第四章 6)プラーヌスの寝姿
その代償なのか、次の日の朝は大変気分が悪かった。こういう二日酔いは久しぶりである。
ベッドの上のいるということは一応、無事に宿に帰って寝ているようであるが、しかし昨夜の記憶はほとんどないから、間違いなくプラーヌスのお陰で帰り着く事が出来たのであろう。
あんなふうに酔っ払っていたように見えながら、実はプラーヌスはどこかで醒めていたのかもしれない。
私はふとそんなことを思った。
やはり彼にはどこか裏がある。昨日の姿は演技だったのかもしれない。魔法使いだから当然かもしれないけれど、警戒心は人一倍強いのだ。
しかし、そう思いながら、クラクラする重い頭を何とか持ち上げてベッドから起き上がろうとしたとき、プラーヌスがベッドの下で眠っている姿を発見して、私は酔いが醒めるんじゃないかってくらい驚いてしまった。
プラーヌスが私の部屋で寝ている。しかもこんな姿で。
盛大に寝息をたて、無防備に背中を見せ、少しお尻をつき出したような姿勢で、彼は眠っていた。
髪は乱れ、皺ひとつなかったシャツもしわくちゃだ。
恐るべき魔法使い、プラーヌスらしからぬ姿だ。
私はプラーヌスの寝姿を見て、思わず笑いそうになる。
だって誰かと一緒だと眠れないと言って、わざわざ個室を取っていたプラーヌスが、私の部屋で、しかもこんな恰好で寝ているなんて。
だけど友人の私にすれば、謁見の間の玉座にふんぞり返っているプラーヌスより、こういうプラーヌスのほうが好感を持てるのは間違いない。そもそもこっちが私の知っているプラーヌスなのだ。
プラーヌスをベッドまで運んでやろうと思ったが、起こすのも悪い気がしたので、背中に布団をかけるだけにしておいた。
私は足音をたてないようこっそり部屋を出て、用意されてあった桶で顔を洗い、そのまま階下の食堂で朝食を食べに行くことにした。
しかしそれにしても驚くべきプラーヌスの姿であった。彼のこのような生活観の溢れた姿は久しぶりに見た。
昨夜の酒の席と、さきほどの寝姿で、私のプラーヌスに抱いていたイメージはすっかり変わってしまったかもしれない。
もちろんプラスの方向にだ。
まあ、かなり長い付き合いで、今更こんなことを言うのはおかしい気がするのだけど。
しかし塔に到着してからずっと、私はプラーヌスに対してどこかビクビクしていたと思う。
だって知らないうちに、あれほどに巨大な塔の支配者になっていたのだから。
私の友人とは思えない出世振りだ。あまりに身分が違いすぎて、いくら旧友とは言っても前のように気軽に接することが難しかったのである。
しかもプラーヌスはあのような性格である。私はプラーヌスに対して、何ともいえない距離感を感じていた。
しかし昨夜の酒の席で、それが綺麗さっぱり洗い流されたかもしれない。
私は足取り軽く階段を下りて、宿屋の一階にある食堂に下りていった。
食堂にはあまり人はいなかった。窓から差し込む太陽の感じからしても、朝という感じはしない。
明らかに正午前か、それを過ぎてしまっているか、だ。
「おはよう、おやじさん、今朝の太陽はどっちから出たのかな?」
私は厨房のほうを覗きながら、この食堂を切り盛りしているおじさんに尋ねた。
「うん? 気まぐれな太陽さんは今朝、西からおいでなすったよ」
「ってことは?」
ここは住み慣れた街じゃない。どっちが西なのかわからない。まだ昇り詰める途中なのか、沈み始めたのかわからないから、空を見上げても検討がつかない。
「昼前さ」
「よかった、朝市はまだ開いてるね」
酔って眠ると、気づけば夕方になっていたなんてことはけっこうあることだ。私はホッと胸を撫で下ろした。
「ああ、まだまだ大丈夫だろうね」
「じゃあ、軽く朝食を頂けないだろうか」
「はいよ」
少し遅めの朝食をさっさと食べ終え、私はすぐに朝市に向かった。




