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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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月刊少女邑田くん 2

絵は上手い。話の構成もうまい。キャラクターもよく掴んでいると思う。でも…

「ねえ、寿ちゃん。これ、俺である意味ないっていうか、もう今からでも寿ちゃんで描き直したほうがいいと思うよ」

 彩夏ちゃんと違って寿ちゃんは計画的に作業をすすめてくれていたため、俺と彩夏ちゃんが到着した時には既に下書きが終わっていた。しかしどのシーンもシチュエーションも、俺とこまちちゃんよりは寿ちゃんとこまちちゃんのほうがしっくり来るのだ。

 それだけに俺が出ているのがものすごく残念だ。これは絶対寿ちゃんとこまちちゃんでやるべき話だと思う。

 他にも登場するキャラクターはいるのだが、その中に寿ちゃんがいないことと俺の立ち位置だけがものすごく浮いてしまっている。

「だって、朱莉で合わせるっていうから…」

「彩夏ちゃんに見せて今からでも変えたほうがいいと思う。彩夏ちゃんはまだ描いてないんだし、二人が別のカップリングなら俺縛りって感じも薄れると思うし」

 というか、あの子俺縛りとは別に自分と寿ちゃんの話描くって言ってたし、別段問題なさそうな気がする。

「でも自分を描くとかすごく恥ずかしくない?」

「君の妹もやってるから大丈夫だ」

「え。彩夏は朱莉と自分で描いてるの?」

「寿ちゃんと彩夏ちゃんだって」

「え?なんで?あの子私に興味ないでしょ?」

 似たもの姉妹だよなあ、この二人。

「寿ちゃんが気にかけている程度には彩夏ちゃんも寿ちゃんのことが好きだよ」

「またそうやって適当な事を」

「『自分に興味がないと思ってた寿さんが歩みよってくれたのがすごく嬉しかった』ってさ。あと、俺に嫉妬した寿ちゃんも可愛かったって」

「か、かわいいとか上官につかう言葉じゃなくない!?」

 うん、マジでホントにかわいいぞ今の寿ちゃん。全国の寿ちゃんファンの皆様にこの顔をお見せできないのが心底残念だ。

「うー…朱莉が余計なこと言うから描きたいこと増えちゃったし」

 これは可愛いな。これは確かに抱きしめて頭なでたくなるな。こんな気持ち、デレ狂華さんを初めて見た時以来だぞ。

「とりあえず寿ちゃんと彩夏ちゃんの話は別の機会に描くとして、今回はこまちちゃんと寿ちゃんで描きなよ。彩夏ちゃんには俺が話しておくからさ」

 それなら下書きの俺のところをこまちちゃんに書き換えるだけなのでそんなに手間もかからないだろう。

「……たしかに朱莉の言うとおり、私も途中からこれはこまちと私をイメージしてるなって思ってたからそうさせてもらう。ありがとね、胸のつかえがとれたわ」

「別にいいって。んじゃ、先に彩夏ちゃんのほう手伝ってくるわ」

 寿ちゃんも真面目だよなあ。同人なんだから好きなもの描けばいいのに。

 俺が扉を開けると、こまちちゃんが……いなかった。

 寿ちゃんに構ったから絶対またいちゃもんつけてくると思ったのに。

「あ、朱莉だ」

「…さて、じゃあ彩夏ちゃんのほうへっと……」

 そんなことを言いながら左へ体を向けた瞬間、俺は背中に重みを感じてそのまま後ろに引き倒された。

「待ちなさいよ朱莉」

「グェ……なんすか、精華さん」

 無視しようとしたからってなにも襟締めする必要はないと思うんだけどなあ。

「私がせっかく帰ってきたっていうのになんかみんなが構ってくれないっていうか、そもそもいないんだけど、どういうこと?」

「いや、だって今休暇中じゃないですか。当番の子以外はみんな帰っちゃったりでかけちゃったりしてますよ」

 ユウ達が味方になったおかげでスクランブルがかかる確率はかなり低くなった。そのため休暇中ということもあって、現在は各地方一人づつ寮なり本部なりに残しているだけになっている。

 ちなみに今週のそれぞれの当番は東北が寿ちゃん。関東は柚那、関西は喜乃くんだ。

「聞いてないわよそんなこと」

「いちいち精華さんに報告なんてしないですって。俺と楓さんと寿ちゃんで決めて、都さんにはちゃんと許可とってますよ」

 ちなみに都さんは『絶対全員休み!』とか言っていて、さすがにそれはと思った俺たちから頼むから残させてくれと頼み込んで今の体制になった。

 それがなかったら精華さんは俺に会うこともできず、今頃一人ぼっちの東北寮でしくしく泣いていたはずだ。

「ちなみに、今日は誰がいるの?」

「寿ちゃんと彩夏ちゃんの姉妹がいますけど、二人とも作業中だから遊んでくれないと思いますよ」

「うう…仕事してるんじゃしょうがないわね。わたしも大人だから我慢するわ」

 いや、仕事じゃないけどね。

「ちなみに俺も彩夏ちゃんのほうを手伝わなきゃいけないんで、遊んであげられません」

「みんな忙しいのね。よし、わかった。じゃあ今日のごはんは私が作るわ……って、どうしたのよいきなり泣いたりして」

「いや、精華さん大人になったなあって思って」

「失礼なこと言わないでよ。私はあんたと最初にあった時から大人だったでしょ」

「……」

「なんか言いなさいよ!」

「じゃあ、俺は彩夏ちゃんとこ行くんで」

「無視すんな!」

 精華さんはしばらくその場でギャーギャー喚いていたが、寂しくなったらしく小走りで追いかけてきて、俺の後ろを歩き出した。

「…朱莉さ、あんたんとこ大丈夫なの?」

「大丈夫、とは?」

「言っちゃ悪いけど、七罪二人を相手にできるの?」

「そんなの、東北も関西も条件で言えば同じでしょ。なんでそんなこと言うんですか」

「率直に言うと、朝陽と柚那が足手まといだと思う。どっちかをみつきなり和希と変えてもらうべきじゃないの?」

「それ、狂華さんやチアキさんが言ってました?」

「ううん、私の勝手な主観だけど」

「じゃあそういうことです。元々うちの頭だった二人が何も言わない。総司令も今のままの面子ってことで発表した。それ以上のことないでしょ」

 柚那も朝陽も半年前の彼女たちではないし、俺も愛純も東北や関西のナンバーワン、ナンバーツーに劣っているとは思っていない。…まあ別に楓さんに勝てると思っているわけじゃないけど。

「そもそも、それじゃ環東京が勝てなくなっちゃいますよ」

「霧香と夏樹を舐めすぎじゃない?ふたりとも正規を断ってご当地やってるのよ」

「え!?マジで断ってたの?」

 深谷さんからはそんな話をちらっと聞いてたけど半分くらい冗談というか、嘘大げさ紛らわしいの類だと思っていた。

「柚那よりは霧香のが強いでしょ」

「佐須ちゃんは確かに強いですけど…深谷さんこの前和希どころか、温泉ではるなちゃんにまで敗けてましたよ」

「相性の問題じゃない?夏樹の魔法もかなり複雑だから」

 まあ、確かにネギチャンバラじゃ強さはわからないか。

「ちなみに、二人はどのくらい強いんですか?」

「こまちと同じかもうちょい強いくらい」

「めちゃめちゃ強え!そんな二人をなんでご当地にしちゃうかなあ……」

「夏樹は都が不在の時の子だからしょうがないんじゃない?霧香は都に色々便利に使われてるみたいだし」

 ああ、そうか。この人は深谷さんの正体知らないのか。

 それに佐須ちゃんはもともと都さん派だし、霧になれる魔法で諜報とかしてたとしてもおかしくない。

 そう考えると今ごろ一緒にいるだろう二人の関係ってなんかドロドロしてるよな。

「それに都にすら忘れられがちだけど、東京にもご当地いるからね。JCには入ってないけど、環東京には入ってるし」

「………え?」

「私達の次の世代なんだけど、珠…美?珠子?とにかくタマって子がいるのよ」

 全然知らなかった。っていうか、精華さんもうろ覚えじゃねえか。

「ちなみに忘年会の時私達の前に座ってた」

「どの子だよ」

 なんか三人くらいでキャーキャー言ってた子のうちの誰かなんだろうけど。

「ggrks」

 ああ、そうか。ネットにご当地含めたプロフィールが載ってるんだから調べりゃいいんじゃんね。

 ムカつく笑顔で俺を指さした精華さんにげんこつで教育的指導を施してからスマホを取り出し東京、魔法少女、タマで引っ掛けてみると、なんとタマの部分がもしかして『多摩』だの『朱莉』だのになってしまっていてタマちゃんとやらの情報が引っかかってこなかった。

「…まったく出てこないんですけど」

「え……」

 俺のスマホを覗きこんだ精華さんは首をかしげながら「いたわよね…いた…と思うんだけど…」とかブツブツ言っている。

「精華さんがニート決め込みすぎてついにボケたに100プリカ」

「ニートなんてしてないわよ!最近はちゃんとみんなを送り出した後ご飯の支度とか洗濯とかしてるもん!」

 ん……?

「教導隊のお仕事って、味方のパワーアップじゃなかったでしたっけ?」

「………」

 精華さんは黙秘するつもりのようだが、そこまで露骨に目をそらしておいて黙秘もないだろうに。

「わ、私は繊細だから」

「つまり持ち前のコミュ障が出たと」

 精華さんはコクリと素直に頷いた。

「俺相手だと全然平気なのに変なの」

「それはあんたがなんだかんだ言ってもいいやつで優しいからでしょ」

 いきなり素直に直球投げ込むなよ。ちょっとかわいく見えちゃうだろ。

「…まあ、でも今更みつきちゃんや和希が入ったからってグンと戦力アップするわけでもないですし、今のままでいいですよ。最悪俺が一体担当します。連携も柚那と愛純と朝陽で練習してますから、三対一ならそうそうまずいことにはならないでしょうし」

「だったらいいんだけど…あれ、そういえば今日は柚那は一緒じゃないの?」

「関東の留守当番なんで、関東寮にいますよ」

「休暇は一緒に過ごさないの?」

「実は柚那が一人で過ごしたいっていうもんですから」

「ぷぷっ、ふーられたーふーられたー朱莉が柚那にふーヘブっ」

「誤解を招くようなこと吹聴して回るなら殴りますよ」

「殴ってから言わないでよ!…てか、なに?別れたんじゃないの?」

「別れてねえよ!」

「振られたのに?」

「いつも一緒にいるし、ちょっとお互いの時間を大事にしましょうねって、そういう話です」

「なーんだ。あんたがフリーになったら面白いことになるのに」

 そういって精華さんはニヤニヤとした顔で俺を見る。

「は?なんすか面白いことって」

「なんでもなーい」

 なんなんだこの人は。泣いたり笑ったり忙しい…躁うつの人か?

「なによこっちをじっと見て」

「いや、精華さん病気なんじゃないかって思って…」

 俺はあえて思わせぶりな口調と仕草で言う。

「えっ!?なっ…なんの病気よ」

「いや、俺の口からはとても…短い間でしたけどお世話になりました」

「や、やめてよそういうの!」

「冗談です。それはそうと精華さん」

「洒落にならない冗談やめてよ!…で、何?」

「同人経験あります?」

「私は読み専」

「あ、そっすか」

 戦力になるかなと思ったのに残念。

「そういえばこの間彩夏にも聞かれたけど、なんかやるの?」

「オタ系魔法少女が集まって合同誌出すんですって」

「あ、そうなんだ。じゃあ私、私のコスプレして売り子やろっと」

 コミュ障ェ…

「大丈夫ですか?知らない人にちゃんとおつり渡したりできます?お礼言えます?」

「あ……」

 それもできないのか…彩夏ちゃんは平和になったら俺よりもこの人を雇ってあげたほうがいいんじゃないだろうか。

 



「さて、帰るかな」

 俺は東北寮の入り口を出たところで伸びをして誰に言うでもなくそうつぶやいた。

 原稿は彩夏ちゃんの実家に送ったし、ギリギリまで作業して机で力尽きた寿ちゃんも彩夏ちゃんもきちんと布団の中に寝せたので彼女らが風邪を引くことはないだろう。まあ、魔法少女が風邪をひくのかどうかはわからないけど。

「どうやって帰るの?」

 俺が振り返るといつの間に出てきていたのか、パジャマ姿にどてらを羽織った精華さんがおにぎりが入っているらしい包みを差し出していた。

「ありがとうございます。…まあ、バスと電車ですかね。駅まではタクシーでもいいですし」

「ここ、一応仙台市内だけど、バスもタクシーもないからね。まあタクシーは呼べば来るけど、時間かかると思うわ」

 そういえばここってかなり奥まった山の中なんだよな。

 まさか黙って彩夏ちゃんのカレラ借りてくわけにもいかないし、寿ちゃんの軽も同じだ。

「精華さんって車持ってないんですか?」

「持ってるわよ」

「駅まで送ってもらえませんか?」

「うひへっ!?」

「バス停まででもいいんですけど」

「う…うーん…貸してあげるから朱莉が乗って帰ったほうがいいかも」

 ああ、運転苦手なのか。

「ちなみにどんな車なんです?」

 軽ワゴンだと途中横風強いと運転しづらいんだよなあ。

「なんだっけ…エリーゼ?」

「東北って車マニアでもいるんですか?」

 どう考えても普通に精華さんが出かけていって街のディーラーで買ってくる車じゃないと思う。

「別にそういうんじゃないけど。車もなんとなく緑色がカエルみたいで可愛かったからこれがいいなって選んで手配してもらっただけだし」

 車ってそういう基準で選ぶものだっけか。

 そんなことを考えながらどうしようか思案していると、寮の前に見覚えのある黄色いチンクエチェントが停まった。

「朱莉さん、精華さん。来てたんですか」

 窓から顔をのぞかせたのは案の定セナだった。

「お、丁度よかった。帰ってきたばっかりの所悪いんだけど、駅まで送ってもらえないか?」

「いいですけど、彩夏の車のほうが早いし朱莉さん好みなんじゃないですか?」

「彩夏ちゃんと寿ちゃんは爆睡中なんで起こすのは申し訳なくてさ」

「そういうことですか。仙台駅でいいですか?」

「うん。ありがとう」

 俺が助手席側に回りこんで車に乗り込むとこまちちゃんと橙子ちゃんが後部座席でもたれあうようにして気持ちよさそうに口を開けて爆睡していた。

「えっと…」

「まあ、色々ありまして」

 そう言ってちらりとこまちちゃんを見て、セナが苦笑交じりに笑う

「そっか」

 深く聞かないでおこう。セナの顔がちょっと引きつっているし。

「街の方に行くなら、ついでに買い物を頼んでもいい?後でメールでメモ送るから」

「わかりました。任せて下さい」

 セナは精華さんにそう返事を返すと、寮の前のロータリーをぐるっと回って公道へと出る。

「朱莉さん、いつからいたんです?」

「四日前かな。三人が恋と一緒に出てった後だね…そういえば恋は?」

「残りの休暇は松葉さんと過ごすって言っていましたけど」

 仲良いなあ、あの二人。

「まあ、それはいいや。四人で特訓しにいったって聞いたけどそっちはうまくいった?」

「はい、お姉さまはチャージのスピードが格段にあがりましたし、橙子さんは動物を出さないでも戦えるようになりました」

「セナは?」

「自分で言うのもなんですけど、総合力なら東北で誰にも負けないと思います」

 そう言って胸を張るセナの表情は誇らしげだ。

「そりゃあ重畳。じゃあ七罪二人くらいなら楽勝っぽいな」

「どうでしょう。魔法って結局じゃんけんみたいなところがあるから、うまく噛み合うといいですけど、噛み合わなかったらと考えるといくら準備をしてもしたりないということはないと思いますから」

「そのために君たちには優秀なリーダーがいるし、噛みあうための鍵としてオールマイティで総合力ナンバーワンのセナがいるんだろ。大丈夫だよ」

「…朱莉さんにそう言われると大丈夫な気がしてくるから不思議ですよね」

「だろ」

「だろ(キリッ)あっはっは、馬鹿だこいつ」

 塔子ちゃんが大笑いしながら俺の座席をガシガシ蹴る。

「起きてたんかい」

「朱莉ちゃんが笑わせるから起きちゃったんだよ」

「げ、こまちちゃんまで」

 後ろを見るとこまちちゃんもおめめぱっちりでこっちを見ていた。

 ちなみに燈子ちゃんはちゃんと靴を脱いでから助手席に蹴りをくれていた。以外に律儀だ。まあ蹴れば素足でもシートは傷むので律儀と言い切っていいかどうかはわからないけど。

「げって何?もしかして私達が寝ているのをいいことにセナにちょっかいかけようとしたりしてた?」

「まさか。セナは可愛いけど、俺には柚那がいるからな」

「ですよね。私も柚那さんに敵うとは思ってませんし。というか、実際勝てませんでしたし」

 セナがそう言ってため息混じりに笑う。セナと柚那の間に何かあったっていう話は聞いたことがないけど、俺の知らないところで何かあったのかもしれない。

「わかるわかる。魔力では勝っているはずなのに俺も敵わないしな」

「ああ、こいつ真性のバカだ」

「うん、真性だね、真性」

 失礼な子たちだ。

「というか、人のチーム心配する前に自分ところはどうなの?私達偽七罪の中でも愛純は強かったけど、朝陽の方はとてもそんなレベルじゃないでしょ」

 橙子ちゃんは初日の精華さんと同じようなことを言う。

「……なんというか、みんな誤解してるんだけど、朝陽は別に弱くはないからな。今はちょっと不安定なだけで。条件が整えばめちゃめちゃ強いと思うぞ」

 これは誇張でもハッタリでもなく本音の話。夕陽がいないという今の状況を、朝陽がどう捉え、どう自分に取り入れていくか。それによって、朝陽はめちゃめちゃ強くも、めちゃめちゃ弱くもなるだろう。後者だった場合、最悪柚那と愛純と朝陽で一人。俺がタイマンで一人相手にしなきゃいけなくなるかもしれなくなるかもしれないが、それでも俺は朝陽はいい方向に向かってすすむと信じたい。。

「ま、関東の分担分がこっちに来たりしなきゃ私はなんでもいいんだけど」

「それはないよ。自分たちできっちりかたを付けるつもりだからね」

 それこそ、命を賭けてでも。

「秘策ありって感じだね」

「秘策ってほどのものじゃないよ。結局どんなときでも普段やってきたことが出るだけって話だし、俺たちはそれなりにその普段ってやつをちゃんとやってきた自信があるってだけだよ」」

 特別な時なんていうのは結局日常の延長線上でしかないし、そこでだけどうにかなるだろうなんてそんな都合のいいこと起こるはずもない・・・まあでも我ながらいいこと言ってるよな。

「自信があるだけだよ(キリッ)」

 燈子ちゃんがたった一言でぶちこわしにしてくれたけど。

「・・・・・・今の状態だったら関西が一番心配だろ。楓さんとイズモちゃんがまだ仲直りしてないんだしさ」

「え?でもイズモって、別に強くないよね?別にいらなくない?」

 そうだった、忘れてたけど燈子ちゃんも直情型の脳筋なんだった。

「じゃあ、寿ちゃんも別に強くないよね。必殺技は強いけど別に接近戦が得意とかそういうわけじゃないし、総合力で言ったらセナの足下にも及ばない」

「・・・・・・あ?」

 おおう、後ろから超殺気を感じる。

「いやいや、ちょっと待ってよ。だからって別にいらない子じゃないだろ?寿ちゃんには寿ちゃんのイズモちゃんにはイズモちゃんの役割がしっかりとあるんだよ」

 脳筋、脳筋アンド脳筋・・・まあ喜乃くんはちょっと違うけど、敵っぽいやつがいたらとりあえずぶん殴るを地でいく関西チームにとって、イズモちゃんの慎重さや弱さは非常に重要だ。ところが楓さんがイズモちゃんのことを面倒くさくなっても、逆にイズモちゃんが本当に楓さんのことがどうでもよくなっても関西チームは近い将来瓦解するだろう。

 単純に個々のメンバーの力が強い=強いチームということではないのだ。

「それについてはもう完全にイズモちゃん次第だからねぇ・・・・・・ただ、今回はだめかもしれないね」

 こまちちゃんがため息交じりにそう言って座席に体を預ける。

「イズモちゃんが決めているルールなんだけど二週間ルールっていうのがあるんだ」

「二週間ルール?」

「許せることは二週間以内に絶対に許す。二週間以上経っている今日現在まだ仲直りしてないんだし、私はもうだめなんじゃないかなと思ってる」

「思ってるって・・・冷たくない?」

「うーん・・・どの立場だと冷たいっていう話になるのかな?」

 俺の言葉にこまちちゃんは首をかしげる。

「友人として」

「友人ねえ・・・楓さんのしたことは私から見てもちょっと許せないし、イズモちゃんの友達としてなら他の人にしなよって言うと思うよ」

「戦友として」

「同じじゃない?楓さんについては一魔法少女としてなにか言うつもりはないけど、イズモちゃんの能力を活かせる場所はほかにもあると思う。逆に嫌がっているイズモちゃんに対して、チームのために元サヤに納まれって言っている朱莉ちゃんのほうが友人としても戦友としてもよっぽど冷たい」

「うぐ」

 論破されちゃったでござる。

「どうも朱莉ちゃんは油断してるみたいだから言うけど、たとえば朱莉ちゃんと柚那ちゃんとか、私と寿ちゃんとか、楓さんとイズモちゃんとか、いつまでもその関係が変わるわけないなんて思っていない方がいいと思うよ」

「確かに楓さんたちの件はわからないでもないけど、こまちちゃんと寿ちゃんはなにかあったの?」

「・・・・・・本当にだめだなあ、朱莉ちゃんは」

「何が?」

「柚那ちゃん、男の人に会いに行ってるよ」



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