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私の邪悪な魔法使いの友人  作者: ロキ
シーズン1 魔法使いの塔
38/91

第四章 12)塔に帰る

 そんなふうに何だか気持ちも新たになって宿に戻ったら、既にプラーヌスも帰っていた。


 しかも彼は、また新たな扮装をしていた。

 華やかな吟遊詩人の格好から、かなり小汚い、すれ違うものは誰もが避けたくなるような、どんよりした曇り空のような格好。

 顔まで隠れる黒いローブだけど、上質な魔法使いのローブとは違う。これはまるで墓穴を掘る雑夫のよう。


 「ちょっとした変装だよ。こういう格好も似合うだろ?」


 プラーヌスが自分の姿を見せびらかすようにしながら言ってきた。


 おそらくこれも、バルザ殿を仲間にするための細工の一つなのだろう。

 バルザ殿を仲間にするために、こんなことまでしなくてはいけないのかと呆れたい気分だったが、またそんなことを言ってプラーヌスと揉めるつもりはなかった。


 「帰りの準備は出来ているか?」


 それにプラーヌスが急くように聞いてくる。


 「ああ、大丈夫だよ、荷物はまとめてある」


 「よし、だったらすぐ君を塔に送る。僕が帰るのは早くて明後日になるだろう。それまで塔を頼むぞ、シャグラン」


 「わかった」


 「何だか妙に浮かれていたようだね」


 プラーヌスが私の表情の変化にでも気づいたのか、ふと足を止めた。


 「えっ? うん、実は街で絵を描いている男性を見掛けてね、僕も久しぶりに絵を描きたくなったんだ。いいだろ、プラーヌス。少しくらい、それに時間を費やしても」


 「ああ、君は絵描きなんだ。描きたいときに好きなだけ描けばいい。描けない時間が長過ぎると、禁断症状のようなものを感じたりするものだろ?」


 「ああ、そうなんだ、まさにその通り!」


 「僕も魔法を長時間、禁止されると、きっと頭がおかしくなるよ」


 「同じなんだね」


 プラーヌスの予想もしていなかった温かい言葉に触れて、私はちょっとした感動を覚えてしまった。

 だって彼のことだから、塔の仕事が終わるまでは、絵筆を握るなと言って来るかもしれないって考えていから。


 本当に長い付き合いになるのに、私はプラーヌスの性格をまだまだ理解していなかったのかもしれない。

 でもこの旅で彼の印象がどれだけ変わったことか。

 さっきの少年の件だってそうだ。一緒に酒を飲んだ時もそうだ。

 むしろ偏見を抱いていたのは私の方だった気がする。

 私は一般的な魔法使いに対して抱くイメージでもって、友人であるはずの彼を見ていた気がする。


 多くの魔法使いは陰鬱で独善的、そして気難しい。

 人と楽しく生きるよりも、どれだけ自分の価値を高められるか、それだけ専念するというイメージ。


 まあ、確かにプラーヌスにもそういうところがないわけではないのだけど。

 しかしそれだけのイメージで収まらないことも事実。


 それより何より、まず彼は私の友人なのである。

 プラーヌスは私といるとき、素の自分を惜しげもなく見せてくる。

 そしてそのときの彼は、かなり魅力的で、楽しい奴である。

 私にとって、彼が魔法使いであるかどうかなんて関係ないのだ。


 「よし、君を塔に送る。この魔方陣の上に立ってくれ」


 私の内心の感動に気づいているかどうか知らないが、プラーヌスが言ってくる。

「この街ともお別れだ。もうやり残したことはないね」


 「ああ、楽しい旅だったよ」


 「いつか君に、僕の肖像画でも描いて欲しいものだね」


 「おお、まさにそんなことを考えていたんだよ」


 「そのときを楽しみにしてるよ」


 魔法陣というのは、先程、黒猫や鴉を送るときに使った、三角や丸などで描かれた模様である。

 私はその魔法陣のほうに向かった。

 しかしそれを見て、少し嫌な気分になる。


 「さっきの黒猫やカラスみたいに、僕も送られるのかと思うと、良い気分はしないね」


 「僕だってこの魔方陣を通って帰る。行きも馬車に乗っていたが、同じ魔法だったんだ。何を今更」


 「そうかい」


 「じゃあな、シャグラン、また明日後日会おう」


 その言葉に返事しようとしたとき、プラーヌスが何か言葉をぶつぶつと唱え出した。

 その瞬間、目の前が真っ暗になり、グルグルと振り回されるような感じがしばらく続いたかと思うと、私は塔の前に座り込んでいた。


 あっという間に到着したようだ。間違いなくプラーヌスの塔の前である。


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