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私の邪悪な魔法使いの友人  作者: ロキ
シーズン1 魔法使いの塔
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第八章 6)出会えただけの奇跡

 その日、プラーヌスはすぐに旅に出ていった。

 帰ってきたのは夜遅くだ。彼は予定通り、劇団の女優を連れて帰ってきたようだ。

 私が推測で語っているのは、直接その女優を見たわけではないからである。

 しかし何もかも首尾良く進んだよといった表情をしていたので、プラーヌスの予定通り、その女優を塔に連れ帰ることが出来たに違いない。


 女優など雇って、どうするつもりなのか、やはりそのことが気にかかった。

 プラーヌスは、バルザ殿をこの塔につなぎとめるために、その女優を雇うと言っていた。

 どう考えてもその動機は不純だ。やましいことはないと言っていたが、何か邪な思惑が見え隠れすることは間違いない。


 まあ、だからこそ、私はこの問題にはあまり立ち入りたくなかった。

 出来れば見ていない振りをしていたかった。


 見ていない振りをするためというわけではないのだけど、私はひたすら女神探しに明け暮れた。

 とにかくこの無益な戦いをやめさせるためには女神像、あれを見つければいいのだ。

 この戦いさえ終われば、プラーヌスとバルザ殿のこの異常な関係も、自然と改善されるに違いない。そんな期待もある。


 私は女神像のありそうな場所を必死に考え、そこに足を運び、床板を剥がす勢いで隅々まで探した。

 しかし一向に、それらしきものは見当たらなかった。

 それでも諦めることなく、必死に塔の中を歩き回る。

 そんな頃であった。バルザ殿がプラーヌスに会わせて欲しいと言ってきたのは。

 彼はこの塔を出て行くと宣言されたのだ。


 バルザ殿がプラーヌスに会わせて欲しいと頼んできたとき、私はとても嫌な予感を覚えた。

 バルザ殿の表情はいつでもかなりシリアスな雰囲気を湛えておられるが、そのときは更に深刻さを帯びていて、何か悲壮な決意を胸に秘めている感じが見て取れたのだ。

 もしかしてこの塔を去るつもりなのかと尋ねると、彼は静かに頷かれた。


 「そ、そうですか・・・。出来れば引き止めたいものです。しかしバルザ殿ほどのお方がこのような塔にやってこられたこと自体、一種、奇跡のようなものだったと思っています。だから引き止める権利など僕たちにはないでしょうね」


 私は心底落胆しながらも、自分自身を納得させるためにもそう言った。

 バルザ殿と別れるのは本当に辛いことだ。

 彼の名声は世界中に轟いている。生きながらにして伝説の騎士なのである。

 しかも実際にその人柄は高潔そのもの。このようなお方と、こうして言葉を交わせるだけで身に余る光栄だった。

 とはいえ、その奇跡がいつまでも長く続いて欲しいと願うのが心情だろう。

 本当に残念なことだって思う。


 しかし私はただ単に、このような伝説の騎士殿と別れるのが惜しいだけではなかった。

 それと同時にとても嫌な予感も感じるのだ。

 プラーヌスが雇った塔の門番バルザ殿が、こんなにも早々に塔を出て行かれるという事実に。


 プラーヌス自身は、この事態を予測していたようだ。黙ってそれを許すつもりがないことも、彼は私に向かって公言していた。

 バルザ殿がこの塔を去ること、それはプラーヌスにとって大きな損失に決まっている。

 彼のような人間が、それを黙って看過するはずがないのだ。

 それを阻止するために、女優を雇うなどと世迷い言めいたことも語っていた。

 彼はそれに失敗したのだろうか? だとすると、何か不吉なことが起きる予感がする。


 思えばバルザ殿がこの塔にやってきたこと、その事実そのものが大きな謎であった。

 プラーヌスは一向に詳しく話してはくれないけど、間違いなくこの件に関して何か後ろ暗いことを隠している。

 それに関しては、もう確信に変わっている。

 バルザ殿がこの塔を出ていくということは、この謎に大きなヒビが入ったことを意味するはずだ。


 プラーヌスが何も話してくれないのであるから、直接、バルザ殿に尋ねてみたい。

 どうしてこの塔から早々に出ていくのか、あるいはそもそもどういう事情で、この塔にやって来られたのか。それはかねてからの私の疑問である。

 しかしバルザ殿の悲壮な表情を前にして、そんな質問が出来るほど私は無神経ではなかった。


 「私が去ったあと、蛮族と無理に戦わないようにと、部下たちに書置きをしておきました。このまま戦いが続けば、いずれ部下たちが敗れることは間違いありません。彼らが逃げることがあっても、責めないで頂きたい。出来ればそのとき、あなたから塔の主に口添えをお願いします」


 「わかりました、確約はできませんが努力しましょう」


 「有難い、あなたと出会えたことを神に感謝します」


 「私ごときに、勿体ないお言葉です」


 あるいはバルザ殿ほどの方に、そのようなこと言われたのも、私が彼に何も聞けなかった理由かもしれない。私は余りに勿体ない言葉に舞い上がってしまった。


 「それで、これはあなたにとって、これは余計なお世話なのかもしれないが・・・」


 バルザ殿は少し口篭りながらそう言うと、私にも手紙のようなものを渡してこられた。


 「もし何か、自分の記憶に深刻な不安が生じるようなことがあった場合、この手紙をお読み下さい。もしかしたら、あたなを救うことが出来るかもしれません」


 「き、記憶に不安ですか?」


 「はい、以前、あなたもおっしゃっておられましたよね? 自分の記憶の中に妙な空白があると」


 「はあ、確かにそんなことを言ってしまいました。でも実は、たまにそんな気がするってだけで、それほどたいしたことではないと思っているんですが・・・」


 「何も不安がなければ、この手紙を読む必要はありません。きっとあなたを無暗に惑わすだけですから。しかし自分の存在に何かに疑問を感じたり、周りの人間たちが一切信じられなくなったとき、もしかしたらこの手紙が、何かのヒントになるかもしれません」


 「い、いったいどういうことなんですか?」


 バルザ殿の言っておられる言葉の意味がわからない。私は当惑した表情で尋ねた。


 「私も確かなことは言えません。自分のことですら、まだ確信が持てないのですから。とにかくこの塔の中で信じられるのは自分だけだと覚悟されたほうが良いと思います。たとえご友人が相手であっても、心から信頼してはいけません。私から言えるのはそれだけです」


 「そ、そうですか」


 まだまだ尋ねたいことがあった。しかしバルザ殿はとても急がれておられるようだったので、すぐにプラーヌスにその旨を伝えにいった。


 バルザ殿が最後の挨拶のため、君と会いたいようだと告げても、プラーヌスは軽く頷いただけで何の感想も言わなかった。

 それどころか、バルザ殿とは二人きりで会いたいから席を外すようにと言ってきた。


 それで仕方なく私は謁見の間を後にして、バルザ殿と最後の別れをするため、塔の入り口辺りで彼が出てくるのを待つことにした。

 その途中、アビュにも声を掛けてやった。

 彼女はバルザ殿の強さに魅せられている。最後の挨拶もなく別れるなんて、彼女も望むことではないだろう。


 アビュは私の知らせに非常にショックを受けたようで、しばらく私を嘘つきだと罵ってきた。

 しかしバルザ殿の置き手紙を読んでそれを知り、続々と集まってきた傭兵たちを見て、彼女もそれを受け入れたようだ。


 「短い付き合いだったね。本来なら、-こんな田舎の塔にやってくるような人じゃなかったんだよね?」


 アビュは呆然としながらも、自分を納得させるためなのか、そう言った。


 「ああ、彼は本物の英雄なんだ。出会えただけで奇跡だったんだよ」


 傭兵たちも泣いていた。中には泣き叫びながら、バルザ殿のつれなさを罵る者もいた。

 誰もがその突然の別れを到底受け入れられないといった表情である。

 今、プラーヌスの塔は、どこの港よりも悲しい別れの場になろうとしている。


 しかし当のバルザ殿は、いつまで経っても私たちの前に現れなかった。

 私たちはさすがに待ち疲れ、そして悲しみ疲れた。

 どうしてバルザ殿はここに現れないのか、その事実を疑問に思い、その理由を口々に話し合った。

 もしかしたらバルザ殿は、寸前で考えを翻してくれたのかもしれない。

 そういう希望的観測も出た。それだったらプラーヌスに感謝しなければいけない。

 きっと彼が説得してくれたのだから。

 あるいは他に出口がないわけでもないから、そこから出たのかもしれないという意見もあった。

 バルザ殿は照れ屋なので、私たちがこうして待ち伏せしている出口を避けてしまわれたのではないか。しかしそうだとしたら、あまりに悲しい仕打ちだ。


 いずれにしろ私が代表してバルザ殿のことを尋ねに、プラーヌスのもとに向かうことになった。

 アビュも傭兵たちも、すがりつくような眼差しで私を見送ってくる。

 私が携えて帰ってくる答え次第で、とりあえず安心することが出来るか、地獄に堕とされるか、そのどっちかが決まるのだ。

 彼らの不安は想像して余りあることだ。


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