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私の邪悪な魔法使いの友人  作者: ロキ
シーズン1 魔法使いの塔
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第八章 4)地下の倉庫

 さて、プラーヌスの仕事にはこのような大きな前進があったのだけど、私の日常は相変わらずである。

 塔を隅々まで歩き回り、塔の見取り図作り、そして召使たちの名簿作成。

 その二つの仕事と、日々の雑務に追われる毎日である。


 いや、更に面倒な仕事が加わった。

 女神探しである。


 バルザ殿が蛮族の捕虜から聞き出した情報によって、蛮族たちがどうしてこの塔に襲撃を繰り返してくるのか判明した。

 前の塔の主が、蛮族たちの女神像を奪ったらしいのである。蛮族たちはそれを取り返そうとしている。

 どうやらそれを返しさえすれば、彼らもこれ以上、この塔に来襲することは無さそうだという見込み。


 そういうわけでこの仕事も私に申しつけられた。

 私は早速塔中を駆けずり回り、それを探すことになった。


 当然、それは塔の倉庫にあるだろうと検討をつけ、まずは地下の倉庫に向かうことにした。

 予め倉庫の責任者に、女神の像のようなものに心当たりがあるかどうか聞いていたのであるが、芳しい答えは得られなかった。

 それでこの目で直接確かめることにしたのだ。


 まあ、まだその倉庫に行ったことはなかった。

 この塔の管理者として、そこをいつか見ておかなければいけないとも思っていた。

 そういうわけで調度良い機会であったわけである。


 地下の倉庫は中央の塔の地下の、廊下の突き当たりにある。

 暗い廊下のその辺りにだけ、赤々と明かりが燈っている。

 鋼鉄製の扉の前には二人の逞しい身体をした番人が立っていた。

 それぞれ切れ味鋭そうな槍を持っている。

 私が近づいていくと、槍をクロスに交差させ、行く手を遮って来た。


 「僕はシャグランという、この塔の主、プラーヌスから許可があったと思うけど」


 「伺っております」


 番兵が言ったのではない。鋼鉄製の扉の奥から、そのような声がした。

 その声のあと、扉が開いて、そこから男が出てきた。


 驚くほどに、丸々と太った男だ。

 更に男の後ろを、彼とよく似た体形の子供まで出てくる。

 彼らは私に向かってとても丁寧に頭を下げてきた。


 「私はこの倉庫の責任者です」


 丸々と太った男が言ってきた。


 「本来ならどんなことがあっても、塔の主以外、この扉を通すわけにはいきません。しかし主から直々に話しを伺っております。今回は特別にお招きいたしましょう」


 倉庫の責任者はいささか勿体ぶった物腰でそう言ってきた。

 何だか面倒臭そうな人だと思ったが、私もそれに合わせ、丁寧な口調でお礼を言う。


 「では、お入り下さい」


 私は彼の後に続き、倉庫のほうに歩みを進める。

 その倉庫には、彼が勿体ぶりたくなる気持ちも理解出来る程、大袈裟な防犯体制が敷かれているようであった。

 その鋼鉄製の扉の奥に、更にそれよりも大きく頑丈そうな扉がある。

 そこには鍵が七つもかかっていて、倉庫の責任者がその鍵が全て開けるまで、蝋燭の半分が溶けるくらいの時間を要した。


 慣れた手つきで鍵を開けながら、責任者はこの倉庫の防犯体制について喋り続けてきた。

 彼の家族は九世代も前から、その倉庫の責任者として、ここで暮らしてきたらしい。

 彼と、いずれ彼の後を継ぐこの息子、その二人以外の一族は、北の塔の地下の部屋に人質として軟禁されているのだという。

 何と、倉庫の物が一つでもなくなれば、その人質は全員処刑。そういう厳しい掟があるらしい。


 「それは九代前からの決まりなのかい?」


 私は彼の話しに驚きながら尋ねた。

 何事もルーズな塔にしては珍しいことだ。まだまだ私は、この塔のことを把握し切っていなかったようだ。


 「はい、さようです」


 「ほう、それは本当に厳しい掟だね」


 私は彼とその家族の過酷な人生に、心から同情した。

 とはいえ、私にどうこう出来る問題でもない。

 九代も前に決まった掟を、九代目の倉庫の番人が守っているということは、まだこの倉庫が盗みの被害にあったことはないということだろう。

 厳しいその掟はそれなりに有効的のようで、私なんかがそれを辞めさせるわけにもいかない。


 いや、もしかしたら実は塔のあらゆる仕事に、このような厳しい決まり事があるのではないだろうか。

 謁見の間にある篝火の管理を任されている召使いたちだって、実は厳しい掟を守りながら、その仕事を担当しているのかもしれない。

 だからあの盛大な焔が、一時も絶やされることはないのだ。


 中央のホールの掃除を任されている召使いたちだってそう。

 来る日も来る日も、同じ場所を磨き続けている。

 それが効率的かといわれたら首を傾げざるを得ないが、しかし塔の主が次々と代替わりしようと、塔はそれなりの形で維持されているよう。

 だから一応、成功していると言えるのではないだろうか。


 とはいえ、代々受け継がれた仕事をしているだけでは、召使いたちはただ自分の役割を淡々とこなすだけで、効率的だとは言えないことも事実であろう。

 少なくとも、プラーヌスはそれを許そうとしてはいない。 

 自分の仕事以外には見向きもしない召使いが多いのは、そんな理由があったかもしれない。

 自分の職務だけ果たせば、仕事はそれで完了。ほとんど召使いたちがそう考えているに違いないのだ。


 そのような意識を変えていかなくていけないのではないだろうか。

 さもないと、この塔はいつまでも無駄に多い召使いたちを抱え続けなければならない。


 さて、そんなことを考えている間、ようやく倉庫の扉が開いた。

 倉庫は想像以上に広かった、翼を広げたドラゴンをゆうに二、三匹収容出来るくらいの広さだ。


 「おお、これは凄いね」


 私は中に一歩足を踏み入れ、思わずそんな感嘆を漏らした。


 「はい、三百人の重装兵団をすぐに装備させられるくらい、武器や防具が用意されてあります。それだけじゃありません。馬車のワゴン、カバン、像や絵画、楽器から舟のオールまで何でもあります」


 倉庫の責任者はまるで自分のコレクションを自慢するかのように、誇らしげに言ってきた。

 塔の責任者の言葉通り、そこには様々な道具が数多く収めてあるようだ。

 それも錆びたり壊れたりしているようなものはなく、かなりきちんと管理されている。私の想像以上のコレクションだ。


 しかしその私の感嘆も、それほど長くは続かなかった。

 その広さのわりには、収められている物の数は少ないかもしれない。

 まるで夕暮れどきの、品薄になった市場のような感じと言ったらいいだろうか。広い倉庫にぎっしりと物が収められているわけではない。


 それにどうやら、そこにはこれと言って価値のある資産もないようである。

 いわゆる、プラーヌスが気に入りそうな華麗な装飾品のたぐいは何一つ所蔵されている気配がないのだ。

 あるのはいわば、武骨な実用品ばかり。


 「女神の像は見当たらなかったんだよね?」


 私は改めて、確かめるように尋ねた。


 「はい、ございませんでした。それにそのような物をここに収納した記録もありません」


 倉庫の責任者は、この倉庫に納めらている物品の一覧が書かれた冊子に目を落としながらそう言った。


 「そうか、その言葉をもちろん信じるけど、しばらく自分で探してみるよ。もしかしたら何かの手違いがあったかもしれないし」


 そういうわけで私は女神像を求めて、その広大な倉庫を歩き回った。

 しかしまあ、結局そこにそんなものは見つからなかった。


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