第六章 6)掃除婦フローリア
この日も、私はいつもの時間に目を覚ました。
眠りについた時間が遅かったのだから、当然のことに寝不足だ。
しかし習慣なのか、いつもの時間に目が覚めるような仕組み身体がなっているようだ。
もう少し眠ろうと試みてみたが、一度目覚めるともう寝付けなかった。
それにフローリアのことも気になる。
病状が悪化している可能性もあるのだ。私が力になれることはないけれど、寝床で心配しているよりもましである。
私はすぐに服を着替え、彼女が眠っている医務室に向かった。
中央の塔に向かって歩いていく私の肌を、高窓から差し込んでくる朝の若々しい光が刺し貫く。
寝不足の目には少し強い光線だ。
しかし出来ればこの廊下にももっと窓を増やしたいぐらいだ。
プラーヌスがどれだけ光を嫌っていようが、せめてこの東の塔ぐらいは街にある普通の住居のようにしたい。
そんなことを思いながら中央の当を経由して、北の塔にある医務室に向かう途中、私はフローリアとすれ違った。
すれ違った瞬間、まるで彼女に気づかなかった。
しかし彼女から声をかけてきて、廊下を掃除している召使いの女性がフローリアだということに気づいたのだ。
「フ、フローリア?」
私は驚愕しながら彼女を見つめた。
「おはようございます」
私がフローリアに気づかなかったのは、彼女がこんなにも早く元気になっているとは予想していなかったからだけでなく、彼女が見違えるようだったからでもある。
身につけている衣服は清潔で真新しいものに変わり、髪も櫛が通ったようにきれいにとかれ、まるで湯浴みしたばかりの香りもした。
「もう大丈夫なのかい、フローリア?」
「大丈夫です。心配かけて申し訳ありません」
フローリアは駆け寄るようにして私のすぐ近くまで来て頭を下げた。「えーと、あの人たちは昨夜、最後の一人が亡くなってしまいました。もう私もこの塔にいる理由はなくなりました。でも行くところがなくて、・・・だからどうかこの塔で働かせて下さい。お願いします」
「えっ? それは全然構わないと思うけど・・・」
「本当ですか? 安心しました。一生懸命仕事をします」
もしかしたらそれが、フローリアがこうやってすぐに働き始めた理由かもしれない。
嬉しそうにそう言ったフローリアの眼の中に、疲労の残りの火のようなものが、ゆらめいているのが見え、私はそう思った。
まだ到底動き回れるような体調でなくても、働かなければいけないと気が焦っているのだろう。
「ここで君に働いてもらえるのは嬉しいよ。むしろ歓迎すべき出来事だ。しかし、その上で君に強く求めたいことがあるんだけど」
私はフローリアに言った。
「な、何でしょうか?」
「まずはゆっくり休んだほうがいい。君はまだ」
私がその先を言おうとしたとき、フローリアの目の中の疲労の振幅が大きくなったかと思うと、彼女の身体もフラフラとゆらめき出し、彼女はまた私の腕の中に崩れるように倒れ込んできた。
「ほら、だから言ったじゃないか!」
「す、すいません」
私は彼女を抱え上げて、また大慌てで医務室に走った。
フローリアを抱えて運んで行こうとしている途中、北の回廊でアビュと会った。
これはちょうど良かったと、私は彼女を叱ろうとした。
フローリアをゆっくり休ませず、早々に働かせたことについて、あの老医師共々、恐らくアビュにも責任があるだろうと思ったのだ。
しかしその前に、先にアビュに言われた。
「またそのお姉さんと抱き合ってるの?」
「な、何だって?」
「イチャイチャするなら他でやってよ」
冷たくそう言い放って、アビュは私の前からさっさと去っていった。




