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私の邪悪な魔法使いの友人  作者: ロキ
シーズン1 魔法使いの塔
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第九章 4)太陽のようなオーラ

 朝が来て、老医師や看護師たちが働き始めても、私はしばらく眠り続けていたようだ。

 その騒々しさの中、ようやく目が覚めて、私はすぐに大きな異変に気づいた。バルザ殿が医務室にやって来られていたのだ。


 バルザ殿は医務室を歩き回って、怪我人たち一人一人をいたわっておられた。

 いや、いたわっているだけじゃない。バルザ殿は兵士一人一人に向かって、謝っておられるようだ。


 「本当にすまない、私が遅れたばかりに」


 ベッドに横たわっている兵士の手を取りながら、そう仰っておられるバルザ殿の声が聞こえてくる。


 「そ、そんな、違います! バルザ様は何も悪くありません。俺たちがまだまだ未熟なばかりに」


 バルザ殿に謝られた兵士は、本当に恐縮した様子でそう言い返した。


 「すぐに出撃出来たのだ。だが私は自分の問題に心を取られ、しばらく動けなかった」


 「そ、そうだったのですか。しかし誰でも、そのようなことはあります」


 「これまで私は、自分が世界で最も哀れな男だと思っていた。しかしお前たちのその傷に比べれば、私の心の傷など取るに足らないものだ。本当にすまない」


 「バルザ様は謝らないで下さい。そのかわり、俺たちにもっと剣の稽古をさせて下さい。俺たちはもっと強くなります」


 バルザ殿が現れて、医務室の空気はまた一変したと言っていいだろう。

 確かにフローリアは兵士たちの傷を癒した。悲嘆と絶望だけが支配していた医務室を、安らぎの場に変えてくれた。


 しかしバルザ殿が現れて、更に兵士たちの感情は変わったようだ。

 これまで兵士たち一人一人に、ただ別個に存在するだけだった痛みや苦しみが、一つに合わさって皆で共有され出したような、一種の連帯のようなものがそこに生まれ始めているのだ。


 すなわち、あれだけ苦しんでいた怪我人たちは、もう孤独ではなくなった。

 これほどの酷い傷を負い、残虐な戦場で傷ついた兵士たちなのに、彼らはバルザ殿に認められるような男になろうと、改めて心に誓ったかのよう。

 今すぐにこのベッドから出て、戦いの訓練に加えてくれ、そう言い出しそうな雰囲気で満ち溢れ始めた。


 とてつもない力だ。バルザ殿の太陽のようなオーラは。

 その圧倒的な、温かいエネルギーを浴びると、自分でも信じられない力が自然と沸き上がってくるに違いない。

 医務室は、真昼の日当のような活気に満ち始めた。これからどこか、遠出に出掛ける寸前のような雰囲気。

 戦場で共に戦うものだけが結ぶことが出来る絆のようなもの、それがこれまで以上に更にしっかりと結ぶ直されたようなだ。


 私は到底、その連帯感の中に入っていけそうになかった。

 怪我もしていない。まして一緒に戦ったわけでもない。そんな私が、その輪の中から弾き出されるのは当然だろう。

 その輪の中には入れないのは、どこか寂しい感じもしたが、私は彼らのようになれない。どんなことが起きても、プラーヌスの側の人間だから。


 もはや手伝うこともなくなったようだ。私はこっそりと、医務室から出ようとした。

 しかしそんな私の姿に気づかれたのか、バルザ殿がわざわざ私の傍まで来られた。


 「シャグラン殿、大変な迷惑をおかけしました。私のせいで多くの命が失われてしまい、慙愧の念に耐えません。しかしもはや失われた命は戻りません。せめてその尊き命を手厚く葬りたい。ご協力をお願いします」


 「はい。私に出来ることなら、いくらでもお力添えを」


 私は慌てて身を正して、バルザ殿に言う。


 「やはり蛮族たちは侮りがたい敵。塔の近くに砦を建設する話しを、具体的に進めさせて頂きたい」


 「わかりました。お任せ下さい」


 「それに昨日は、非常に恥ずかしいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした」


 バルザ殿はふと声をひそめ、そう仰られた。


 「申し訳ないなど、もったいないお言葉」


 「この塔を守るのが、今の私の務め。それを全うするまでは力を尽くします。そのように、あの者に言っておいて下さい」


 「は、はい」


 バルザ殿の表情から、昨日の謁見の間で垣間見られた絶望は、嘘のようにかき消えていた。今は、騎士としてのバルザ殿に戻っておられるようだ。

 騎士としてのバルザ殿は、自分の出撃が遅れたことで、数多くの部下が戦場に散ってしまったことを、本当に後悔されている。

 そしてこれからはどうすれば有利な戦いが出来るのか、色々と手を討とうとしている。

 戦場の司令官として、その頭脳をフルに働かせているのだろう、その瞳はギラギラと輝き、活き活きとしていた。


 とはいえ、その心中には、まだどこか暗い影のようなものが燻っておられるようだ。

 特に、「あの者に言っておいて下さい」とプラーヌスに言及したとき、バルザ殿の瞳には憎しみの炎が舞い上がった。私は慄きながら、それを確かに見た。


 「それではよろしくお願いします」


 「はい、お任せ下さい」


 私は医務室を辞して、自室に戻るために塔の廊下を進んだ。

 バルザ殿の前から離れると、何とも言えない寂しさのようなものを感じた。

 面と向かっているときは、緊張のせいか息苦しくて堪らないのだけど、しかしその場を去るととても寂しくなる。

 言い残したことがたくさんあるような気がして、もう一度、バルザ殿の許に戻りたくなるのだ。


 しかし医務室に戻っている場合はない。そんなことよりも今、私にはしなければいけないことが確かにあった。

 女神像。あれを探すのだ。

 私はバルザ殿と顔を合わせて、改めてその思いを強くした。

 戦いはもう、うんざりなのである。女神像を見つけてこの戦闘に終止符を打たなければいけない。


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