第四章 1)エリュエールの街へ
次の日、私たちは予定通りに塔を旅立った。
そして瞬く間に、エリュエールという街に到着した。
エリュエールの街はプラーヌスの塔と、バルザ殿が住むというパルの都との、ちょうど中間辺りに位置する。
魔法ならどんな場所でも一瞬で到着する。本当に魔法というのは、凄いものである。
しかし突然、街の真ん中に現れるわけにもいかないので、私たちを乗せた二頭引きの馬車は、街の外れにある野原に到着した。
そこからは普通に馬車を走らせて街に向かう。
「魔法なら、どこにでも好きなところに行けるのかい?」
この瞬間移動は、船酔いを十倍ほど酷くしたような症状に襲われる。
しかしこれを体験するのも二度目で、私も幾分慣れたようだった。
今回も少し吐き気を覚えたが、それから気を逸らすためにもプラーヌスにそんなことを尋ねてみる。
「いや、どこでも行けるるわけじゃないさ。以前行ったことがある場所。あの魔方陣の残っているところか」
私は馬車から身を乗り出してプラーヌスが指差したほうを見た。
草叢に隠れてよく見えないが、確かに地面に何か模様が残っているようだ。
「あるいは仲間の魔法使いが迎え入れてくれる所だけだよ。僕はこれまで一度もパルには行ったことがないからね、仲間の魔法使いを頼っていく」
「パルに友人の魔法使いがいるんだ?」
「いや、会ったこともないから、友人とは言い難いけど。魔界を通じて、パルに住む魔法使いにコンタクトを取ったのさ。運良く、親切にして強欲な魔法使いに出会えた。これでわざわざ馬車で行かなくて済む」
「魔界を通じてコンタクトって?」
「うん、魔法や魔界について説明していけばきりが無いけど、魔界には距離が無い。魔界に接続出来る者とは誰とでも話しが出来る。魔法使いとでも、もちろん魔族とでも」
「へー。魔法使いのことを多少知っていたつもりでいたけど、まだまだ知らないことがあるようだね」
「当然、魔法使いは秘密主義者が多いからね」
君も近頃、魔法使いの実態に興味が出てきたようだねと、少し嬉しそうにプラーヌスは言ってきた。
そんなのは当たり前である。連日、これだけ凄い魔法を見せられ続けていると、私の好奇心は刺激されざるを得ないだろう。
プラーヌスに振り回されることは多いけれど、それと同じくらい、いや、それ以上に彼と一緒にいると刺激的なことも多い。
最終的にその採算がプラスになるのかマイナスになるのかわからない。
しかし今はプラーヌスと友人であることが、この世の僥倖のように思えてきた。
だってこんな凄い魔法使いを友人に持っている者なんて、そうはいないだろう。
父が宝石商だったとはいえ、魔法使いとそれ以上の接点があるわけでない私がプラーヌスと友人になれたのはちょっとして奇跡だ。
あれは確か、
・・・あれ?
プラーヌスと出会った日のことを思い出そうとしたのだけど、私の頭は真っ白になった。
私たちはどういうきっかけで知り合ったんだっけ?
久しぶりの街を前にして舞い上がっているのだろうか。昔のことがまるで思い出せない。
まあ、友情の始まったきっかけなんて、そんなものかもしれない。
恋愛のように劇的に始まったりするようなものではなくて、いつの間にか一緒にいる時間が長くなっている、それが友情というものであろう。
思い出せなくて当然かもしれない。
そんなことよりも街を守る城壁が見えてきた。
私たちと同じように街を目指して歩いている人の姿も散見されるようになった。
城壁などはこれまで嫌になるぐらい見てきたけど、私は何とも言えない懐かしさを感じた。
「まだ日暮れ前だ。面倒な誰何も受けず街に入れるだろう」
プラーヌスは馬に鞭を当てて、馬車を急がせる。
ここまで来ると、道も整備されているようで、馬車の揺れもそれほど酷くはなくなった。少々スピードアップしても大丈夫だろう。
その通行人たちを追い越したりしているうちに、エリュエールの街に到着した。




