第七章 4)バルザの章4
しかしバルザはこの問題にますます心囚われていた。
こんなことありえないと思いながら、心からその不安を完全に打ち消すことが出来なかった。
むしろこの問題を考えれば考えるほど、ハイネは更に、白い砂の中に埋もれていって、どこかに消えてしまいそうな気がするのだ。
ところで、この塔にシャグランという男がいた。
塔のナンバー2で、あの邪悪な魔法使いの腹心であり、その男の友人であるとも自らを紹介してきた若者である。
しかしシャグランという男は、あの邪悪な魔法使いと近しい関係であるにもかかわらず、その心に一点の曇りのない素晴らしき紳士であった。
バルザはそのシャグランという男に、この心の不安をそれとなく打ち明けたことがあった。
いや、バルザが打ち明けたというよりも、シャグランのほうが似たような不安を話し出したのである。
何と彼も、ときおり自分の記憶に混乱を感じるらしい。
それを聞いてバルザはまた不安を新たにした。
邪悪な魔法使いの傍にいる者同士、その不気味な共通点はただの偶然と思えないと。
とするならこの若者も、あの邪悪な魔法使いに何かされているのではないだろうか。
とはいえ、その二人は友人同士であるらしい。あの邪悪な魔法使いは友人にも、そのようなことをするのか?
わからない。
バルザはこの塔で起きる出来事を仔細に観察しているのだが、彼を確信させる材料を得ることは出来なかった。
そんな頃、この塔に旅芸人の一行が訪れるという出来事があった。
毎年、その劇団は塔で働く召使いたちのために劇を見せにやってくるらしい。
バルザはそのような慰め事を馬鹿にしていたが、部下たちの執拗な誘いもあって参加することにした。
近頃沈みがちであったバルザを、部下たちなりに心配してくれたのかもしれない。部隊長としてはそのような誘いに乗らないわけにいかない。
しかしその出来事が、彼のその問題を解決する端緒となるのであった。




