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私の邪悪な魔法使いの友人  作者: ロキ
シーズン1 魔法使いの塔
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第四章 14)再び聞こえてくる女性の泣き声

 塔に着いたのはそれほど遅い時間でもなかったので、アビュや、顔見知りの召使いたち、更にはカボチャの顔をしたバケモノまでもが、私の帰りを迎えてくれた。


 彼らも偽のプラーヌスの戦い振りを、見張り台から見守っていたようだ。

 召使たちは口々に、先程の戦いの残虐さを噂している。 


 「最近のご主人様、ずっと変なんだよ。毎日、塔の前に立って見張りを続けてるし、眠るのも外なんだよね」


 あっ、おかえりなさい。私もどっか遠いところに旅したいな。


 そんな挨拶のあと、アビュが言ってきた。


 「えっ? ああ、それは実は内緒にしてたんだけど」


 少し迷ったが、アビュならば言っても問題ないと思い、他の召使いから少し離れたところに連れていった。


 「実はプラーヌスも僕と一緒に旅に出ていたんだよ。あれは複製というか、偽物っていうか、とにかくプラーヌスじゃない」


 「えっ? 嘘!」


 アビュは本当に虚を突かれたような顔をしていた。

 こっちからすれば、あんなプラーヌスに騙されるのは蛮族ぐらいだろうと思っていたけど、アビュもまだまだプラーヌスの実像を少しも知らないのかもしれない。


 「よく見れば全然違う、あれはとんでもない化け物だよ。少し考えればわかりそうなものだけど」


 「でも誰も気づいてないよ。確かに少しおかしい気はしてたけど、本当はああいう人かと思っていた」


 「さすがのプラーヌスも、生きている馬は食べないだろ」


 「そう言われればそうかな」


 しかし首を傾げているから、まだアビュは納得していないようだ。


 彼女はプラーヌスを冷酷非情な、悪魔のような人間だと思い込んでいるようだ。

 まあ、それは一方的な勘違いってわけではないけれど。


 でも、それにしても彼を毛嫌いし過ぎている。

 アビュがプラーヌスに心を開いていないのは間違いないだろう。


 まだプラーヌスがこの塔に来て間もない頃、アビュは彼の部屋に朝食を持っていったことがあるそうだ。


 そのときプラーヌスは、一人で何か叫びながら暴れ回っていたらしい。


 部屋中の物を蹴り倒したり、放り投げたり、持って来たアビュのトレイもひっくり返したとか。

 それ以来、アビュはプラーヌスが怖くなって、出来るだけ近寄らないようにしている。


 アビュからその話しを聞いたとき、何かの勘違いかと思ったが、今から思うとプラーヌスの持病である頭痛の発作が起きていたのかもしれない。

 アビュは運悪く、それに居合わせてしまったのだ。


 その頭痛の発作はかなり酷いらしい。

 何も知らないアビュが怯えてしまったのは当然だろう。


 「もうすぐ食事の時間だけどどうする?」


 プラーヌスの頭痛の発作についても話しておこうと思ったが、アビュがそう言ってきたので、面倒になってやめた。


 「食欲なんてないよ。あんな壮絶な光景を見せられた後じゃ、何も喉を通らないさ」


 私は内臓剥き出しにして死んでいった蛮族の死体や、塔の周りに漂っていた生臭い匂いを思い出して吐き気を覚えた。


 何だか無性に美しいものが見たい。

 あるいは麗しい香りを嗅ぎたい。


 今はそんな気分だ。


 そう、例えば花とか。


 街で買って、プラーヌスが魔法で送ったはずの花を早速、塔中に飾ろう。

 ちょうど具合の良い仕事があるようだ。


 「花は到着したかな?」


 私は尋ねた。


 「ああ、うん。突然、謁見の間が花だらけになってびっくりしたけど」


 「街で大量に花を買ってきたんだ、塔に花をいっぱいに飾るためにね」


 「何それ、ちょっと悪趣味じゃない」


 アビュは私のセンスを心底疑うといった感じの表情を向けてきた。


 「いや、花を飾れば塔が明るくなるし、あのグロテスクな生き物の残した悪臭も誤魔化せるだろ」


 「でも花なんてすぐに枯れちゃうじゃない」


 「僕もそう思ったけど、魔法でどうにかなるらしい。プラーヌスと一緒に旅をして、改めて魔法の凄さを実感したよ。魔法に不可能なことなんてほとんどないんじゃないかな」


 「うーん、まあ、そう言われると悪い考えじゃないかな」


 花でいっぱいになった塔を想像しているのか、アビュはニヤニヤし始めた。「うん、全く印象が変わるわ」


 「アビュも手伝ってくれよ、一人じゃ到底作業が進みそうにないくらいの量だ」


 「わかった」


 私は一端、自室に引き上げようと東の回廊に向かう。

 さっさと新しい洋服に着替え、顔を洗ってさっぱりしたい。

 自分の服や身体に、血の匂いがべっとりと染み着いている気がするのだ。


 「あっ、そう言えば思い出した。また聞こえ出したんだよね、あれが」


 そんな私を引き留めるようにアビュが声を上げた。


 「聞こえ出したって何が?」


 私はまるで見当がつかなくてアビュに尋ねた。


 「あの女性の泣き声よ」


 アビュは忌まわしいものについて喋るかのように、表情を少し歪めた。


 「えっ? でもあれって・・・」


 ここ数日、あの声は聞こえなくなっていた。

 ちょうどあのグロテスクな生き物の問題が解決したと同時、それ以来ぴたりと止んでいたのだ。


 だからあの女性の泣き声と、あの哀れなグロテスクに改造された人々は、何か関連しているのかと思っていた。

 つまり私は、あのグロテスクに改造された人が、自分たちの運命を呪う嘆きだって解釈していたのだ。


 確かにどういう関係があるのかと説明を求められれば答えられない。

 しかしあれは物理的な距離を無視して、塔中に響き渡る声だった。

 もともと超自然なものなのだから、論理的な説明は不可能。


 「・・・本当か、また面倒なことになりそうだな」


 あの声の正体は何なのか、その謎を解いてくれとプラーヌスに言われている。

 ここしばらく聞こえてなかったから彼も忘れていたかもしれないけれど、いずれプラーヌスもその声を耳にするかもしれない。


 「ほら! 噂をすれば」


 そのときアビュが、キャッと悲鳴を上げながら小さくとび跳ねた。


 確かに聞こえてきた。

 あの女性の泣き声だ。

 どこからかわからないが、確かにはっきりと聞こえてくる。


 「本当だね、わかった、どうにかして解決しないとな」


 まるで恨みとか悲しみとかが、こちらにも伝染してきそうな声だ。

 自分が泣いているわけでもないのに、自分が泣いているような気分にさせられる。

 他人の感情なのに自分の感情と取り違えそうになる。


 その女性のすすり泣く声はますます高まってきて、部屋中に響きわたった。

 まるで四方の壁からその声が発せられているかのように。


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