第一章 2) カプリスの森
その樹海はカプリスの森と呼ばれているらしい。
私が聞いた話しでは、カプリスの森はミディでもニュイのように暗く、延々と続く同じ風景が旅人の方向感覚も失わせるとか。
あるいは木々がまるで生きているようにウロウロと移動して、その形や地形を僅かに変えるから、どんな地図も羅針盤も役に立たないとか。
いずれにしても、そこに一度入り込むと抜け出すのは簡単ではないということを聞いた。
私はそれを理由に、プラーヌスからの招待を拒むことを本気で考えた。
いくらなんでも命懸けで、彼に会いたいとは思わない。
しかしその樹海の近くの村に住む人たちに、そんなのは風説に過ぎないと一蹴された。
ちゃんとした案内人さえつければ、道に迷うことはないはずだと。
それを証拠に、ある一人の村人が私の案内人を買って出てくれた。
「確かに木々は動きますがね。でもそんなのは問題ではないんですよ」
その村人は言う。
「むしろ動いていく木に沿って歩いていけば、ある泉に到着するんです。そこから塔まではすぐですよ」
だけどその案内人を雇うために必要な報酬が大変に高額だった。
普通の旅人なら誰も払うことの出来ない額だ。
もちろん私も、それだけの持ち合わせはない。
私は窮した挙句、塔に到着すれば、そこの主が必ずその報酬を払うと約束して、何とかその男を雇うことが出来た。
プラーヌスは世にも邪悪で意地悪な魔法使いだが、決してケチではない。
まあ、ケチな人間に魔法使いなど務まるわけがない。
魔法使いは魔法を使う度に、この村人を雇うよりも高価な宝石が壊れていくのだ。
そんな魔法使いたちに、真っ当な金銭感覚などあるわけがない。
おそらく、その村人も魔法使いのそのような事情を知っているのだろう、私が塔の魔法使いの友人だと知ると、目的地に到着してから金貨を払うことを快く了承してくれた。