恋が入ることになってる」

「左遷じゃなくて栄転じゃないですかそれ」

 近年流行のグローバルに活躍の場がうんたらかんたらってやつだと思うし。

「アホ、俺は日本が大好きなんだよ。たとえ不便がなくたってケープタウンにいるよりも大阪にいたいっつーの」

 それじゃあ世界中どこに行っても左遷じゃん。

「…やっぱり都に黙っていろいろしたのがまずかったかな…」

 ひなたさんはため息混じりにそんなことを言うが、そう思っているならやめればいいのにと思ってしまう。

「ああ、そうだ。だったら深谷さんもついでに連れてってくださいよ。最近実家に住み着いて迷惑してるんですよ」

「あいつはいいや。それだったらむしろ潰しのきく霧香のほうがほしい」

 まあ佐須ちゃん普通に殴り合いやっても結構強いし、魔法も偵察とかスパイ活動に絞って考えると使い勝手いいからなあ。

「あとは妹の方のあかりもほしいけど、そっちはお前が絶対反対するだろうしな」

「もちろん反対ですけど、なんであかりなんです?みつきちゃんじゃないんですか?」

「みつきは限定条件が厳しすぎる。1月のときだってそれであっさり和希にやられたんだろ?」

「そうですけど」

 確かにあの時はたまたま和希に負けたけど、みつきちゃんが真価を発揮するための条件って、言うほど厳しい条件だとは思わないんだよなあ。

「だったら、センスがよくてアベレージが高いあかりの方がいい」

 まあ、一発狙いのパワーヒッターよりこつこつ打つアベレージヒッターの方が確かに使いやすいっちゃ使いやすいけど。

「確かにあかりはセンス抜群ですからね」

 ファッションセンスはいまいちなのか、あんまりモテないけどね。

「まあ、上が決めることで俺が誰を連れて行くとかっていうことは指定できないからその話はもういいとして、間違いなく残るあいつらの問題は解決していく必要があるんだよ。これは一応元関西チームの隊長で今関西統括の俺の仕事だ」

 この人は俺が思っているよりも部下思いなのかもしれない。とはいえ

「だったらそれこそ自分でやればいいじゃないですか」

「こういうのは立場の近い朱莉のほうがいいだろ。楓とは今の隊長同士、イズモとは同級生なんだからさ」

「いや、楓さんの方はともかく、イズモちゃんのほうは言うほど親しくないですよ」

 携帯番号も知らないくらいだし。

「そこはそれ。柚那にフォローしてもらえばいいじゃん」

「はあ……やっぱりこうなったか。柚那」

「はい。これ、経費の見積もりです。滞在費、二人の仲直りにかかる遊興費などなど全部ひなたさん持ちならいいですよ」

 柚那はそう言ってクリアファイルから明細を取り出してひなたさんに手渡す。

 ひなたさんに呼ばれた時点でどうせこんなことになるだろうと思っていたので、俺と柚那は最初からひなたさんに請求するつもりで張り込んだ宿を用意したし、食事もふっかけるつもりで高い店を予約した。

「……桜、予算ってどの位残ってたっけ?」

「教導隊の方の割り当て予算はお正月と先月の警察ごっこで全部使っちゃってます。関西の予算も楓がやたら練習台壊すからほとんど残ってないっす。それと、六月からいなくなるのが確定なんで今年度分のひなたさんの予算はないです。っていうか私のところから持ち出しになってる分も早く返して欲しいんですけど」

 桜ちゃん容赦ないなあ。ひなたさんのやってたことを警察ごっこって言い切ったぞ。

「えーっと、つまり…」

「やるならガチ自腹っす。もちろん私もお金を貸しません」

「………」

 あ、ひなたさんの目が泳いだ。

「……べ、別に楓とイズモが喧嘩しててもいいような気がしないか?」

「ちっさ!」

「最低…」

「それならそれでいいんでお金返してください」

 それぞれ俺、柚那、桜ちゃんの正直な感想だ。

「いや、そうは言うけどおまえら金額わかってるか?これ個人で払うって結構な金額だぞ」

「いや、ひなたさんグッズの売り上げで地味に稼いでるじゃないですか。それに興信所とか別れさせ屋よりは安いですよ。まあ、やることは真逆ですけど」

 そういうところを使ったことないからわからないけど、俺達の見積もりは七桁まで行かない。

「……できるんだな?本当にこの料金でできるんだな?」

「できるできないじゃなくて、やりますよ」

 彩夏ちゃんの手伝いをしたおかげで、イズモちゃんの気持ちがまだ楓さんに残っているのはわかったし、それならなんとでもやりようはある。

「…わかった。前金半分。残りは成功報酬ってことで頼む」

 ひなたさんはそう言ってスマートフォンを取り出ししばらくいじった後でポケットに戻した。

「前金振り込んどいたから、とりあえずそれで頼む。桜の方も振り込んどいたから後で確認しておいてくれ」

「え………」

「なんだよ」

「いや、金払いがいいなって思って」

 まさかマジで払ってくれると思わなかったので。ふっかけた分ちょっと悪いような気がしている。

「払うべき金は払うさ。ただ、金を出させるからには絶対仲直りさせろよ。少なくともイズモの別れる発言は撤回させろ」

「了解」

「まかせておいてください」


『進捗だめです/(^o^)\』

 ひなたさんのところを出てすぐに同じ隊長格で、かつ俺よりはイズモちゃんとの関係がいいということで寿ちゃんに協力を求めて送ったメールの返信を見て、俺は公園のベンチでため息をついた。

「作戦前にもう一冊出すとか無茶なこと言うから……」

「どうしたんです?」

「寿ちゃんは締め切り前で忙しいから手伝えないって」

「ああ、朱莉さんの言っていた彩夏ちゃんと一緒に作ってるってやつですか」

「いや、それが元で寿ちゃんが一人で作ってる奴」

「……同人誌ってそんなに頻繁につくるものなんですか?」

「いや、寿ちゃんが張り切ってるだけ」

 俺はとりあえずスマートフォンをポケットにねじ込んで、隣に座っている柚那の膝の上に乗っている舟からたこ焼きを一個取って口に放り込む。

「まあ、とりあえずイズモちゃんから当たるか。彼女が許せばいい話なんだし」

「うーん…個人的には楓さんの改善が先かなと思いますけど。今のまま元に戻っても多分またすぐに喧嘩すると思いますし」

「柚那の言いたいことはわかるけど、とりあえず応急処置でいいだろ」

「根治が必要です。というか、それじゃイズモちゃんがかわいそうすぎます」」

 楓さんは確かにダメダメだけど、イズモちゃんも別にパーフェクトって訳じゃないと思う俺としてはあんまり楓さんに対してやいの言いたくないんだよな。

「イズモちゃんには同情するけど、喜乃ちゃんとか鈴奈ちゃんの話を聞く限りは、いつものことだったんだろ?だったらもうそろそろ許してやれよっていう気がするんだよな」

「……ちょっとまってください。いつものことだから、イズモちゃんは我慢するべきだと。そういうことを言うんですか朱莉さんは」

「そうは言わないけどさ」

 俺がもう一個たこ焼きを取ろうと思って爪楊枝を持った手を伸ばすと、柚那はさっとたこ焼きを膝の上から持ち上げてしまった。

「そうは言わないだけで、そう思ってるっていうことですか?」

「別にそう思ってるとは言ってないだろ」

「言っているようなものじゃないですか。だいたい朱莉さん。楓さんのことなんだか他人事みたいに思っているみたいですけど、私だって朱莉さんのことで我慢していることあるんですからね」

「は?俺がいったい何を我慢させてるって言うんだよ」

「いろいろですよ、女癖とか寝相とか、食器洗うのが遅いとか」

「……俺だって別に柚那に100%満足してるわけじゃないからな」

「そりゃあ私は欠点もありますよ。ありますけど、それも含めて好きだって言ってくれたのは誰ですか?」

「………俺だけどさ」

「逆に私はそんなこと言ってません。だから言わせてもらいますけど、朱莉さんも楓さんももう少しいろいろ気をつけたほうがいいんじゃないですか?。不満のいっこいっこはほんのちょっとでも、そのほんのちょっとずつが積み重なって今回イズモちゃんが爆発したんですよ」

 なんて感情的な論理なんだろうか。

「だったらイズモちゃんもその都度言えばよかっただけじゃないか」

「言ったら言ったで絶対面倒くさそうな顔するじゃないですか!」

「実際面倒くさいんだからしょうがないだろ…」

「あー!やっぱりそれが朱莉さんの本音なんだ。わかりました、もういいです。面倒くさい女は面倒くさい女同士仲良くしますから、面倒くさがりな元男同士で仲良くしてたらいいんじゃないですか?」

「いや、ちょっと待てよ柚那」

「ほんと、楓さんも朱莉さんもひなたさんも和希もこれっぽっちも女心がわかってないんだから!」

「和希は関係ないだろ!」

 楓さんと俺とひなたさんについては思い当たらないでもないけど和希はまだ子供だ。

「あかりちゃんを気にしながらみつきにもちょっかい出してるところが朱莉さんたちそっくりです!末は朱莉さんか楓さんかと思うと寒気がします。四人とも狂華さんの爪の垢でも煎じて飲んだ方がいいんじゃないですか!?」

「あの人はただ単に奴隷気質なだけだろ!」

「狂華さんディスるのやめてください!」

 俺と柚那はしばらくにらみ合った後でどちらからともなく顔を背けた。

「もういい。お前とは距離を置く泣いて謝っても三日は許さないからな!」

「望むところです。朱莉さんこそ独り寝がさみしくなっても連絡してこないでくださいね!」


「……と、まあこんなことがありまして」

「それ、楓とイズモを仲直りさせるための演技とかじゃなくて?」

 柚那と喧嘩をして関西支部に戻ってきた俺は、たまたま遊びに来ていたチアキさんに見つかって事情聴取をされていた。

「ガチでやっちゃいました」

 ついさっきまでイチャイチャしてたのは一体何だったのかだろうかと思うくらいやり合ってしまったわけで。

「あんたがテヘペロしてもかわいくないわよ」

「別にかわいく思われたいとかではないんでそれは別にいいんですけど…なんかないですかね。解決する方法」

 柚那との件は時間が解決してくれる気がするけど、楓さんとこはそうもいかないだろうし。

「それは楓とイズモのこと?それともあんたと柚那のこと?それとも……」

 チアキさんはそこで一度言葉を切ると、メッセージアプリの着信音が鳴ったスマートフォンを見てため息をつく。

「……ひなたたちのこと?」

「え?」

「飛び火したわ。しかも全国に」

「え?え?」

「柚那と桜がすごい勢いで拡散してるみたい」

「あいつ……」

「とりあえず、今無事なのは狂華だけね。ほかの元男性魔法少女は軒並み柚那か桜かそれぞれのパートナーに下げられてるわよ」

 スマートフォンをいじりながらチアキさんがとんでもないことを口走る。

「マジで!?」

 さっき会ったときに桜ちゃんがひなたさんに対して相当溜まってるのはなんとなくわかってたからひなたさん下げくらいまでは想定してたけど、そこまで飛び火するとは思っていなかった。

「狂華さん以外ってことは、和希も?まだそんなに知名度ないですよね?」

「あかりちゃんとみつきにやられてる」

「マジか……」

 つまり柚那の言ってたことはあながち間違ってなかったってことか。和希へこんでそうだなあ。

「ちなみに、愛純と朝陽。それにこまちと寿、セナと彩夏は何も言ってないわね。あとはユウと燈子もスルー。愛純は自分の恋愛が楽しくて興味がない。朝陽は巻き込まれたくないって感じで、東北については寿の指導のたまものって感じかしらね」

「…というか、チアキさん何見てるんです?」

「ん?彩夏がつくった女子専用の裏サイト」

「ヤダなにそれ怖い」

 今日に限らずなんかいろいろ書かれてそう。

「あとは…イズモも発言してないわね」

「イズモちゃん?」

 チアキさんが言うとおり寿ちゃんが冷静だから東北チーム(悪ノリする精華さんは除く)が発言しないのはわかるけど、イズモちゃんなんて一番の当事者なんだし真っ先に乗ってきそうなものなのに。

「……あんたイズモのとこ行ってきなさい」

「え?」

「いいから早く行く。今日は実家にいるはずだから」

「実家?イズモちゃん実家に話できたんですか?」

「状況が状況だからね、近親者限定だけど、話したい人がいる場合は都が同伴して話をしているのよ」

 まあ、俺の時もきちんと都さんが来てくれたし、同じようなことをしてくれているんだろう。都さん自身だって決して安全な場所で戦いに望むわけじゃないのに、休暇も取らずに働いてくれるとはありがたいことだ。

「……でもイズモちゃんなんですか?楓さんじゃなくて」

「イズモでいいわ」

 チアキさんはそう言ってスマートフォンをハンドバッグにしまうと席を立つ。

「柚那と桜の方はこっちでなんとかしておくから、あんたはさっさとイズモと楓の件を片付けちゃいなさい」

「……すみません。お手数おかけします」

「これは貸しだからそのうちちゃんと返してもらうわよ。高校時代のユキリンの話とかでね」

「ユキリンネタなら千夜続けてでも語れますよ」

 ユキリンはそのくらいネタの多い後輩だった。

「聞き応えがありそうでなにより。じゃあさっさと片付けて今晩からでも聞かせてもらおうかしらね」

 そう言ってチアキさんはひらひらと背中越しに手を振りながら会議室を出て行った。

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