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私の邪悪な魔法使いの友人  作者: ロキ
シーズン1 魔法使いの塔
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第七章 8)バルザの章8

 バルザはひたすら待った。

 しかし座長か、もしくは彼の遣いが、報告を携えて再びここに現れる気配は一向になかった。

 地平線の彼方から現われるのは、蛮族ばかり。


 バルザの目測通り、五十あまりの金貨は溜まりつつある。

 それだけの大金であっても、待っている間に稼ぐことの出来るだろうと計算していた。

 そして実際その通りにいっている。あの邪悪な魔法使いは、バルザに高給を支払っている。


 これで後払いの金貨の心配はなくなったが、しかし当の座長が現れる気配は一向にない。


 パル国からこの塔まで、どのくらいの距離があるのかわからない。この塔がどこに存在しているのか、バルザは見当もついていない。


 森の風景や、季節の肌触りなどから、それほど離れているとは思えない。

 しかし一部の召使いが話す言葉は知らない異国の言葉で、もしかしたらパルから遠く離れている可能性もないわけではない。

 だから、あの座長が既にパルに着いているのか、それとも今まさに、この塔に向かっている最中なのか見当もつかないのだ。


 もしかしたら座長は先払いだけの金貨で満足して、ここまで来ないつもりかもしれない。

 この森は危険である。あの蛮族たちがいつ出没して、襲ってくるとも限らないのだから。


 何ならば、もうこのまま現れないほうがいいのかもしれないと、バルザはときおり思ったりもする。


 彼は自分がどちらの答えを欲しているのかわからなかった。

 ハイネが存在しなかったほうが自分にとって都合がいいのか、存在してくれたほうがいいのか。


 いや、どちらにしてもバルザにとって辛い事実であるような気がする。

 それならばいっそ全てがあやふやなまま、この人生を歩み続けようか。

 部下たちは彼を慕い、塔で働く召使いたちとも良好な関係を結べている。

 あの邪悪な魔法使いの門番として働いているという事実を除けば、この牧歌的な人生も悪いものではないかもしれない。


 騎士団団長であり、軍の最高司令官であったときは一時も心休まる暇がなかったが、ここはぬるま湯のように心地が良い。

 バルザは騎士団団長であり、軍の最高司令官であったとき、このような余生を夢見ることもあった。

 今まさに、その夢が実現されていると言えるのではないか? 


 いや、しかしそれは当然、あり得ないことである。


 あの邪悪な魔法使いに対する憎しみと怒りが、バルザの胸の中から消え去ることなどないのだ。

 この屈辱を抱きながら生きるなどという選択肢は、名誉ある騎士バルザには想像も出来ないこと。


 いずれ報告はやって来るであろう。

 あの男がバルザの下に来ない理由などない。

 決して豊かとは言えない旅芸人が、金貨五十もの大金をむざむざと棒に振るとは思えない。

 まして旅芸人が旅を厭うわけなどないのだから。


 そのもたらされた報告が、もしハイネなど存在しないという答えなら、バルザはすぐに剣を抜いてあの邪悪な魔法使いに勝負を挑むであろう。


 勝つことが出来れば何も問題はないが、しかしバルザが敗れ、殺される可能性だってある。

 いや、むしろそちらのほうが可能性は高いであろうと、彼は冷静に判断している。

 剣で魔法使いに勝つことは普通、不可能なのだ。


 そのとき、バルザが一つ憂いていることがあった。

 あの邪悪な魔法使いにバルザが負けたあと、自分の部下たちはどうなるのであろうかということを。

 もちろんバルザの部下だからといって、彼らが邪悪な魔法使いに殺されるということはないであろう。

 バルザはそれを憂いているわけではない。バルザ亡き後も、残された部下たちは蛮族と戦わされ続けることは間違いない。

 それは彼らだけでは少し肩の荷が重い仕事。


 自分が邪悪な魔法使いに負けたあとのことを考え、部下たちのために少しでも良い環境にしてやるべきだとバルザは思っていた。

 すなわち蛮族の問題を解決しておこうと。


 それにバルザは近頃、自分の部下たちの変わりように、恐怖に近い感情を抱いていた。

 部下たちは殺戮に酔い始めているのだ。

 バルザの訓練の結果、正規軍並みの力量を身につけた部下たちと、何の規律もない蛮族たちとの力の差は圧倒的に開き始めている。

 容易に打ち勝つことの出来る蛮族たちを殺すことを、部下たちは楽しんでいる。

 このままでは彼らは、戦場の中で生きられない獣と化してしまうかもしれない。そんな危惧もあり、この蛮族の問題はいち早く解決しておかなければならないと考えている。


 バルザは意を決し、あの邪悪な魔法使いに進言してみることにした。

 なぜ蛮族たちが、何度も何度もこの塔を襲撃してくるのか。

 蛮族といえども何かの目的があってのことではないのか、と。蛮族を捉まえて尋問してみてはどうか。


 奴の顔を見るのも、近寄るのも不愉快なことであったが、部下たちのために我慢して、バルザは邪悪な魔法使いの前に跪きながら進言した。


 「なるほど、それはその通りかもしれないね」


 邪悪な魔法使いは満足そうな表情でそう言ってきた。

 バルザがこのような提案をするのは、門番としての職務に熱心になり始めた証しだと思ったのだろう。

 本当はバルザが心置きなく、邪悪な魔法使いと対決するための準備であるというのに。


 「わかった、騎士殿に任せよう」


 邪悪な魔法使いはそう言った。


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