第七章 2)バルザの章2
バルザはハイネに贈った指輪を手の平の上で弄びながら、この塔のどこかに囚われている彼女の無事を心の底から祈り続けた。
この指輪と、記憶に宿る彼女の思い出だけが、今、ハイネと触れることの出来る唯一の方法だった。
ハイネは一度も彼の夢の中に出てきてはくれなかった。
もしかしたらハイネも死んだ妻と同じように、自分を責めているのかもしれない。だから夢に出てくれないのかもしれない。
バルザはこの指輪を見つめながら、ハイネの姿を思い描く。
ハイネは世にも珍しい蒼色の髪をしていた。
瞳も薄い青、唇は濡れたように赤く、口の下に二つの黒子があった。乳房は桃色、白い足がすらりと伸びていた。
ハイネは美しかった。
まるで思い描いていた理想が実態となって現れたとしか思えない奇跡だった。
いや、あるいはその肢体の内に美しい心が宿っていたから、その姿が美しく見えたのかもしれない。
ハイネは美しい容姿と美しい心を併せ持った、本当に特別な女性だった。
もし妻とではなく、ハイネと最初に出会っていれば、誰もこのような悲惨な目にあわずに済んだのかもしれないとバルザは思う。
こんなことを思うのは妻には申し訳ないことであるが、出会う順序を間違えてしまったと。
ただそれだけのことで、これほどの狂いが人生にもたらされてしまったのだ。
バルザの人生はこのように粉々に砕かれてしまったのだが、しかし彼の未来に希望がまるでないわけではなかった。
あの邪悪な魔法使いのことだから信用出来るかどうかわからないのだが、いずれ代わりの門番が見つかりなどすれば、ハイネを解放してやってもいいというようなことを言われたことがあったのだ。
二人でどことなり、静かなところで暮らせと、あの邪悪な魔法使いはバルザに向かって暗に匂わせたのだ。
バルザはその希望にすがりついていた。
今は我慢して、この悲惨な状況に耐え続けていれば、いつか不幸をもたらしている星の配置は変わり、バルザにもささやかな幸福が訪れることがあるかもしれない。
もはや騎士としての栄光も、武人としての栄達も望むべくもないが、せめてハイネとし幸せに暮らせればと切に願っていた。
そのいつかのために、バルザは生き続けようと思った。




